すえずえ しゃばけシリーズ 13 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101461342

作品紹介・あらすじ

若だんなの許嫁が、ついに決まる!? 幼なじみの栄吉の恋に、長崎屋の危機……騒動を経て次第に将来を意識しはじめる若だんな。そんな中、仁吉と佐助は、若だんなの嫁取りを心配した祖母のおぎん様から重大な決断を迫られる。千年以上生きる妖に比べ、人の寿命は短い。ずっと一緒にいるために皆が出した結論は。謎解きもたっぷり、一太郎と妖たちの新たな未来が開けるシリーズ第13弾。

感想・レビュー・書評

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  • 畠中恵「しゃばけシリーズ」13作目(2014年7月単行本、2016年12月文庫本)。短編5話の短編集だが、5話はそれぞれの登場人物の行く末がテーマで繋がっている。1話目は栄吉、2話目は寛朝、3話目はおたえ、4話目は仁吉と佐助、5話目は妖達だ。

    1話目<栄吉の来年>
    栄吉に縁談話が持ち上がっていた。相手は菓子屋「中里屋」の通い番頭、権三郎の長女のおせつ18歳。権三郎には妻と娘二人がいる。妹の名はお千夜14歳、息子もいたが亡くなっている。
    栄吉は一太郎にこのことを何故か話そうとはしなかった。
    妖達が噂を拾ってくるとおせつには別の男の影があり、その男にはまた別の女の噂があった。男の名は正之助、櫛職人だった。女の名はお富、女髪結いで正之助はお富からかなり借金をしていた。
    実は正之助は栄吉の前のおせつの縁談相手だったが、櫛の勉強に京へ行く考えでおせつも連れていくつもりだった。しかし江戸に置いておきたかった権三郎の反対で無理やり栄吉との縁談を進めたらしい。正之助は京へ行くのを諦め、代わりに高直な櫛を買い求め、手本に修業しようと多額な借金をお富だけでなく、危ない金貸しからもしていた。
    何故か栄吉は自分のなけなしの蓄えからお富へ返済しようとしていた。そして何故か妹のお千夜が栄吉をそのことで叱咤していた。おせつへの変な中傷誹謗が広がるのを防ぐために栄吉はお富への借金を肩代わりしようとしたのだが、それで解決するはずはなかった。剣呑な金貸しから暴力的な取り立てが始まったからだ。
    この事態を一太郎が解決するのだが、一太郎は栄吉の好いているのはお千夜でお千夜も栄吉を好いていると感じ取る。
    一太郎は栄吉に正之助に集めた櫛を全部売って借金を返させないと 何も始まらないと助言。あとは栄吉が考え仕切り、おせつと正之助の京行きの後押しと権三郎への策を決めた。
    栄吉とお千夜の将来が決まった。

    2話目<寛朝の明日>
    広徳寺の寛朝の元へ六鬼坊の連れだと言う天狗の黒羽坊がやって来る。小田原の「西石垣寺」の高僧二人が怪異に食われたと言う。残された僧が寛朝に救いを求めており、小田原まで来て欲しいと言う。その場に居合わせた一太郎は猫又のおしろと貘の馬久を同行させる。小田原までの最初の宿場、戸塚宿には猫又が大勢いることで有名でおしろの知り合いの虎もいる。怪異の情報が取れるはずと言うことでおしろが一太郎に指名された。馬久は悪夢を食べる貘で夢の中で一太郎と馬久が交信できるのだ。同行が許されない一太郎は夢の中で道々での情報を得るつもりだ。今回おしろは男性に化けているので名は四郎とした。
    小田原手前で一太郎は怪異の噂がないことや黒羽坊にも何か違和感を持ち、寛朝に小田原行きを中止するように言うが時遅く、天狗に囚われの身となってしまう。首謀者は怪異に食われたはずの「西石垣寺」の高僧、年老いた天狗の僧二人だった。二人は高僧である寛朝を食らって妖力を取り戻そうとしていた。黒羽坊は自分の痛んだ羽を寛朝に治して貰うために片棒を担いでいた。
    夢の中での一太郎と馬久の交信と大勢の猫又が踊る“猫じゃ猫じゃ踊り”が寛朝達の窮地を救う。
    寛朝は黒羽坊を許し、弟子を探していた寛永寺の寿真に紹介し、黒羽坊は寿真の弟子となる。一太郎から寛朝への馬久を通した助言だった。同時に聞いた天狗達は老天狗二人を連れて深山へ飛び立って行ったのである。

