消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101368511

作品紹介・あらすじ

七人もの人間が次々に殺されながら、一人の少女が警察に保護されるまで、その事件は闇の中に沈んでいた-。明るい人柄と巧みな弁舌で他人の家庭に入り込み、一家全員を監禁虐待によって奴隷同然にし、さらには恐怖感から家族同士を殺し合わせる。まさに鬼畜の所業を為した天才殺人鬼・松永太。人を喰らい続けた男の半生と戦慄すべき凶行の全貌を徹底取材。渾身の犯罪ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • あの人が認めるはずはありませんが、人が死んでもいいという感覚だったのではないでしょうか。嘘ついて嘘ついて、嘘の上塗りをしていくと、あの人の中ではいつしか本当のことになるんです。『自分はやってない』と言い続けて、それが本当になってしまっている。あんな人間、二度と出てこないでしょうね。(P.78)

    複数の人間を監禁し、自分は殺害を誘導するだけで、拷問を受けて苦しんでいる人を見て笑っている。言葉巧みに騙して監禁して殺す。天才殺人鬼。人格は人相に出るなんて言うけれど、松永を見るとそれも信じられなくなる。狭い風呂場で遺体の解体が行われていたなんてこの世の出来事とは思えない。

  •  『完全ドキュメント北九州監禁連続殺人事件』小野一光著を読んでみたかったのだけど、図書館になかったのでこちらを借りました。

     これだけの事を調べて本にした著者の力量と努力(何しろ内容がエグいのでずっと取材していたら精神的にまいってしまいそう)に脱帽もので星5個でも足りない位なのですが、前出の通り事件の内容がエグいので星をつけかねました。この星は本として作品に対してつける星だと分かっているけれど。

     なんとも得体の知れない犯人で、読み終わっても消化しきれない感情があり、あとがきで書名が出て来た、『復讐するは我にあり』佐木隆三著と、『この手で人を殺してから』 アーサー・ウイリアムズ著(『世界ミステリ全集〈18〉』収録)を読んでみたけど余計もやもやとしてしまったので、BLを沢山読みまくってなんとか気持ちを切り替えました。

  • あまりに胸の悪くなる事件の内容に、読み続けることが苦痛なほどでした。
    そこからくる怖ろしさと憤りは、身体的な虐待ももちろんですが、それ以上にここで描かれる主犯の人物の、解説ではサイコパスとされる、あまりにもエゴイスティックな精神性のおぞましさによるものです。本書でもたびたび触れられるとおり、主犯は容姿に恵まれた爽やかな好青年でああることはネット上でも確認することができ、そのような人物が多くのケースで直接は自分の手を汚さず、「学習性無力感」状態に陥れた罪のない人々を「操り人形」として意のままに操り、凄惨な殺人を含む数々の凶行に及んでいます。

    そのような犯人の特徴を知るとともに、それが、本書とは直接は関連のない二つの著書で著されていた、以下のような「悪魔」の特徴と合致することに思い至りました。

    ----------
    『悪の正体』佐藤優
    「何も命令せず、要請せずに、人を自在に動かす。権力における自らの優位性は手放さない。そんな人物には気を付けた方がいい。これこそ典型的な悪の技法にほかならない」

    『アンの愛情』のジェムシーナ叔母さん
    「わたしは悪魔がそんなにひどく醜いはずはないと思いますよ。もしもそんなに醜いなら、たいした害をしないわけですよ。わたしはどちらかといえば悪魔を美しい紳士としていつも考えていますよ」
    ----------

    本書で扱われたのは、そう遠くない過去に、市井に暮らす普通の人びとを地獄に落とした、現実に起きた事件です。つまりこのような身近に存在するかもしれない「悪魔」による凶行が、誰の身にも起こりうるという事実に戦慄せざるをえません。

  • 誉田哲也「ケモノの城」のモデルになった
    現実に起きた事件のルポルタージュ。
    現実に起きた?信じられない。

  • 黒沢清監督の「クリーピー 偽りの隣人」を観て、そのもとになった事件だという噂を聞いてこの本を紐解いた。一日で読んだ、というか確認した。

    クリーピー(おぞましい)という形容詞は、おそらくこういう事件のためにあるのだろう。映画を観てから一週間経てもなお頭の奥の嫌な感じがとれなくて、この本の中の「事実」を確かめることにしたのだ。鑑賞直後「映画を観た人はこんなことはあり得ないと思うだろうから、作品の賛否は分かれるだろう」と考えた私の予想は、半ば当たり半ば外れていたことがわかった。作品の賛否は確かに分かれた。しかし、私でさえあり得ないと思っていたことが、事実として行われていたのである。

