この世は二人組ではできあがらない (新潮文庫 や 69-2)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101383729

作品紹介・あらすじ

「社会の芯に繋がるようなストローを見つけたかった。」1978年生まれの私は大学をでて働きながら、小説を書いている。お金を稼ぐこと。国のこと。二人暮らしのこと。戸籍のこと。幾度も川を越えながら流れる私の日常のなかで生まれた、数々の疑問と思索。そこから私は、何を見つけ、何を選んでいくのだろうか。「日本」の中で新しい居場所を探す若者の挑戦を描くポップな社会派小説。

感想・レビュー・書評

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  • 口幅ったいようですが何か共感できる雰囲気をもった小説で、どんどん引き込まれていきました。
    もしかするとこれは著者の私小説的作品なのかな?大学生活から「社会人」になった主人公の栞(シオちゃん)の思考錯誤の野心と定まらない立ち位置への不安を、当時の社会状況と並行に辿りながら、見事に描写していて面白かったです。
    小説を書きたい私。男と付き合いたいが一人の人間として自立したい私。社会人として生きたいが社会に迎合したくない私。いや、むしろ社会とは緩やかに繋がっていたい。芸術観賞は己を磨くためではなく現実を逃れて別の視点に立つため。確固とした意志というほどでもないが、自分は「自分」のために生きていきたい。何もかもが出来上がってしまったこんな現代社会に生まれて、苦しみもがきながらも「自立」したい現代「女性」を丁寧に描き、未来を感じさせる清々しさも印象的でした。それに自分自身、「若さ」への憧れも強く感じ、少々、羨ましかったです。(笑)
    解説の西加奈子さんも書いておられるように、「ページをめくらせる魅力」と「ページをめくる手を止めさせる詩性」の共存も全くその通りですね。

  • 一等賞ゴールのスピード感で読み終えた。
    どんどん読み進めてしまうのに、キラリと光る文章があって、たびたび手が止まる。緩急のついた読書だった。
    物語は2000年初頭を描かれていて、その世代の空気感が、二人の空気感によく馴染んでいるように感じた。
    久しぶりに他の世界にどっぷり逃避できたような感覚になれた。

  • もうこれわたしじゃん、って思う人って今の世の中にどれくらいいるんだろう。

    かくいう私もその一人です。
    もがいてもがいてもがきまくっていた、
    22~25くらいまでのことがありありと思い出された。

    読みすすめるたびにビリビリして、かなりエネルギーがいった。

    でも、何度も読み返して、この頃の気持ちを忘れてはいけないような気がする。

    こうゆう子って、めちゃくちゃ生きにくいけど、
    でもそれだけに瞬間瞬間をすごく大事に生きてると思う。
    人より辛さが倍なだけに、人生の喜びも何倍も感じることのできる人だと思う。

  • とにかく久々に小説を読めて、ナオコーラさんの物語を読めて嬉しくて嬉しくて…という記憶。

    読了から時間が経ってしまい忘れてしまっているので、またゆっくり読み返す。

  • 単行本で読んだ。装画が会田誠でびっくりした。
    2009年の作品なのに、現在進行形の話題がテーマになっていてタイムリーだった。

  • 日曜日に一気読み。心が震えた。私よりちょっとだけ下の世代の、小説家を目指す女性(栞)の物語。大半の時間は「紙川さん」という同じ年の恋人と過ごしているが、その語り口からしていずれ別れることが知れている。心で想っていることと、「こう答えれば紙川さんが喜ぶだろう」と思って口にしていることが違うし、紙川さんが「僕が守ってあげる」的な表現をすると鼻白む。決して、そんな物言いをする彼をバカにしているわけでもないし、その考えについて議論したりもしない。決して理解しあうことはないとあきらめている感じに近い。(それもちょっと違うんだけど…)。大切な人であることには違いないのに、心から信頼しあってずっと一緒にいるという二人の未来が見えていない感じが少し切ない。
    つまり栞には栞の世界があって、誰かと二人組になるつもりがそもそもないのだ。彼女自身はまだ若く、自分の将来に漠然とした不安を抱えているし(当然だ)、「この世は二人組ではできあがらないんだから、私は一人で生きていくのよ」という自覚があるわけでもなく、そんな表現は出てこないのだが、不安を抱えながら懸命に日々を過ごす彼女の暮らしの中に、そのような強さが感じられる。
    栞目線で描かれているのでちょっとムカつく部分もある紙川さんも、終盤に栞に重要なアドバイスをくれる大学時代の友達も、派遣先の会社でストレスを訴えている同僚も、ちょっとしか出てこない人たちもみんな愛おしく感じられる。当たり前だけど、みんなそれぞれ自分の人生を生きているのだ。みんな「二人組の片割れ」でもないし、「いつか二人組になるまでの借りの姿」でもない。
    母との会話も印象的だ。決して毒親ではないし、栞もそこまで親が嫌いなわけでもないが、世代が違うと考え方が違うのだ。彼らは、就職して組織の一員となりコツコツと働いてローンを返していけば、幸せになれた世代なのだ。子ども世代が就職しないで夢を追ったり、突然一人でマレーシアに行ったりすると眉をひそめる。普通に常識的に生きなさい、と。
    しかし栞はやはり泣きたいときは実家のベッドの上で体育座りをして泣いている。
    そういう描写が、とても切なくて心に染みる。
    唯川恵さんの「肩ごしの恋人」を思い出した。あれ、どっちも同じ人から勧められて読んだような(笑)?

