孤宿の人(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369327

感想・レビュー・書評

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  • 以前に読んだときものすごく泣いたのを他の方の感想を見て思い出しました。
    泣きますよ〜!

  • 泣かされた。宮部みゆきで泣くのは初めて。



    泣いたこととは関係ないけど、
    流行病(実は風評)への不安で万人が夏風邪や食あたりを「流行り病だ!!」と思い込み養生所に駆け込み医療崩壊するくだりに、コロナ禍のはじめの頃は、こういう感じ、あったよなぁ。この文庫本平成22年発行よな…。と思った。

  • いやはや、やっぱり宮部さんって凄い‼️下巻のラストは、午前中、内科の待合室で読んでいて、ジワジワと感動し、泣いてしまいました。
    宮部さんファンを公言してるくせに、なぜこれをまだ読んでいなかったのか?(反省)
    以前からずっと私は、宮部さんは『性善説』の作家さんだと感じています。お話の中では、それはそれは、人の業とか、どうしようもない悪人とかも登場するのですが、それでも、それでも、救いがあり、生きていくことへの希望が感じられ、そんなラストに心が熱くなります。

    阿呆の「呆」から名付けられたという、孤児のほう(九歳)と、引手見習いの若い女性、宇佐、この2人を軸に、この地の様々な立場の人たち、領民たちが描かれていきます。

    時代物を読むといつも感じるのは、幼いころから自立せざるを得ない、大人な10代と現代との差や、命の重さの違い。いや、本来は命は同じはずだけど…あまりに呆気なく命をとられてしまう。それが辛い。また、悪霊や祟りだと、厄災を恐れる人々の心の動き。でも、読んでいくうちに、現代だって、風評被害とか、ネットでのちょっとした言葉を上げつらい、人を叩く様を考えると・・・人の心の動き方というのは、昔から今でも変わらないのかなあ〜とも思いました。

    いつもながらの、宮部さんの美しく的確な文章と表現力は別格で…特に下巻は一気読みでした。今作は、なんといっても、無学だが純粋な、ほうを主人公にしているところが良かったな〜。その純粋さゆえ、美しい文に、言葉に泣けてしまうのでした。

    ネタバレしない程度に、印象に残った部分を少し…。
    ーーーーー
    宇佐の心はふたつに割れた。割れたところのギザギザが血を流していた。心の半分は、いつまでもそんなことでメソメソしてるんじゃないよと、ほうを怒鳴りつけようとしている。もう半分は、ほうの頭を抱えてやって、ごめんよごめんよと謝ろうとしている。

    真実と命と、どっちが重い。

    「女なんだなぁ。藩の利益だの安泰だのよりも、卑怯な手を使って得恋した女を許しておかれないという気持ちの方が先に立つか」

    加賀殿のようなお方は、周囲にいる者どもが、日頃は押し隠しているそういう黒いものを浮き上がらせる。加賀殿の毒気がどうだの、魅入られておかしくなるのだというのは、何のことはない、その者がもともと内に隠し持っていたものを、加賀殿を口実に外へ出すことができるようになるからこそ起こることだ。火元は己だ。闇は外にはありません。

    この子の無心と無知を、私はずっと、かけがえのない美しいものと思ってきた。が、今の今は惜しくてたまらん。ほんの一時、この子に悪知恵を貸してやりたいものだ。そしてこの事態をわからせてやりたいものだ。

    人が悪い事をするのは、自分の勝手でするのだ。鬼や悪霊のせいじゃない。

    癪に障るがな、宇佐、この世には、時に、人の命より大切に遇される建前というものがある。

    嘘が要るときは嘘をつこう、隠せることは隠そう。(中略)ただすより、受けて、受け止めて、やり過ごせるよう、わしらは知恵を働かせるしか道はないのだよ。

    地に根を張らぬ知の言葉は、いずれおまえに、仇をなすぞ。傷つくのがおまえ自身であるならば、それもまた教訓として生きようが、他の者を巻き込むのはやめなさい。

    富でも身分でも埋められぬ、心の穴がそこにはある。

    私はこの歳まで生きて、ようやくわかったことがある。この世には、本当に真実の知れぬ事柄などひとつもないということだ。
    どんなに固く伏せられている事どもでも、誰かそれを見ている者がいる。何処かには、知っている者がいる。正しく道をたどって探り出すならば、それをつかむことができるのだ。

