- Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101444598
感想・レビュー・書評
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非常に大作の本書だが、後半に行くほど内容に引き込まれてくる。
最終巻の本書は小諸城を中心とした真田家との闘いから一気に大坂の陣戦後に至る。関が原や大坂の陣の描写があっさりしているのも特徴的。
なにしろ主人公の平助の人生に武士の清々しさが象徴的に描かれていた。
内容の濃い一書だと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
天正壬午の乱から描かれる。第一次上田合戦は徳川の失態である。真田昌幸は徳川家康に服従したが、家康は北条氏と勝手に和議を結び、真田が支配している上野国沼田を北条に帰すように取り決めてしまった。昌幸が家康の不誠実を怒ることは当然である。
これに対して、徳川には異なる視点がある。「昌幸に戦略の才があるのであれば、それを自領の保存にだけつかうのではなく、秀吉と戦って負けぬほどの実力をそなえた家康の計略を翼けて、家産を倍増するほうが利巧なのではないか」(74頁)。このような発想は一所懸命の武士を否定して、立身出世の役人根性を蔓延らせる。昌幸に感情移入する。
家康自身は岡崎、浜松、駿府、江戸と本拠を移している。三河武士のイメージと異なり、家康には本拠地へのこだわりは弱かっただろう。小田原征伐後の関東移封も豊臣秀吉の嫌がらせというよりもチャンスと前向きに考えたかもしれない。
第一次上田合戦は徳川が惨敗した。第二次上田合戦と共に家康が陣頭指揮しなかった戦争である。このような場合の徳川の兵は脆い。「家康が観ているところでは必死に戦い、家康の目のとどかないところでは惰傲である」(117頁)。織田信長は明智光秀や羽柴秀吉、柴田勝家ら有力家臣を方面軍司令官とし、自分が直接指揮しなくても戦争が進むようにした。それに比べると家康は個人で持っている。これは徳川家の伝統になった。戊辰戦争で当初兵力に勝った徳川が敗北したことも慶喜が陣頭指揮せずに恭順に徹したことが大きい。
家康は小牧長久手の合戦後も秀吉との再戦を覚悟していた。家康の戦略は縦深防御である。本拠地を上方から離れた駿府に移し、秀吉の軍勢を三河、遠江と侵攻させて疲弊させる。この戦略では岡崎城を守る石川数正が真っ先に秀吉の大軍とぶつかることになる。「岡崎城の石川数正は秀吉軍を停滞させるのが役目で、落城とともにかれは死ぬ」(133頁)。
ところが、数正は出奔して秀吉の臣下になる。人質時代から家康に仕え、重臣中の重臣であった数正の出奔の動機は謎に包まれている。徳川家中の徹底抗戦論を潰すために家康との阿吽の呼吸で動いたとする説があるほどである。しかし、単純に捨て石として切り捨てられることに反発した可能性がある。
数正の出奔によって徳川家中は動揺した。信濃に遠征している徳川家臣は故郷の岡崎の様子が気になり、一刻も早く本国に戻りたい。とはいえ、信濃を放棄する訳にはいかず、誰かに留守を頼みたい。信濃を守ることは上杉景勝や真田昌幸の攻撃に孤立無援で耐えなければならず、貧乏くじを引くことになる。
大久保忠世は「信濃に留まった者には知行をとらせる」と恩賞をちらつかせて、引き受け手を見つけようとした。しかし、引き受け手は出なかった。忠世は弟の彦左衛門に頼むが、拒否された。彦左衛門は以下のやり取りで引き受けることを了解した(149頁)。
「何の望みもなく、いのちを捨てて、ここにとどまってくれまいか」
「そうであれば、心得申した。知行にたずさわるのではあれば、なかなか覚悟におよばなかったが、いのちを捨てよ、と仰せであるのに、いやと申せません」
このやり取りは味がある。これは現代のビジネスにも該当する。貧乏くじを引かせるならば相手を使い潰すだけの覚悟を持って進めるものである。人は役割に基づいて仕事をしている。役割に反する仕事を押し付けられたならば反発する。組織が人にやらせたいことがあるならば、きちんと役割を定義することが筋である。
きちんと役割を定義することができない。しかし、誰かにやってもらいたい。それなのに使い潰すだけの覚悟もないという保身第一の役人体質の卑怯な人間は能力のありそうな人に押し付けて、これまでのスキルと能力を活用して頑張れと要求する。これは最低である。それを適材適所と良いことであるように考えるならば、役割(ロール)を理解していない。ロールベースならば適材適所ではなく、適所適材である。
点数稼ぎのヒラメ役人体質ならば押し付けられて喜ぶかもしれないが、役割を考える人間ならば、役割に反することを押し付けられて、その仕事が評価されても「馬鹿にするな」と言いたくなる。役割に反する仕事を押し付けなければならないならば、「仕事ができなくて当然だ」くらい言うものである。「担当外の仕事も果たした」と評価するならば、まるで本来の担当の仕事ができないから担当外の仕事をしているように聞こえられる。それは担当者を貶めるマイナス評価になる。 -
2023/1/3読了。南信濃への侵攻後、真田昌幸を追い詰めるも平助の『大久保は一門を挙げて広忠(家康の父)に忠を尽くしたにもかかわらず、優遇されなかったが、それでも松平家あっての大久保家であることは疑う余地はない。』と言う思いはこの小説に一貫して感じされる。封建時代の忠臣の忠義とは一体何か?ただ、これは大久保家だけではなく御家そのものが主家の感情で断絶に至った一門もさぞや多かったことだろう。なんとなく重くなる話。
家康の心の変化→つまり関ヶ原の合戦の頃から、
『思考と目配りに偏側が生じている』と、大久保彦左衛門忠教は見た。家康の異様なほどの猜疑心。
ここに後年の家康への評価が著しく分かれて行くのか?殺戮と心の荒廃を感じる。 -
一向一揆。石川助四郎和正(のち伯耆守)、本多弥八郎正信(のち佐渡守)の知謀が語られる。
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【作品紹介】
本能寺で信長が斃れ、天下は秀吉が簒奪した。大久保一族では彦左衛門が成長し、忠世・忠佐の奮戦を支え続けた。上田攻めでは真田昌幸、大坂の陣では幸村の深謀に苦戦しつつも彼らの忠義は一瞬たりとも揺るがなかった。やがて、家康は天下を掌握し、忠世・忠佐とも大名となるが……。大久保一族の衷心と、家康の絶望的な冷淡。主従の絆の彼方にある深い闇を描く歴史雄編堂々の完結。
【感想】
三国志以来の宮城谷作品だったが、相変わらず登場人物が多くて、理解するのに一苦労。
ただ、史実に近い内容なので、歴史を知るのには大いに役立つ。
家康はどの小説でも、どちらかと言えば善人、我慢の人に描かれるが、ここまで冷淡かつ復讐心の強い人物にあがかれているのは初だった。 -
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978-4-10-144459-8 426p 2011・4・1 ?
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歴史小説の第一人者が描く徳川家康に仕えた大久保一門の年代記。大久保彦左衛門の「三河物語」を下敷きにしているが、著者の眼差しは遥かに遠く、歴史とは何か、義とは何か、を問いかける。全編を通して透徹した語り口が印象的であった。
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家康は天下人に上り詰めていく。大久保一族と家康配下の武将たちとの争いが描かれている。
家康をずっと支えてきた大久保一族への仕打ちが非常に哀しい。信康を失った悲しみがあるのかもしれないが。