恋文 (新潮文庫 れ 1-4)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101405049

感想・レビュー・書評

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  •  連城三紀彦さんのことは、地球っこさんのブックリストで知りました。何にそんなに惹かれたかというと、ずばり、この〈連城三紀彦〉さんという、お名前。〈三国連太郎〉とちょっと似てるような…けど、もっと華があってなんか流れるようにしなやかで、影もあるんですよね。ペンネームだそうです。お写真を拝見するとちょっとユースケ・サンタマリアさんに似ていると思いました。残念ながらもう他界されているそうです。
     さて、作品ですが、〈口紅〉や〈マニキュア〉など、ささやかな紅色がよくモチーフとして使われています。
     私が一番印象に残ったのは、「恋文」という作品で、子供のような年下の旦那が主人公の女のお気に入りのマニキュアで窓ガラスに桜の花びらの絵を描いて、出て行ってしまったお話です。その旦那は結婚前に付き合っていた女が病気で余命半年ほどだと知らされ、その女と一緒にいてやるために、奥さんに「離婚してくれ」と頼むのです。「どうして離婚までしなければならないの」……一人部屋に残され悩む彼女の所に西日が差して、窓ガラスに描かれた桜の花びらが流れるようなピンクの光を投げかけるのです。色々な形の“恋文”があるのです。
     「ピエロ」という作品も好きです。(ネタバレ御免)美容師の妻のために、喜んで会社を辞め、持ち前の“人の心を掴む”才能で次々とお客さんを開拓し、トラブル時にも自分のせいにして頭を下げて丸く解決し、店の掃除など喜んで一手に引き受けてくれた夫。そんな夫を裏切り、浮気をしてしまった妻が「浮気をしてきた」と正直に話しても、相変わらず「俺ならいいよ」とピエロのような顔で答える人の良すぎる夫に腹が立った妻。だけど「俺もさつっきまで良子(若い従業員)の部屋にいたんだ。」という夫。騙された…道化のような顔をして、ちゃっかり妻をだまし続けていたなんて…。だけど夫が出ていったあと一人になってしばらくして、彼の本当の優しさと愛情に気づくのです。
     「大人になるということは、嘘がつけるようになるということ」と、「私の叔父さん」の“叔父さん”は言います。世代なのか、性格なのか、何でも四角四面にきっぱりとした解答をすぐに求めたがる私。昭和っぽいのかなあ?そういえば親の世代は、こんなふうに柔らかく……いい加減ではなく、今よりもっとみんな一生懸命だった気がしますが、人の間違いとかもふんわり包んであげる優しさがあったような気がします。

    • Macomi55さん
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。それから、連城さんのことを教えて下さってありがとうございます。
      「私の叔父さん」の“叔父さん”の...
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。それから、連城さんのことを教えて下さってありがとうございます。
      「私の叔父さん」の“叔父さん”のあの嘘、男っぽくて惚れちゃいますね。顔のイメージは違いますが、高倉健さんなんかが言ったら似合いそう。
      地球っこさんのブックリスト消えちゃったのですか。残念ですね。私は逆に、気がついたら同じのが二つ出来ていて、片方消したいのですが、それぞれに「いいね」頂いてるから消せないんですよ(^^)。
      2022/02/15
    • 地球っこさん
      Macomi55さん

      ブックリスト、そんなこともあるんですね。びっくり!

      高倉健さん、いいですね~
      惚れます、惚れます。
      2012年に「...
      Macomi55さん

      ブックリスト、そんなこともあるんですね。びっくり!

      高倉健さん、いいですね~
      惚れます、惚れます。
      2012年に「私の叔父さん」は映画化されているみたいです。
      主演は高橋克典さんでした。高橋さんも男っぽい感じがします。
      またいつか配信されたら観てみたいと思いまーす。

