- Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101369402
感想・レビュー・書評
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徐々に明らかになっていく柏木卓也の人物像、裁判を決定づける証言、裁判最終日に検事・藤野涼子が召喚した最後の証人。そして判決が下される。
最終巻、特に最後の証言者の語りにとにかく圧倒されました。読んでいて憤り、恐怖を感じ、悲しくなり、切なくなる、
そんな風に、ありとあらゆる感情が自分の中に現れては消えていき、時には渾然一体となり読んでいて自分が今何を感じているのか、何を思っているのかすらも分からないままページをめくり続けていた、そんな気がします。
単純に言ってしまえばある人物がむき出しにした悪意の話なのですが、その悪意というものは蔑み、軽蔑、差別という自分の心のどこかにある誰にでも普遍的な悪意であること。
そして、その悪意にプラスしてこの年代の子どもが持つ一種の大人への不信、社会への不信、プライドなどといった自分にも身に覚えのある感情が事件の根底にあったことが分かると、
その悪意が決して理解不能なものではなく、もし一歩間違えれば自分もこの悪意を持ちえたのかもしれない、と思ったが故の憤りであり恐怖だったのかもしれません。
そしてその悪意に立ち向かった少年の感情も想像すると読んでいてあまりにも苦しい…
しかしその後陪審たちが評決を下すため審議に入るのですが、きちんとそうした悪意と今までの裁判の経過と向き合い真実だけでなく、その悪意が向けられた人物まで救おうとしていることに読んでいて救われた思いがしました。
それはきっとこの裁判が陪審はもちろん検事も被告人も弁護人も全員が一から自らのために、この裁判を作り上げてきたからだと思います。真実の探求と共にそこで生まれた一体感、友情が評議から判決までに表れていたと思います。
三宅樹里の話も皮肉だったなあ、と読んでいて思いました。自分が今まで抱えてきたいじめの痛みや苦しみ、悔しさが初めて認めてもらえたのが家族でも同級生でもなく、他校の生徒だった、ということです。
この本のハードカバー版が発売される前に大津いじめ事件がありました。それもあってか、大津事件とこの本の関連が指摘されることも多かったのですが、
1~5を読んでいく中で学校の隠ぺい体質や中学生が立ち上がるなど似ているところはあるものの、大元のいじめについてはあまり似ている風には見えないよな、となんとなく思っていました。(そもそもいじめが主テーマでもないですしね)
ただ樹里のいじめで感じた痛み、苦しみ、悔しさが法廷で証拠として採用される場面を読んでいて、
今までいじめ自殺をしてきた少年や少女はきっと死んで、遺書を残すことでしか自分の声を取り上げてもらえないと思い込んでいるところまで追い込まれていたのかな、
と思いました。だから彼女の認められてこなかった苦しみをきちんとすくい上げたことは彼女を大きく救ったのだと思います。
この経験を通して大きく変わった印象のある樹里ですがそれは被告人の大出俊次にも言えることであって、
元々この事件で悪い印象の強かった二人の変化と成長をしっかりと描き切っているあたりもさすが宮部さんだな、と思います。
宮部さんは決して都合のいいラストや登場人物に手心を加えるような甘い人ではないけど、それでも優しい人なのだな、と読んでいて感じました。
判決が近づいてくるうちに徐々に自分の中で空虚感が大きくなってきたのですが、
それはもうすぐこの登場人物たちと別れなければいけないのだな、という寂しさがあったからのような気がします。
全6巻、事件の発生から裁判の準備、そして判決と中学生たちが必死に戦っている様子を読んでいるうちに
自分も彼らと一緒に戦っているような戦友のような感情を持っていてしまったのかもしれません。そして彼らと一緒に人間の底知れない悪意と戦ったという経験もあるからかもしれません。