    3話目<おたえのとこしえ>
    藤兵衛が上方へ商いで行っている留守に大坂で米会所で仲買いをしていると言う相場師の「赤酢屋」七郎右衛門と言う男が「長崎屋」を訪れて来る。藤兵衛がいないことを承知した上で無理難題、理不尽な事を言って来る。「赤酢屋」が大坂で藤兵衛に江戸まで荷を運ぶ商いを頼んだが、期限までに着いていなかったと言う。証文を交わしており、期限までに着かなかった時は、「長崎屋」を「赤酢屋」に明け渡すとう言う証文だった。おたえも一太郎も証文は偽物だと気づくが、「赤酢屋」は手を替え品を替え引き下がらない。
    一太郎は「赤酢屋」のことはおたえに任せて、藤兵衛を探しに大坂へ仁吉と佐助と金次を携えて船で向かう。
    港に着くとどう言う訳か七福神の大黒天と弁財天と寿老人が姿を見せて一太郎を助けると言う。おたえが江戸で大量のお供え物でお参りした結果らしい。貧乏神の金次は、自分が「赤酢屋」を破産させるから無用だと断るが、3福の神は退くはずはなく、1貧乏神対3福の神の対決が始まる。そして米会所で米相場の乱高下の末、福の神は大儲けをするのだが、一太郎は全部取り上げて大損をした相場師達に貸し倒れ承知の上で当座資金に金を貸した。そこで相場師から
    「赤酢屋」の貴重な情報を得るのだった。即ち先月既に破産していることを。
    藤兵衛の所在については、藤兵衛からおたえにやっと文が届き、状況が細かく書かれていた。大坂の港を出た後、水主の多くが具合悪くなり寝込んでしまった。急ぎ大坂へ戻ろうとした時、船底が壊れ水漏れが続いた。小舟で逃げ出した水主がいたと言う。常盤丸はその後運良く小さな漁村に漂着し、水主達が治り、船底の修理を終えてやっと江戸への文を書いたと書かれてあった。
    「赤酢屋」が水主の一人を買収し、策を練って船が江戸へ戻れないようにしていたのだった。
    そして一太郎からも「赤酢屋」破産の情報が飛脚よりも何十倍も早い驚きの方法でおたえに伝達されて来た。米会所が相場の終値を伝達している方法を真似て、朝送った情報は午後には着いていた。
    藤兵衛の文を話しても惚ける「赤酢屋」も破産の件をおたえが言うと「赤酢屋」は驚き、やっと認めて諦めるのだった。
    程なく一太郎と藤兵衛は同じ頃におたえの元へ帰って来た。「長崎屋」に、おたえに日常が戻って来た。なにも変わらないいつもの日常がとこしえに続けば一番の幸せだとおたえは思うのだった。

