黙示 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101390529

感想・レビュー・書評

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  • 真山仁は、日本の様々な分野において問題提起をする。この黙示は、農業がこれでいいのか?ということを説く。根底には、日本の農業の再生をどう進めるのかにある。ここで、取り上げられるのは、農薬と遺伝子組み換えが主人公だ。
    小説では、農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落する事故が発生。この本が書かれた時にはラジコンヘリであったが、今ではドローンで散布する。また、病害虫のあるところに向けて集中的に農薬を散布することもできるようになってきている。少し技術は進歩しているが、テーマは変わらない。カーソンの「沈黙の春」の警鐘から、農業に携わる人々が農薬をどう捉えるのか?ということは、大きな問題でもある。農薬と化学肥料によって、農業の生産量は飛躍的に高まった。増殖しつづけるニンゲンの〈食〉をどう支えるのか?問題意識は、深いものがある。
    日本の農林省は、脱炭素社会をめざし、2050年までに農地の25%、100万ヘクタールを農薬と化学肥料を使わない農業へ拡大して行くという。現在の有機農業の面積は1万6000haであり、農業全体の栽培面積の0.4%だから、飛躍的な変化である。有機農業がなぜ広がらないのかという本質的な問題が明らかにされていない。相変わらず、農林水産省は勝手なこというご都合主義でもあるが、そうしなければならない環境を直視する農業を作る必要もある。
    ラジコンヘリの暴走と墜落。農薬が直接子供達に降りかかる。子供の中には農薬開発者の息子がいた。その子供は意識不明となる。自分のつくった物で、自分の子供が被害に遭う。それでも、農薬は必要と考える平井。
    戦場カメラマン代田がミツバチを育てる。代田は、農薬は 第2の放射能だという。
    現在ミツバチは急速に死滅している。害虫を殺すものが、ミツバチをも殺すのだ。アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジンなどのネオニコチオイド系農薬がミツバチを殺す。
    農薬開発者と平井とミツバチを育てる代田の対談がじつに興味深い。
    世界的な天候不順(地球温暖化)による干ばつによって、農業は影響を受け生産量が減少するとされる。その干ばつに対応する遺伝子組み換えトウモロコシが広がって行く。農業技術は、問題があればそれに立ち向かおうとする。農水省で農産物輸出のビジネス戦略を命じられる女性キャリアの秋田。「弱い」と言われる農業を何とか強くすべく、若手官僚として農業に対する方向性を探す。植物工場、アグリトピア、フードバレー、原村、淡路島とひろがる。平井、代田、秋田という三人の主人公が、日本の農業と食の安全について、それぞれの立場から悩み解決しようとする。
    中国が100万トンから400万トンの米を欲しがるという設定から、減反にたいする中国の提案。
    これが、実におもしろい。日本の人口が高齢化と減少の中で、農業の生産量が過剰になって行く。一方で世界は相変わらず人口増加していることで食料不足は想定できるので、日本の農産物を輸出するということも視野におく。この本の提起されていることに、日本人は立ち向かうべきでもある。
    ここでは、日本の肥料の過剰投入によって、環境を破壊し、地球温暖化を進める亜硝酸ガスの発生や農産物の硝酸態窒素の過剰について触れられていないのが、残念。日本の農産物の硝酸態過剰は、健康被害を起こし、病害虫を増やし、日持ちを悪くしてロスを増やしている。ヨーロッパの硝酸態窒素の基準をはるかに超えているので、オリンピック村の野菜は海外から輸入するということが起こっている。

  • ラジコンによる農薬散布時の事故により農薬の使用に疑義が唱えられる。一方で大規模な旱魃被害により食料の安定供給の為、あるいは自国の人口増加による食料調達の為、GMO(遺伝子組み換え)を積極的に研究、採用するアメリカ、中国の両大国。GMOは農薬の代替となりうるのか。

  • すごい。
    この一言に尽きます。
    そして、私は、本当に無知だと実感させられました。
    巻末の参考文献の多さ、豊富さには、度肝を抜かされました。内容の濃さからして、相当調べてはおられるのだろうとは思っていましたが、まさかシェパードの飼い方まで参考文献があるとは。。。

