無情の世界 (新潮文庫 あ 41-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101377230

感想・レビュー・書評

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  • 3つの短編が収められた短編集。ページ数少なめ、文体も軽めでさくっと読める。

    収録作はこれ。
    トライアングルズ
    無情の世界
    鏖(みなごろし)

    ◆トライアングルズ
    手紙形式の独白。書いている主人公は小学生だが、文体が若干古めかしく、昔の小説みたいや〜と感じる導入。
    偏執狂のストーカー野郎が自分の家庭教師になり、しかし学ぶところは多いんです、それ以外にもそもそも家庭に問題がアリですが、いろいろもう大変なことが起きたので、あなたにこれを書きます。という体で、そのストーカーのストーキング相手に向けられて書かれたもの。この設定だけでちょっと、苦手な人はいるかも知れない。ただおもしろい。おいおいどうすんのよ?というスリリングさがある。

    ただし、個人的に気になるのは、こういう「主人公が書いている体」の小説の構造そのものだ。これは個人が個人にあてた手紙である。にもかかわらず、誤字脱字はなく、言ってしまえば洗練されたクオリティになっている。それってどうなんだろう。
    大昔に読んだポール・オースターのリヴァイアサンもそういう感じだった。あれは手紙ではなかったと思うが、主人公が書いた文章を載せていますよという体だった。当時のわたしはすこぶる面白く読んだが、今思うと、そのクオリティがゆえに、何度も推敲したということ?と気になってしまう。いやいや、それを言っちゃあお終いよ、なのかもしれないが。
    脱線したが、つまり、わたしはリアリティ至上主義というわけでもないが、結果的にこの小説が一定のリアルを大切にしてるであろうことがわかるが故に、この構造とクオリティ自体が気になってしまう。矛盾しているじゃないかと。もっと散逸的で無茶苦茶で誤字脱字が多く含まれていて然るべきでは?と思いつつ、いや、彼はそうではないのだ、という結論でひとまず納得している。
    無粋なことを書いたと思うのでいったん捨て置くが、読み物としてはおもしろかった。でも、期待をぶち破るほどではなかった。

    ◆無情の世界
    トライアングルズを読んだ後にこれを読むと、なるほど阿部和重はこういうのが好きな人なんやな、と勝手に納得できる。
    こちらも小学校高学年くらい?の少年が主人公か。具体的な記述を読み落としているかもしれない。
    気弱で虐められがちな少年。その反動かなんなのか、彼は露出狂を直接この目で見たいと興奮をあらわにする。20ページと短い、夏休みの物語。トライアングルズは手紙だったが、こちらは2ちゃんねる的なスレッドへの書き込みの体。最後は助けを求めるメッセージとなっているが、これもどこまで信じていいものか分からない、独白ゆえの(怪しげな)断定がおもしろい。

    ◆ 鏖(みなごろし)
    女にはモテるが世間を舐めきっていい加減な暮らしを続けている若い男の話。と思ったら、最後に視点が切り替わり、タイトルに立ち返る。
    三作品のなかで一番読みやすいと感じた。
    そんなもん自業自得やんけ、で終わらせない無茶苦茶な展開の組み合わせがおもしろい。エピソードを分ければ別々の短編として成立しそうなものを、ごちゃ混ぜにしてしまうところがいい。無茶苦茶な事態って、案外それくらい無茶苦茶に畳み掛けてくるものよねと、妙に納得させられる圧があった。

    トライアングルズのところにも書いたが、どれもおもしろいのだが、私にとっては予想をぶち破るほどではなかった。インディビュジュアル・プロジェクションの方がおもしろかったような印象(記憶が薄い)。

  • 柄が悪いヤツらの話は定期的にやっぱり流行るんかな…

  • 阿部ワールド。

  • 久しぶりの阿部和重。「鏖(みなごろし)」が一番良かったかな。終盤の滅茶苦茶な感じがぽい。出てくる人に善人が一人もいないのがw
    短編はちょっと物足りないので次は長編を読もう。

  • 阿部和重再読第三弾。

    「危険な中学生たちがシャブを吸っているよう」に見えたのは、花火をしている子供たちの集団で、「撃ち殺されて倒れている警官」に見えたのは、ただのバケツ。
    妄想が加速していって、最後には本当の殺人に巻き込まれるのだが、それも妄想であるような感が拭えない。。。

    いかれた、ではなく、いかれたように見える、と、まともに見える、の境界スレスレを書かせたらこの人の右に出る人はいないんじゃないか?っていう傑作。

  • 「トライアングルズ」「無情の世界」「みなごろし」

    トライアングルズのストーカー家庭教師は私は結構好き。ストーカーしまくった挙句自分の目を刳り貫くなんて武士のようだ。お兄さんに色々教えてもらう少年って言う設定とそのお兄さんは踏み外していたり、まっとうだったりが良い。どんなに相手のことを考えてもわかる事なんてなくて、それより自分の思いを伝えることだって言うまっとうな教訓に分かりやすくうなづいた。

    無情の世界は、代表作だと思うけど、いまいち良さが分からず。でも惨い世界をサラッと軽快に描いてしまうことが救いなのかもしれない。
    みなごろししかり。

  • 再読。やっぱおもしろい

  • 一番面白かったのは、「トライアングルズ」。
    語り口が面白い。

    「鏖(みなごろし)」は解説で触れられていたが、言われてみればタランティーノの『パルプ・フィクション』と似ている。

    読まず嫌いなところがあった阿部和重なので、これを機にあといくつか読んでみます。

  • 阿部氏の小説は全体的に規模が大きく、それと比例し地元的になってくる。グロテスクとセックスに塗れた鉄塔に登りつつ末期にはそこから飛び降りて醜い肉の塊をぶちまける。そのような皮膚感覚の小説である。ああ、無情の世界。

  • グランドフィナーレ→無理
    ピストルズ→おもしろい!
    をたどり、これを読んでみた。
    おもしろい。
    初期作品だと思うけど、文章がうますぎです。
    奇妙というか気持ち悪いというか男性的というか、ではあるけれど
    ユーモアのさじ加減が絶妙なので重くなくて楽に読めました。
    時期がきたらシンセミアにも挑戦しようと思います。

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著者プロフィール

1968年生まれ。1994年「アメリカの夜」で群像新人賞を受賞しデビュー。1997年の『インディビジュアル・プロジェクション』で注目を集める。2004年、大作『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞、第58回毎日出版文化賞、2005年『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞受賞。『シンセミア』を始めとした「神町」を舞台とする諸作品には設定上の繋がりや仕掛けがあり、「神町サーガ」を形成する構想となっている。その他の著書に『ニッポニアニッポン』『プラスティック・ソウル』『ミステリアスセッティング』『ABC 阿部和重初期作品集』など。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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