キスカ島奇跡の撤退: 木村昌福中将の生涯 (新潮文庫 し 75-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101384115

作品紹介・あらすじ

昭和18年、壮絶な玉砕で知られるアッツ島の隣島キスカからの撤退は、完璧に成し遂げられた。陸海軍将兵5183名の全てを敵包囲下から救出したのだ。指揮を執ったのは、木村昌福。海軍兵学校卒業時の席次はかなりの下位。だが、将たる器とユーモアをそなえ、厚く信頼された男だった。彼の生涯と米軍に「パーフェクトゲーム」と言わしめた撤退作戦を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 毎年8月になると、戦争関係のものを読みます。
    これは、旧日本軍においては異端であるところの将軍の話。

    アッツ島の守備隊2650名は玉砕してしまいましたが、
    キスカ島の守備隊6000名は敵の包囲下であったにもかかわらず全員帰還しました。
    そのときの撤収艦隊の指揮官が木村少将(当時)です。

    何があっても生き抜いて次のチャンスを狙う、そのために体をはり、
    罵られても耐える、なかなかの人物です。
    散るが華、といわれた時代背景のなかで、よく自制できたものです。

    どんな場面でも、
    捨て鉢になってはいけない、情報をあつめなければならない、冷静さを失ってはならない、
    ということを痛感します。

    本書を読む前に、インパール作戦の戦史(特に牟田口中将)についての知識を仕入れておくと、
    もっと印象深くなると思います。
    20160831

  • 第二次大戦の撤退の成功例として有名なのは、欧州戦線のダンケルクの撤退。こちらとは規模も小さく比較にならないが、日本軍のキスカ島の撤退は、アッツ島の玉砕と同時期で戦況は最悪、かつ日本本土からの距離の遠さや艦船の戦力等、圧倒的に不利な状況での撤退だった。大兵力で砲弾の雨を降らせたアメリカ軍が上陸したけれど、日本兵は誰もいなかったという奇跡の撤退。この本では、指揮官の木村中将の目を通して、この撤退の様子を描いている。
    日本軍の上層部は、頭だけで戦争を遂行する凡人ばかりだったようだが、現場の指揮官は優秀な人が多かった。彼もその一人だと思う。厳しい局面で運にも助けられて、見事に作戦を完遂したが、彼の人生のその後は不遇だったようだ。
    一瞬の成功が必ずしも良き人生に繋がらない。人生とはそういうものなのかも。

  • キスカ島撤退作戦については、映画『太平洋奇跡の作戦 キスカ』を観たくらゐで、特に知識を持ち合せてはゐませんでした。三船敏郎がかつこ良かつたねえ。数多い東宝戦争映画の中でも、かなり見応へのある作品でした。
    その三船敏郎が演じてゐたのが「大村少将」。そのモデルが、今回の一冊『キスカ島 奇跡の撤退』の主人公である海軍将校・木村昌福、第一水雷戦隊司令官であります。昌福は「まさとみ」と読むのですが、その見事なカイゼル髭から「ヒゲのショーフク」と呼ばれてゐたさうです。

    この人、兵学校では成績があまり良くなかつたさうです。海軍では兵学校の席次が出世に直結する為、木村は便利屋として色色使はれてゐたフシがあります。誰かが転身したり殉職したりした後の穴埋め人事に利用されたり。
    キスカ島撤退作戦の指揮を命じた側も、恐らくそれほど期待してゐなかつたのでは。

    同じアリューシャン列島のアッツ島に於ける日本軍は、壮絶な最期を遂げました。キスカ島も陥落は時間の問題と思はれました。孤立状態の上、米軍が睨みを効かせてをります。このままではアッツの二の舞、玉砕する運命にあります。
    そこで「ケ」号作戦(撤退作戦)が敢行されたのでした。

    しかしこれを遂行するのは至難の業。米軍の目をかすめて、5000名以上の兵を帰還させなくてはいけないのです。そこで重要なのが天候。濃霧が発生してゐる日を選ぶのですが、中中うまくいきません。結局、一度は断念して引き返します。「帰ればまた来ることができる」と呟いたと伝へられてゐます。
    引き返してきた木村は批判にさらされます。「腰抜け」呼ばはりであります。ぐつと耐える木村。

    そして再出撃。突入日は1943(昭和18)年7月29日と決まりました。その日は、申し分のない濃霧が発生。米軍の慢心にも助けられ、5183名の撤退が僅か55分で完了したといひます。驚異的ですなあ。
    米軍がキスカに上陸した時は、既に撤退済み。しかしまさかそんな作戦が遂行されてゐたとは知らぬ米軍。無人の土地に砲撃を撃ち込み、同士討ちまでしてしまつた。誇り高き米軍としては、まことに屈辱的なことでしたらう。

