魔術はささやく (新潮文庫)

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著者 : 宮部みゆき
  • 新潮社 (1993年1月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369112

魔術はささやく (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 第2回日本推理サスペンス大賞受賞作。ちなみに第1回は受賞作は無しで優秀賞で乃波アサ氏が、続く第3回は高村薫氏が受賞している。このメンバーを見ても解るように新潮社主催で行われていたこの新人賞は現在でも第一線で活躍する作家を多く輩出しており、たった七年という短命な賞であったがその功績は非常に意義高い。
    第1回では大賞無しという結果だったので、実質的に本作が大賞第1作目となるが、その栄誉に恥じない出来である。

    都内各所で起こる女性の3件の自殺事件。一見何の関係もないそれらの死には実はある関係が隠されていることをある女性は知っていた。そして次のターゲットが自分だということも。
    その3つの死の1つ、女性の飛び込み事故で加害者となったタクシー運転手の甥、日下守は微力ながら叔父を助けるべく、独自に事故の調査をしていくうちに真相に近づいていく。

    なんとも足が地についた小説だというのが第一の印象。通常新聞で三行記事として処理される瑣末な女性の自殺事件、そして交通事故。毎日洪水のように報道される数多の情報に埋没されてしまう事件はしかし、当事者には暗い翳を落とすのだ。たとえ事件が解決されても、適切に処理されても被害者、加害者の双方には一生消えない心の傷を残す。そんな誰もがいつ陥ってもおかしくない状況を一般市民の、当事者の視座から宮部氏はしっかりと描く。
    私が感心したのはこの書き方だった。本格ミステリでも事件が起きる。死人も出るし、魔法で成されたとしか思えない不可解な状況での死体も出る。そこに警察が介入し、登場人物は予定を変更され、警察に拘束された毎日を過ごすはめになる。しかしそれらはどこか絵空事の風景としてか捉えることがなく、現実味に乏しかった。なぜなら本格ミステリそのものが読者と作者との知的ゲーム合戦の色合いを持っているからだ。だから読者は「そのとき」が起こった後に及ぼす当事者の状況には忖度しない。犯人と殺害方法が判明し、警察が逮捕されて事件は解決、そこで物語が閉じられるのがほとんどだからだ。

    しかしこの小説は事件は普通によくある交通事故。その事故が及ぼす当事者達の生活への影響などを克明に書く。そのため、作中で起きている状況が読者の仮想体験として感じさせ、現実感が非常に色濃く出ているのだ。
    それに加え、主人公を務める日下守という少年の造形が素晴らしい。幼い頃に父親が失踪―昔流行った言葉で云うならば“蒸発”―し、その影響で亡くなった母親の姉に引き取られることになったという境遇にある。しかも父親は会社の金を持ち逃げしたという噂があり、周囲からは「泥棒の子供」だと揶揄されているという、なんともつらい生活を送っている少年なのだ。が、しかし彼はそんな状況にも負けないタフなハートを持っており、おまけに特殊な特技を持っている。
    ネタバレにならないのでここで書いてしまうが、それは開錠の技術である。「おじいちゃん」から小さい頃に教えてもらった技術だが、これが実に物語に有機的に働く。この技術が日下少年に他人とは違うという自信を持たせ、さらにこれらの不幸な境遇が周囲の子供らよりも一段大人びた性格を持つに至ったという人物設定は非常に頷けるところがあり、もうこの日下少年という主人公だけで、私の中では本書は傑作になると確信していた。

    が、しかしその後物語は私の思惑とは意外な方向に進む。サブリミナル効果はまだしも、催眠術という、眉唾物の技術が本書の大きく覆ってしまうのだ。
    ネタバレになるので詳しくは書かないが、この催眠術の登場で私の本書に対する価値観はぐらついた。前述したように非常に現実感を伴った内容にいきなり飛び込んできたこの異分子は一気に絵空事の領域に物語を持っていってしまったという感慨を抱かせてくれたのだ。
    このギャップが私の中ではとても気持ち悪く、それが故に本書は佳作という評価に落ち着いてしまった。

    確かに作者はこの突飛な技術を読者に納得させるように活用法に工夫を凝らし、詳細に説明を加えて、納得させようとしているが、物が物なだけになかなか現実感を伴って腑に落ちてこなかった。したがってクライマックスに訪れる日下少年の試練もまた深く心に浸透してこなかったのが非常に残念である。
    さて発表から30年近く経ち、科学の発展と共に色んなことが解明され、新事実も発見されているが、果たして今本書を読んで手放しで賞賛できるかといえばそうとは思えない。それはやはりこの小説が備えている前半の現実感と後半の非現実感の乖離ゆえに。

    ただしその一点は致命傷ではないようだ。なぜなら30年経った今なお、本書は版を重ねて出版され、しかも新装版まで出版されているくらいだからだ。つまりは単に好みの問題ということだ。
    『パーフェクト・ブルー』、『我らが隣人の犯罪』と比べてもその出来は数段よいことから、本書から宮部みゆきの今が始まったと云っても過言ではないだろう。