とにかく読み終えてしまうのが本当に寂しく感じてしまいました。
そして登場人物たちのその後についても触れすぎないもの宮部さんらしいですね。最後に2010年に舞台が移るのですが、それなのに裁判後の登場人物たちのことを話してくれない(笑)
非常にもどかしくもあるのですが、安易に登場人物のその後を語らないからこそ、この裁判に関わった中学生たちの記憶が自分の心の中に刻み込まれたような気がします。
そして本編終了後、書下ろしの中編「負の方程式」が収録されています。こちらでは大人になった藤野涼子が再登場。『誰か』などに登場している杉村三郎とも共演するとても特別なエピソードです。
まだ自分は杉村三郎シリーズは『誰か』しか読んでいないので、それのネタバレ的なところがあるのはちょっといただけなかったですが…(杉村三郎シリーズを知らなくても読むのに支障はありませんが)、
単に二人を共演させてファンのご機嫌をうかがいました、なんていうぬるい作品ではなく、こちらもしっかりと人間の本質的な支配欲というものを描いている秀作となっています。
個人的にはこんな感じで藤野涼子の短編集も書いてくれるとうれしいな、と思ったりしています(笑)
それにしてもこんな風に杉村三郎に再登場されるとまたそっちの作品も気になって追っかけなくっちゃいけない…。それは全然上等なのですが、宮部さんに巧いこと掌の上で転がされているような気がします(苦笑)
話は逸れましたが間違いなく名作です! 解説にもありましたが本当にあらゆる年代の人に受け入れられる作品だったと思います。改めて宮部さんには一生ついていこうと思いました!
2013年版このミステリーがすごい!2位
2013年本屋大賞7位詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
重たいお話なのだが一気に読ませるのは、こんな中学生はいないと思いつつも、そのまっすぐな一直線さに惹きつけられるからか。
必ずしも大団円とは言えないが、様々な伏線は一応回収される。ただ柏木卓也と言う人間は最後まで私の理解の範疇外でした。
スピンオフの「負の連鎖」のおまけは嬉しかったが、裁判後の学校の様子はもう少し書き込んでほしかったかな。 -
文庫版しかない続編があるということで購入。
全巻を通しての感想です。
文庫本では全6巻からなる超大作ですが、その分読み終わった後は疲労感満載でした。と同時に良い作品を読んだなという満足がありました。生徒一人一人にスポットライトが当たっていて、同時進行の物語がいくつもありますが、そんなに飽きることありませんでした。
なんといっても印象的なシーンは裁判シーンです。登場する生徒って中学生だよね?と何回も確かめるくらい、大人っぽいといいますか、大人すぎると思いました。中学生っぽくないという意見もありますが、現実で見てみると、昔とは全然違う印象です。テレビでも見かけますが、意見もしっかり持っている人が多く、いてもおかしくないのではと思いました。
登場人物の心情を丁寧に描いていて、ほっこりする場面もあれば、痛々しい場面もあり、すごいムカつかせる場面もあったりと読み手側の感情をこれほど動かせるのは、素晴らしいなと思いました。宮部さんの文章力には圧倒されました。
ちなみに映画版を見ましたが、連続ドラマ向きかなと思いました。演者の方は素晴らしかったのですが、省略している場面も多く、何か物足りなかったなというのを記憶しています。映画よりも小説をお勧めします。
この本では、本編終了後、単行本にはない続編が記載されていて、大人で弁護士になった藤野涼子と「誰か」に登場する杉村三郎が登場します。
二人が共演するとは、驚きでしたが、面白かったです。ただ、杉村三郎の背景を理解しとかないと、楽しめないのかなと思いました。基礎知識だけでも把握しておくと、より楽しめるかと思います。 -
あぁ、読み終わってしまった・・・
もちろん長いのですが、6冊もあるほどのボリュームは感じさせない。あっという間だった気がします。
