さよなら快傑黒頭巾 (新潮文庫 し 73-3)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101385334

作品紹介・あらすじ

危機一髪というと必ず救いに現れる「快傑黒頭巾」はもういないのか…東大医学部紛争のさなか、医者の卵の結婚式に突然招かれた薫くんは、異様な雰囲気に驚き、先立つ男たちの「人生の兵学校」の複雑さを知る夢はあえなく破れるからこそ夢なのか…。激動する時代を背景に、理想と現実のはざまで葛藤する若者たちを描き、人生の哀切を超えた真理に迫る現代青春小説の最高傑作。「薫くん四部作」第三弾。「あわや半世紀のあとがき3」収録。

感想・レビュー・書評

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  • “赤頭巾”の薫くんは、この年の大学受験をやめて、自宅学習中。年度が明けてのゴールデンウィークの三連休のお話。
    突然の兄の友人の結婚式への招待。学生服はもう着れない、買ってもらったダークスーツでお出かけ。
    その結婚式のちょっと異様な雰囲気から大人たちの複雑な心情をはかり知る。
    ほんの少し時間が過ぎただけなのに、随分と大人のお話になりました。
    今回は薫くんの青春というより、兄世代(しかも東大)の理想と現実との葛藤を垣間見る。薫くんは、大人達の言動に憤慨しつつ、理性を保ちわずかな抵抗を試みたり現実を受け入れたり。
    さらりと、しかも数日間にぎゅっと社会心理(特に男性陣)を書いてしまう力量が凄いなあ。大人になる彼らは怪盗黒頭巾とさよならと持っていく。
    最後の1ページは高校生のオトコノコに読んで欲しいな。

  • 昔、信じていたヒーローのような救いはもう信じることが出来ない。
    それでも戦うことしかできない。
    いつでも自分自身を救えると信じていたけれど、
    世の中の流れにのると自分自身さえも救えなくなる。
    戦い方を大きく変えなくてはいけない。

  • 先週の土曜日から今週の火曜日まで日本と韓国に出張。日本に滞在中に、新潮文庫版の庄司薫の4部作のうち、まだ買っていなかった本書「さよなら怪傑黒頭巾」と「ぼくの大好きな青髭」を買い求める。移動の飛行機の中を含め、バンコクに戻ってくるまでに読み終わった。

    この4部作の発刊の順番を誤解していた。
    「赤頭巾ちゃん気をつけて」「白鳥の歌なんか聞えない」「さよなら怪傑黒頭巾」「ぼくの大好きな青髭」、赤・白・黒・青、という順番に発行されていたと思っていたのだけれども、実際には、白と黒の発行順序は逆で、赤・黒・白・青という順番の発行のようだ。
    今年になって、新潮文庫版で4部作が発行され、それらを全部買い求め、数十年ぶりに読んでみた。懐かしさもあり、どの本も一気に読み終わったのだけれども、僕自身は、最初に読んだとき、「黒」「青」は、「赤」「白」ほどには好きではなかったし、今回再読してみて、同じ感想を持った。だから多分、発行の順番も誤解していたのだろうと思う。あまり好きではなかった「黒」「青」は、「赤」「白」の後に発行された、と。

    4作とも、1969年が舞台だ。最初の「赤頭巾ちゃん気をつけて」は初春が舞台で、最後の「ぼくの大好きな青髭」は盛夏が舞台。4作が1969年の初春から盛夏にかけての数ヶ月を舞台にして書かれたものだ。主人公の庄司薫君がおしゃべりをしているような文体も4作共通。
    でも、僕には、この「さよなら怪傑黒頭巾」と「僕の大好きな青髭」は、「赤頭巾ちゃん気をつけて」「白鳥の歌なんか聞えない」とは、(うまく言えないけれども)、「感じ」が変わったように思えるのだ。
    今の若い人たちが読んだとして、「赤」と「白」は当時の時代背景が分からなくても、比較的すんなり読めるような気がするけれども、「黒」と「青」は当時の時代背景、というか、「雰囲気」を知らなければ、意味不明、的なところがあるような気がする。1969年には僕は生まれていたけれども、まだ小学生で、当時の学生運動などの詳細は分からない。でも、大学に入学したときには、まだキャンパスに活動家によるたて看板を見ることは出来たし、実際に、キャンパスで活動家が演説みたいなことをしているのを見かけることもあった。この当時のことを題材にした本もかなり読んだ。柴田翔の小説や、高野悦子の日記など、僕が高校生や大学生の頃にはまだ読まれていた。そういったことにより、直接は知らないけれども、1969年がどういう雰囲気だったのか、ということを何となく想像することは出来た。
    「赤」と「白」は、でも、そういった時代背景とは関係のない(全く関係がないわけではないけれども)、庄司薫君の個人的な体験、として読むことが出来る。それは、落ち込んでいるときに、銀座でたまたま会った幼い女の子に元気づけられる話(赤頭巾ちゃん)であったり、幼馴染の由美ちゃんとの恋物語(白鳥の歌)として読むことができる、という意味だ。
    【「ぼくの大好きな青髭」の感想に続く】