    蜜蜂を殺すかもしれないネオニコチノイド系農薬、「ピンポイント」が誤って人に対して散布された。一時、命が危ない人までも居た散布事件で、農薬に対して批判が集まる。
    果たして、農薬は危険なのだろうか?
    それに対して、農水省では、植物工場やGMOを推進するプロジェクトを始めようと企んでる人たちがいた。
    私たちが、生きる上で欠かすことのできない食物。知らなければ、恐怖はなく声をあげることもない。知らない方が幸せなのだろうか。
    「ピンポイント」を開発した平井、養蜂家の代田、農水相の秋田。それぞれが思いを抱えて、誇りを携えて、そして未来の日本へ向けて、今を生きるーー

    農薬は必要悪か?
    私は、知らないことが多すぎる。
    だから、不安なのだと、この本を読んで思った。知ることの恐怖。
    でも、それと同時に、知ることで拓ける未来もあるのだと感じました。
    人はわかりやすいことが好きだ。だから、土屋宏美のような人がいて、それは、私たちの代表だと言っても過言じゃないのではないでしょうか。

    いつもこの著者の本を読み終えると、余韻が長い。感情や考えがわーって押し寄せて、だけどまとまらない。
    時間を空けて、感想書き始めたけど、結局頭の中でうまくまとまってないなぁと実感。
    時間の問題じゃなく、私の知識とかの問題かな。。。

    さおりが、なぜ登場して、去って行ったのか。
    私は、彼女がキーパーソンであり、何かこのことに絡んでたと思っていたので、ちょっと肩透かし。。。読みきれてないとこがあるのでしょうか??

    GMOやら農水相やら農薬やらの参考文献を読んだ上でもう一度読みたい。そう思える本でした。

  • 良い面もあれば悪い面もある。
    主観的な判断が必要だからこそ
    相対的な視点が必要なんでしょう。

    そして、無知は罪。
    あまり、知らない事の方が多いけれど、
    知らないうちにこんな事が起こる可能性
    があることには恐怖を感じました。

  • 作者らしく、農薬メーカ、養蜂家、反対団体などを丁寧に取材したのだろう。作者が伝えたかったのは、次世代の子供たちに、安全で適切な価格の食品をどう残していけるか、という解答と選択を迫られてる事実だ。その為には、安全の定義が必要になろう。少なくとも特定の巨大企業や政治団体だけでは答えは歪ませられるであろう。小説自体は、まだまだ作者の得意分野ではない、と感じた。ただ、伝えなければ行けない、という強い課題認識を感じた。自分の残り人生のテーマの一つにしたいな。

  • 農薬問題からの遺伝子組み換え作物を題材にすることで日本の農業、ひいては世界中での食糧争奪戦を人ごとではないと警鐘を鳴らす話。
    農薬メーカーの研究者、農薬の被害を受ける立場の養蜂家、農水省の役人とそれぞれの立場でそれぞれの問題日本の直面する。
    知らないことなどがたくさんあり、とても興味深かった。この話では農水省は前向きな大きなプロジェクトを実行しつつあるが、現実はどうなのか、知りたくなった。

  • 著者の調査力がヒシヒシと伝わってくる。とても勉強になった。小説というより専門書

  • 養蜂家で農薬がミツバチに影響敷いていると警鐘を鳴らす元戦場カメラマンと農薬の開発者であり責任者である農薬会社の研究員と農水省のキャリア官僚の3人の視点で進められていく話。内容が重く苦しくなると別視点に切り替わるためリフレッシュされて読みやすい。農業の問題について考える機会が与えられ読んでよかった

  • 日本人でいることが不安になる。
    いや、どこの国でも将来の食料安定供給の保証は無いか…。農薬、遺伝子組み換えなどを受け入れつつ、安心・安全とのバランスをいつまで保っていけるのだろう。

    自分が手塩にかけて開発してきた米を実験材料に選ぶ米野さんは、本当に研究者だなぁ。がんばれ、太郎と花子!

  • 農薬・食糧危機・遺伝子組換え…これからの日本の農業政策について、食の安全についての問題提起。真山仁の取材力に感服。そういうところはアーサー・ヘイリーに似てる。

著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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