      お返事ありがとうございました(*>∀<*)ノ
      2022/02/15
    • Macomi55さん
      地球っこさん
      高橋克典さんかあ。なるほどね。高倉健さんより大分線が細いですけどね。なかなかいないですね。
      地球っこさん
      高橋克典さんかあ。なるほどね。高倉健さんより大分線が細いですけどね。なかなかいないですね。
      2022/02/15
  • ある雑誌社の「人生相談コーナ-」に、小学4年生になる男の子が、母親の悩みを綴った手紙を郵送する。 男の子の父親が結婚する前に一年ほど交際していた女性が、骨髄性白血病と診断され余命6カ月であることを知り、その最後を看取りたいと家出したことで始まる、直木賞を受賞した表題作のほか、『紅き唇』『十三年目の子守唄』『ピエロ』『私の叔父さん』の全5編は、生き馬の目を抜く大都会に暮らす老若男女の人生の機微を絡ませ、儚さ、憐みのシーンを救いの視線で描いた、こころ焦がしてやまぬ究極の愛の物語。

  • ドラマがとても良かったので・・「恋文」が短編集の一つだったとは。
    余命いくばもない、昔の彼女を看取るため妻子を置いて家を出る美術教師の夫。ラストがよかった。
    将一の気持ちはなかなか理解できない。が、かつての恋人江津子と妻郷子は、次第に心を通わす。そこの所はなんかわかる気がした。
    物憂げな江津子、和久井映見、はつらつとした郷子、水野美紀のイメージを思い出す。

  • 何回読んでも、泣いてしまう本。
    すごい、恋の話。
    5枚の写真の話は、鳥肌がたちました。
    惚れるって、すごいな。
    恋をしたくなる一冊です。

  •  立場、年齢、性格を乗り越えた恋、時に不条理不整合な男女の恋愛の機微というものを描き切っています。 特に「紅き唇」が良かったなぁ、相手とひたすら近くに居たい想いと遠くに居ても幸せを願う気持ちの微妙な境目に心打たれた。 

  • 目次
    ・恋文
    ・紅き唇
    ・十三年目の子守歌
    ・ピエロ
    ・私の叔父さん

    どの作品も、しっかり者だったり意地っ張りだったり見栄っ張りだったりして言えない言葉を、その虚勢を、空元気を描いていて、素直に感情を表現することの苦手な私の心にぐっさぐさ刺さるのだった。

    表題作では、夫が余命僅かの昔の彼女を看取るため家を出る。
    その理由を知った年上でしっかり者の妻は、夫の従兄として彼女を見舞い、いつしか心を許せる友達になる。
    リアリティがなさそうな設定だけど、自分に置き換えると取りすがって泣くことも、取り乱して怒り狂うこともできそうにないから、きっとなんてことないような顔をして送り出す気がする。
    全然他人事に思えない。

    ただ、子どもがいるでしょう?
    大人の勝手な都合で子どもに悲しい思いをさせてはいけない。

    父に反発しながら焦がれる男たちの気持を描いた『十三年目の子守歌』も、妻の希望をまるごと受け入れて裏方に徹しきった夫の姿を描いた『ピエロ』も良かったけれど、『紅き唇』『私の叔父さん』が良かった。
    ロマンチストか、私。

    『私の叔父さん』は、6歳違いで兄弟のように育った叔父と姪の秘めた想いを、姪の結婚とその2年後の事故死によって凍結していた想いを、姪の娘が20年ぶりに突き付ける話。
    カメラマンとして活躍している構治と姪である夕季子とその夫。
    メインは構治と夕季子の想いのやり取りなのだけど、最後の最後に夕季子夫婦の愛のかたちも見えてとても良かった。
    が、夕季子の忘れ形見である夕美子が、自分の我を通すために母の秘めた恋心を関係者全員の前で暴露するのはちょっと許せない。

    一番気に入ったのは『紅き唇』。
    結婚して3ヶ月で亡くなってしまった妻。
    結婚生活が短すぎて、別れが急すぎて、悲しみも感じることができなかった和広。
    今はどういうわけか、妻が亡くなってから転がり込んできた妻の母と暮らしている。
    家族縁の薄い二人の、奇妙な同居生活。

    戦前戦後を働きに働いた母は、甲斐性のない夫にも二人の子どもにも先立たれ、一人残った娘とはうまくいかず、天涯孤独のようなもの。
    酔った勢いで、若かりし頃、友達の恋を応援した話などすることもあるが、苦労ばかりの人生でったと言える。

