サーカスの夜に (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101383422

作品紹介・あらすじ

両親の離婚でひとりぼっちになった少年は、13歳の誕生日を迎え、憧れのサーカス団・レインボーサ ーカスに飛び込んだ。ハイヒールで綱の上を歩く元男性の美人綱渡り師、残り物をとびきり美味しい料理に変える名コック、空中ブランコで空を飛ぶ古参ペンギンと、個性豊かな団員達に囲まれて、体の小さな少年は自分の居場所を見つけていく。不自由な世界で自由みちに生きるための、道標となる物語。

感想・レビュー・書評

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  • サーカスを映像でしか観たことがない私だけれど、サーカスの華やかさや楽しさ、団員のパフォーマンス、つながりや絆、そして移動しながらの生活がイメージできて、不思議な感覚で読み進められた。

    親が離婚し祖母と2人暮らしとなった13歳の少年が、サーカスの世界に飛び込み、成長していく姿が描かれている作品。体の生育に悩みを抱えた少年は、サーカスの世界で、個性溢れる人たちと出会い、それぞれの愛情を受けながら、自身の努力も加わり、サーカス団の一員としてたくましく成長していく。この少年みたいに好きなことは原動力にはなるけど、いざ挫折するとその衝撃も大きいものとなる。そして、難しいなと思うのは、好きだけでは自分に本当に合っているかは、わからないということ。だとしても、好きなことというのは自分を突き動かし続けるものなのかもしれない。観客の歓声や拍手が心に響き、その反応が伝わってくる。団員たちの命をかけての数々の技を、固唾をのんで見守る観客と仲間と一緒に観ているかのような錯覚を受けた。思わず笑ってしまう団員たちの掛け合いも楽しい。そんな気心が通じ合っている仲間とつくるショーだから、笑いや喝采が沸き起こるのだろう。華やかなショーと舞台裏での過酷な生活や弛まぬ努力の姿、そのギャップに魅了される。華やかなものには目に見えない影の部分もあるのだろうな。目立たない努力もあるのだろうな。自らの意志で飛び込んだ少年を受け入れる団長や団員たちの温かさが心地よい。ある意味、家族みたいなものなのだろう。入団当初、トイレ掃除やコックの手伝いを懸命にする少年の姿がかっこいい。自分の居場所をつくるために、与えられた仕事を楽しく懸命にする姿がかっこいい。

    叶えたいことがある幸せとそれを応援してくれる人がいるありがたさを感じる作品だった。「ライオンのおやつ」以来の小川糸さんの作品を読了した。人の感情を丁寧に細かく描写する小川糸さんの作品の魅力を感じる作品に出会えて嬉しかった。生きることへの情熱やひたむきさを得た。私は、なかなかそこまで感じて生きてはいないけれど、そんな生き方はいいなとも思う。難しいけれど。これから手にする小川糸さんの作品も楽しみになった。

  • 『レーディース、アーンド、ジェントルメン!
    麗しき、紳士、淑女の皆々様、ようこそ、わがレインボーサーカスへ!
    今宵、夢のひととき、思う存分、味わってください!』

    “サーカス”というものを全く知らないという方は恐らくいないと思います。しかし、”サーカス小屋”に行ったことがある方となると、グッと数が減るような気もします。かく言う私には、一つ記憶があります。あれは小学校低学年の頃だったと思います。父と母に連れて行ってもらった”サーカス小屋”。たくさんの人が取り囲む中央の舞台。そして、見上げる頭上に張られた一本の細いロープ。そんなロープの上を、バランスを取りながら颯爽と渡る白い服を着た男の人。生まれて初めて目にしたそんなアクロバティックなパフォーマンスを見て子供心にハラハラした、そんなシーンがそのハラハラの感覚とともに今も残っています。『古代ローマ時代にはもう、サーカスの原型みたいなのが成立していた』とされる”サーカス”。派手なパフォーマンスにばかり目が向きがちですが、よくよく考えると、そこでパフォーマンスを演じる人たちにもそれぞれの生活があります。同じ場所に留まることなく、全国を旅して回る”サーカスの人たち”。この作品は、一人の少年が、そんな”サーカス”の檜舞台に立つまでの裏舞台を小川糸さんが描いていく、優しく心あたたまる物語です。

