遭難者の夢―家族狩り〈第2部〉 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101457130

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  • 巣藤が「家族をつくること」をおそれる理由が見えてきたところ。隣家の惨状を見てしまい茫然自失の巣藤は少年たちによる大人狩りに遭い、まさに泣きっ面に蜂。恋人との関係もこじれにこじれ、ようやく自分にも何か少しは出来ることがあるかもしれない、というところまでいきつく。

    馬見原は退院して人が変わったように明るくなった妻の変貌についていけず、ますます事件の真相究明にのめり込む。
    警察は【麻生家の事件】は達也の無理心中説で送検しようとするが不審な電話を彼は無視できない。そんな折、彼に家族を奪われたと恨みをもつ油井も周囲をうろつきだし、、

    犯人の異常性が明らかになるとともに、家族の在り方や現代社会における問題点…さまざまな角度から疑問が投げかけられ答えも出せず重苦しくなってくる。

  • さらに鬱になる展開に…。

    過去の男と対面する淑子。妻が亡くなって淑子にすがろうとした昔の男。その隣にいる子供に優しくママの代わりは誰も出来ない、と再婚の可能性を否定する。自分(親)の幸せと子供の幸せを秤にかけるようだけど、淑子は子供の幸せ一択。
    その高潔さと潔癖は何から産まれたんだろう。
    と思ったら、バイト先の子から相談されて、その後に自殺未遂をされたから、か。
    自分の無力感と向き合い、心理学を専門的に学ぶという克服方法を選んでも、解決とは何かを定義できない家族問題と関わる。
    ケースによって達成感と挫折感を味わう両極端なお仕事。頭が下がる。

    自分の言いなりだった妻の自立に戸惑い、出所して妻に接触してきた綾女の元旦那、油井に歯噛みし、子供の親殺しに納得できないまま事件を追う馬見原。
    子供の親殺しの事件に他者の介入があった可能性が発生し、子供が親を残酷に殺せるはずがないという思いを胸に捜査する。

    死体発見の衝撃から、少年グループに暴行され少年グループがトラウマになる巣藤。
    自分がケアされる側になって、初めて淑子達のような身近な相談員の重要性と仕事の大変さを想像できるようになる。

    摂食障害になる生徒はホームレスを襲う少年らと、それを見て笑う友人の姿に違和感を覚える。
    紛争地域の子供達は命の危機にある。日本は衣食住に困ることはないから、自分は不幸だと思ってはいけない…と言われても、経験したことがないものはあくまで想像で、中身が伴わない。
    居丈高に叫ぶ教師は、ならなぜ今すぐアフリカの支援団体に所属しないのか。日本という国に生まれながらホームレスになって襲われている人と優先度は何が違うのかという問いに答えることができない。

    いずれも、自分の家族に対して直視できないという歪な状態。でも、自分に関係あるからこそ、一番対峙するのがキツい。仕事なら割りきれるからね。

    世界の惨状を放送する意味ってなんだろうと考える。
    ひどい事件だねぇ、と言うだけで何もしない、気にしない大人達に対して、静かに無力感を募らせている子供がいることについて考えてもいなかったので、少し衝撃だったかも。
    何でもすぐに知ることができる分、情報に対して、正しいか、今必要か、自分に本当に必要か、膨大な数の判断をしなければならない。
    自分1人で何もできないような壮大な問題に対して、知りたくなくても読まされる。聞かされる。自分に何ができるか考えるよう強要される。興味ないと言えば叱責される。
    自分の家族、地域など、幼い頃は自分の世界が狭くて、そこから自分の行動範囲が広がって、交遊関係が広がっていった。
    でも今は最初から世界と繋がっているから、幼い頃からどう世界と付き合うのが子供にとって負担にならないのか考えて、媒体を与えた方が良いのかもしれない。

  • あるべき家族の形というものがると思う。
    それから逸脱する形もあるのだろうと思う。
    彼は何を示したいのだろう。
    まだ先はわからない。

  • 二次元だからこそ、三次元に楔を打つことができる。それを改めて感じた。普段、考えているようで考えきれていないこと、見ているようで目をそらしていることが、これでもかというくらいに顕されている。この世界は家族の集合体なのだ、と感じた。