    和広にはいま、付き合っている女性がいるが、最初は応援してくれた義母が、ある時から彼女を貶しはじめ、交際は停滞している。
    義母はこの二人の恋を応援する。
    口紅の一本も買ってやれ、と。
    全てがわかった時、母の想いに涙する。
    もうほんと、このやせ我慢と小さすぎる幸せに、涙止まらんかったよ。

  • 離婚届が最大のラブレターになるなんてほんとに残酷だと思った。
    いい女、強い女であればあるほど、大切な人は離れていってしまう。
    こんなことだったらいい女にも、強い女にもならなくていい。
    大切な人を自分の傍に繋ぎとめておくために、だめな女、弱い女のままでいよう。
    私はこれからも、自分では何もできない弱い女を演じ続ける。

  • 人が死なない連城小説!!ずっとしんどい思いをしながら日本語の美しさに惹かれて読み続けていますが、なぜだろう、人が死ぬときのほうが日本語が美しい気がする。でも、この少し昭和・大賞の空気を纏った彼の文章がやはり好きなのだ。

    20代の頃だと分からなかった、と思うけど、今この年になって、どの短篇の主人公の気持ちも分かるような気がする。自分だったら耐えられないけど。全ての話が、連城さんの周りの人々や出来事、言葉にインスピレーションを受けて書かれていると巻末にコメントがあって、それもまた素敵だと思った。私のような一般人の周りにはそんなドラマチックなこと起こらない…

    ●恋文
    夫が自分を捨てて余命いくばくもない昔の恋人のもとへ行ってしまったことをきっかけに、現在の妻である自分と昔の恋人が友達同士となる、っていうの、なんだか分かるような気がした。私には耐えられない。

    ●紅き唇
    新婚で妻を失った義理の息子を密かに思う女性のお話。私には耐えられない。

    ●十三年目の子守歌
    母親が自分より若い男を夫として連れ帰ってくるお話。設定がぶっ飛んでいる。私には耐えられない。

    ●ピエロ
    夫が超絶有能な三枚目ピエロ。この結末、私には耐えられない。

    ●私の叔父さん
    このお話は耐えられないとは思わなかった、私が登場人物だったらという想像が働かない領域…最後なんだかわからないけど胸がきゅーっとなって泣きたくなる感じ。


    しかし基本全部私は耐えられないけど、お話として読むとじんわり染みるんだよ…不思議。

    --

    マニキュアで窓ガラスに描いた花吹雪を残し、夜明けに下駄音を響かせアイツは部屋を出ていった。結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い。しかしそれを機会に、彼女には初めて心を許せる女友達が出来たが…。表題作をはじめ、都会に暮す男女の人生の機微を様々な風景のなかに描く『紅き唇』『十三年目の子守歌』『ピエロ』『私の叔父さん』の5編。直木賞受賞。

  • 表題作が直木賞受賞作。
    良かった。
    全編、良かった。
    出てくる人、みんなカッコいい大人だ。
    自分のためじゃなく、素敵な嘘をつける。
    こんな風に、誰かを思いやれる大人になりたい。

  • 「僕に小さな小さな名場面や名台詞をくれた素人のしたたかな名優さんたちへの、これは、表題通り、僕の“恋文”です」と著者はあとがきで語っている。
    昭和の大人たちの物語。昭和の大人たちって、何でこんなに大人なんだろう。
    平成の我々は40代になってもなんか、良くも悪くも「現場」なんだよな。
    この物語の人たち、同じ年代や少し下の世代とは思えない。

  • オススメの1冊。
    誰もが持っている何かが燻り、揺り起こされ、堰を切ってしまう…。
    でもその中には優しさが隠れている、そんな大人の物語。
    一番良かったのは「紅き唇」。

  • 『恋文』★★★勝手な男と勝手な女と勝手な女/『紅き唇』★★★★いのち短し恋せよ乙女/『十三年目の子守唄』/★★★無様な男と母と子と義父/『ピエロ』★★★★★お前もう一人前だよ、浮気できりゃ女は一人前だよ/『私の叔父さん』★★★★あいつ、とうとう借金のカタにあの赤ん坊を俺に置いていきやがった