    いつかはきっと、みんなみんな明らかにしよう。もう誰も、秘密に苦しみ、苦しめられることのない世の中にしよう。秘密の中で、人の命がうしなわれることのない世の中に。

    人はこんなふうにわらうこともできるのだと、宇佐は震え上がって思った。壊れた顔をつなぎ合わせて、その縫い目が見えているのに、でっちあげられる笑い。

    愚かじゃ。どうしようもなく愚かじゃった。おまえがその愚かさに付き合うことはない。

    深い息をする。身体の震えが鎮まってきた。加賀様のお顔を見たからだ。正しいことを教えていただいているからだ。これが安心ということだ。

    おまえを逃したいという牢番の心は尊いものだ。おまえにも、それはわかろう。

    加賀様の強いお言葉が、蘇ってほうの耳を打つ。雨より強く。雷鳴よりも鋭く。

    誰が仕掛け、誰が言い出し、誰が伝え、誰が裏付けるかもわからぬままに、波紋のように広がってゆく噂。
    ーーーーー
    ちなみに、昨日、下巻の途中でお風呂にはいりながら「ほう」はこんな字にすれば良いのに…と考えていたのが当たりました(^^)

  • 最後号泣良すぎた

  • 鬼とは、誰の心にも棲むもので
    人が変じるものではないと云う事か。
    無垢なほうに泣かされた。

  • 一気に読めた。ほうと宇佐、加賀様の絆に泣けた。

  • 最後は一気読み。もうラストは涙無くしては読めない。ほうの一途な思い、宇佐の一途な行動、どんなに正しいことをしても、みんながそれを正しいとは認めない。いろんな人たちの思いがあって世の中は動く。
    そう自分が世の中を動かしているなんてゆめゆめ思わないこと。

  • 臨場感が秀逸この上ない。クライマックスは読者の身も熱くなりそうです。すばらしい小説。感染症の蔓延により窮屈を免れない現代人にも響きます。未読のかたに、ぜひおすすめします。解説の児玉清さん、懐かしいなぁ。2009年の寄稿です。私の読書の指南役だった知的な俳優さんでした。花丸大吉も連想するけどね。2021 9 8再読

  • 阿呆のほうと名付けられたほうを、
    うさは何度呼んだだろう。
    加賀どのは何度呼び掛けたのだろう。

    最後にほうがうさに語りかける加賀どのとの日々が、かえってうさと加賀どのがいかにほうを慈しんでいたのか、二人にとってほうという存在がいかにかけがえのない存在であったのかを物語り、涙しか出てこない。

  • 結局、加賀殿は、幕府高官の不正に抗議して罪を被ったのではなく、将軍お手つきの女性だった奥方が幼い子供達(しかも上の子は将軍の血を受けた子)を道連れに服毒し自死してしまったため、養家を守るべく、目撃された部下達を斬って捨てた上で「黙し、乱心よ錯乱よ、鬼よ悪霊よと恐れられる道を選ん」で流罪になったのだった。加賀殿は、身の破滅を悟ると共に、妻から見捨てられてしまったことによる絶望感から、釈明して地位を守ろうとする道を選ばなかったようだ。加賀殿がほうに「私は゛鬼゛という病にかかっておるのだ」と語っている。要するに、加賀殿流罪を巡る幕府内の政争はなかった(見込み違いだった)。

    そして、ほうを加賀殿が幽閉されている涸滝の屋敷に送り込んだのは、舷洲先生が「この子のように無垢な者こそが、大人たちがこぞって踏み迷っている闇を晴らしてくれるのではないかと期待し」てのとのことだった。この深謀遠慮が、ほうと加賀殿の心の交流を生むことになる。

    政争としては、丸海藩お取り潰しを狙う幕府黒幕と藩主畠山家に代わって藩主に座を狙う城代浅木家が結託して,加賀殿取り扱いの不手際を誘おうとし、その浅木家内にも跡継ぎを巡るお家騒動(毒物事件)がある。

    しかしながら、本作は、どろどろとした権力闘争や血みどろの暗闘を細かく描くことを避け、専ら、度重なる自然災害を悪霊、加賀殿の祟りとして恐れ混乱する庶民の姿や、加賀殿と無垢な娘ほうとの心の交流、事の真相に辿り着いた同心、渡部一馬の絶望と捨て身の復讐、ほうの身の上を思いやる宇佐の優しい心根等を丹念に描いている。そして、加賀殿の悪評を利用して悪貨を駆逐しようとする藩主一派の秘策が裏で進行している気配を感じさせつつ一気にラストへ。

    宇佐が報われず大団円とはいかないラストはちょっと残念だったが、宇佐や加賀殿の分も背負って生きるほうの無垢な姿が救いになっている。とても面白かった!

    本作の加賀殿のモデルとなった妖怪、鳥居耀蔵を巡る小説も読んでみたくなった。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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