ぬるい毒 (新潮文庫)

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著者 : 本谷有希子
  • 新潮社 (2014年2月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101371733

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ぬるい毒 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • ある側面から見れば、私もこの「熊田さん」のような人間なのだろうなあ・・・と思ってしまう。
    自意識・自己愛が強すぎる、ということなのかな。この、気味の悪いようでいて、でも、自分の中にも「熊田さん」がいるのがわかる。
    目的をもって行動しているようで、本当は自分の行動に正当な理由をつけたいだけ、ということなのかな。熊田さんの物わかりの良さ、わかってるけどやってるという言い訳。

    以下引用
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     信じているふりをして聞き続けた。向伊がどういう男なのか知りたかった。
     向伊の前ではなるべく騙しやすそうな私を見せていた。勉強はできたけど、主体性はなくて、男の言うことをすぐに聞いてしまう女。母親がそうなのだから、もともと私の中にもある部分で、難しくはなかった。

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    (中略)この人の嘘になら騙されてもいいと、もし私が彼を好きだったら思ってしまっただろう。そんなに手の込んだ嘘を吐いてまで私をつなぎ止めておきたいのだと。人間は所詮、信じたいことを信じてしまうから。私は二年も向伊からの電話を待った。

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     向伊が来た途端、女の子たちが色めき立つのが分かった。体内の女性ホルモン分泌が活性化し、いやらしくなるのが分かった。抱かれてもいいです、みたいな視線をあからさまに注いでいる女の子もいた。

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     初めて見たときにも感じた。向伊には魅力がある。それは、人に興味を持たれ続けた人間にしか出せない何かだ。人に憧れられ続けた人間の何か。どうしようもなく億劫そうで、それなのに存在感は一人だけ凹凸があって、この人の近くにいれば、自分の価値まで上がるような、そんな錯覚を起こさせる人間。キレイゴトをすべて嘲笑うこの人の悪さを認められれば、自分のセンスが証明できるような。そういう人はたまにいる。生きてるだけで周りのリトマス試験紙になってしまう存在。奥出さんもそこそこの線までいっているけど、劣等感の塊であることが出過ぎているせいで及ばなかった。向伊は違った。

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     気づくと、私は心の中で、あははははははは、と笑っていた。それから、一体どこまで自分は舐められているんだろう、と思った。どこまでどうでもいい存在なんだろう。原と別れさせて、家族を裏切らせて、東京まで金を持って来させてくせに、この男は私のことを仲間に隠すつもりなのだ。なんでも言うことを聞く家政婦か金づるにするつもりなのだ。

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     東京にそのまま残ろうと思ったのは、自分でもまったく予想しなかった反応が、私の心と体に訪れたせいだった。私は元気になった。元気になったというより、あれだけ侮辱されてもう立ち直れないだろうと思えた出来事だったのに、気付くと忘れていて、あの笑い声が自分に傷一つ残せていなかったのだと知ったから。そのことを思い出すたび、私は道行く誰かを摑まえて教えてあげたくなる。笑われるのはそれほどのことじゃない、むしろ慣れてしまえば病み付きになってしまうんだ、と。分からなかったとしたら、それはあなたがまだ経験してないからだ。段々と、笑われているくせに生きている自分に、人間は不思議な愛おしさを感じるようになる。自分の存在に張りが出る。あの画家とまではいかなくても、それを利用していいんじゃないかという気にさえなってくる。いまも一人だし、この先も誰かと繋がれ... 続きを読む

  • えげつないほど生々しい、平凡な日常に対する抵抗。

    本当は恋愛も男もセックスもどうでもいいくせに、それから逃れたい為に溺れる。簡単に足の着く浅瀬だとわかっているのに、気付かない振りをして溺れる。
    死なない程度のリストカットを繰り返し、血を見て悦ぶ子供と同じように。

    本谷有希子の小説は、小説の体裁を取りながらもいつも別のものであるように感じる。
    例えば、そう。私以上に私を愛し、憎み、蔑むひとは、この世のどこにもいないだろうーーそれを知ってしまった人の悲鳴だ。

  • この小説に対して何も思うことはない。だから私の今の気持ちだけ。胸くそが悪い。こういう小説が一番嫌い。ブクログの足しにはなったかな。

  • ひたすら苦しかった。熊田の戦いは、すべての女が経験することだと勝手に思った。ここにはわたしが描かれている、太宰の女生徒くらいの衝撃があった。昏い魅力に溢れている人間は実際いるし、知れば知るほど彼らは悪魔的だ。引きずりこまれたなら、毎日毎晩自分が鬼になる瞬間を想像しながら精一杯生きて苦しんで、自分が愛おしいかなしい生き物だと気づく以外に、逃れられる道はないのかもしれない。