    関係者で生存してゐる方は、もう僅か。取材活動も難儀であつたらうと推察される中、著者の将口泰浩氏の力量が遺憾なく発揮されてゐますね。実に読み応へのある一冊でありました。

    ところで、本書でも牟田口廉也の無能・無責任ぶりが述べられてゐます。先達てのNHKの歴史ドキュメント番組でも同様に紹介されてゐました。遺族や子孫が可哀想だなあと感じたのであります。本編とは関係ないけれど。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-803.html

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    キスカ島撤退作戦で有名な指揮官だったけど、海軍大学校に進学しておらずハンモックナンバーが低かったことには驚いた。奇跡の作戦を成功させた人物だからてっきり成績が良いものだと思ってた。
    キスカ島撤退作戦以前から戦後まで多くのエピソードが書かれていたけど理想の上司の一つの形なのではないかと思う。部下への態度は優しく、部下が判断に迷った時には命令を与え、自らの責任とする。いうのは簡単だけど、実行するのは難しいよ。
    この人は平時だったらここまで有名にはならなかっただろうけど、指揮官としては部下に信頼されていたことは間違いないと思うよ。

  • 三宅島のエピソード

  • 戦時中にこんな撤退(救出)作戦があったのか。もっと詳しく知りたい。

  • 木村昌福氏が死の直前に書道塾の子供たちに宛て随想を書いています。「人の上に立ってものをするとき、部下の者に仕事の一部を任した場合、どちらでもよい事はその人の考え通りやらせておくべし。そのかわり、ここはこうしなければ悪くなるとか、ここで自分が取らなければ、その人に責任がかかるという時には猶予なく自分でとること。人の長足る者心すべき大事なことの一つなり」まったく同感しました。私はこの言葉を肝に銘じたいと思いました。

  • 先の戦争において、キスカ島撤退作戦を率いたある海軍中将(作戦当時は少将)の生涯。


    米軍の攻撃を避けつつ、島に残された兵士を救出するという困難な作戦。
    中将は「全員を無事に救い出す」ということにこだわり、一度はキスカ島目前まで来ていながらも「作戦中止」という決断をした。「引き返す」ことを知らないかのような当時の空気の中で、「引き返して出直す」と言うのはいかに大変なことだったか・・・。



    今更ながらだが、キスカと、やはり戦時中に日本軍が占領したアッツというのはアリューシャン列島にある島々。現在はアメリカ・アラスカ州に属する。なぜかわからないが、これを読むまでなんとなく暑いところを想像していた・・・(わたしが知らなかっただけね)。

  • 木村昌福という指揮官、そんな軍人がいたということを知れてよかったと思える内容。こんな上司がいたら、自分もこんな上司になりたいと思わせる魅力あふれる素晴らしい人だ。

  • キスカ島撤退作戦の功労者である日本海軍側責任者のノンフィクション。
    敗戦が決定し、負けっぱなしの戦況の中、ベストと言っていいぐらいの勝利を描いた作品。
    歴史だけでなくマネージャーのための参考テキストとしても十分価値あります。

    普段通っている本屋に平積みであったのですが、目に留まり購読しました。
    読んでみると、主人公木村昌福と歴史の流れとのバランスが良い作品。こりゃ平積みポジション維持できるのは間違いない!。
    そして、通っている本屋への信頼はさらに向上しました。

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著者プロフィール

1963年、福岡県生まれ。89年、産経新聞社入社。新潟支局、社会部、経済本部などを経て、社会部編集委員に。2015年、産経新聞社を退社。著書に『未帰還兵(かえらざるひと) 六十二年目の証言』『チベットからの遺言』『「冒険ダン吉」になった男 森小弁』『キスカ島 奇跡の撤退 木村昌福中将の生涯』『魂還り魂還り皇国護らん 沖縄に散った最後の陸軍大将牛島満の生涯』『戦地からの最期の手紙 二十二人の若き海軍将兵の遺書』『アッツ島とキスカ島の戦い 人道の将、樋口季一郎と木村昌福』など。著書に『未帰還兵(かえらざるひと)六十二年目の証言』『チベットからの遺言』『キスカ島奇跡の撤退 木村昌福中将の生涯』『魂還り魂還り皇国護らん 沖縄に散った最後の陸軍大将牛島満の生涯』など。

「2017年 『極秘司令 皇統護持作戦 我ら、死よりも重き任務に奉ず』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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