生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

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著者 : 本谷有希子
  • 新潮社 (2009年3月2日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (145ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101371719

生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 北斎の絵はピンクにしても素敵。
    鬱で過眠症で無職の寧子は津奈木と同棲三年目。
    津奈木の言動に絶えずイライラし、目下引きこもり中。そんな寧子の前に津奈木との復縁を狙う元カノ安堂が現れ、猛攻撃を仕掛けてきて・・・

    安堂も大概だが寧子もひどい。メンヘラ祭りだわっしょいわっしょい。安堂により強制的に働かされることになった寧子だが、バイト先のヤンキーたちの懐の深さに救われ・・・ほっこりハートウォーミングな展開になるかと思ったら、ウォシュレット問題で心の鎖国開始・暴走という見事なメンヘラっぷりを見せつけてくれる小説。

  • 読書にはいろんな読後感がありますが、最近読んだ中でここまで「共感」してしまったものはありませんでした。単に小説としてならものすごく優れた作品とまでは言えませんが、その点において、ワシにとっては傑作です。

    しかも、自分自身でも驚いたことに、共感した相手は「メンヘラ25歳女性」という主人公。そう、自分と被っているところなんか無さそうなキャラクターです。

    ところが、この彼女の思考回路というか、妄想力には、身に覚えがある。自分の心の動きやら妄想やらを、ビシッと指摘されたかのようなこそばゆさがあります。

    そしてその恋人の男の態度にも覚えがある。ワシという人間を細分化して、その中でも比較的大きなものを二つ抜き出して作られたようなキャラクターが2名、この作品では恋人役として丁々発止しているのです。これは共感せざるを得ない。

    その点で、ワシは著者の思考に、もしかしたら近しいのかもしれません。

    とまぁここまで自分語り的に感想を並べ立ててしまいましたが、それを除いて評しますと、読みやすく、テンポ良く、それなりにドラマチックに、メンヘラ女性と無関心ふう男性の色恋模様が展開されます。

    著者についての知識による先入観も込みですが、いかにも芝居を見ているような心地よさでお話が進みます。言葉が届きやすく、分かりやすい。さすが戯作家。

    ただ、物語そのものは平板ですので、この、特に主人公二人の思考についていけるかどうかが、この作品が面白いと感じるか否かの分水嶺かもしれません。

    実際、もう一編の作品「あの明け方の」は、残念なことに余り心に響きませんでした。物語の平板さは残しつつ、登場人物に共感出来なかったからかもしれません。

    もうひとつ、忘れちゃいけないこと。ワシが読んだ新潮文庫版の仲俣暁生氏の解説が素晴らしかった。この解説を深掘りした本で一冊読んでみたい、そう思わせてくれました。

  • 「わたし」は「わたし」と別れられない。
    解説が秀逸だ。自己完結しつつも他者を強く求め、ぶつかり、傷つくその様を卵の白身と卵黄の例えを用いて見事に表現した。

    こんなヒステリックな女は嫌いだ。そして、この本を勧めてくるような女もわりと引く。それでも、僕にこの本を勧めた彼女がときどき、本当にときどき(それこそ、五千分の一秒で過ぎ去る程度だけどな!)、とても可愛らしく思えることがある。
    よい読み物だった。

  • 「自分で自分に振り回されてぐったりする」
    寧子の起伏の激しさには、周りだけでなく彼女自身も訳が分からず翻弄されてしまう。メンタルヘルスという言葉はあてがわれているけれど、「内側」の発露の度合いが違うだけで決して特別なものなんかではなく、それはきっと多くの人の内奥に流れているものだ。
    彼女は自分の内面にあるエゴに気付いているからこそ、ネット上で同じような境遇の人たちの発露を目の当たりにして嘔吐し、パルコのカードが作れなかった時に自分の何かが見抜かれていると敏感に感じ取ってしまった。そういうものを前にして感情を顕わにすることができるのは、周りから見れば格好良いものではないのかもしれないけれど、どこか羨ましくもある。