    4話目< 仁吉と佐助の千年>
    大坂の米会所の相場で儲けた福の神から取り上げた大金を、金策に困った相場師達に貸し倒れ覚悟で一太郎は回したのだったが、一筋縄ではいかない相場師はその資金で大儲けし、さっさと返金して来た。その金で仁吉と佐助は火事で壊されたとなりの長屋の土地を買い、二階建ての8戸長屋と1戸の一軒家を建てた。
    噂は長崎屋の若だんなが大坂の相場で大儲けし、裏の土地を買って長屋を建てたという風に通町駆け抜けた。
    そうすると今まで病弱な若だんなと言うイメージがガラッと変わり、次から次へと縁談が持ち込まれた。一太郎の嫁取りという事が具体的になると大きな問題が浮かび上がってくる。長崎屋の離れに居たり、やって来る妖達のことだ。嫁が藤兵衛のような鈍感で能天気とは限らない。妖達のことを知ると大騒ぎになって長崎屋の存亡にも影響を及ぼすかも知れない。一太郎にとっても仁吉と佐助にとっても重大な決断を迫られることなのだ。
    そんな時、仁吉はおぎんに荼枳尼天の庭に呼ばれ、佐助は弘法大師ゆかりの四国の「小龍寺」に呼ばれてそれぞれ向かう。
    仁吉はおぎんに一太郎の元を離れて荼枳尼天の庭に来ないかと問いかける。一太郎の縁談の話は耳に入っていて、妖達との暮らしは続けられないと言い切る。仁吉と佐助が居ては、妖達は出て行かない。人の一生は短い、すぐに仁吉は一太郎を看取ることになる。嫁取りの話はきっかけに過ぎない、一太郎が妖達との生活を変えないで嫁取りをしても仁吉は帰って来いと言う。そうなるといづれ長崎屋は立ち行かなくなり、夜逃げすることになるかもしれない。その準備もしておくと言う。
    佐助の四国行きもおぎんが画策したことであった。
    「小龍寺」に出向いた佐助は海円と言う僧から、四国の地にいる犬神が人に取り憑いたり祟ったりして困っている。佐助が弘法大師ゆかりの犬神だと知った上での相談だった。そして佐助の長崎屋での状況もおぎんから人を介して聞いており、ずっと「小龍寺」に留まってくれないかという依頼だった。
    一方長崎屋の離れでは、久し振りにに「中屋」の於りんが遊びに来ていた。6歳だった於りんも9歳になっていた。一太郎が呼んだのだが、そこへ一太郎の縁談話が上がっていた3人の娘と仲人3人が呼んでもいないのに離れに勝手に現れる。この時、於りんが3人の娘に大人顔負けの言葉を投げ掛けるのに一太郎も仰天する。いかにも於りんと一太郎との縁談が進んでいるような事を言った為、店表にいた3人の親達が失礼を詫びて即策と娘達を連れて退散したのだ。
    於りんなら妖達とも仲良しでみんな大賛成で、特におたえのお気に入りだけに問題なさそうだが、於りんはまだ子供で先のことはどう
    なるかわからない。それでもおたえと藤兵衛は「中屋」に会いに行き、形だけでも二人は許婚となったのだ。
    仁吉と佐助が自らの思いを第一に行動することを決断して帰って来た。
    仁吉は一太郎が臨終を前にした時に平気で居られるかわからないが、自分のやりたいことを決めたという。おぎんが千年伊三郎が生まれ変わるのを待ったように、自分も一太郎が生まれ変わるまで江戸を離れずに待つと言う。おぎんの神の庭へ来いというのは断るということだ。仁吉の一太郎への思いは何者にも変えられないものとなっていた。
    佐助は於りんが嫁に来るとは思っていなかったので、妖達も嫁御も長崎屋で共に暮らせる方法を考えていた。それで今回裏手に建てた一軒家を佐助と仁吉に貸してくれないかと言う。一緒の離れではなく、離せば問題が無くなるのではないかと提案すると仁吉も妙案だと賛成し、金次と馬久とおしろは、一太郎が嫁取りをし、仁吉と佐助が通い番頭になるまでまだ間があるだろうから、それまで 住むと言い、一太郎は頷く。妖達の住まいが決まった。

    5話目<妖達の来月>
    一太郎が建てた一軒家に金次、馬久、おしろがいよいよ住むことになった。一太郎はお祝いに各々に特注の長火鉢を三つ用意した。一階の広い板間用には 丸火鉢を二つ特注で用意した。生まれて初めて自分の物を持つ貧乏神の金次は痛く感動していた。妖達が皆んなで掃除して日用品を買い揃える準備しているところに寛永寺の寿真に弟子入りした黒羽坊が酒を持ってやって来る。そして一階の広間で宴会というところで異変が起きた。食べ物も丸火鉢も長火鉢も布団も鉄瓶も湯呑みも何もかも無くなっていたのだ。
    一軒家を訪ねて来た日限の親分によると最近不思議なほど盗みの上手い盗人が現れて、まだ誰も姿を見た事がないと言う。それを聞いた貧乏神の金次が盗人を許さぬと本気で怒ると江戸の町は冬のように寒くなった。盗まれた物の多くは古道具屋に売られていたが、あちこちに捨てられた物もあった。
    一太郎は妖達の一軒家の広間に罠を仕掛け、まんまと盗人を捕らえると山童と言う妖だった。江戸では妖も甘い菓子を食べているという噂を聞いて山から降りてきたが勝手に食べていいものではなかった。盗んで悪い奴に捕まり、盗人の手先をさせられていたが、長崎屋にいる妖達は菓子を貰って食べていると聞いた。金次達の一軒家の物を盗んだのは嫉妬からだった。
    金次は山童を許し、山童は山へ帰るのだった。盗まれた物はほとんど見つかり、これから長崎屋の妖達の新しい生活が始まろうとしていた。

