佐藤君と柴田君 (新潮文庫 し 44-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101368214

感想・レビュー・書評

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  • どうしてこの本を手にしたのか。それは、今年度、佐藤くんの講義をせっかく履修したのに、試験当日熱を出して欠席し、単位が取れずに無念だったから。そして柴田くんの訳したブコウスキーの小説が、ものすごく面白くてファンになり、講義の面白かった佐藤くんと、カッコいい『パルプ』を訳した柴田くんが友達なんて!なんて世間はいい感じに狭いんだろう!と、春休みだしコロナで外に出られないし、思わず読み耽ってしまったのである。

    私は不出来な学生であるから、お二人をくん付けなんて、正直恐れ多い。やっぱり、佐藤先生、と落ち着いて書かせて頂くほうが良いし、柴田さんのことも、『パルプ』のレビューのように尊敬を込めて柴田氏とお呼びするほうが落ち着く。そのへんの私個人の事情はどうでもよく、この本は90年代初頭のエッセイなのだが、今読んでも、とても面白い。ちょうど90年に一度目の大学に現役で入り、社会人になろうとするあたりのことを描いているのだけど、とても時間が経ったんだなと感じる。

    だって、私はもう音楽を録音するのにDATは使わないし、何ならウォークマンも使っていない。あの頃最先端だったテクノロジーも、もうホコリを被って、随分私達は先に来た。なのに、なんでこの本が面白いのだろう。リアルタイムでこの本が出た頃、私は洋楽なんて嫌いで聞かなかった。バブルで浮かれていても、夜遊びもしないで、ただ家とバイト先と学校を往復して、早く社会に出なければと、意地のように良い成績を取っていた。

    だから文化的なバックボーンにロックや英米はなくて、今頃、佐藤先生のお講義で、アメリカの文化に興味を持って、世界文学の新たな組み直しの中で、トマス・ピンチョンやブコウスキーを知った。タダの経年の体感にひっかかったなら、この本は面白くなかったはずなのに。なんだろう?と考える。

    今も世界中でエルヴィスやビートルズは聴かれ、ブルースもカントリー&ウェスタンも、もっとハードなロックも聴かれている。今の若い子達も、好きな人は聴いている。年令に関係なく、自分の好むポップ・カルチャーを選んで楽しむ2000年代にあって、ちゃんと90年代の音楽も新しく捉え直されている。現役で楽しまれている。過去ではないのだ。

    政治にしてもそうだ。この本の中に、大統領の声のタイプと、政治的傾向の繋がりを論じたエッセイが収録されているが、私はこれが大いに面白かった。JFKとレーガンの声の対比を使って、それぞれがターゲットにした有権者の世代にウケる政治傾向ってどうなんだろうと考察しているのだけど…いろんな物事が『印象』と『気分』に左右されて進行していく世の中なのだというあたり、更にこの30年でその風潮は加速している。

    過去のエッセイでありながら、ここに書かれた日常や文化論は、大きく違った面と、何ら変わらず今も問題として残ったままの部分がある。その断層をぱっくり覗き込みながら、私は考えるのだ。ちょうどこの本の初出の世代である、ヒラリー・クリントンが負けて、トランプが大統領になっている。日本では田中角栄が再ブームで取り上げられている。私は、90年代に青年だったが、親世代の政治や社会構造に戻りたがりながら、文化的にはもっと下の世代と感覚を共有しているのだろうか?

    いや…どっちかって言うと、私はアンチトランプだし…角栄さんも年表の中の人。あの世代に今更戻られても、と思っている。かといって、バブルや新自由主義も、もういいやと思う。で、毎日なにかに文句を言ってばかりのSNSもニュースも、お腹いっぱいだ。

    世代を超えて必要とされたり、本当に変わらず共感されるのは、音楽や文学やカルチャーで、時間が経っていても、それを好きだと感じる人がいる、ということが大事なのだろう。例えば、繰り返しになるが、ビートルズやエルヴィスのように。

    90年代から2010年くらいなんて、人生で一番しんどい時期で、あの頃私には、音楽の記憶がない。歌なんかどうして、愛の歌恋の歌ばっかりなんだろう。と、うんざりしながら思っていた。聴いてもいなかった。若かったけど毎日が辛くて空白の時期だ。

    この本を読んでみると、90年から2010年くらいまでの20年くらいって、案外みんな迷走していたのかもしれない。この時期に仕事をしないで、もし先生方の講義を聴いて、大学院にでも進んでいたら、どうだったろう。分断の手触りと一緒に、ずっと変わらずそこに在ってくれるものの手触りも運んでくれる、不思議な本だった。

    あ、もちろん受けられなかった英語は、ちゃんと履修し直します。ごめんなさい。

  • 東大の先生なんですよね?でもここまでポップでいいんですか?これほどまでに良い意味で力が抜けて読みやすいエッセイは久しぶりである。

  • 100113(n 100414)

  • 東大教授はたぶん楽な仕事じゃないけれど、楽そうに思わせてしまう妙技。

  • なにか、きっかけがあればすぐに読み終わってしまうと思うんだけど。解説は池澤夏樹。

  • 駒場生は読むと英Iに対する意識が変わるかも。駒場を出る頃に読んで、もっと早く出会いたかったと後悔したくらい。こんな素敵な先生方がいるなんて。

  • 佐藤君と柴田君―。二人は東大の先生である。ドロンコ的混沌を愛してやまない佐藤君がマックを操り、ナップザック姿の柴田君が齧歯動物みたいに大学内を走り回って、英語の授業を面白くした。そんなジーンズとスニーカーの似合う二人が、翻訳論からオナラ学、ビートルズに「女は男のパンツを洗うべきか」なる大問題まで縦横無尽に語り合った、ポップ感覚溢れる掛合いセッション。(本書より)

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著者プロフィール

東京大学卒業、東京大学大学院修了
東京大学教授
日本アメリカ文学会、日本アメリカ学会所属
日米友好基金賞受賞『ラバーソウルの弾みかた』
主な著書
『ラバーソウルの弾みかた』(ちくま学芸文庫)
『佐藤くんと柴田くん』(白水社)
『J−POP進化論』(平凡社新書)

「1993年 『マルコムXワールド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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