- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101385327
作品紹介・あらすじ
淡い春の闇の中で、由美が突然ぼくに頬を寄せてきた。あの生意気で近寄りがたい女友達が、一体どうしたんだろう。まるで「白鳥の歌」に耳をすますように息をひそめ、滅びゆく生に魅了されていく由美。そして本来の彼女を取り戻そうとする薫の戦いは、限りないやさしさを求める「男の子」の、希有な恋物語を作っていく。切ないほど静かで、不思議に激しい、現代青春文学の金字塔。
感想・レビュー・書評
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薫くん日比谷高校卒業後、モクレンが咲く春の6日間の出来事。
これから、人生を歩もうとする青年達が、一人の老人の死に影響を受ける。
影響受けすぎた由美ちゃんと、薫くんが大人になってしまうのを読んでしまうのか?とは、余計な心配。
さらっりスマートな文章は相変わらず。だけど、謎の美女に語らせる生き方などは、若者へのメッセージなんでしょう。
薫くんというキャラが、この世代あたりから求められていた青年像だったのかな。裕福な秀才、優しくて思慮深い。みんな好き。
薫くんが、老人の読み込まれた大量の本に向かった時の「まるで敵の城塞の弱点を発見しようとでもいうように」って、表現好き。
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「赤頭巾ちゃん気をつけて」に続く薫君シリーズの2作目。今年の3月くらいから新潮文庫でシリーズ4冊が発刊されることになっている。
この第2作目の単行本の初版は1971年2月というから、今から40年以上も前のことだ。
【引用】
ぼくは春が来るとなんとなく嬉しくてそわそわしてしまうのだけれど、そんなところをひとまえでは絶対に見せまい、なんて変なところで頑張って暮らしたりしている。何故って、たとえばそんな具合にうっかりそわそわしているところを見せて、何が嬉しいのか、なんてきかれたらもう最後だと思うわけだ。春が来たから嬉しい、なんて正直に答えたら、相手はカンカンに怒るか大笑いするかに決っているし、それになによりもそんな、何が嬉しいのか、なんてきかれること自体がぼくとしては全くザンギにたえないというか、ふがいないような気がしてしまうのだから。
【引用終わり】
上記は、この本の書き出しの部分の引用だ。
僕が最初にこの本を読んだのは、正確に覚えているわけではないけれども初版の発行からは少し後のことだったと思う。それでも、当時、こんな書き出し、こんな文体の本は読んだことがなく、それだけで、このシリーズに一気に引き込まれてしまった。
数十年ぶりに読み返すことになったけれども、文体も内容も、全く色褪せている気がしない。またまた夢中になって読み終えた。 -
薫くんシリーズでいちばん好き。
優しさがエゴだと知っているから薫くんはほんとうに優しい。悲しいくらい
優しい。それが、彼の強さになるくらい。
由美ちゃんのファンになって、モクレンの花が好きな花になった。 -
「赤頭巾ちゃん~」に続いてこちらも薫くんシリーズ。
『死』に対して敬虔な気持ちになってしまう若者の気持ち、三人三様。
幼馴染に対して優しすぎるくらいに優しい薫くん、やっぱり好きだ!
雑踏の中でも女子大の中でも彼女を必ず一目で見つけられると断言できるセリフに胸キュンです。 -
薫くんシリーズ2冊目。今回は、由美ちゃんとの関係性に大きな変化が訪れるのか?と思わせる展開。結局この後、2人が正式に恋人同士になったのかどうかは分からないけれど、付き合いましょうそうしましょう、なんて口約束は必要ないのかもしれない。だって、薫くんは由美ちゃんの、由美ちゃんは薫くんの、心の片割れなのだから。
薫くんが自分自身と戦う様子は、今回も圧巻。でもね、そんなにずーっと色んなことを考えてたら、いつか気が狂ってしまうんじゃないかと心配になる。たまには、流れに身を任せてもいいんじゃない? -
木蓮の花が咲き始めて満開になる頃、浪人になった男の子とその周りの人たちの物語。
真摯だけど少し突っ張っていて、どこか上品でエセではないインテリの香りがします。女中さんが出てきたり、樹木のある庭のある町並みとか、昔の山の手のイメージ。
外国語の本を含んだ立派な蔵書から、その持ち主の豊かな知性や器の大きさを感じ取り、憧憬とも嫉妬ともいえる思いを抱く、彼のみずみずしい若さ。しかも、死に直面しているその蔵書の持ち主に女友達が寄せる感情の波に、彼も揺り動かされているところが、なんとも。
死別という思いテーマを扱った青春小説でもあります。