  • とある読書家から貸していただいた作品。

    短編集だとは思わなかった。

    各々の話に出てくる男性の、頼りなくて、でも憎めないようなキャラクターが良い。
    表題作「恋文」では、どうしても女性目線で「それはありえないだろう」と肩をいからせてしまっていたのだが、「ピエロ」辺りになって、「もう、しょーがないなあ」と笑ってしまう。
    しかし、女性が我慢させられる「恋文」はだめで、男性が我慢をさせられる「ピエロ」はいい、なんて自分勝手なレビューですいません。

    女性にとって可愛げ?は幼い時特有の武器だが、男性は年と共にその不器用さが温もりを持つのだなあ。

    どの話も、素直に推したい。ガツガツした男性より、ちょっと首を傾げたくなるような男性がいいな、と思える私もある種の「ツヨクテユウズウノキカナイ」女なのかもしれない。

  • 映画もドラマも見た。
    大好きな一冊。

  • 「ピエロ」がお気に入りでした。
    色んな意地の通し方があるんだなあと思いました。

  •  
    ── 連城 三紀彦《恋文 1984‥‥ 19870801 新潮文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101405042
     
     
    (20231128)

  • 今日はちょっとレトロなこんな本。


    『恋文』 連城三紀彦 (新潮文庫)


    五編収録の短編集である。

    時代背景は古いものの、不思議とするりと物語世界に入り込め、知らず知らず引き込まれてしまっている。
    この読む者を引きずり込む“力”はいったい何なんだろう。
    どの短編もそれぞれ違った色を持ち、一つ一つが骨太で、個性を放っている。


    一番印象に残ったのは、「紅き唇」。

    新妻を亡くしたばかりの和広と、義母のタヅとのちょっと変わった同居生活。
    その裏には、タヅの数十年越しの秘密があった。
    “真紅の口紅”というアイテムが効いてるね。
    パチンコ台で、パチンコ玉を涙に見立てて泣くシーンが秀逸。
    この楽しい企みにまんまと利用された優しい和広と、いたずらっ子の少女のようにお茶目なタヅさんの組み合わせがとてもいいと思った。


    「十三年目の子守歌」もよかった。

    この作品は、初めから終わりまで主人公の独白で進む。
    誰かに身の上話をしているらしい。
    “てにをは”の極端に少ない話し言葉は飾り気がなく、素のままの主人公の勝手な思い込みや、被害妄想や愚痴がぶちまけられていて面白い。
    いわゆるエディプスコンプレックスの話なのだが、三人の男たち(亡父も合わせると四人か)の揺れる心が、巧妙に仕掛けられた人間関係の綾に絡められ、唸らせられる。

    父に対する憎しみを自分が理想的な父親になることで昇華させようとした新次が、それでもやっぱり反抗という行為を通して父にこだわり続けていた、というのが、庭石に缶を投げるラストシーンに収束されていて、悲しいようなそれでいてかえってすっきりしたような、不思議な気持ちになった。


    表題作「恋文」では、典型的な“だめんず”&年上妻と元カノの三角関係というややこしい話なので、すごくドロドロした感じなのかと思っていたのだけれど、意外と爽やかな読後感だった。


    「ピエロ」はちょっと怖いかもしれない。

    「俺なら、いいよ」というのが口癖の“髪結いの亭主”・計作。
    自分の仕事を辞めて、妻の美木子を支えた。
    文句も言わずに下働きをし、ひょうきんな言動で客を笑わせ、場を和ませる。
    何をやっても何を言っても、冗談にしか見えないピエロ。

    しかしある日、突然計作は出て行くのだ。
    本当は、妻を陰で支えていたのではなく、髪結いの亭主という笑われ役でスポットライトを浴びていたのは計作の方だったのではないか、と美木子は思う。
    本当はどうだったのか、結局最後まで分からないまま、美木子の、計作への未練ともいえる思いだけを残して、ストンと物語の幕は落とされる。

    ……ものすごく気になる。
    計作という人物の存在が妙に後を引く。
    それは自分も知らず知らずのうちに、この謎のピエロが主役の舞台の観客にさせられてしまっていたからだろうか。


