働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101467238

感想・レビュー・書評

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  • 何冊か読んだ著者の本の中で一番"まとも"。何千円もする翻訳書を買ってきて,最初の頁からノート取りながら勉強したら少しは賢くなる,こんな幻想は捨てろと説く。いまの仕事が嫌だから頑張って毎日文章書く練習して小説家を目指そうなんて,考えている以上に高いハードルが幾つもあるから止めろと説く。こんな説教じみた話のオンパレード。しかし一定の年になり,会社員やって毎日過ごしていると,これは真実だなと思えてくる。それは決して夢を捨てるとか,人生を諦めたとかいうこととは違う。あまりに若く幼いと,その違いが見えないわけだ。

    仕事で疲れることが多く思わず再読いっき読み!。本屋には仕事に関する本が山と積まれ,叱咤激励して成功へと誘う本,逆に成功だけが全てではないからあくせくするなと説く本,この二つに大別される。しかし人生とは思い通りにならないのが当たり前であり,ぼんやりしてても棚からぼたもちも有り得るし,品行方正にしてても罪を被ることもあるし,悪事を働きまくっても賞賛され賛美されることもある。社会に出て仕事をするとは,これら理不尽さを全て受け入れ,もがき,ため息をつくということ。だから尊いと説く。この哲学者が大好きになった一冊。

  • ポジティブな本があふれる中で、この暗さは希少価値がある。

    30代前半でこの人の本を読んだとき、なんてネガティブなんだ、こんなふうにはなりたくない、私はちがう、と嫌悪感を抱いたが。15年以上を経て50に近づくとこの人に激しく共感するところ多し。

    処世術としてポジティブな考え方やふるまいは身に着けた。だけど私は知っている。

    人生は理不尽である。私にある種の才能がなく、誰かに才能があるのは理不尽である。誰かが偶然の理由によって機会を得て成果を出していくのを見るのはつらい。
    負けたくはない。みじめな気分を味わいたくはない。自分はやっぱりだめだということを認めたくはない。苦しい。なので逃げ出したい。

    ・・・という、心の奥底に確固として存在する消しきれない不安や不満。

    彼はそこだけを徹底的に見つめているように見える。それでいて、光も見出している。(不条理の中ででも、報われなかったとしても、自分が好きなことをやっていく、という光。)
    恋愛で傷ついている時に慰めてくれる友達や歌が必要であるように、仕事で傷ついて希望が持てないときに、この本は私のそばにいてくれる。

    働く限り苦しさは続くのかもしれない。でも、この人はそのことを誰よりも知っていて、その事実を一緒に受け入れる仲間である。

    希望を持つならば、私が持つ固有の才能、条件が、私をよりよい場所へ連れて行ってくれることを。そして今日も小さくあくせくともがく。

  • 読書メモを、感想にしてしまいました。。。

  • ★本書のメッセージ
    一言では言えないが、自分にとって、生きるとは、仕事とはどういうもなのか哲学し続けよう。自分にとっての真実を探しつづけるしかない。この世と社会は理不尽にまみれている。それと付き合いながら、哲学を続けるしかないのだ

    ★読んだきっかけ
    戸田氏の「働く理由」に引用されていた。タイトルが刺激的で興味をそそられた

    ★本の概要
    哲学博士である著者が、架空の人物4人との対話を通して、「働くとはどういうことなのか」「生きるとはどういうことなのか」議論を深めていく。著者自身は東大を出ながらも引きこもり経験があったりと、なかなかニヒルな感覚の持ち主。社会や人生は理不尽に満ち溢れていると考えており、その前提で議論が出発する。私も、いらないことをくよくよ考える内向的なタイプなので、こういったスタンスの著者は好き。

    ★本の面白かった点、学びになった点
    p16...."あなた方を「救おう」としている。その手に乗ってはならない。あなた方の悩みはとても健全な悩みなのだから、それを大切にしなければならない。あなた方は悩みつづけなければならず、そこからごまかしのない固有の手応えをつかまねばならい。それには、辛抱強く自分の声を聴く訓練をしなければならない。そこからいったん脱して、何が自分にとって重要なことかとことん見る訓練をしなければならない
    →自分にしか分からない、仕事の悩みというのは存在する。だからこそ、周囲の人が簡単に説き伏せようとも、その声に屈してはならないのだ

    p40...社会に出て仕事をするとは、この全て(理不尽)を受け入れるということ。その中でもがくということ、その中でため息をつくということなのだ
    →やや悲観的すぎる気もするが...それほどまでに、社会に、絶望しきっているような人がいることには、なんだか安心を覚える

