白河夜船 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101359175

作品紹介・あらすじ

いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう-。植物状態の妻を持つ恋人との恋愛を続ける中で、最愛の親友しおりが死んだ。眠りはどんどん深く長くなり、うめられない淋しさが身にせまる。ぬけられない息苦しさを「夜」に投影し、生きて愛することのせつなさを、その歓びを描いた表題作「白河夜船」の他「夜と夜の旅人」「ある体験」の"眠り三部作"。定本決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 奇しくも角田さんのエッセイに続き
    コレもまた夜をモチーフにした短編集(笑)

    表題作『白河夜船(しらかわよふね)』が
    大好きな安藤サクラ主演で映画化されたということで
    なんと25年ぶりに読み返してみたのだが、
    この頃のばなな節はやはり別格だし、心地が良い。

    果てなく甘く、どこまでも静謐で、
    まばゆいほどに煌めく感性は圧倒的な光を放つ。

    乱暴な言い方をすれば吉本ばななの小説は
    ウォン・カーウァイやソフィア・コッポラ監督の映画と同じく、もはやストーリーは二の次(笑)。
    ばななさんのほとばしる切ない感性ありきで、
    その卓越した比喩表現と美しい情景描写、
    そして儚き世界観にどっぷり浸ればいいのである。

    昔からばななさんの作品は別れと喪失を描きながらも
    人との出会いとたくさんの食べ物によって人間が再生していく姿を描くことがテーマともなっていたが、
    初期のこの短編集も停滞した暗闇から動けなくなった人たちが
    紆余曲折を経て光ある方へ、
    自分の足で歩き出すまでを描いている。

    文章の隅々から沸き立つ切実な想いと
    過ぎ去ってしまうからこその刹那な輝き。

    切なさの塊のような文体で綴られる、
    いつかは消えてしまうものへの憧憬と鎮魂。

    ばななさんの小説は
    死や別れというテーマを扱いながらも
    なぜか読んだ後には
    生きる気力が湧いてくるから不思議だ。


    親友の死の衝撃と、不倫による不安と淋しさが身にせまり、
    次第にコントロールできない「眠り」に支配されていく女性を描いた表題作
    『白河夜船』、

    兄を突然の事故で亡くした少女と
    兄の元彼女であったアメリカ人の留学生、
    そして兄と死の直前まで付き合っていた従姉の女性との不思議な絆を描いた
    『夜と夜の旅人』、

    異国で知らぬ間に逝ってしまった、かつての恋敵の女性に想いを馳せる
    『ある体験』、

    など、どの話も忘れがたい印象を残すけど、
    やはり表題作の『白河夜船』で描かれる
    孤独の闇の中、「夜の果て」をさ迷う寺子が切なくて、
    ラストの花火大会に込められた希望やイノセンスの美しさに、
    妙に涙腺を刺激された。
    (コレは25年前には分からなかった感情だ)

    そして愛する人の死によって、予想のつかないところへ来てしまった二人の女性の再生を描いた
    『夜と夜の旅人』の
    溢れ出る恋情も胸に染み入る。
    近しい人を亡くした経験のある人には本当に堪らないストーリーだろうし、激しく共感することだと思う。


    学生時代、僕が初めて読んだばななさんの本は
    「キッチン」だった。
    恋愛や別れを経験する中で
    口に出せなかった気持ちや、思春期に自分が見ていた景色や、言葉で表せないもどかしい感覚を、
    こんなにも見事に
    美しい『言葉』で表せる人がいたのかと本当に衝撃的だったけど、
    学生時代に受けたこの洗礼は
    今思うに正しかった。

    そしてばななさんの小説には
    必ず人の気持ちを温めたり救ったりしてくれる、
    頭ではなく心に作用する「何か」が
    どの作品にも息づいている。

    言葉は時間と共にあり、時間の中にしかない。
    けれども「いい小説」は
    その「時間」さえも軽々と超えていくのではないだろうか。

    拭い去れない喪失感に苦悩したり、
    報われない愛の前で立ちすくむ
    すべての人たちへ。

  • 20年ぶりに再読。
    月日を経ても変わらない鮮やかさ。一文一文を味わって読みたくなる。

    『白河夜船』
    親友を亡くした、という喪失感が、親友との日常を重ねて思い出すうちに色濃くなっていく。それを恋人に言えない。恋人には植物状態の妻がいる。

    重たい設定ながら、全体を通してやわらかな雰囲気で描かれる。いますぐトロリと眠ってしまいそうな布団のなかの心地よさが、通奏低音のように響いてきそうな作品。
    人はかならず眠りにつくが、かならず目覚めるものである。しかし、このまま朝になっても目が覚めないかもしれないと思いながら眠りにつくことが時々ある。誰しもその可能性がある。でも朝がくると目覚めていて、目覚めた以上は一日の活動を始める。それが生きていくことだと思う。が、なにかのきっかけでそのリズムから落ちてしまうこともある。そのまま戻れない人もいる。でも寺子は回復して良かった。
    近しい人を若くして亡くすと、命あることに責任を感じてちゃんと生きていかなきゃと思ったりする。奥さんの寺子に対する想いは、きっとそういうことだったのかな。と思った。