  • 鳴家、可愛い(*≧з≦)。「そもそも、すべてを支えられる強いものに、この世で出会った事などない」。確かに…。

  • 最後のお話しが切なく、誰にでも優しく囲えるわけじゃないよね。妖だからこその生まれる感情も垣間見れてよかった。
    とにかく鳴家がいつも可愛い!

  • 栄吉の縁談、怪我を負った天狗、長崎屋の危機…。
    見えない未来へのざわざわとした気持ちが若だんなと妖達に広がります。
    若だんなの離れから自立?する妖達。また新しい事件が起こりそうな気配です。
    若だんなも縁談騒動が起こるお年頃になったんですね。栄吉のような「恋に落ちる」って感じではないけれど相手を恋しく思えるような心に成長すればいいですね。
    佐助と仁吉の新たな決意と共に未来へと一歩踏み出した一冊でした。

  • 若旦那の友が見合いをした。 そこから始まるバタバタ。その後は上方へ急遽いくことに。そこで父親の行方を探しに。神々の手伝いがあり、思わぬ過大金を入手。 それで長谷を作れば、そこに盗賊に会ってしまう。 その前には見合いに話が湧いて出てくるようになったが、妖達をどうするかで揉めたが、結局妖の見える於りんがまだ小さいが許嫁ということで妖達も一安心。
    いいね。ほのぼの。

  • 読んで字の如く、すえずえ(末々)とある通り、若旦那を中心とした妖や仲間、友らの行く末・将来についての物語。おぎんが関わった話では、一瞬、ここで若旦那から妖達は距離を置くのか?と思ったが、ようよう考えてみれば、えどさがしの話と噛み合わぬ。ということは。全体的な仁吉と佐助の決め事のオチは読めたが、まさか最後若旦那の許嫁が決まるとは。面白い。猫又の踊りの描写も可愛くかった。しゃばけシリーズは本当に面白い。

  • しゃばけシリーズの12弾目と思われる。
    相変わらず大妖の孫長崎屋の一太郎の周りにはあやかしとちょっとした事件が転がっていた。
    個人的には長生きした天狗の寿命を延ばすため高僧を釣りだし肝を喰らおうと謀る寛朝の明日の中で企みを折るため猫又たちが企みを歌い踊った猫じゃ猫じゃのシーンが可愛らしくて気に入った。
    人間とあやかしの寿命の違いから早めに一太郎から離れるか選択を迫られた兄や2人がとった選択も快かった。

  • 大好きです

  • 安定の面白さ。

    でもこれ実写したのかな?よくわからないけど帯に実写化したような雰囲気の写真あり。これ、、、わたし実写化したら失敗するような気がする。笑笑

    イメージがね。よくある時代ものだけど、妖怪とか色々出てきてものすごいファンタスティックだから小説止まりか漫画止まりがいいところで、これCGでどーこー弄ったりしだしたらものすごいリアリティがなくなって残念な結果になるような気がするなぁ。

    と、帯の写真ですでにがっかりしそうでした。

    これは。絶対小説の方がいいと思うんだけど。

  • 若旦那がお見合いねぇ。。まあでも大店だし、普通に考えても見合い話がどっさり来ても不思議ではない。
    いつまでも今のままではいられない、変化の兆しがあちこちに出ていますが、作者もそろそろたたみたいのかもしれませんがw
    最後の盗みを働く者の話もちょっとせつなかったですね。
    金次にしてもおしろや野寺坊にしても、偶然でそこにいるだけなので、あの場に若旦那がいたらきっと、手を差し伸べてしまうだろうから。。。その話は若旦那不在で進められたのかなと。思いました。

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著者プロフィール

高知県生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、小説家デビュー。「しゃばけ」シリーズは、新しい妖怪時代小説として読者の支持を受け、一大人気シリーズに。16年、同シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞。他に『つくもがみ笑います』『かわたれどき』『てんげんつう』『わが殿』などがある。

「2023年 『あしたの華姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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