  • 自分がどうやって生きていられるのかということを 真剣に突き詰めようとすればするほど 偽善と矛盾に苛まれることになる、ということを ほとんどの大人は気づいているにもかかわらず 気づかない振り 見ない振りをしているのが現状ではないだろうか。そんな偽善や矛盾に真っ向から目を合わせてしまった者の苦しみは 抜け出すことのできない無間地獄のようなものであろうことは 想像に難くない。そして そんな風に苦しむのはたいていの場合 純粋な若い者たちなのであり それ故苦しみはより深いものとなるのであろう。
    世渡りが上手くなってしまった大人たちには そんな若者たちの心の叫びが もはや届かなくなっているのかもしれない。

    浚介は どうもまた厄介な場所に近づいているようだし、馬見原は 何かに引っかかっているようだ。第三部での展開が気が重くも楽しみである。

  • 登場人物の一人一人がそれぞれ問題を抱えている。
    それらが、微妙に絡み合ってる。
    おもしろいぞ。

    重いけどね。

  •  このような作品を読んでいると、人間の心の危うさ、脆さを実感してしまう。多分、どの人も皆生きづらいのだと思う。確かに現代日本は紛争もなく、平和と言えば平和なのかもしれない。しかし、それは人々の鬱屈した気持ち(言いたいことを言えない、誰もわかってくれないなど)の上に成り立っているものであって、かなりの危うさを秘めている。それが少し噴出したものがSNSでの誹謗中傷などなのかもしれない。
     誰かが誰かを傷つけ、その傷つけられた人がまた他の誰かを傷つけ、それが永遠と繰り返されているように感じてならない。我々の心は一体何を求め、どこに向かっているのかと、ふと思う。

  • 記録

  • かなりの長編だけど、一気に読むことが出来た。
    サイコな描写はあまり気にならず。人間の深い部分がよく描かれている。

  • ちょっとだけおっかない作品ですが、
    面白かったです

  • 【いちぶん】
    祈るしかない。游子はよくそう思う。最終的には、相談を受けた家族の将来や、子どもたちの幸いについては、祈るしかない。
    (p.129)

  • 登場人物みんながそれぞれ違った問題を抱え、それでもなんとか向き合いもがきながら頑張ろうとしています。ドラマでは現代社会を鑑みて設定を変えているところがありますね。話は登場人物たちを複雑に絡めながら少しずつ展開していきます。途中亜衣がホームレスの病人と出会い、心の中で絞り出すように叫ぶ「地理の先生、どうすんのよっ。」という言葉が印象的でした。ラストにはまたここではやめられない気になる展開が…。脇役の一人だと思い込んでいたある「彼」がここへきてやたら気になってきました。

  • 評価は4.

    内容(BOOKデーターベース)
    あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、さらなる痛みを味わう。游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。亜衣は心の拠り所を失い、摂食障害から抜け出せずにいる。平穏な日々は既に終わりを告げていた。そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、男がふたたび野に放たれたことを知る。自らの手で家庭を破壊した油井善博が―。過去と現在が火花を散らす第二部。

  • 徐々に壊れていく家族や個人。
    電話相談に寄せられる叫びは、ときに切羽詰った状況で相談員にはどうすることもできない。
    子どもが両親と祖父を殺害し自殺した・・・と思われている事件では、事前に電話がかけられていたにもかかわらず、誰もその重要性には気づかない。
    異様な現場を見たために精神の安定を欠いてしまった美術教師。
    彼はその後、あらたな事件に巻き込まれ内なる恐怖を抱えながら生活することになる。
    児童相談員は、保護してきた少女の父親とのトラブルに悩んでいる。
    どうしたら少女のためには一番いいのか、いまできることを考えながらも、ずっと保護し続けることなど出来ない現実も理解している。
    一家4人が死亡した事件の捜査を諦めきれない刑事は、かつて自分が逮捕した男が出所したことを知る。
    実の子どもを虐待し収監された男は、刑事の家や子どもの学校にも姿を現すようになった。
    復讐、そして元妻を取り戻すこと。
    それが男の狙いだった。
    生まれたときから人は一個の個人として尊重されるべきものかもしれない。
    でも、実際には親の加護がなければ一日だって生きていくことはできない。
    その過程で、まるで所有物のように錯覚してしまうこともあるだろう。
    子どもは子どもなりに考えている。
    何も考えていないわけではない。十分に考え、そして感じているのだ。
    親子の関係は身近すぎて他者からは本当の関係性などみえないと思う。
    どんなに幸せそうに見えても、どんなに不幸そうに見えても、当事者が何を感じているのかなんてわからないはずだ。
    児童相談員の虐待児童への過剰な対応。
    刑事の子どもが絡む事件への異常な執着。
    美術教師の家族への本能的な嫌悪感。
    第3部ではどんな展開が待っているのか。
    出来るならば救いのある結末であってほしい。