    『夜と夜の旅人』
    女にモテる兄の死をめぐり、恋人だったサラとまりえの悲しみを、妹・シバミの視点から描く。
    シバミのまりえに対する愛が深い。これは、まりえの恋の話なのか、サラの悲しみの話なのか、兄の人生の話なのか、彼らを見守る私の苦しみの話なのか…これといった起伏もないまま物語はすすみ、ただ兄ヨシヒロを亡くした喪失感が真冬の夜の寒さのごとく浸ってくる。夢と現実を行き来する不思議な物語。こうして人は喪失から回復するのかもしれない。

    『ある体験』
    一人の男を二人の女で取り合ううち、女同士に不思議な愛着がうまれてくる。そういう気持ちはよく共感できる。
    一時期の恋でライバルだった春が死んだ。まるで幻聴のように毎夜聞こえてくる彼女の歌声。死んだ人間と会話できるという男をたずねて、私は春と会う。というオカルトちっくな話ですが、スッキリした読後感。表題作と通じる。こういう女友達とこういう体験は、人生において必要なのかもしれない。

  • 吉本ばななさんの作品は何を読んでもひとつひとつの言葉が綺麗で繊細で丁寧で読んでいて背筋が伸びるような思いがする。いつかこんな言葉自分から発することができるようになりたい。

  • なんてやさしさのある小説なんだろう。
    どんなときに読んでも、ばななさんの本はやさしく受け止めてくれる安心感がありました。

  • 気持ちが沈んだりストレスを抱えると寝れなくなったり起きるのがしんどくなったり。鬱と眠りには深い関係がある。私も昔から生きる意味を考えすぎたり人間関係で悩んだりすると世界を閉じて眠りの世界に飛び立つことがあったからこの小説の登場人物やこの小説を書苦きっかけになる体験をした筆者の気持ちがよくわかる。筆者が、眠った時期のことを後悔と共に記す一方で、眠った期間があってよかったとも書くように、この本の眠りは暗いイメージでだけ語られるわけではない。むしろやわらかなあたたかなまどろみの甘い響きがある。それは辛くしんどいことも眠れば和らいで行くことへの救いとだからこそずっと眠り続けてしまう、ある種、死へ近い状態になることへの恐怖と、いっそ死んでしまったほうが楽になることへの誘いがないまぜになったような生ぬるくてどこかおぞましい心象風景なのだと思う。この短編集はどれも少し不思議なグラデーションが背景となる小説たちが集まっている。でもいずれも眠りから覚め、過去と決別した筆者の原点となるものたちばかりで、眠りから覚めた人の心にどこか打つものがある。

  • 3篇全てに共通する夜と喪失。
    大事な人を失って立ち直る過程のお話なのに暗くなりすぎず、ほんのり温かさを感じる。
    最後の話がとても好きだった。
    ただ、恋愛に対する考え方?が私には少し難しかった。笑
    歳を重ねてからもう一度読み返してみたい。

    よしもとばななさんの作品は時間をゆっくりと感じることができて好き。

  • 私の嫌いなタイプの女が出てきて苛々する。たぶん恋愛している女が羨ましいのだと思う。感情を揺さぶる本は読んでいてしんどいけど何故か最後はスッキリするよ。
    私もこの数年は本当によく寝ていた。泥酔して意識をなくしたことも何度もある。でも最近、突然酒が飲めなくなった。もう十分眠ったということか?散々ダラダラしていたが、そろそろ動くか。今年は少しずつ準備をして、来年・再来年にガッツリ何かを極めたい。

  • 白河夜船の不思議な世界。
    高校生の時に出会い、何故かまた再読したくなりもう何回読んだことか。

  • 「白河夜船」「夜と夜の旅人」「ある体験」の"眠り三部作"。
    どのお話も最後は新しいことが何か始まるような、今までとは違う明日が、そんな終わり方になっている。
    あとがきに『人生は一度しかない。もうたくさん寝たので私は休息以外では眠らなくていい。でもたまにああやって休むことは人生には本当に必要だと思う。うしろめたく思うことはないと思う。自分の人生の時間を配分するのは自分だけだ。』と書いてあるので、そういうメッセージ性もあるのかなと感じた。

    個人的に「夜と夜の旅人」が好きなお話でした。

  • 初めての吉本ばななさん。
    きれいな文章で江國香織さんと雰囲気が似ていて個人的に好み。
    3つの短編集のなかで最初の白河夜船が一番好きだった。

    ''ただひとつ、ずっとわかっていることは、この恋が淋しさに支えられているということだけだ。この光るように孤独な闇の中に二人でひっそりいることの、じんとしびれるような心地から立ち上がれずにいるのだ。
    そこが、夜の果てだ。''

    ''やっぱり人は丈夫なものだと思う。
    ひとり自分の中にある闇と向き合ったら、深いところでぼろぼろに傷ついて疲れ果ててしまったら、ふいにわけのわからない強さが立ち上がってきたのだ。''

    あとがき
    ''自分の人生の時間を配分するのは自分だけだ''


    印象に残った言葉。

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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