    『僕は今、道なき道を走っている』と陽が陰ってきた道を自転車に乗って突き進む『僕』。そんな『僕』は、『前に進むしかない』と朦朧とした意識の中で思い、『グランマが迎えに来てくれた日のこと』を振り返ります。『両親がふたり揃っていなくなったあの家で、僕はひとりぼっちだった』という辛い日々。それは『どちらも僕を引き取らず、お互い、新しい恋人と他の町に移り住んだ』ことによりもたらされました。『深刻な病気を抱えて生まれた僕を、二人は精いっぱいの愛情で看病してくれた』幼き日々。しかし『病気が治ったとたん、二人は共通の敵を見失ったかのように、途方に暮れ、手持ち無沙汰に』なってしまい、『結果として別々に生きる道を選んだ』という結果論。しかし、『ずっと前にもう両親とは離れてしまった』こともあって、すでに『あまり記憶に残っていない』という現在の『僕』。『グランマがいつもそばにいてくれたおかげで、僕は人が想像するよりも幸せ』だと感じる生活を送っています。『僕とグランマとの間に、血のつながりはない』という不思議な関係。『ひとり家に取り残されジグソーパズルで遊んでいた僕を』連れて帰ってくれたグランマ。そして、そんなグランマのアパートの一階に住む大家を『おじさん』と呼び『僕にとって家族とは、グランマとおじさん、このふたり』と思って生きてきました。そして『十三歳には決して見えない。見た目は多分、十歳くらいだ』という『僕の身長は、ある時期を境にほとんど変わらなくなった』という『病気』が発覚します。そんな『僕』はおじさんからもらった黒砂糖の包み紙の広告に『RAINBOW CIRCUS』の文字を見つけました。『両親に連れられ、最後に家族そろって一緒に見に行った』あの日のことを思い出す『僕』。そして、十三歳の誕生日のお祝いの場で『僕、サーカスに入ろうと思ってるんだ』と二人に告げます。『私は断じて反対だよ』と言うグランマ。『僕は、小さいからサーカスに入りたいんだ。こんな体でも、ちゃんと生きていきたい。だから、自分にできる仕事がしたいんだ』と『泣きじゃくる僕』。そして、そんな『僕』はグランマの家を後にし、自転車に乗って目的地を目指します。『その時、遠くにゲートのようなものを見つけた。「レインボーサーカスへ、ようこそ!」僕は最後の力をふりしぼり、全速力でゲートの下をくぐり抜けた』という『僕』。そんな『僕』が”サーカス”の檜舞台に立つ、そんな未来のその日までが描かれていきます。

    両親から捨てられ、『僕の身長は、ある時期を境にほとんど変わらなくなった』という十三歳の少年が自らの人生を、その両親との最後の想い出となる”サーカス”の舞台に見出していくこの作品。”サーカス”というと、『一輪車を自在に乗り回したり、火のついた棒をぐるぐるとバトンのように回したり、自転車の上で逆立ちをしたり、軟体人間が登場したり、いろんな芸が披露』されるとても華やかな場です。一方で、そんな華やかな舞台を支える人たちには、観客からは見えないとても地味な舞台裏が対として存在します。そんな舞台裏を描いたこの作品。読んでいてとても不思議に感じたのはこの物語の舞台・時代設定のことでした。勝手に日本の話だと思ってしまった私は『ナットー?それって、どんな食べ物なの?』、『僕は再び、マイナス三十度の世界へ飛び出した』という記述に、あっ、そうかと日本が舞台と勝手に理解していた感覚を修正しました。また、時代設定も一見かなり昔の話のように感じていたところ『便器からシャワーみたいなのが出て、おしりを洗ってくれた』という異物感を感じる記述に”?”が5個くらい並びそうになって、えっ?そうなの、と感じたり、とにかくその舞台・時代がぼんやりとしたとても不思議な作品だと思います。そんな不思議感が独特な雰囲気を醸し出すこの作品では、小川さんらしく、世界中のいろんな”食”が”サーカス”の舞台裏を支える人たちの胃袋を満たしていく光景が全面に渡って描かれます。それは、オニオングラタンスープであり、サムゲタンであり、ウィンナーシュニッツェルでありと多岐に渡ります。そんな中でも『ミソシル』の登場は印象的でした。『海でとってきたムール貝』を具にしたという『ミソシル』。『東洋の外れにある、ちっぽけな島国に、昔から伝わる伝統食だ。母乳の出を良くするっていうからな』とコックが説明する『ミソシル』は、『母乳』が重要な意味を持つ場面にさりげなく登場します。『大きなカフェオレボウルに熱々のミソシルをたっぷりよそって、僕に手渡す』という、たったこれだけでマイナス三十度の世界を一瞬にして、あったかく幸せな食事風景に変えてしまう、とても小川さんらしさを感じる好シーンでした。