  • このサイコパスは誰だ…それぞれが悩みや壁にぶつかりながらもがく二巻目。事件は刻々と進んでいく。天童荒太、人を引き込む魅力はどこにあるんだ…?

  • どこか問題を抱えた家族を、複数のパターンで描きながら、それぞれが微妙に絡まりあって、影響し合って、進んでいく物語。今のところ、殺人現場の残虐さにはゾッとさせられるものの、それ以外の展開がそれほど斬新なものではないせいもあり、そこそこの印象。犯人像が浮かび上がってくるにつれ、興味深い展開になってくることを期待。

  • 新たな事件と同時に主な登場人物の物語をさらに掘り下げた2部。ミステリー要素が強くなり退屈しないでスラスラ読めた。
    当初全く繋がりのなかった赤の他人が運命のいたずらで交じり合い、関係を持つ過程が面白い。

  • ドラマ化

  • 馬見原も危ういけど、浚介も危うくなってきた。

  • 事件現場を見てしまった巣藤は、その光景を忘れようとお酒に溺れる。
    遊子は、虐待されていた少女とその父親に悩まされていた。父親とは衝突し、憎まれることになる。
    亜衣は、摂食障害から抜け出せず、心が不安定な生活を送る。
    馬見原は、綾女の夫が出所し、追っていることを知る。
    色々な問題がからむ第二部。

    ころころ場面が変わりながら、進んでいく。はやく先が読みたい。

  • 生きるということ、何をもって幸せと呼ぶのか。
    紛争地とこの国を比べ、それに対してどうしたらいいのか誰も教えてくれないと苛立つ少女。
    不登校や家庭内暴力に走る、心に闇を持つ子供たち。
    親と子供の関係の危うさや脆さを感じずにはいられない。

    2015.2.23

  • 良かった

  • あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、さらなる痛みを味わう。游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。亜衣は心の拠り所を失い、摂取障害から抜け出せずにいる。平穏な日々は既に終わりを告げていた。そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、男がふたたび野に放たれたことを知る。自らの手で家庭を崩壊した油井善博が…。過去と現在が火花を散らす第二部。

  • 第一部同様最後が読んでいてちょっと辛いです。

  • 第2部。

  • レビューは最後に。

  • 2014 夏休み

  • 決して読んでいて気持ちがいい話ではない。だが目をそむけてはなるまい。

  • 自分の居場所が見つからないという意味で遭難者

    登場人物一人一人が心に傷を持ち、それを隠すように感情を持たなかったり、いい子であろうとしたり、仕事に打ち込んだり・・・

    その心の傷は、それぞれの家庭で出来たものというところが悲しい。

    『憎む』という感情が家庭で生まれたのなら、それを打破できるのはまた家庭なのかもしれないと思いました。

    不器用な生き方しか出来ない登場人物たちが、少しずつでも変わっていくことに期待して・・・

    第3部の『贈られた手』につづく。。

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著者プロフィール

天童 荒太(てんどう・あらた):1960(昭和35)年、愛媛県生まれ。1986年「白の家族」で野性時代新人文学賞受賞。1996年『家族狩り』で山本周五郎賞受賞。2000年『永遠の仔』で日本推理作家協会賞受賞。2009年『悼む人』で直木賞を受賞。2013年『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞する。他に『あふれた愛』『包帯クラブ』『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』『静人日記』『ムーンナイト・ダイバー』『ペインレス』『巡礼の家』などがある。

「2022年 『君たちが生き延びるために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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