    ・世の中は理不尽である。しかし、それを見つめようとする人は少ない。なぜか。そうしなければ、理不尽さに耐えられないからだ。納得いかないことに、納得をしておくほうが、楽なのだ

    p60...以下の文と出会えただけでも、この本を読んだ価値があった

    きみはたいそう仕事に対して理想が高い。その基準をけっして落とそうとはしない。だから、必然的に現実にはなんの仕事も見いだせないことになるんだよ。それを知りながら、心の底では理想をあきらめることがない。これおは、それ自体としてとらえると悪いことではない。むしろ、きみをよい方向に導く要素になりうる。私は「身のほどを知れ!」というにおいを発するお説教は大嫌いである。たしかに、身の程をしれば、何らかの仕事が与えられるかもしれない。そこで妥協し、自分のうちから湧きあがる欲求をぐいと抑えつけ、考えないように考えないようにすれば、いずれその仕事がぴったり肌着のように合ってくるかもしれない。ただ金を貰うために働けばそれでいいと言い聞かせて、みずからをだまし抜くことにも成功するかもしれない。それも一つの人生だ。
     しかし、きみはそれで納得できないんじゃないかと思う。きみはそれほそ巧みに自分をだませないんじゃないかと思う。だまし抜いた一生を終えて、60歳になる自分を想像したとき、冷や汗が出るんじゃないかと思う。
     とすると、きみはみずからの欲求に耳をふさぐのではなく、逆にその声かわずかなヒントでも見出して、何をすべきかを徹底的に考えなければならない。あえて言おう。きみのような青年は、たとえ不幸になっても、「身のほどを知らない」生き方を熱心に探究すべきだと思う。たとえ、きみが不幸に陥り家族など周囲の者を不幸に陥れることになろうとも、その生き方を貫くよりほかしかたがないと思う。
    p64...せせこましいこだわり、醜いと思える弱点こそが、自分の強みとして生きることもある

    ・不遇な立場にいるものが泰然としていると、なまいきということになる
    ・近代以降は能力以外の不平等を認めない。才能や生まれに差はあるが、そこにおける差が決定的なものだとは考えない社会になっている

    p182...「生きることがそのまま仕事であるような、そうした仕事を求めるべきだということがわかるのではないか?」
    →ワークライフバランスとか、ワークアズライフとかいった言葉が流行る前から、こうした言葉が、本に登場しているのは、さすが

    ...「仕事」と聞いて、思い浮かべる光景は2つに分かれる。一つは賃労働としての仕事。もう一つは「人生それ自体を対象とする仕事」である

    ●本のイマイチな点、気になった点
    特にないが...。答えを提示するような本ではない。むしろ、働くということは理不尽な行為であり、それとどう付き合っていくかは、各々考えなければならないね、といったことを提示している本。軽い本ではない。ただ、人生に迷えば、働くことに悩むことが来れば、また読みたい本

    ●学んだことをどうアクションに生かすか
    自分の欲求に耳を傾け、自分が何をやりたいのか、何をしなければならないのか、徹底的に考え続けること。そのための苦労や労力をいとわないこと

  • 働く事に不安を抱き働きたくないと考える人は読むべき本。人が本当の意味で生きる時に、どうすべきかヒントが書かれている。生きる事は理不尽の連続だけれど、それも生きる醍醐味の一つだと感じられれば楽になるのではないか。働きたい人が読んでも楽しめる。

  • 2022/05/06 16:43
    働くことが全面的に嫌なわけではないのだが、齢55にして、今の仕事は18年目なのにもう面白さというか意義というか、いやそれぞれそれらはあるし分かってはいるつもりなのだけど、そしてもう18年もやっているのだから性に合う合わないで言えば合っているのだと思うのだけれど、明日からもうできませんと言われても、それが生活できなくなることに繋がらないので有ればそれはそれで致し方ないかな、なんて思ってしまっている。もう今更何か違う仕事を探すにしても一からやってる時間はないように思えて、ここ2、3年は本当にモヤモヤしている毎日なんだよな。お金の問題はあるにしても、いっそのこと、目に見えて目の前に困っている人がいて、その人の困りごとを解消するための何かができるような仕事をしたいなとか、本当に正しいことをしたらいいんじゃないかとか漠然と考えているのだが、図らずもこの本には最後の方にそれに近いような考え方も書いてあって、割と性に合う本だったように思う。
    これから目指していくべきは、そのいずれかもしくはその両方なんだろうな。