  • 宮部さんの長編処女作。もう構成から文体から、けれんに満ち溢れている。
    この頃の初期小説は否定できない。星も満点をつけざる負えない。フジのドラマでめちゃくちゃにされたから、とっても悔しい!!だから小説は満点つけてしまうよ。
    もう古典かもしれないけれど、ミステリとして、又少年の成長記としてこんなに素晴らしい小説はないとしか言えない。ラストの感動と爽やかさは今も忘れなれない。
    宮部さんは、『小暮写真館』で答えてくれたけど、個人的には、時代小説より現代小説をもっともっと読みたいです。特に初期の様な(この作品も)Sキングに触発された様なミステリを書いてほしいです。

  • 時に真実を知らない方が良いこともある。

    しかし、真実を知ってしまった以上、
    憎むべき相手を許すか許さないかの裁きには大きな決断と勇気がいる。


    少年を取り巻く家族や仲間の愛情に支えられながら、
    事件の真実を知ってしまった少年の葛藤と心の変化、そして最終決断を下していくまでの描写がお見事です。

  • 実は、宮部みゆきさんの作品って、まだ2作目なんですよね~。読みたい作品は沢山あるんですけど。。。

    なんとなく初期の作品を読んでみたくて手に取りました。
    ぐいぐいと引っ張っていってくれるので、あっという間に読了。
    流石、数々の賞を受賞している人気の作家さんです。

    「魔術はささやく」は、なんと約30年前の作品で、バブルのあの頃の時代を知っている私としては、ニヤリとしてしまうことが多々ありました。
    喫茶店のピンク電話とか電話ボックスとか、今はもうあまり見かけませんよね。

    事件も当時の時代背景ならではのところもありますが、根本的には現在も同じだと思いました。
    家の留守番電話やマニアックな雑誌などが、ラインやSNSや動画サイトなどに変わるだけのこと。

    だって結局のところ人間の心のことだから。

    読みやすいのですが、少々わかりにくいところもありました。ここまで手の込んだ殺人事件を起こす犯人の動機とか。
    あとは読むひとが、どこを、何を、拾い上げるかなのかなとも思います。

    宮部さんの作品はまだまだ沢山あるので、また読んでみたいと思います。

  • 再読。リアルに影響を及ぼす本。前回読んだ時、美人4人が巻き込まれる殺人事件の因果応報のようなものとそのカラクリの巧みさに単純に感動したのを覚えているけど、それと今回の感想は多分違う。主人公の賢さに寄り添い、叔父家族や友人、遺伝を信じないバイト先の先輩などのあたたかさ、「じいちゃん」の存在の方が、最近ではありふれてるからかな事件内容より勝った。そして主人公の「制裁」は覚えていなかった。

  • 400頁をこし、読み応え十分の作品。後半に行くにつれ物語に加速度的に引き込まれ、気が付けばあっという間に読み終わってしまう。物語を構成する要素がとりあえず多い。ただ最終的に、事件、謎、疑問もどんどん繋がってちゃんと集約される。思った以上に読後もアッサリ。あくまでもミステリーであって推理小説ではない。どの登場人物も、良くも悪くも人間味が溢れていて魅力的。何よりも主人公がいい子。人によっては、事件のカラクリの部分に納得がいかない場合もあるが、それを人物描写が上手くカバーしているように思う。本を読むのが久しぶりで、何か面白いミステリー作品ない??と言ったら自信を持って進めたい一冊。読書熱再熱に持って来いの一冊。

  • 個々の事件や人がどう結びつくのか怪しみながら読んでいたけど、中盤からは先が気になって仕方がなく、一気に読了。
    かなり不運な主人公の勇気と行動力にひやひやしつつ、優しさには感動。良い子!!
    真紀が部屋に入ってきていきなり「坊や」と語り出したくだりは鳥肌。怖かった。
    事件のトリックにはちょっとハテナも感じつつ、丁寧な心理描写と爽やかな読後感で星4つ。

  • 469頁の文庫の400頁を越えたところで、あっこれ前に読んだことがあるな!って気づくというのは、頭の劣化が相当進んでるってことなんでしょうね。
    宮部さんのミステリーはどんなあり得ないできごともワタシにはOK。ほっと一息心のオアシスです。その400頁を越えた頃から明かされる後催眠現象のトリックは、あり得ないけどおもしろい、2回目だというのに出張の楽しいお供にさせていただきました。
    宮部さん、ご馳走さま。

  • 3人の女性の死は自殺ではないのか?だとしたらどんな方法で殺したのか?そしてどんな繋がりがあるのか?気になってどんどんと読み進めました。
    その方法は反則…と思ったけれど、伝えたいところは他にあるのでまぁよし。
    守のせっかくの能力が序盤にしかつかわれず残念。普通の高校生だもんね。

    文庫版の表紙はマグリットの山高帽のオマージュかな。さてその意図は?

  • 一見、関連のない三人の死。どれも自殺や事故と思われたが…。
    よくある謎のパターンだと思うし、犯人も意外ではない。けれど、主人公の守のしなやかな強さが良い。彼の周りの人物も良い。
    守の父親が罪を犯して行方不明となったせいで、彼は周囲の人間の嫌がらせや差別と無縁ではいられない。彼を支えるのは‘大切な友達’から教わった特技。そして、守はその友達の言葉も大切に守っている。
    解説で北上氏が「宮部みゆきは<愛の作家>である」と書いているが、その通りだと思った。
    ミステリーで人生を考えさせられました^^;

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