よるのふくらみ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101391441

感想・レビュー・書評

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  • 窪美澄さん3作目。本当に読みやすくて好き。
    お兄ちゃんむっつりだなぁ〜苦手なタイプだわ〜と思ったけど、最後は無意識にお兄ちゃんを応援してた。
    "同情している、というポーズで自分の身を守りながら、皆が皆、他人の家で起こった火事に油を注いでいた"
    なんかぶっ刺さったなぁ。自分もそうゆう所あるよなと考えてしまった文章だった。
    あー面白かった!!

  • 近い距離、性の問題、事情を抱える人たち。
    重くて息苦しい印象だったなぁと思う。
    読後消化しきれない気持ちが残ったものの、若いということは自分の幸せを求めるため貪欲に進んでいいのだと、希望の見えるラストでそう感じられた。三人の視点から描かれる各章。どれもそれぞれの言い分、捉える世界の違い、抑えられない感情があるという巧みな心理描写が響く。正直なところ、みひろの気持ちがどこにあるのか段々わからなくなってきた。しかし、実際その人の立場にならないとわからないだろう。自分自身さえ切羽詰まると何を欲しているのか迷うことがあるだろうから。
    控えられがちな女性側からの性に真正面から向き合った作品だと思う。ストーリーはドラマを見ているような展開だった。キャストを思い浮かべながら。
    個人的には、裕太と里沙、ショウが海へ出かけたシーンが無性にやるせなくて好き。
    気持ちと身体はいつも一体ではなく、些細なズレで関係性が崩れてしまったり。目の前の人に飛び込めばいいのに抱えきれない大人の事情があったりで、うまくはいかない。本能的な欲求にパートナーが答えることができないとしたら、という重いテーマを突き付けられたようだった。「誰も傷つけずに生きていくのは難しい」この一文が残って仕方ない。

    この本を読んでいるとき、窪美澄さん、直木賞受賞を知りました。おめでとうございます!

  • 同じ商店街の幼馴染、圭祐、裕太兄弟とみひろ。

    圭祐、裕太兄弟は幼い頃からみひろに恋心を抱くが、弟がみひろに気があることに気づいていた圭祐は、裕太より早くみひろに告白をし、同棲する。

    みひろは圭祐の同棲生活に長い間セックスが無いことに悩み、同時にそんな自分に嫌悪感も抱いていた。

    弟の裕太は、兄がみひろと同棲をを始めても、気持ちをなかなか断ち切れずにいた。
    そんな時、みひろが兄とうまくいっていないことに気がつく、、、


    どの登場人物の気持ちにものり移れるほど、その登場人物それぞれの気持ちが丁寧に描かれている。

    みひろ目線、裕太目線、圭祐目線、それぞれの方向から物語は綴られていくが、どこか切なく、しかしどこか救われる、一言では簡単には表現出来ないような物語がこの一冊に詰め込まれていた。

    まるでドラマか映画を見ているような、、、
    そんな気持ちになる一冊だった。

    恋愛小説はそれほど読まないが、これはそんな私にもなかなか良かったと思う。

  • コロナ禍で知人に勧められた本、その4。
    おかげさまで、窪美澄さんも初読。

    みひろと、圭祐・裕太の兄弟は幼なじみ。
    結婚を前提に既に同棲しているみひろと圭祐だが、セックスレスに悩むみひろは、ある日衝動的に裕太と関係してしまう。


    …なんというか、おさまるべきところに皆がおさまって、力を抜いて生きていけるようになったようで、読後はほっとした。

    それにしても、『交錯する三人の想いと、熱を孕んだ欲望とが溶け合う、究極の恋愛小説』と紹介されていては…たぶん手に取らないな…
    間違ってないけれども、まだ刺激的すぎるかも。
    恋愛小説の紹介文は、やたらと暑っ苦しいのだと、ようやくわかってきた。

    三人以外にも、それぞれに悩みを抱えた登場人物が、大袈裟すぎずにリアルなのもうまい。

    そして、皆が大家族のように、子供時代の事も、醜聞も筒抜けに知られている商店街という背景の組み合わせ。
    これが山奥のムラ社会のストーリーだったら、古臭く息苦しくなりそうなのを、主に裕太の愛すべきキャラクターが救っている。
    なんていい奴なんだ裕太!

    だからこそ、圭祐の鬱屈が気の毒にもなるんだけれど。
    圭祐も、「優等生のお兄ちゃん」をやめて、みひろの手を離したことで、自然に愛情表現ができるようになりますように。

  • ふがいない僕は空を見てからの窪美澄さん2冊目。

    窪さんの官能的な表現のうまさにはまぁ驚かされる。

    “ 私のからっぽに栓をして欲しかった。限界ギリギリまで怒張した圭ちゃんで私のなかをこすり続けて甘い声をあげたかった。”

    怒張した圭ちゃん、なんて表現普通に生きてたら聞いたことないのに、こんなにピッタリハマるなんてほんとにすごい!

