語源の快楽 (新潮文庫 は 27-1)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101375311

作品紹介・あらすじ

「あっけらかん」の語源、知ってる?じゃ、「ぶす」は?「やくざ」は?ふだん何気なく使っている言葉にもれっきとした氏素姓があるのです。しかも、その氏素姓が明らかになったときの、この「快感」といったら!『土佐日記』『枕草子』の解釈で知られる古典文学の泰斗が、膨大な知識を縦横無尽に駆使して遊ぶ「語源ワールド」。

感想・レビュー・書評

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  • 『おもしろ奇語辞典』の改題本と言いますが、おもしろいというよりはストイックなほど真面目に、語源についてまとめられた一冊。
    学者調のまとめ方は、読者に楽しんで読むというよりも、真摯に学ぶことを要求しているような気もしますが、不思議な響きの言葉の成り立ちについて興味を持つ人にとっては、飽きずに読み通せそうです。

    著者の選んだ言葉が50音順に掲載されています。
    「ねりぐり」とか「はったい粉」とか、知らない言葉もたくさんありました。
    また、古書の引用が、ひらがなではなくカタカナ表記になっているため、今となっては読みづらい印象です。
    堪えて読んでいくと、時折面白い記述にぶつかります。

    まとめ本であるため、以下箇条書きにて。

    ・オランダ語のオンテムバール(尻軽)→お転婆→(肥後方言)オテモヤン

    ・蝶よ花よ→ちやほやする(響きの変化)

    ・「ピンからキリまで」のピン:スペイン語のpunta(点)からカルタや賽の目の一のことを言う
                キリ:花札の12月の桐の絵から、最後をキリという

    ・東京ではつき出し→関西ではおつまみ

    ・「はすっぱ」は、お盆のナスやキュウリの下に敷かれる蓮の葉、くず野菜の意味

    ・「あんぽんたん」のアンは「あん畜生」のアンと同じ

    ・ヤクザの「ヒモ」とは、猿回しの紐

    ・「ひやかす」とは「ふやかす」の江戸方言。未熟練の紙職人の工程から。

    ・「ひょっとこ」は「火男」

    ただ、学術調査の及ばない言葉も多々あるらしく、飽くまで著者の推測にすぎないことも記述されているため、記載事項全てが事実とは判断できかねる点に、あやふやさを感じます。
    たとえば「あっけらかん」が「呆気にとられた羅漢」かもしれない、だとか。
    それでも、知的好奇心は満足できました。

    橋本治のあとがきつき。

  • 読むのにずいぶんかかった。

    いわゆる雑学の本と侮るなかれ。
    「萩谷朴」という名前は、日本文学を学んだ人なら、どこかでお目にかかるはず。
    そう、中古文学の専門家として知られた人物。
    専門の枕草子や土佐日記の記述や、古辞書、漢文などが縦横に引用され(現代語訳なんてついてない!)、また戦時中インドネシアに赴任した経験も総動員して、語源に迫っていく。
    語源説なんて、話半分に聞かなきゃ、という気分が飲まれてしまう。

    いわゆるク語法。
    「ところ」を表す名詞の「く」がついてできた言葉がある。「いはく」(言うところ、言うこと)「おもはく」の類。
    「いはく」「おもへらく」は、ア段音に続いているのに、「申ししく」「思へりしく」はイ段音。
    こうした謎に、本来は連体形接続だが、「いふ+く」のままだと同じ母音が連続してしまう。
    これを避けるために、最初の母音が開いてア段音になった、と説明されている。
    勉強になった!

    その他、知っていたものもあるけれど、「はっけよい」が、「八卦良い」ではなく、「はっ、競(きほ)へや」だったとは。
    これは中古文学の専門家ならではの発見。

    こんな具合に読むのに時間がかかり、10日も経ってしまった。
    ようやく最後まで行ったら、解説は先ごろ亡くなった橋本治さん。
    『桃尻語訳枕草子』は、萩谷さんの新潮古典集成の枕草子をテキストにしていたとのこと。
    わからないところをうやむやにしない萩谷注で、枕草子をもう一度読んでみたい。

  • 本書はいろんな言葉の語源を解説する読み物。
    取り上げる項目数は多く、これは萩谷版「語源辞典」と申せませう。
    普段何気なく使つてゐる言葉の数々。その言葉がいかなる成り立ちを経てゐるのか、などと考へながら使ふことはあまりないと思はれます。実際私も本書の中で語源を知る言葉はほとんどありません。たぶん10以下でせう。
    また、一般に定説と思はれてゐる語源も、萩谷朴氏による異説・新説が次々に開陳されて、本当は一体どれなのかますます分からなくなるのであります。

    例へば「烏合の衆」。ここに出てくる「烏」とはカラスではなく鵜のことであるといふ異説を紹介してゐます。今までカラス以外のものを想像もしなかつた私としては、惑ふのであります。
    あるいは「さばをよむ」の「さば」とは何か。皆様はご存知なのでせうか。無学な私は何となく魚の鯖だと思つてゐましたが、実は「散飯」または「生飯」と書き、握り鮨の職人が客の食べた飯粒を数へることを「生飯をよむ」といつたのだとか。中にはタチの悪い職人がゐて、飯粒の数を誤魔化して客から余分な代金を請求するやうになつた。その行為を「サバをよむ」といふやうになつたのださうです。関係ありませんが、昔青島幸男といふ人は「サバ云ふなコノヤロー」なるフレーズを流行らせたことがあります。
    もうひとつ。相撲の「はつけよいや」は、発気揚揚が語源であると以前NHKで紹介してゐましたが、萩谷氏によると、これも違ふと書いてゐます。では何かといふと...まあ本書を読んでみてください。

    かういふ話を仕入れて、話の種にするのもよろしいでせう。さりげなく会話に入れてみると「ほほう!」と感心されるかも知れません。
    肩の凝らない読み物で、柴田ゆうさんのカバー絵やカットも楽しい一冊であります。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-160.html

  • 中古文学研究ではかなり有名な人。学会を覗いてお顔を拝見したことがあります(笑)中古文学研究って、語釈の部分も結構あって、そういう研究から生まれた本だと思います。
    でも、研究やるときには語源は絶対にやるなって言われるのです。ここが初出だ、というのは現存する資料だけでは証明することが出来ないから。散逸した資料に出てなかったという証明は誰にも出来ませんしね。すっごく面白い分野ではあるんだけど……

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著者プロフィール

1917年大阪市生まれ。東京帝国大学大学院修了。二松学舎大学、大東文化大学名誉教授。著書に「平安朝歌合大成」「ボクの大東亜戦争」「風物ことば十二カ月」など。

「1986年 『ボクおじさんの昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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