    そんな主人公の『僕』は、団長から『得意なことは何だ』と面接で聞かれます。『小さいことです。僕は、もうこれ以上大きくはなりません』という自らの病気を入団のバネとしていく『僕』。そんな『僕』は当初、『まるで、不思議な住人達の暮らす夢の世界に迷い込んでしまった気分だ』と感じます。両親との想い出の舞台で夢を見せてくれた人たちに囲まれる日々。そんな人たちの生活を間近に見て、その息遣いを感じる中で『僕』の心も日々揺れ動きます。それぞれの人に役割があり、みんなが力を合わせて作り上げていく、それがあの華やかな舞台だということに気づいていく『僕』。そんな『僕』に『少年、あなたが想像できることは、実現できることよ。道は、自分で切り開くものなんだから!』と声をかけてくれるローズ。小川さんの描く作品世界には決定的な悪い人が登場しません。それは、この作品も同様です。いろんな形で『僕』を見守り、応援してくれる人たちに囲まれる日々。もちろん現実世界はそんなに甘くないとは思います。しかし、これは小説です。その与えられた前提の中で、その作品世界に入っていく、現実がどうのなどとはいちいち考えない、いつも小説を読むときに大切にしている私の中でのルールですが、そんな悪い人が出てこない作品が見せてくれたものは、『サーカスはすべてが呼吸であり、リズムである』という世界の中で生きる人たちの相手への思いやりの気持ちでした。『サーカス人間が一番恐れることは、なんだと思う?』という質問への答えが示すその気持ち。『もちろん、怪我をしたり、命を落とすことは、怖いわ。サーカスは、命がけだもの』というその世界の厳しい現実。そこには『もっともっと怖いことがあるの。それは、自分のミスで、誰かの命を奪うこと。相手を、殺してしまうことなのよ』という仲間たちをまず思いやる、そんな気持ちでした。『だから、毎日毎日、必死に練習を重ねるの』というその頑張りを目にした『僕』。そんな『僕』は『消去法の選択肢ではなくて、僕は自分で積極的に人生を開拓したい。自分の生きる道は、たくさんの選択肢の中から自分で決めたい』と思い至ります。そして、迷いの消えたそんな『僕』はいよいよ結末の舞台へと向けて突き進んでいきます。

    『人生の哀しみを知らなくちゃ、相手を笑わせることなんてできない』という言葉の通り、”サーカス”の華やかな舞台の裏には、深い孤独や悲しみを乗り越えて生きる人々の暮らしがありました。そんな思いを幼い頃から人一倍経験してきた『僕』。そんな『僕』がこれから生きていく未来は、きっと人々の笑顔に囲まれる、そんな舞台に生きる人生になっていくんだろうな、そう思いました。

    『悲しみを忘れて笑っていられるようにするための、ちょっとしたかわいい魔法なのかもしれない』という”サーカス”の舞台裏を描いたこの作品。小川さんらしさに満ち溢れたとても優しい、そしてあたたかい物語でした。

  • 最近 ずっと小川 糸さんの本を続けて読んでいます。
    今回は「サーカスの夜に」。

    両親の離婚でひとりぼっちになった少年。
    病気を治療するために使用した薬のせいで、身長は10ぐらいのまま。
    グランマとおじさんに見守られて13歳の誕生日を迎えた時に、両親との思い出のサーカスで働くことを決断。

    団員たちに囲まれて一人の少年が成長していく。

    小川さんの小説は、周りの人たちがとても素敵です

    「結局、いくら願っても否定してもじたばたしても、事実は事実として変わらない。自分の意思で買えることができるのは、心だけだ。身体が変わらないのなら、心を変えていくしかない。」

    「心は自由だ。どこにでも行ける。」

    よい作品は読み終えるのが惜しいと思ってしまいます。
    もう少し小川さんの作品を読みたいと思います。

    • kuroayameさん

      私もこの作品、好きです

      私もこの作品、好きです
      2020/03/22
    • いるかさん
      kuroayameさん

      コメントありがとうございます。
      私もこの作品が好きです。
      小川さんの世界にはまりました。
      これからもよろ...
      kuroayameさん

