みずうみ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101359328

感想・レビュー・書評

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  • 休みの日に部屋でゆっくり紅茶でも飲みながら、しずかに読みたい本。

    内容は重めではあるのだけど、文体や浮かんでくる風景がとてもきれいで、私はとても好き。
    本の随所に、人生で大事なこととか人間の本質が詰まっている気がして。
    それを読み漏らさないように、じっくり噛みしめて読みたくなる。

    誰かと本気でつきあうこととか、人を愛すること…
    それは恋人でも、母と娘、父と娘、母と息子、見ず知らずの子どもに対するものでも、
    それぞれの愛の形や表現があって、
    どれも素晴らしいものだね。

    この本を読んだら、
    私は誰かを本気で愛せたことがあったのか?
    子供が生まれたとして、ここまで全力で愛せるのか?

    今まで私が愛していたと思ったことなんか、生ぬるくも感じるけど
    今は未熟だったとしても、いつかそんなふうに本気で人を愛せるようになりたいなと思う。

    その人にどんなに深く壮絶な過去があったとしても、その人が好きならば
    ちゃんと今を見て、向き合って、
    良いも悪いもなく、その人のすべてを受け止められる懐の深さを持ちたい。


    あと、本の中の大事な場面で
    登場人物が馬に出会って、馬にとても心動かされ救われ、感謝するというところがあるのだけど
    その部分がとても好き。
    馬は本当にそういう生き物だと思う。
    馬も愛だ。
    そんな馬を愛せた登場人物も好き。

  • 表紙が美しい。持っているだけで良い気持ちになる。
    「いつでもおへそをあったかくして それは権利なんだよ。生きているうちに必ずできることなの。」ちひろの母は希望のある言葉を言っていたけれど、それは中島くんにも当てはまるのだろうか。この世に沢山いる、継ぎ接ぎ人間達にもその権利はあるのだろうか。

    最後に中島くんが語った過去が、印象に残った。「誘拐されるって、どういうことかわかる?誘拐した人たちを好きにならなくちゃいけないんだよ。それがどういうことかわかる?」責めるような言葉が胸に刺さった。自分がこの世にいちゃいけない、その感覚は簡単に抜けるものじゃないだろう。悲しい過去ばかりが目立つけれど、中島くんやミノくんやチイは彼らなりに生きている 生活し続けているのだ。貫くものがなければ、ただの世捨て人になってしまう。ちゃんと大学に入って、頑張ってるのねってチイに言われて、恋人とパリへ行くのだ。私達はもう決まっている運命にはめられていて、奴隷のようにグルグル回るだけ…それでも生きていくしかないのだ。チイが歩いて、喋れるようになる日 そんな希望を夢見て、生きていく。

    誰にでも悲しい過去がある。あっただけ。それだけ。
    これからも生きていく。おへそをあったかくして。
    それだけ。

    もう一度読み直したい あまりにも重い きちんと向き合いたい。

  • 大好きな一冊。
    何回読んでも大好きな作品。
    人はそれぞれに傷を持って生きていて、もうダメかもって思うことがあるけれど
    いつもその度に誰かが助けてくれたり
    立ち上がれたり、起き上がれたりする。

    現実か非現実なのかよくわからないし
    なぜかわからないけど、読了後は優しい気持ちで自分らしく生きる元気がもらえる大好きな一冊。

  • 朝倉かすみの、『ほかに誰がいる』を読んでから、ああ、こういう物語をいま読みたいんだ、と強く思った。
    せつなくてやるせなくて美しくてまっすぐな、心の琴線に触れるようななにかが。
    書店でゆっくりゆっくり歩き回ってさがして、ぺらぺらっとページをめくって、

    <ママは、ほんとうは野に咲く花のようでさえなくって、ほんとうに高くて誰も来なくて、鳥や鹿しか見ることのないような崖の上にそうっと咲いている花みたいな、おそろしい繊細さと透明さを持っている人なんだよね、と私は思った−P15>

    という一文を読んで、「あ、よしもとばななか。いいかもしれないね」と決めた。
    買ってからは電車で、駅からの道を歩きながら、そして晩御飯を食べながら、一気に一気に読んだ。
    たぶん三十分くらいで読んでしまった。
    それくらい感情移入してしまったんですね。

    この話に出てくるヒロインは、いやヒーローは、ほかのばなな作品とはちょっと違って、闇やさびしさというものよりも、明るさのほうが勝っているようなひとで。
    むかいのアパートに住んでいて、窓ごしにお互いを見つめることから始まった恋、というロマンチックな相手、中島くん。
    彼はその、窓のそばにひとりで佇んでいるさまがとてもさまになっているような人。
    その強さが、世界に真っ向から立ち向かおうとしているところが、真摯さが、主人公には「ちょっと重いなあ、逃げ出したいなあ」と感じられてしまうような。
    そしてわたしはそんなくそ真面目な中島くんにどっぷり感情移入してしまった。