  • 文庫で再読。
    単行本で読んだときはなんかイマイチな感じだったのだけれど、文庫が出たので改めて読んでみた。そしたら面白かった。この感想の違いは何故だろう、ということを考えてみた結果、以前にイマイチだと思ったのは、同著者の「ほんたにちゃん」を読んで間がなかったからなのではないか、ということに思い至った。

    「ほんたにちゃん」と「ぬるい毒」の主人公は真逆である。それは「男と女」のように「全く性質が異なる」ということではなくて、「右と左」のように「相反する方向に向かっている」という意味での真逆である。
    どちらも「自分は特別である、他の女どもとは違うんだ」という過剰な自意識を起点にして、それを外に向けて膨張し、炸裂させたのが「ほんたにちゃん」、内に向けて収縮し、どす黒い塊にしてしまったのが「ぬるい毒」である。と、私は思うのだ。

    「ほんたにちゃん」は著者の処女小説をリメイクしたもの、ということもあり、荒々しくて衝動的でものすごい勢いがあって、作品の主題(?)でもある「若気の至り」というヤツがグサグサくる感じだった。
    たいして「ぬるい毒」は、同じ系統の「痛い女」を描いているのに雰囲気は全然違って、じめじめした空気感、人肌の匂いと温度が色濃く漂っていて、慎重に練られたのであろう心理描写は吐き気を感じるくらい生ぬるくてドロドロしている。

    つまり同じカテゴリの女性を描きながら全く手触りの違う小説を短期間に読んだせいで、その強烈なギャップを処理できずに気持ち悪くなってしまった、ということだったのかもしれない。と、今になって思った。
    この作品が野間文芸新人賞受賞という、著者の作家としてのキャリアにおける最大の評価を受けていることに実は疑問を感じていた。
    けれど再読してみて、これは「痛い女」を描きつづけてきた著者の明らかな成熟を見せつける作品であり、のちの「嵐のピクニック」や「自分を好きになる方法」に繋がる一つの到達点だったのだな、と、改めて思ったりした。

  • ガツンと来るんだろうなと身構えて読んでいたのが悪かったのかもしれない。ちょっとだけ想像していたのと違った。でも、熊田みたいな女はどこにでもいそうというか成分として持つ人いると思う。理解はできる。
    辛くて反吐がでるような話なんだけれど読みたくなる不思議。読むエネルギーもいるから落ち込んでいるときには読まない方がいいかも。

  • 一文一文が独創的ながら的確。例えば、黒鍵の上を歩いているような男だとか、顔を旅行できるだとか。同時に、全体としてのうねりにも引き込まれ、圧倒される。
    類型化した理解というのは追いつかなくて、読めるのだけれど分からない、でも引き込まれるというところになる。精度よく丁寧に書かれたものから「分かる」ような何かを見つけ出すのは困難だけれど、それでも入ってくる。
    「好きな男ができた、行動は完全に彼に引きつけられている、そのことを自分で認められず悪い感情を抱いている」なんて構造が一方でミエミエなのに、一方では移入して狭い視野を共有せずにはいられない。そして現実・建設的な思考・妄想の境界が崩れていく。
    「23歳」というモチーフも印象的。あとは、金目当てだとわかった時のみじめさとか、処女のこじらせた欲求だとか。

  • 人間のとてもイヤ~な部分をこれでもかと描写しているのはすごいと思う。こんな侮辱のされかたしたらすっごおいダメージ受けるなあというような心理をこれでもかとエグってくる。目を背け、鼻をつまみたくなるような、最低な種類の人間を、ここまで書けるのは本当に凄い。

    ただ、それを読んでいて楽しいかというと、不愉快になるのが普通。で、もう読んでる間ずっとイヤ~~な気持ちで、読み終わってもどこにも救いがなくて、できれば早く忘れてしまいたい。

    向伊のような男は、他人の弱点を動物のように嗅ぎ当てて、そこから甘い汁だけを吸って、あとは放り出してしまうのだろうけど、もはや洗脳だと思う。カモとして目を付けれらた熊田は不運だけど、自業自得でもあり。最初の電話の時点で、切れよ、ってすごく思って、高校の同級生と名乗られてもすでにおばちゃんの私は「そんな子いたっけ?」って確かに思うけど、19歳なら覚えてないわけないだろ!(怒)復讐のチャンスを狙っているとは上手い言い訳だけど、向伊のような男からは全速力で逃げるのが最善策ですよ。

  • 正直言って、著者の表現したいことがよくわかりませんでした。
    ただ主人公が何かと闘ったということはわかる。

  • あの夜、同級生と思しき見知らぬ男の電話を受けた時から、私の戦いは始まった。魅力の塊のような彼は、説得力漲る嘘をつき、愉しげに人の感情を弄ぶ。自意識をずたずたにされながらも、私はやがて彼と関係を持つ。恋愛に夢中なただの女だと誤解させ続けるために。最後の最後に、私が彼を欺くその日まで――。一人の女の子の、十九歳から五年にわたる奇妙な闘争の物語。渾身の異色作。