    例えば、映画の犯人の娘とされていた澪(藤野涼子)は、時々「あの人父親じゃありません」とはいうものの、自然に親子の振る舞いをしていたし、毎日学校にも通っていたのである。そこまでマインドコントロールができるものなのか?しかし本書では、紙数の関係かそこに突っ込んだ書き込みはなく実にさらっと、この事件の生き残りで通報者17歳の服部恭子(仮名)の小学校と中学校の「通学」のことが書かれていたのである。また、買い物は殺し殺された女たちの仕事だった。彼女たちには頻繁に犯人に電話連絡する義務はあった。しかし、警察に通報するとか、逃げるということは、一部の例外事件(それさえも巧妙に阻止された)を除いては、することはできなかったのである。

    映画よりは、遥かにリアルで陰惨な現実がある。

    戦争は人間を人間でなくさせる、という。閉鎖空間での洗脳、極限の苦痛、絶対的服従の対象のあること、そういう中で人は「やってしまう」のかもしれない。この事件は、そういう意味で人間の「原罪」をも照射する事件だったのかもしれない。

    B級戦犯の緒方純子がA級戦犯の松永太と同じ死刑判決になったことに、著者は疑義を唱える。そのことは二審と最高裁判決の無期懲役に結びつく。その過程で、マインドコントロールのメカニズムが一部明らかになったのは、大きな成果である。しかし、あまりにも陰惨な事件だということもあって、その全貌はマスコミに流れていない。私でさえ、最初期の報道の印象から、この事件の主犯は女性の方(緒方純子)だと、本書を読むまでは思っていた。

    幼児を含む7人の殺害という稀に見る犯罪性、被害者が被害者の子どもや親を殺すマインドコントロールの恐怖、極限まで非人間的な死体処理の酷さ、主犯松永のサイコパスの来歴が何処から来たのか最後までわからなかった謎、この事件は詳細を知れば知るほど、身の毛がよだつのではあるが、一方では二度とこんな事件を起こさない、そしてこんな社会にさせないためにも、知っておくべき事件だと思う。

    2016年7月4日読了

  • まず怖い。だけど読まずにはいられない。
    それが最初の印象。北九州市で起きた一家殺人事件の真相に迫る作品。
    自らは直接手を下さずに人を支配していく様は戦慄ものです。

  • 2021/3/5読了。

    事実は小説より奇なり。

    徹底した肉体的、精神的な支配により、多数の人間を極限状態に陥れた松永死刑囚の手腕に圧倒されつつも、当事件のサイコパスな所業にはただただ恐怖と怒りを感じた。

  • #読了 あまりにも凄惨を極める事件の報告だった。野次馬根性でこういう事件のルポは好んで読む方だけれど、読み始めたときは少し後悔した。
    他人に支配洗脳された結果家族や他人を殺めるという事件は時々あるけれど、どうしてそうなってしまうのかが疑問だった。すべての事件がこの通りなわけではないのだろうけど、支配構造は同じようなものなのかな。
    首謀者に監禁され、生き残った二人の女性の証言や公判記録から事件を描写するという手法なので、首謀者の心理などは最後までわからない。そこが不気味さを際立たせているようだった。

  • 凄惨な事件。どこにでもいる普通の家族が肉体的、心理的な松永の支配によって、互いに殺し合いを始めると言う恐ろしい事件。最後まで読んで著者の豊田氏の言う通り順子の松永の支配から逃れ、人間的な心を取り戻しつつあることが救いだった。松永に反関しては全く反省がなく、恐ろしい人間だと思った。嘘だらけの人生

  • なんでこんな本買ったんだろうと思うけれど、新潮45の文庫シリーズを意外と読破しているので、好きなのかもしれない。

    タイトルの通り、北九州であった事件をテーマにしたもの。
    とにかく酷い。グロい。えげつない。
    世の中で一番怖いのは、やっぱり人間。

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著者プロフィール

1966(昭和41)年、東京生れ。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨークの日系誌記者を経て、ノンフィクション作家に。戦争、犯罪事件から芸能まで取材対象は幅広く、児童書の執筆も手がけている。『ガマ 遺品たちが物語る沖縄戦』(講談社)は、厚生労働省社会保障審議会の推薦により「児童福祉文化財」に指定される。著書に『妻と飛んだ特攻兵 8・19満州、最後の特攻』(角川文庫)、『消された一家』(新潮文庫)他多数。

「2018年 『ベニヤ舟の特攻兵 8・6広島、陸軍秘密部隊レの救援作戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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