海峡の光 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101361277

作品紹介・あらすじ

廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公であり刑務所看守の私の逃れられない苦しみと、その原因をつくった受刑者である花井。

    なんともカオス。

    そして花井がサイコパス過ぎて怖い。

    どうなるの?
    この先はどうなるの?と夢中になって読んでしまった。

    お互いに制裁を加えたい。
    だけれどもお互いに罪悪感の中で生きていて、
    それを償うように生きている。

    「お前はお前らしさを見つけて、強くならなければ駄目だ」

    だれしもそれがわからなくてもどかしく生きているのではないかと思った。

  • 2年前まで連絡船の客室係をしていた主人公の斉藤は、廃航を目前に刑務官となり、函館の少年刑務所に務めています。そこに、小学校の同級生、花井修が囚人としてやってきました。花井は優等生でありながら裏黒い一面があり、その目撃者である主人公を残忍にいじめ続けた過去があります。30歳前後での再会であり、花井は斉藤を認識してか否か、模範囚でありながら得体のしれない行動をとり続け、2度の恩赦を反故にし、壁の中に居座り続けます。故郷の小さな町で、家族、元受刑者、元同僚、等との様々な関係に息苦しさを感じながら、尚且つ受刑者である花井の悠然とした姿勢から何故か目を離せない主人公の心の機微が、細やかに描写されています。
    第116回芥川受賞作品。当時の夫人である南果歩が、縁起担ぎに「うん(運)〇」入りのおむつを電話の横に置いて受賞の連絡を待った、というエピソードを読んだことがあります。先日その後の夫人であった中山美穂との子どもとのフランスでの生活がBSで紹介されているのを目にし、興味を持って初めて読んでみました。著名な女優さんとの結婚を華やかに繰り返す人というイメージしかなかったので、こんなに繊細な文章を書くロッカーだということに意外な心象を持ちました。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    他人の計り知れない暗部を、そのまま体験できる小説。
    他人の本心など、詳細に観察し、推察しても
    それが真実かどうかは分からないし、確かめられない。

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ……。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。

    ⚫︎感想
    表面的には優等生に見えるが、計り知れない闇をもつ花井が、馬脚を現すことを、監視官として観察し続ける斎藤。何度も何度もその瞬間を捉えられるか?と緊張感が続き、最後まで一気に読める。
    海は表面は見えるし、凪のときは、表面が光っていて美しいが、心の奥底と同じく、深層は見えず、何が潜んでいるか、全くわからない。そして天候によって、海は猛烈に荒れて、凶暴さを表面化させる。まるで花井であり、人間の象徴だ。

    花井の闇については、斎藤から見える花井を主観的に捉えるだけである。この表現は、とても現実的だ。私たちは他者を観察し、言葉を交わすが、果たして相手のことをどのくらい正確に捉えることができているだろうか。また、普段その正解を確かめることは少ない。花井はおそらく、家庭に何らかの問題があり、闇を抱えているのか?生来のものなのか?それは本書では明かされない。そこがとてもいいと思った。

    過去の花井に、現在の花井に、一方的に振り回される斎藤。自身でも、花井に陥れられた若者を、自分よりも惨めだと思うことで自分を慰め、花井の作ったピラミッドに組み込まれ、精神の浄化を享受している…そんな自分こそ、花井が花井らしさを開花させていくのを一番喜んでいるのでは?と考え、愕然とする。彼のやったことなど、子供時代の取るに足らないことと思ってみても、手が震えている。花井を見ると、「小箱の中で大仏と化した。」とある。

    「希望も絶望も全て海峡の光の中にあると思った。」
    花井から、斉藤は逃れられない。だが、花井は独房の中にいるにもかかわらず、斉藤の目には「独房の四方を完璧に制圧」し、中心に「屹立し、君臨して」さえいるのだ。彼の闇を見たいという希望と、精神を支配され続ける絶望。