  • しんどい読書だった。主人公はコンプレックスの塊の自意識過剰人間なのだが、個人的にとてもよく共感できてしまって苦しい。さらに、出てくる男がどいつもこいつも人を舐め腐ってるタイプの最低な人間で、主人公を何度も精神的に辱めるものだから、気分が悪くて人間不信が悪化しそうになった。復讐劇を成功させて欲しかったけど、実際にこういう人たちに自分で復讐を果たすのは極めて難しいのは分かるし、自分は立ち向かったんだということで満足するのができる限りの最高の落とし所なんだと思う。最後に主人公が言う、笑われるのも慣れれば良いものだ、というのは私には理解しかねるしそんなことに慣れたくはないと思うが、決定的な反抗を示すことで嫌な出来事も気持ち的にすっきり決別できるのは確かだよね。だから、不当な扱いをされても毅然と反抗できる人間になれたらいいけど……。
    文章は正直うまくないと思うけど、爆発するようなエネルギーが感じられる。溜まりに溜まった負の感情に基づく反抗というような話を本谷有希子はいつも書いてるイメージだが、なんでそういう話を書くのか気になった。

  • わかるような、わからないような、複雑な心境が描かれていた。

  • 初本谷有希子は、あんまりピンと来なかった。読了はしたものの、結局なにが言いたかったのかわからない。

  • 魅力の塊と称する男に翻弄されるように振る舞い、恋愛と闘争のような関係を続ける女。内面の描写の妙が冴えまくる。奇妙でありながらリアルな人間関係のスケッチ。

  • 自意識の問題に悩む女の人がでてくる。あっという間に読み終えた。

  • 結局 主人公目線の世界がどこまで本当で、本当の世界はどんななのかな?!
    と 考えずにはいられない おもしろさ。

    序盤では話が掴みきれずになかなか興味がそそられなかったけど、中盤からは 結末に何が待っているのか…?!と前のめりで読んでしまった。

  •  覚えていない同窓生からの突然の電話。そこから私とその男の5年に渡る恋とも戦いとも言える関係が始まる。

     本谷有希子の芥川賞受賞をきっかけに読了。
     なんとも言葉にし難いもやっとした感情。とらえどころのない話だけどぐいぐい読ませてくれる。

     本谷有希子の他の小説も読んでみたくなった。

  • 自意識、
    その生き残りをかけた壮絶な戦いの物語。

    自分を保ちたい。自分が相手をコントロールしていると思いたい。自分の思っているように世界を回したい。
    もし、そんな想いが崩されたらどうなるのだろう。自意識をずたずたにされたらどうなるのだろう。傷つけられることは怖い。

    でも、自意識との戦いに本書はヒントをくれる。自意識を引き裂かれることに恐れはある。ただ、思うほど悪いものでもないかもしれない。

  •  タイトル通りじんわりとぬるい毒が体内に巡っていくような、しんどい読後感。ガツンとした衝撃はないけど、確実にダメージを受けた気分。
     私は本谷さんがおっしゃるように(あとがきより)、熊田は向伊に恋をしてはいないと思う。だけど強烈に引き込まれているのは確かで、そこまで魅力ある向伊に会ってみたい、人を平気で嘲笑える嫌な男なのに会ってみたいと思ってしまう。それが熊田が(ある意味)虜になった向伊の魅力なら、怖い。ラストは熊田の徹底的な逆襲が見られる訳でもないところがまた、こちらをじんわりと重たくさせる。

  • 2015年10月5日読了。
    もやもやするのに、ガツガツ読ませる。

  • エキセントリックな女の子ものではなく、嘘の毒牙に酔わされつつ逆襲を画策する、内面に潜り込んだ小説。
    痛快さはない。
    精神面における崩壊感覚。

    初期のエキセントリックな「痛い女子」
    →本作
    →じんわりと描かれる「痛い女」

    その分岐点。

  • 読了。
    ぬるい毒
    本谷有希子

    つまらなかった。あっさり忘れてしまいそうな恋愛ストーリー。

  • 本谷有希子ワールド。主人公は、分裂気味。スパンが長いのに、主人公にとっては、先週程度に感じているように思う。向伊たちのサディスティックな遊びは主人公の思い込みなのかなんなのか、わからない。ただひとつ、女、女どもと呼ばれる種類の女たちに対する嫌悪感には同感。この小説の解釈を聞きたい。興味ある。

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ぬるい毒 (新潮文庫)の作品紹介

あの夜、同級生と思しき見知らぬ男の電話を受けた時から、私の戦いは始まった。魅力の塊のような彼は、説得力漲る嘘をつき、愉しげに人の感情を弄ぶ。自意識をずたずたにされながらも、私はやがて彼と関係を持つ。恋愛に夢中なただの女だと誤解させ続けるために。最後の最後に、私が彼を欺くその日まで――。一人の女の子の、十九歳から五年にわたる奇妙な闘争の物語。渾身の異色作。

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