    「私の叔父さん」は、少女から大人になる途中の女性の気持ちを、なんでアナタこんなことがわかるのですか、と作者に聞きたくなるほど丁寧に描いている。
    ここに出てくる45歳のカメラマン・構治も、チャラ男ではあるけれどどこか惹きつけられるものがある。

    彼による“大人”の定義。

    「大人ってのは嘘をつくことじゃなく、“つける”こと」

    「本当のことでも言ってはいけないことなら口に出さない人のこと」

    むむ。なるほど。

    夕季子と夕美子を明らかに重ねて見ていながら、構治が夕美子との結婚を決める場面に、男の覚悟を見た気がした。


    「あとがき」が素晴らしい。
    何と優しい文章なのだろう。


    地道に毎日を生きている人々の心の機微がさらりとした綺麗な文章で綴られている。
    出会えてよかったと思える本でした。

  • 恋愛モノは普段読まず、タイトルで積読だったけど、読んでみたららこれは格別な作品だった。他の連城作品を読んでみたいと思った。

  • 少しじれったい、このドキドキ感はとても懐かしい。

    この頃、映画『私をスキーに連れてって』が大ブームとなり、夜の街では「ディスコ」が流行り、若きユーミンやサザンが青春を歌う…。
    古い価値観が崩壊し、新しい時代をみんな模索していた。

    恋愛感もこの本の通り、どこか「新しくて古い」妙なバランスを保って、細い糸の上を粋がって走っていた。

    ここにある話は、みな、ありそうでなさそうな、内緒の話…。

  • 大人の恋をえがいた五つの短編を収録しています。

    「恋文」は、郷子の夫・将一が、死の床にある江津子という女性のもとに去っていく話。夫婦がたがいのことを深く理解しあっているために、悲しい結末へと導かれていくストーリーを、わがままを通すことのできない場所へと閉じ込められてしまった郷子の視点からえがいています。

    「紅き唇」は、結婚したばかりの妻を事故で亡くした和広と、妻の母・タヅとの暮らしがえがかれます。和広の恋人・浅子によるタヅの心情の「種明かし」が、物語の軽妙さと静謐さを併せもった雰囲気を壊してしまっているような印象もあって、もうすこしスマートなオチはつけられなかったのだろうかと残念に感じました。

    「十三年目の子守唄」は、料亭を営む母が若い男と結婚し、自分の居場所がなくなったように感じている息子の物語。まさに短編ミステリといった内容で、他の四編とはちがった作風になっています。

    「ピエロ」は、美木子のことを深く理解しているように見えた夫の計作が、美木子の営む美容室の若い女性と家を去っていく話。計作が、美木子の望むことを先回りしてこなしているうちに、自分自身の心がどこにあるのか、美木子にも彼自身にも見えなくなってしまうという話でしょうか。

    「私の叔父さん」は、東京でカメラマンをしている構治のもとに、死んだ姪の夕希子の娘・夕美子がやってきて、かつて構治と夕希子のあいだで起こった心理劇を再演することになる話。子どもから大人になろうとする夕美子のみずみずしさが、少し人生にくたびれた構治の視点からうまく描写されています。

  • 私がまだ小娘だったン十年前、初めて触れた大人の恋愛集。
    切なくて、依怙地で、淋しくて、嘘つきで。なのに、どうしてこんなにも美しいのか…心が震える、と言う体験をした初めての本。今、こうして読み返しても、全く変わらない静かな感動とあたたかな余韻。本物の愛情ってこういうことなんだ…

  • 直木賞

  • 視点が女だったり男だったり。どちらも面白い。

  • 「恋文」「紅き唇」「13年目の子守歌」「ピエロ」「私の叔父さん」の5編からなる短編集。どれもが情緒的、美しい言葉で心の柔らかい部分を刺激するような物語。
    標題作の妻の強がり、紅き唇の義母の女心、私の叔父さんの叔父さんのついた大人の嘘・・・どれもが哀しく、心に染み入る。叔父さんが最後に吐いた大人の嘘が彼本人も、夕美子も幸せにしてほしい。
    筆者のあとがきも秀逸。手元に置いて何度でも読みたいと思える数少ない作品の一つになった。

