ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369372

感想・レビュー・書評

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  • 「森内先生も言ってたし、理科の高橋先生も似たようなことを話してた。野田君は、ああいうふうにおとなしく、無気力でダメダメなふりをしているだけなんじゃないか。なぜそんなふりをしてるのかはわからないけど、あれは仮面じゃないかってさ」
    文字通り固まってしまうほどに、健一はぎくりとした。
    「今のおまえ、カッコいいよ。それが本来の野田健一なんだろ。ずっと隠してたんだな」
    理由は聞かねぇーと、先生は笑う。
    「学校ってのは生きづらい場所だ。けっして天国でも楽園でもねぇからさ。おまえはおまえなりの処世術があるんだろ。でも、おまえはけっして駄目じゃない」
    「ましてやオチコボレでもない」と、和彦が受けた。「さっきの先生は、野田君のことをまるでわかってないって、僕も思った」
    「楠山先生はオチコボレなんて言ったんか。バカだねぇ。あの先生の目は節穴だ」
    「だけど僕、成績が」と、健一はぎくしゃくと呟いた。
    「だからそれも仮面なんだろ。おまえだけじゃねぇよ。珍しくねぇ。優等生になると、もっと生きづらくなるから。そういう奴ってのはね、高校や大学でデビューするの」
    「デビューの意味が違うと思います」大真面目で和彦が言った。「でも、わかります」
    二人が笑うのに、控えめにびくびくと、健一もちょっぴり参加した。
    確かに仮面です。何もかも仮面でした。でも先生。でも弁護人。僕には本当の秘密もある。そして、それだけは仮面じゃない。そっちが僕の本性だったー (487p)

    最近の中学生は、優等生であることも隠しておかないと「生きづらい」のか。40年前となんと学生生活は変わってしまったことか。

    宮部みゆきの真骨頂は社会派でもSFでも時代劇でもなく、少年少女が主人公になった時の瑞々しさにあると、私は思っている。時代劇やファンタジーでは時々書いていたが、社会派で少年少女が主人公なのは、もういつ以来だろうか。思い出せない。この作品が彼女の最長作品になったのは故あることなのだろう。

    宮部みゆきは最初の頃は少年に、やがては少女に対しても、自分の持っている「理想」「純粋性」を投影している様に私には思える。最初の頃はひたすら賢く純粋な少年が登場していた(代表作「ステップファザー・ステップ」)のだが、2000年頃から傷つき悩む少年少女が出始めた。それは、ひとつは社会のそれがそうなのだからもしれない。しかしそれだけではない、彼女自身も傷つき悩んだ成果なのかもしれない、と私は妄想する。そして、この作品では幾人もの主要登場人物が傷つき悩んでいる。長編になる所以である。

    この本の新潮文庫でのホームページでは、作者の肉声でメッセージがついていた。彼女の声を初めて聞いたが、そのままアナウンサーになってもいい様な美声だった。それはともかく、「ソロモンの偽証」の意味について彼女は触れていた。
    「最も賢い者が嘘をついている。最も正義感のある者が嘘をついている。最も権力と権威のある者が嘘をついている。どれがホントかを読者の皆さんが判断して欲しい」と。
    そうか、道理でソロモンと偽証を一緒に検索したら出てこないはずだ。ソロモンが偽証したという伝説があるわけではないのだ。イスラエルの王ソロモンの三つの側面を、宮部みゆきは拝借したわけだ。そうなると、ソロモンに1番近いのは、あの2人ということになる。でも、まさかね。
    2014年10月7日読了

  • シリーズ3作目。
    学校内裁判の立ち上げと準備。

    高木先生に涼子が臆さず本音を主張したところ、かっこよかった。
    新たな登場人物であり、優秀な神原くんの存在が心強くもあり、本当のところはなぜ他校の学校裁判に参加しているんだろうと…と若干不穏な気持ちにもなる。

    時間で三宅樹理がどう出てくるか気になる。

  •  面白くなってきました。

  • 前代未聞の学級裁判。新しく集うクラスメイト、そして事件に積極的であれ消極的であれ、関わろうとする大人達、、、とにかく面白い。物語的には調査パート。

  • 最後に全ての謎が明らかになるのかわからないけど、すごく面白い。
    いろんな人のいろんな立場の時点で話が展開されるけど、気にならずにスラスラ読めます。
    続きが楽しみです。

  • 他の方も書いていますが、どんどん面白くなってきました。前よりもミステリー要素が加わって来ています。
    新しい登場人物も加わり、厚みが増してきました。
    但し、中三の夏休みで期間が限られているとしても、受験前の中学生にこんな余裕があるか?
    ここまでの知識があるだろうか?と疑問に思う事、多々あります。
    思春期の中で親と先生と友達との間で揺れる心の動きを事件を通して描くには、この時期がちょうど良かったのかなと思ったり。

  • まさに起承転結の転の部に入ってきた感じ。
    この先どう展開するやら。読めそうで読めない・・

    にしても、登場する中学生。賢く老生している子
    が多い(笑)

  • 1,2巻は序章。
    3巻から一気に面白くなる。
    どんな展開になるのか検討もつかない。

    これでただ裁判やって終わりって感じだったら、半分のボリュームでいいやろ、と思ってしまいそうなので、さらなる急展開を希望。

  • 第一部ほど劇的に目まぐるしく事象が起こるわけでは無いが、一つ明るみに出る(モリリンの一件)とまた謎(大出家の火事)が加算されたりと、読むペースは落ちない。
    大事にゆっくり読まないと第三部の発売まで間が開いてしまう!と思うんだけど……。
    全部刊行されてから一気に読んだ方が良かったとここまで来てちょっと後悔。

  • 急に面白くなった。
    裁判の展開は予想外。
    野口くんが大出くんとの接し方が徐々に代わっていくのが印象的。
    夏休みの短い期間で、涼子が良い子ぶらず、何枚も皮がむけていくことから、経験と成長の凄まじい関係性を感じた。

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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