      コメントありがとうございます。
      私もこの作品が好きです。
      小川さんの世界にはまりました。
      これからもよろしくお願いいたします。
      2020/03/23
  • サーカスの人々の苦労を知ったのではなく、喜びやそれに懸ける想いを知った。

  • 自分の居場所を求めた少年がサーカス団の一員となり過ごした1年間の成長物語。

    少年は成長することのない自身の身体にコンプレックスを抱えていた。だけど、サーカス団にはさまざまな人たちがいた。
    少年は両親の離婚により孤独を感じていた。だけど、もっと深い孤独と闘っている人たちがいることを知る。
    少年は働けることの難しさを知らずにいた。だけど、講演をひとつ開催するにも障壁が立ちはだかることがあることを知る。
    少年は恋を知らなかった。だけど、人を愛することの苦しみや喜び、情けなさを知る。
    少年は死は遠い場所のものだと思っていた。だけど、死は身近にあり大切な人を失う哀しみを知る。
    少年は自分が何をしたいのか、何になりたいのかを知らなかった。だけど、それを見つけた時に本気になれた自分と出会う。

    少年は自分の居場所を見つけたときに知る。
    孤独なんかじゃない。
    この身体で生きていく。

    少年がサーカス団の中で出会う人々と織りなす人生の踵。
    人生は思うより長い。

    今年の9冊目

  • 13才の少年が自分の人生の方向性を考え、力強い行動力で、実現させて行くお話。
    少年を迎え入れたサーカスの仲間達も一人一人が魅力的。
    絵本をめくっているような感覚で読み終えた。

  • 初の小川糸作品。

    主人公とそのまわりの人たちの置かれている状況はしんどいものだけど、それが強く出ているわけではないからか、穏やかで優しい雰囲気。よく考えるとなかなか過酷だよな、って思う。

    「「人を笑わせたりするって、素敵なことだね」
    僕は、この大切な気持ちがどうかローズにも目減りすることなく伝わりますようにと願った。」
    「ほんと、人を笑わせるってことは、人を傷つけたり哀しませたりすることより、百倍も千倍も難しいわ。人生の哀しみを知らなくちゃ、相手を笑わせることなんてできないもの。孤独を知っているからこそ、みんなでバカ笑いできる幸せをありがたく思えるものよ。」

    サーカス団の名前が「レインボーサーカス」なのもいいな。LGBTも関係してるのかな。


    「恐れるんだ。そして、絶対に足を踏み外すな。絶対に落ちるな。その上で、恐怖心と闘うんだ。生きたい、安全な場所に辿り着きたいと願うんだ。」

  •  「食堂カタツムリ」(ポプラ文庫)で評判になったころ、働いていた高等学校の図書館で高校生たちに受けていたのがずっと気になっていて、初めて読んだ小川糸の作品です。
     ここ10年、いや、もっとかな?本屋大賞という賞がもてはやされていますが、本屋大賞的な作品だと思いました。読み終わると読み手自身が「いい人」になった気がする、「いいお話」ですね。
     最近の書き手の方たちが、どうも、そのあたりを狙って書いていらっしゃるのではないかというの疑いがふと浮かびます。最近の映画とか、歌謡曲の歌詞(あんまり知りませんが)だとかにも感じられる、そういう書き方で「小説」ができてしまうことを書き手の方はどうお考えになっていらっしゃるのか、そんな感想を持ちました。で、まあ、「食堂カタツムリ」で確かめてみようかなと思っています。
     ブログには、もう少しひどい悪口を書いています。覗いてみてください(笑)
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202301260000/

  • 両親が離婚しひとりぼっちになった少年が、不自由な体で自由に生きるために、サーカス団に入り自分の居場所を探しながら成長していく物語

    小川糸さんの作品は今回で2作目でした。
    心に優しくそれでいてストレートに響く表現がとても上手な作家さんだと思います。

    貧しいサーカス団で一歩ずつ大切なことを学んで行きながらも、決して自分を見失わず前を向いて直向きに生きる姿に心が揺さぶられました。

    読後は穏やかで優しい気持ちになれる作品でした。

  • 外国の童話にありそうな可愛らしいお話でした。場面場面の映像が頭に浮かんできてほっこり。

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著者プロフィール

作家。デビュー作『食堂かたつむり』が、大ベストセラーとなる。その他に、『喋々喃々』『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ミ・ト・ン』『ライオンのおやつ』『とわの庭』など著書多数。

「2023年 『昨日のパスタ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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