  • 悪くないんだけれども男目線の、いやおっさん目線の小説かなぁ。発想と言い、観点と言い。別に悪くはないんだろうけれども、その身勝手さが直感的に分かるような気がして何だかなぁという感じ。要するに当方も歳を食ったということなんでしょうが、その設定・オチは無いわなという感触を捨てきれないのもまた確かではあります。

  • <淡くも濃くも,ひとしだい>
    その話もドラマティックで,少しのさみしさを感じる.
    「紅き唇」はセピア色,「私の叔父さん」はインディゴブルーな映像が似合う.
    自分の生まれる前の作品でも,今読んでもグッとくるものがあると,やはり連城三紀彦は凄いといか言えなくなる

  • 読後にしみじみとした余韻をもたらす5編の短編集。
    いずれの作品も、登場人物の秘められた想いに焦点が合わされている。

    「恋文」
    文学性の高い作品で、50ページ足らずの中にいくつもの名場面がある。
    主要な登場人物は、響子、将一、江津子の三人。この三人の感情が交錯し、時に爆発して、微妙な恋愛模様を織りなしていく。三人とも心中に隠し持ったものがあり、それが最後に明らかとなる。作中に「恋文」がいくつか出てくるが、響子から将一への恋文が出色。
    ラストで響子の問いかけに対して、将一が首を振る場面があるが、将一は首を横に振ったのであろうか、それとも縦に振ったのであろうか。

    「紅き唇」
    主人公の和広とその義理の母のタヅを巡る物語。
    タヅの語る昔話が印象的であり、口紅が重要なアイテムとなっている。最後まで読むと、タヅの秘めた想いが判明する。パチンコの景品として口紅を選んだことに、重要な意味があることがわかる。

    「十三年目の子守歌」
    オチの意外性は、本短編集中でも一番。
    突然、実家に舞い込んできた年下の義理の父親への反感が切々と綴られていくが……。
    主人公の知らない秘め事があり、それが判明した時、「ああ、そういうことだったのか」と思わずのけぞってしまった。「父さんと呼べ」という言葉にそんな意味があったとは。
    父親への想いが、この作品の底流にある。

    「ピエロ」
    「いいよ、俺なら」が口癖で、決して怒らない夫の計作に一抹の寂しさを感じ、浮気をしようとする美木子。美木子の視点で語られるこの話は二転三転し、二段構えのどんでん返しが用意されている。
    飄々として、常にピエロのような道化役を演じている計作の人物造形がすばらしい。計作の道化に隠された真意はどこにあったのだろうか。

    「私の叔父さん」
    四十五才の構治、19年前に20才で亡くなった姪の夕希子、その娘の18歳の夕美子が主要な登場人物。夕希子が亡くなる前に撮られた五枚の写真が重要なアイテムとなり、夕希子の秘められた想いが明かされる。
    夕美子が突然予想外のことを言いだし、ひと騒動起こる。それに対して、構治が取った態度も意外であり、ひとつの想いが結実する。

  • 1984年上期:第91回直木賞受賞作品。

  • 時代を感じるが、繊細でとても切ない作品集。

  • 連城さんの作品だから、最後に何かがあるんじゃないかと身構えながら読んでいましたが、表題作の「恋文」は直球勝負でした。
    私には妻の心情はちょっと理解しがたいですが……。
    「十三年目の子守唄」と「ピエロ」はちょっとトリッキーで、十三年目の方はこうくるかと意表をつかれました。
    一番好みだったのは「私の叔父さん」で、過去の叔父と姪の叶わなかった禁断の愛情がベースになっていて、カメラマンの主人公が撮影した姪の5枚の写真にやられました。
    「アイシテル」のサインはテールランプだけじゃないんだね。

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著者プロフィール

連城三紀彦
一九四八年愛知県生まれ。早稲田大学卒業。七八年に『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞に入選しデビュー。八一年『戻り川心中』で日本推理作家協会賞、八四年『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞、同年『恋文』で直木賞を受賞。九六年には『隠れ菊』で柴田錬三郎賞を受賞。二〇一三年十月死去。一四年、日本ミステリー文学大賞特別賞を受賞。

「2022年 『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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