    <私はそのとき、確信した。
    向こう側に引っ張られて楽になりたいという彼の心の重みは、どんな愛情でもこの世がどんなに美しくても、もう支えきれないほどであることを私は肌で感じたのだ。魂の深いところで。−89P>

    この部分を目にしたのは駅のホームでだった。衝撃がまず襲ってきて、じわじわと涙がはいあがってきて、焦った。
    丁度巻いていたアフガンストールで必死に顔を隠したほどだ。
    それは「そんなことってやっぱりあるのかよ神さま、ちくしょう」という嘆きだった。
    わたしもまた限りなく世界に対して罪悪感を抱き、楽になりたいと願い、それを必死に、この世界の美しさだとか人の優しさだとかいうもので繋ぎとめようとしている人間だからだ。
    それでなんとかなるんだと思い込もうとしていた。皆そうしているんだと思っていた。
    でもこんなふうに、あっさり「そんなものでは支えきれず、引っ張られてしまうことだってあるぜ」と言われてしまえば、絶望せずにはいられまい。
    中島くんにはひどい過去があって、もう帰るところもない、今はわたしは彼より確かな存在かもしれないけど、いつ彼よりも不安定になるか知れないものだ。
    ひどい過去がなくても、魂に深手は負える。
    中島くんの場合は痛めつけられて、そしてわたしは自分で自分の魂を抉り続けたせいで。
    それでもよしもとばななは言う。
    重ねて受け入れよう、と。生きていくことを重ねれば、誰かと一緒に重ねれば、大丈夫だと。
    なんて希望に満ちたエンディングなんだ、と思う。

    わたしはいつか、大事なひとができたら、この本を読んでほしいと思う。
    どんなに隠していても、この中島くんと同じものが自分の中にあるんだということを、すごく遠まわしにわかってほしい。
    それでも生きていくことを諦めたくないんだということを。

  • つらい過去をもって心のなかでずっとひとりで戦ってる中島くんと
    あかるさとあたたかさと、物事を中性できる性質で
    自分の過去からくる親への複雑な感情を中和して生きているちひろさん

    二人が少しずつ恋して、というか愛して
    思いんだけど離れられない毎日を支えあっていく話
    死に近い場所にいる中島くんはとても重いけど
    唯一無二で、きれいで純粋なんです

    人って少しずつ愛情のわずらわしさとか憎しみの濃さとか知ると思うんだけど
    そういうことを小さいときにいっきに知ってしまった人は八方ふさがりかも

    人に対してぶつかったり怒ったり、
    それって人に依存して人をたよって、自分の人生を人のせいにしてしまっている
    でも、多かれ少なかれそういう部分がない人っていないんだろうな
    それが許容範囲ぶんに少なかろう人を好きになっていくんだろうな

    人を傷つけてしまう弱さと
    自分を傷つけてしまう弱さ
    とっても危ういけど、傷つきたくないから人を傷つけるのってとても怖い
    弱くて弱くて、どうしようもなくても、前者にはなりたくない

    自分が、まわりと違うと思っても
    つらぬける強さはどこから来るんだろう
    覚悟ともあきらめとも思える

    ふらっと、どうしても人と違うことが嫌で
    スタンダードなラインによっていきたくなることってだれしもあると思う
    中島くんは、それができるレベルではなくて
    だからこそ、むしろゼロの方向に、死の方向にむかってしまうのかな

    そういうひとを支えるのって、人生かけなきゃできないよなって
    最近そういうことに近いことを考えていた私は思いました

    すごく、この作品はだいすきになりました

  • 気持ちの暴力が少ない人たちが愛し合うとこんなに思いやりに溢れて、相手の気持ちを重んじて想い合うことができるんだなと思った

    本当に「あぶなっかしいふたりだというのに、薄い氷の上を歩いているような、どちらかが転んだら共倒れになるくらい、弱々しい組み合わせ」な2人がお互いにお互いを支え合って前に進めてて本当によかった。

    パリでも幸せに暮らしてね

  • ひさしぶりに出会った、だいすきだなぁと思える本
    ちょっと変わってるけど魅力的な人たちが出てくるお話
    中島くんとみずうみのほとりに住む兄弟との関わり

  • 読んでいくうちに、うまく言葉に表せないような温かさが積もっていくイメージ。出てくる人たちが本当に好きです。

  • 大人になる気はなくても、こうして人は押し流されて選んでいるうちに大人になるようになっている。選ぶことが大切なのだと思った。

    中島くんにも、ちひろさんにも、ミノくんにも、チイにもなりたいと思った。よしもとばななさんの描く物語の登場人物は、どうしてこんなにも魅力的なんだろう。孤独を美しいと、尊いものだと思える。優しくて綺麗な魂。

  • もう一度よみたい よまなきゃ…

著者プロフィール

1964年07月24日東京都生まれ。A型。日本大学芸術学部文藝学科卒業。1987年11月小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年01月『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1988年08月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年03月『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年06月イタリアのスカンノ賞受賞。1995年11月『アムリタ』で第5回紫式部賞受賞。1996年03月イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年11月イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年09月『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

「2013年 『女子の遺伝子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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