クラシックホテルが語る昭和史 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101364117

感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしかった。
    この本を買おうと思ったのは、多分、表紙と・・・(明治からこっちの日本の洋館建築の写真集をあきらめた私の目を釘付けにした、赤絨毯の階段)、ぺらぺらっとページをめくった時の文体が好みだったこと(これは重要)、「曽野綾子」の文字。
    昭和史は最近のマイブーム。
    学校で昭和史は学年末が迫り、十分に教えてもらえなかったのと、まだ歴史の証言者が生きている時代ゆえ、生々しい感じがして自身も目を背けてきた面もある。
    その中でも、東京大空襲や広島長崎の関連書籍は読むことがあった。
    けれども、ホテルにまつわる話を読むのは初めて。
    庶民なので、祖父母から聞く話の中でも、触れられたこともなく、興味深い作品でした。
    序章で語られたように、そこは(ホテル)は、一種、特殊な場所であった。
    戦時中でも、様々な人種がそこに存在し、一種治外法権的な場所・・・そして、それをもてなすホテルマンの覚悟と、崇高なまでの「公平」性。人種を問わず『お客様をもてなす』そのために己が存在する、という自覚。
    目からウロコでした。
    そこからは、作者が実際にホテルの支配人の血筋の人であるがゆえに知り得た情報なのか、戦前戦後を見てきたホテルの歴史が語られる。
    『国破れて山河あり』というフレーズがあるけれど、実際、国破れてホテル有り・・・であった。
    最初は、開戦を阻止するべく、ホテルは重要な会談の場所を提供した。
    しかし、尽力の甲斐もなく開戦・・・
    何故か戦中も様々な国家の人々が利用する。
    そして、敗戦で、進駐軍の居留場所として接収されるホテル。
    第二次世界大戦に敗れて、日本がホテルを摂取されたことに関する記述の表裏を表すように、満州や南方で、日本が同じように占領地のホテルを『接収』していた記録も描かれている。
    そして、そこで敗戦を迎え、悲惨な運命をたどるホテルマンたちの描写は、やりきれない思いで読んだ。

    終章、作者はクラシックホテル支配人の孫として、そこにあった家族の肖像を描く。
    特に、母親に関しての記述・・・
    『ホテルが自宅』という特殊な環境に育った母親に、あたたかい理解の目を向けるとともに、物書きとしての冷静な目と、娘という立場ならではの愛憎のない混じった視線が、生半可な小説以上のドラマを物語る。

    昭和史に興味を持ったのは、劇団四季の『昭和三部作』を観劇した後のこと。
    今後も芋づる式に、さまざまな作品に触れていきたいと思う。

  • 勝手にクラシックホテルの歴史についての本かと思っていたら昭和史の方がメインだった

  • 期待していた内容と違ったので挫折したよ、、、
    最近、二度目(泣)

  • テーマ史

  •  先輩の図書リストから。タイトルを見て面白そうと図書館で予約。
     日本各地の老舗ホテルにまつわる昭和の生活史的な内容をイメージしてたがまるで違った。箱根の富士屋ホテル、箱根強羅ホテルを舞台とした第二次世界大戦前後の裏戦史という内容だった。消されたレジスターブック(宿泊者名簿)から解き明かす日米交渉というのが実に面白い視点だ。

     戦前、開戦を阻止するべくホテルは重要かつ極秘裏な日米会談の場所として利用される。出席者は「John Doe Associates」と呼ばれる米国人神父(ルーズベルト大統領の密使)と日本の官僚たち。「John Doe」とは日本語でいうところの”山田太郎”、つまり「名なしの権兵衛」の意味であり、水面下で交渉が遂行されたことを示唆している。
     また終戦に向けての日ソ間の広田マリク会談は、ソ連には参戦準備の時間とアメリカには原爆完成のための時間を提供と、皮肉な役割しか果たさなかった等々、歴史のifは許されないと知りつつ提示される仮定は実に意味深である。表に出ることのない先の大戦中の日本、アメリカ、ソ連の駆け引きがなんともスリリングだ(先日読んだ「ヒトラーの防具」がドイツでの日独ソ連間の情報戦だったのに対し、その同じ時に日本でも並行して様々な工作が進んでいたという地理的な表裏も面白かったところ)。

     が、勢いはそこまで。戦争の終盤、南方へのホテルの展開、中国や大東亜圏の重要人物が利用した場所としてのホテル、戦後の進駐軍居留場所としての”接収”などを語る後半は、「xxxホテル○年史」などの参考資料からの引用の羅列、歴史の補足追認程度の文章が続き、内容が一気に学生のレポートレベルになってしまう。著者が舞台となったホテルの関係者だったということから、昭和史を全部書いておきたかったのかもしれないが、前半の裏交渉に特化深堀した方が濃い内容をすっきり読めて印象深い1冊になっていたように思う。