  • 不思議な感じが残る本。題名にあるとおり、二人組、つまり、恋愛の本だがその枠組みに疑問を投げかける本。
    逆に恋愛の特殊かざ浮かび上がると同時に、疑問も浮かび上がる。

    〈メモ〉
    二人が好きやっていたのではなく世界から二人が好かれていただけだったのだ

  • 17.10.24再読。
    なんだかモヤモヤが止まらなくて、本でもよむかと久しぶりに手を取った。
    最初から読む気分にはなれなくて、適当に開いたページから読んだけど、驚くほど、言葉がスッと入ってくる。
    前に読んだときには思わなかったが、今回は、栞と自分の明確な違いを感じた。それは、栞は紙川さんと暮らしたいけど、それは2人で生きていきたいというわけではなくて、あくまで1人で生きていきたいというところだ。「愛されたところで、満たされそうにない。何かもっと、社会の芯に繋がるようなストローを見つけたかった」
    わたしはまだまだ男に愛されたいし、頼りたい。と思う。頼られたいとも思うけど。

    初山崎ナオコーラ。主人公の栞は大学卒業後、働きながら小説家を目指している。大学の一つ上の先輩である紙川と付き合うことになったり、仕事を辞めたり再就職したりしながら、紙川との関係のこと、日本という国のこと、自分の性のこと、、、様々なことを思案しながら生きていく様子を描いた私小説ような小説。
    タイトルにひかれてなんとなく手に取ったらまさかのヒット。しかも西加奈子のあとがきも素晴らしくて、読んでいて確かに感じたけれど、文章力の乏しさゆえに言葉にできなかった気持ちや感情を、きっちりと代弁してくれた。なので感想を書こうとしても、あとがきの引用ばかりになってしまいそうなので、ひとつだけにしぼると、「山崎ナオコーラの才能はページをめくらせる魅力とページをめくる手を止めさせる詩性を、ナチュラルに物語に共存させていること」。どんどん読み進めていきたいのに、さっきのあの言葉がもう一度読みたくてたまらなくなって、そのページまで戻ってしまう、ということを読者にさせるくらい魅力的な言葉たちが本当に何気なく並んでいる。主人公の栞のつぶやきはわざとらしくなくて、本当にストーリーの流れに沿った自然なもの。強いメッセージ性もない。けれど私の中に確実に残るものばかりだった。こんな素敵な文章を書く人に、もっとはやく出会いたかった!あとこれも引用になってしまうけれど(笑)「紙と栞という関係性はキュート」すぎ。

    「現代社会にあわせて人生設計をたてるなんて馬鹿だ。社会というのは、これからつくるものだ。ここに合わせて生きるのではなく、大人になったわたしたちがこれから社会を構築し、新しい生き方を始めるのだ」

  • 大好きとも大嫌いとも言えない、好きとも嫌いとも言えない、けど琴線に触れてくるこの感じ。

    山崎ナオコーラさんの小説を ちゃんと読むのはこれが初めてなのだけど、思っていた通りの文章を書く方だな、というのをまず思いました(『人のセックスを笑うな』の映画は観たので、その印象から)。

    栞と紙川さんの関係、冒頭からしばらくは、紙川さんが栞を溺愛していて 栞のほうはそうでもない という感じがしていたけど、実はそうではなかったところが自分としては印象的でした。栞は栞なりに、とても激しく紙川さんを慕っていたこと。そしてそのことは、他の誰よりも紙川さんが知っていたのじゃないかな、と思いました。

    紙川さんとはお別れしてしまったけど、それは栞にとってとても辛い事ではあったけど、本当は最初からそうなる事をわかっていたというのも、わかる気がしました。
    どんなに好きで、必要でも、一緒に居る時間はここまでだなって感じる瞬間って、あるんだよなぁって。それはセンチメンタルになる必要もないくらい、本当に、ただその事実として、ある。
    わたしにはまだその経験はないし、出来ればしたくないけど…でも、わたしにも…というか世界中の誰もに そういう瞬間が来る(来てしまう、ではない)可能性があるっていうことも、何故か、わかる。不思議。

  • 「しどろもどろで喋る人が抜群のアイデアを持っていることもあるというのに、それは切り捨てるのか。」
    私自身も話すのが得意でなく、自分の考えや思いを伝えるのが不得手である。この一文に出会い勇気をもらった。

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著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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