    しかも、3人の違う視点で進む展開、同じ世界線のはずなのに、それぞれの視点でここまで物語が変わるものかとほんとに驚かされる。

    恋愛ってほんとに都合よく進まなくて、理想と現実の乖離だったり、意志と行動が見合わなかったりがあると思います。
    共感できるところも、なんでだよと思うこともあったけどリアルな恋愛模様が見れて面白かった。

    全然まとめきれないけどすごい好きな作品でした。

  • あぁ人間臭いなぁ…と、まず感じた。
    基本的にはみんな自分が一番大事で、自分の気持ちに正直になることで誰かを傷つけたりして、そのくせ変に気を遣い合ったりもして。
    そして、女性の性欲というものにまっすぐ向き合っている作品というのはもしかしたら珍しいかもしれない、と思った。
    同じく窪さんの「ふがいない僕は空を見た」にもそういう要素はあるけれど、この小説ではもっとリアルに描かれている。

    同じ商店街で幼なじみとして育ったみひろと圭祐・裕太の兄弟。
    高校時代から付き合い始め圭祐と同棲しているみひろは、長い間圭祐との間にセックスがないことに悩み、そんなことで悩む自分に嫌悪感を抱いていた。
    昔からみひろに対する淡い想いを抱いていた裕太は、うまくいかなくなってきている2人の関係に感づき、そしてみひろは、同い年で気安く接することができる裕太に徐々に惹かれ始める。

    スタートが違っていたら、と考えるのは、鶏が先か卵が先か、という話になってしまうのだけど、物事のはじめが違っていたら遠回りしなくて済むこともたくさんあるんだろうな、とついつい思ってしまう。
    でもその遠回りの過程が人の関係性に影響をもたらすことも多々あるだろうから、そう思うと必要な無駄だったのだろうか、とも思う。

    シンプルな三角関係なのだけど、少女マンガ的な美しいものではなくて、だからと言ってドロドロもしていなくて、みんなが少しずつ諦めたり狡さがあったり見ないふりをして逃げたり、そういうところがリアル。
    本当はこうすれば良いのだろうと頭では分かっていても実際そんな風に行動することはできなくて思い悩んだり、好きな相手の幸せを願いつつも自分の欲望を捨てきることができなかったり。

    みひろが持つ、女の生理的な感情にドキっとさせられることも多々。これは男の人は見たくない側面なのかも。
    自分の彼氏や夫の性的な部分を、女って平気で友だちやら同僚やらに言っちゃったりするけど(この小説にもそういう場面が)男の人は絶対嫌だろうなと思う。
    私も出来れば友だちからそういう話は聞きたくないけど。笑

    心が繋がっていれば体なんて、という話って昔からあるけれど、そのふたつを切り離すのは無理がある、表裏一体のもの。体の面が原因で心が離れてしまうことも実はけっこう多いだろうから。
    でも大切に思うからこそ口には出せなくてすれ違うっていうのがまた厄介なところだったりして。

    窪さんの小説は相変わらず鈍い爪痕を残す、と思う。致命傷ではないものの長く残る傷痕のような。

  • 大人3人の恋愛のお話。あっという間に読んでしまった。そして読み終わってからも、あの人の何がいけなかったのか、どうしたら上手くいってたのかな、とか色々考えてしまった。
    同じ商店街で生まれ育った圭祐と裕太の兄弟とみひろ。設定は少女漫画にありそうだけど、この物語はそんな爽やかなものじゃなくて、人間のずるいところや汚い部分もたくさん出てる。こういうタイプのお話って、最終的に誰もくっつかないことが定番だと思っていたので予想外の展開に驚いた。個人的には裕太を応援してたので嬉しいけど、圭祐の苦しさも想像しきれない。
    単に組み合わせが悪かったのかな。自分の思いをちゃんと伝えていたとしても、それでも上手くいかない場合ってあるしね。3人それぞれの目線でお話が進むので、他の視点からは見えないそれぞれの抱えるトラウマや苦悩が理解できて、すごく苦しかったけどどんどん読んでしまう。
    尾崎世界観さんの解説を読むといろんな才能があるって羨ましい、、と思ってしまった。「みひろと圭祐と裕太の言葉は自分の奥底に押し込めたものによく似ている」という言葉に心の中で頷きました。

  • なんていうか窪美澄のどろっとした生々しさの良いところが詰まってる気がして、とても好き。
    優しくなんてないし、この世は割とどうしようもなくて、悲しいことのが多くあって、それはだいたい避けようもない、誰も悪くないものだったりもするんだけど、最後は何故か笑って明日を迎えられるような気がする。窪美澄の小説を読むと、話は重いのに、何故か救われたような気持ちになる私がいて、それなのにしばらくは、その小説のことが私を支配していて、一週間は小説のシーンが頭の中で反芻されてる。

    三角関係、で済ませられるなら、どれだけ楽だろう。セックスレス、で済ませられるならどれだけ楽だろう。
    大人になればなるほど、余計なしがらみのようなものは増えていくように思うけど、それは逃れようがないのかも

  • 想う事の難しさ。想いを伝える事の難しさ。想いを継続する事の難しさ。

  • 『よるのふくらみ』読了。
    人間、みんな勝手だな〜って思いながら読んだわ笑
    二人の兄弟が幼馴染を好きになってからの展開があまりにもスケールでかかったな…救いのない終わり方だけど潔い感じ。
    抑制しようとするから理性ぶっ飛ぶんだよ笑。その反動がこの小説の原動力といっても過言ではないくらい。
    悩みに悩んで気持ちを抑えたり、諦めたり。人間らしい描写がすごく生々しくてものすごくわかるーって思った。全員に感情移入してしまうくらい。
    感情に嘘をつけない。もしかしたら人を傷つけているかもしれないが、例え理性で抑えたとしても、どこかで分かるから。
    なんか不器用で愛おしく感じるわ…
    個人的には最後の章がすごく好き。ボロボロに傷ついた圭ちゃん。逃げるように大阪へ行くんだけど、そこで出会った京子が分け隔てなく圭ちゃんに寄り添う姿がよかった。一番可哀想だったから、圭ちゃんが。(そしてみひろクソオンナ…って思った)

    2021.6.16(1回目)

著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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