  •  仕事が一山越えて、積ん読になってた中から引っ張り出した。
     あらすじはスーパーシンプルで、鬱持ちでずっと寝てばかりいるエキセントリックな美女が、彼氏の元カノに自立と別れを迫られて云々という話。
     リズミカルな筆致で、さくさく読み進めていたら、最後でざっくり刺された。「いいなあ津奈木。あたしと別れられて、いいなあ」ああそうですよね…と立ち尽くしてしまった。
     大変勝手な話だが、恋人と別れるときに、「悲しい」「つらい」以外に、やたらと腹が立つことがある。「こんなに私が辛いのに何でこんな思うように物事進まねえんだよ!!」とか、「もう好きじゃないし別れたいし話したくもないのに何で別れ話しないと別れられないんだよ!!」という至極理不尽で自己中心的なものである。しょーもない。けどこれって要は、この自分の中の制御できない量のエネルギーをどこにもぶつけられなくて、今までは何らかの形で受け入れてくれてた恋人の存在も失って、やり場がないイライラが自分の中で爆発してそれが誘爆しまくってヒステリックになってる状態なのだな。私はこの先もこの“私の感情”に振り回されて疲弊して生きていかなきゃいけないのに、彼はこの時の数時間の会話と決定で私とも私の感情とも別れられるということへの、半ば八つ当たりだ。
     寧子の意思が向かう先は社会でも恋人でもなくて、自意識が牢獄のような自意識から抜け出るところにあるんだろうか。でもそんな矛盾するものは存在しない。だから他のものを探すしかない。それが恋人でないのなら、仕事か? ソーシャルな人との繋がりか? 趣味か? あっさりと見つけられる人もいるし、そうでない人もいるんだろう。見つけられない、見つけづらい性質の人間にとっては、それはまさに富嶽三十六景の一枚の絵が刻む5000分の1秒くらいわずかで、稀有で、心が発火して燃え尽きる一瞬なんだろう。それが一生のうちにぽつぽつと何回かあるのか、加齢とともにそれが日常になるのか、私もそろそろ先が見たい。

  • これすげえ。
    ゲロみたいな吐瀉文学。て言ったらぴったり。失礼か。

    鬱だったときの、自分はいつか元通りになれるんだろうかとか、また「元気」になれる日が来るんだろうかとか、ぐるぐる考えても救われなくて、結局ひきこもるしかなくて、家を出ることはおろかベッドに寝転がってほんの少し見える空を見るしかなかった日々の気持ちを思い出した。

    わかってほしいんだよなあ。そうじゃねえんだって。かわいそうでしょ?こんな自分。優しい言葉で満足できなくて、確かな未来がほしいとかじゃなくて、苛苛するし、体動かせばすぐ疲れるし、こんな状況に行き詰っちまって先の見えない自分に、自分と同じくらい苦しんで、理解しようとしてほしいんだって!!

    どうしてこんなに息苦しいんだろう。
    五千分の一秒で、自分は満足できるかなあ。

    とにかくすごかった。真夜中に1時間ぐらいでぶああっと読むとすごい。

  • だいぶ前に読んだ本谷さんの小説の印象は、極端過ぎたりダメ過ぎたりするけど何だか愛おしくなるような主人公が出てくる、ということで、久々に読んだ本作も同じく、だった。

    「生きてるだけで何でこんなに疲れるんだろう」。そう感じながら怠惰に暮らす25歳の寧子は、津奈木の家に転がり込むかたちで同棲を始めてから3年になる。
    美人だけど過去の経験から性格が破綻していて、同性の妬みも相まって何をしても続かない寧子。
    鬱からくる過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人だった。

    本当はただまっすぐに生きたいだけ。本当は普通の暮らしがしたいだけ。だけどその“普通”が上手く出来なくて、自分からは程遠い。
    ダメなのは自覚しているけれど、そんな自分のことを誰かに解ってもらいたい。そして受け止めて欲しい。
    そういう寧子の叫びが全開に溢れている。短い小説なのだけど、濃くて、とても痛々しい。そしてやはり、愛おしい。
    生きるのが下手くそな寧子という人物の中に“自分”を投影してしまう人もいるかもしれない。そういう意味では、太宰の人間失格的な趣もあるのかも。

    スルーされてるのかと思いきや本当は想われていたり(そうじゃなきゃ職なしの女を長く家に置くわけないし)きつく当たられることもある意味では愛情表現だったり。
    本当は周りにけっこう構われていることを自覚できたら、もっと幸せなのかも。育ちによる傷があるから難しいのだろうけど。

    表紙の絵にも深い意味あり。
    ほんの一瞬の偶然を見つけてかたちに出来る、その奇跡。

  • 受賞記念再読2016/01/20

    一緒に疲れてほしいという主人公の恋愛欲求
    付き合うとは、互いの願いをぶつけ、ぶつけずにいること?

  • なんでもないことで躓いて、その度に爆発。破壊。こんな激情型の自分を抱えて生きていくのは、確かにしんどい。いい出会いがあってよかった。最後の場面を読んで、とても真っ直ぐな恋愛だと思った。

  • あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが…。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録。

    冒頭で一気に引き込まれた。「お前らの安い恋のトライアングルに勝手に巻き込むじゃねぇよ」に笑ってしまった。津奈木のなんでもごめんと言う感じとかよく見受ける感じだなぁと男目線ではあるが共感してしまう。
    それに苛立って怒ってしまう。だけど怒ってそんな言葉を言いたいわけでは無いのにっていうジレンマにも共感してしまう。
    必ずしも自分の人生でリンクしているっていう物語ではないけれど、描写に共感してしまう所や、馴染んでしまう所が素晴らしい。本谷ワールドハマってしまうかもしれません。

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