  • 薫くん3冊目。今回は、大人の挫折と撤退に直面する薫くん。男ってのは、何ともめんどくさい。負けを認めて別の道をえらぶにも、やたら儀式めいた段取りが必要。なるほど。そしてその隣にいる女の子たちは、自分たちも色々考えることはあるけれど、でも結局最後は男の子次第ってところがあって、だから女の子には男の子には分からない複雑な悩みがある。その通りなんだよ、薫くん。

  • 「怪傑黒頭巾」は1930年代に発表された小説で
    何度も映画化されている
    1966年には初のテレビドラマ化をはたしたらしいのだが
    それらのことについてはまったく触れられない

    東大医学部の学生紛争は
    研修医を無給でこき使うインターン制度の廃止を焦点にしたもので
    いちおう正義は学生の側にあったと言えるのだが
    むろん保守派には保守派の言い分があったし
    …まあ結局は、学生たちにとっても自分の未来が大切だったわけで
    懐柔・裏切り・密告・制裁と
    そうとうにドロドロした抗争が展開された、らしい
    そんな中でひとつの結婚式が行われる
    新郎に頼まれてそれに出席した薫クンの見たものは
    誰が敵で誰が味方かわからず、誰もが疑心暗鬼にかられている
    きわめて政治的、かつ不気味な光景だった

    誰かにとっての正義が、誰かにとっての暴力になるという
    怪傑黒頭巾でも太刀打ちできないであろう現実
    それを前にしては誰もが道化を演じるしかなかった
    ならば誰が道化を慰めるのだろう
    薫クンはアトムの子供として
    半ば無理矢理押し付けられる格好ながらも、その役割をこなそうとする
    鉄腕アトム、それは
    大人になれないことを理由として父親に見捨てられた少年ロボットだった

  • 薫くんのくんシリーズで、いちばん好きなお話。思想と恋愛と友情と優しさ、、難しいなあ。薫くんも、薫くんのお兄さんたちも素敵。でも、私は由美ちゃんよりもこの黒頭巾のヒロイン・アッコが大好き。魅力的な女の子。

  • 懐かしい

  • 素晴らしい読み応え。黒は相当な傑作ではないかと。たった1日の出来事、学生紛争世代の葛藤と挫折を薫くんの目を通して切なく鮮やかに描き出す。時代背景は現代とまるで違うけど、夢や理想に満ちた青年が否が応にも社会に迎合して挫けゆく、そんな自分に嫌気がさして絶望感に苛まれる苦悩は今の時代の若者にも共有する意識ではないか。薫くんは可愛い女の子に目を奪われたりお酒を飲み過ぎたりしながら、自らの問いかけに答えを探そうと足掻いてこんがらがってかっこ悪い。けど本当はかっこいい薫くんの最後に見せる頑固な意志の欠片に希望は残る。

  • 都会的洒落た文章

  • 当然と思っていた自分の進路が突然切断されてしまった受験生の薫君があれこれ経験しながらいかにあるべきかを考えていきます。赤白青黒4部作一気に読んでみるとよいと思います。さらに作者が本名福田章二で20代前半に書いた「封印は花やかに」(「喪失」所収)と読み較べるとよいでしょう。

    人間科学部 N.K


    越谷OPAC : http://kopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1000914555

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