     全体として残念なところはあるが、ホテルがインターナショナルゾーンとして敵国にも利用される不可侵性(破壊してしまうより戦後接収する戦略)を有し、特殊な場所(様々な人種が存在し、一種治外法権的な場所)ゆえに、ホテルマンが自然と身に付ける国際性、あるいは人種を問わない公平性は、戦時中、戦後の時代を描写することで、いっそ際立ち、崇高とさえ思えてくる。
     あとがきで、満州国建国の直後の1932(昭和7)年3月4日に著者の祖父(曽祖父?)である富士屋ホテルの経営者山口正造がアメリカの同業者(同じく老舗ホテルの社長)へ送った書簡が紹介されている。

    「私たちのやり方を謝ることも出来ない。でも、遠からぬうちに、私たちみんなが平和になり、隣人である中国とも笑って握手出来る日が来ることを望んでいます」

     ホテルマンとしての嘘偽りのない心情であろう。

  • ホテルが歴史(戦争)の舞台になる話は非常に興味深かったが、後半は富士屋ホテルの支配人の家系である自分の家族の話に傾いてしまい、公私は切り分けて欲しかったなと。

  • アイスホッケーの日本リーグが健在だった頃、シーズン中に2~3回は
    日光を訪れていた。

    社会人になりたての頃、試合終了後は日光を代表するホテルである金谷
    ホテルを横目に見ながら、電車に揺られて宇都宮のビジネスホテルへ
    向かった。

    「絶対、いつか泊るんだ」。そんな願いが叶ったのは30代を迎えようと
    する頃だった。一番安い部屋だったけれど、猫足のバスタブに浸かって
    夢を叶えた喜びを噛み締めた。

    ロビーに足を踏み入れるだけで、少々気負ってしまう。私にとってクラシック
    ホテルはそんな場所である。そのクラシックホテルが遭遇した戦中・戦後を
    綴ったのが本書だ。

    大英帝国との和平工作に動いたのが吉田茂と白洲次郎なら、アメリカとの
    和平工作には近衛文麿と重光葵が出馬。舞台となったのは箱根・富士屋
    ホテルと帝国ホテルだ。

    この辺りは他の作品でも少々齧っているのであまり目新しい話はなかったが、
    奈良ホテルがフィリピン亡命政府と関連があったとは知らなかった。宿泊した
    ことはないが、足を運んだことがあるだけにラウレル大統領の胸像が置かれて
    いたのに気付かなかったのは残念だ。

    他にも軽井沢の万平ホテル、満州のヤマトホテル等を取り上げ「ホテルが
    見た戦争」を描いている。

    単行本の時のタイトル『消えた宿泊名簿 ホテルが語る戦争の記憶』を
    改題しての文庫化なのだが、読了して見ると単行本の副題を文庫の
    タイトルにした方がしっくりしたかも。

    最終章の、母への思いを綴った章は秀逸。これだけでも読む価値あり。 ~。

  • 箱根、富士屋ホテルの孫娘のたどる、昭和史。
    顔パスゆえの資料発掘など、恵まれた条件をフルに活用していて
    興味深い。
    なのに、なぜか読んでいて眠くなってしまう、この不思議。
    記述の方法に問題があるのではないだろうか?
    ノンフィクション系の方によくある、一本調子な書き方。
    完全に読み手を置いてきぼりにして、自分の結論に走ってしまうような……
    読者は世界に入りきれないから眠くなる!
    内容の割には、残念な一冊。

  • なんだかこう思い込んだら一直線だぜって印象を受けるかな。新撰組好きが菊池さんの本読んだ時に受けるあの感じ。データを提示してからの「つまり~」がなんか飛躍してません?って。

    レジスターブックがなくなっているのは確かにドラマを感じるけど。あときな臭くなってきたらインターナショナルスペースであるホテルに逃げろっていうのは頭に留めておこう。それもなるべく有名で高級な所に逃げ込むべしと。

  • あんまりホテル関係なかった。しょぼん。

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著者プロフィール

1962年神奈川県箱根町生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科卒。旅とホテルを主なテーマにノンフィクション、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆している。2012年『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の100日』で小学館ノンフィクション大賞受賞。著書に『箱根富士屋ホテル物語』(小学館文庫)『帝国ホテル・ライト館の謎』(集英社新書)『百年に品格 クラッシックホテルの歩き方』(新潮社)など多数。富士屋ホテル創業者・山口仙之助は曾祖父にあたる。

「2019年 『考える旅人 世界のホテルをめぐって』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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