第Ⅲ部はいよいよ始まった裁判。
もう本当に自分も傍聴している気分で読み進められるほど没頭し、引き込まれ、終わった時には安堵のため息が出ました。
事の真相は、読んでいればなんとなく想像する通りなのですが、そこに至る過程にゾクゾクしました。
ただ真相だけを言えば、大出君への判決は予想通り、電話ボックスの少年も予想通り。だけどそんな結果だけの話ではなく、本当にこの裁判をやって良かったなと思える結末でした。
不幸な事件が色々と起こっているので、手放しでハッピーエンド!とはなりませんが、考えうる中で一番いい結末だったんじゃないかなぁと。やっぱり宮部さんは優しい方なんだろうなと思いました。柏木君側(特に両親)から見ると辛い結果かもしれませんが・・・
でも柏木君も、反論したければ死んでしまってはダメだと言う事。
登場人物が多いけれど、各々の心情がとてもよく描写されていて胸にずっしり来ました。
みんな考えて考えて、傷ついて、それでも真実を求め、その結果大きく成長した。 -
最後の証人喚問は涙が止まらなかった。
裁判に関わった中学生達は最強で最高。 -
6巻も読めるのか、気持ちを維持できるのか不安でしたが、6巻目は特に一気読みでした。
繊細、敏感、脆い、危うい、歪み、憧れ、
プライド、妬み、残酷、冷酷、差別、比較、
中学生時代なら特に、誰しもが、ひとつは持っていたのではなかろうか?痛々しいです。
中学生たちの裁判は、稚拙な面もあったのかもしれないが、しっかりとやり遂げて本当に立派です。
三中に通う中学生の為の裁判がいつしか、大人たちも沢山のことを気付かされて行き、価値あるものになりました。
最後に希望が見えて完結したが、他の子達はどんな大人になったのかなと知りたくなったところに、最後の短編でまた完結!です。
「解説」も良かったです。 -
なぜか登録してなかった…。もう忘却の彼方で、ただ素晴らしかったという記憶しか残っていないけど、まさか5巻までで読むのをやめた訳もなく、とりあえず登録はしておく。
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も、もう他の人の本は読めないかもしれない、
てくらい素晴らしい。 -
ああ、久々の宮部節。
京極夏彦の謎解きが、「ふふふ、実はこうなっていたのだよ、ほうら!」と一気に風呂敷の中を広げて圧倒させるのに対し、森博嗣の謎解きが、「ここまでは教えてあげましょう。あとは自分で考えてね」と先生に宿題を出されたような気持ちになるのに対し、宮部みゆきの謎解きは「そう、こっちで合ってるよ。おいで。一緒に見よう」と招かれるような。
推測ですが、読んでいるひとはみんな、同じようなタイミングでオチに気付かされるのだと思います。そしてそこから始まる怒涛の宮部節。急き立てられるように、坂道を走るようにして、どんどんと視界が開けていく感覚。そして明かされる謎。
視界が開け切ったその場所に置いてきぼりにしないのも、宮部節。感情的に、納得のいく時間をくれるというか、「さあ、もう帰ろう」と手を引いてくれるような最後。
「僕たちは、友達になりました」で涙しました。
唯一、気になったのは、本当の意味での事件の被害者の女の子。彼女が命を落としたのは、一体何のためだったのか。理不尽極まりない。彼女のことを思うと、やるせない気持ちが残ります。どうしてもそこだけが消化不良だったので、星は4つ。 -
読み進めながら中学3年だったときの自分のクラスを思い浮かべた。大出のような暴力的なやつ、柏木みたいに斜に構えたやつ、藤野みたいに賢いやつ、野田みたいに目立たないふりをしてるやつ、松井みたいに優しいやつ、三宅みたいに敬遠されてるやつ…。ただやはり神原和彦みたいなやつはいなかった。これが物語の底流に流れていた不穏な空気感を演出していた。この物語は、嘘をつかずに自己と向き合い対話し、同じように他人に向き合い対話することが、いかに大切なことかを教えてくれる。嘘は何の幸せも生まぬということを。