    なぜ花井が出所しかかるたびに問題を起こすのか。出所したくない理由はあるのだろうが、明かされない。そしてこれからまた花井が出所せずに刑務所に居続け、斉藤もそこに居る…というシーンで終わる。純文学らしくて好きだった。終始不穏だけれども、ずっと美しいと感じるのは、文体や表現のためだろう。またじっくりと読みたい一冊。

  • 昔読んだ作品の再読。この作品が芥川賞をとる前に読んだが一読で好きになった。心のひだや処理できない思いなど、蓄積された気持ちのゆくすえが題名の海峡の光と真逆でなんとも哀しかった。

  • 一般的にこういった小説を純文学と呼ぶとき、その要素として余白が語られることがあり、それは読後に読者が抱くものの自由さ(解釈の余地ともいえる)を指す。
    ただ、その自由さには「これはいったいどういうことなんだろう」と小説内で自分の思考が循環してしまうような閉鎖的な自由さを性質として持つ「余地」と小説内にちらばるエッセンスを出発点として自分や世界に対して思考の広がりを持つ「余地」があり、この小説は前者であると私は感じた。
    作品内に通底する感覚の着地点が濁されているように思えた。それは何か物語として綺麗な結末や、登場人物の関係性の変化を求めているのでなく(結果としてそうなることもある)、作り手が作品をこうだと規定する意思のようなもので、読み手が抱く自由さとは真逆のものだと思っている。

  • 高校生のころに初読した作品だけど、その時は全くわからなくて、再読したら前よりは少しわかったような気がしたけれど、やっぱりよくはわからなかった。肌に合わない作品というものもあるのだなあ、と思う。

  • 芥川賞作品は難解であったり、読みにくい文体の作品もあるが、この作品は読みやすい。美しい表現の文体の純文学。但し、エンタメ系ならば伏線が回収されていないとも感じるストーリーですね。そこは読者が考え、感じる余白のようなものなのでしょうか。

  • '97芥川賞受賞作
    看守を務める函館の刑務所に、小学校の同級生が受刑者として入ってきた。
    優踏生の仮面を被った卑劣な奴は、18年たった今も変わってはいなかった。
    立場が逆転した主人公の心の内
    しかし、強烈な過去の敵愾心が逆に執着となり感情が囚われる。

    登場人物の感情を直接表現せず、ただ見せるという文章で、読者の想像力に訴えてくる。

  • 終わり方がなんだか不気味でも、そこに不思議な魅力とかっこよさを感じる。
    文量的にも読みやすいです。

  • 何度も読んだ本。まず表紙のコメントが好きですね。「光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…」とか「海峡に揺らめく人生の暗流」って。こんな事すらっと言いたい。まあそんな感じで、斎藤と花井、静、羊蹄丸時代の仲間たち、刑務所と娑婆、砂州の向こうの世界、過去と未来…、あらゆる関係に「海峡」が横たわっている事を随所に感じる。歯痒さと気怠さと諦めと。そんな思いが海峡を深くする気がした。それにしても、君子の自殺の理由を「思い込むと一途な性質ゆえ、男に振り回された挙句の〜」の男ってあんただよって斎藤に言いたくなるね。

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著者プロフィール

東京生まれ。1989年「ピアニシモ」で第13回すばる文学賞を受賞。以後、作家、ミュージシャン、映画監督など幅広いジャンルで活躍している。97年「海峡の光」で第116回芥川賞、99年『白仏』の仏語版「Le Bouddha blanc」でフランスの代表的な文学賞であるフェミナ賞の外国小説賞を日本人として初めて受賞。『十年後の恋』『真夜中の子供』『なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない』『父 Mon Pere』他、著書多数。近刊に『父ちゃんの料理教室』『ちょっと方向を変えてみる 七転び八起きのぼくから154のエール』『パリの"食べる"スープ 一皿で幸せになれる!』がある。パリ在住。


「2022年 『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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