  • 哲学したくなった。人生に幸せを求めないでいれば、死ぬ時も後悔なく死ねる。

    あとは、この世は全て理不尽。それを織り込み済みで、うわーと思いながら生きるのと、考え続けるということがよく生きるということなのかもしれない。

  • 哲学者である著者が自身の引きこもり時代の経験も踏まえて、
    働くのがイヤだ!生き甲斐が無い! 

    と嘆く現代人に寄り添う形で哲学的に問いに答えていく。

    本書は仮想人物との対話形式で進んでいく。
    登場人物は以下

    著者:12年間大学に居続けたこともある哲学者

    A:留年を繰り返す大学生。会社に属する働き方がイヤで仕方ない。かといって学術や専門の世界にも興味は持てない。

    B:他の女性のように結婚・子育てという道を歩めない。働いてはいるものの情熱は持てない。

    C:今まで家族のため、社会から弾かれないために仕事を続けてきたが、なんの喜びも感じられず、このまま生きてよいのかと焦っている

    D:誠心誠意仕事に向き合い、家族にも恵まれてきたが、先日のがん告知により、このままの生き方で良いのかと疑問が湧いてきた。

    本書で扱うテーマは
    ・一生寝ているわけにもいかない
    ・「命を懸ける仕事」は滅多に与えられない
    ・仕事と能力
    ・仕事と人間関係
    ・仕事と金
    ・金になる仕事から金にならない仕事へ
    ・死ぬ前の仕事

    本書のいいなと思ったところは、無理に仕事に前向きに取り組むよう促したり、ポジティブ思考にしないところ。
    まず、仕事がイヤで辛い事をがっちり受け止めたうえで、何が起きているのか、そして包括的に見てみると何か見いだせないかと進んでいくのが楽になれた。

    特に、世間でいう成功なんて言うのはまやかしでしかなく。
    情熱や意義も生活や仕事の中に見出せずに死んでいく。
    そういう人の方が、人の一生とは何か?死とは何か?という理不尽で恒久的な問いにしっかり向き合えるのではないか?

    という視点はいいなと思った。

    仕事が辛すぎて、思考停止になりそうな人にもオススメ。

    気になった言葉

    ・ある人にはある期間引きこもる事は必要かもしれない。しかしそれに馴れてくると、ずるさが黴のようにびっしり生い茂ってくる。
    楽に生きる方法ばかり、自分が傷つかずうまく生きる方法ばかり考えるようになる。
    精神は堕落する。

    ・もしあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白してください。
    私は書かなければならないかと。深い答えを求めて自分の内へ内へと掘り下げてごらんなさい

    ・社会に出て仕事をするとは「理不尽」このすべてを受け入れる事。その中でもがくこと、その中でため息をつくこと、だから尊いということ。

    ・命を懸ける仕事を見出せないことは普通の事であると思う。そのことをはっきり見定めて、生きがいを感じなくても仕事をする意味を問いたい

    ・自分が一番したいことをまず確認すること。それがわかったらそれを実現するありとあらゆる方法を考える事。

    ・人生の目標がはっきりしており、しかもそれは実現しなくても良いのだと悟った途端、君は何をしても失敗することはない。

    ・ほとんどのまともな職業に就いている者たちは一つの救いがある。その仕事が社会的になんらかの役に立っているという事だ。

    ・同じような音を聞いていても、成功しなかったおびただしい人はいる。ほとんど同じ航路を描きながら、努力を怠ったわけでも、カンが狂ったわけでもない。
    ただいくつかの内外的偶然が重なり、成功できなかっただけである。

    ・苦しんで仕事を続けるからこそ、君たちは多くのものを学ぶことができる。

    ・権力に対して猛烈に反対する人は、その態度でもって権力的な人であることを示している。

    ・程度はあるが、契約して金をもらうからには、その仕事が達成されないとき、いかなる弁解も許されない。それが仕事である。

    ・理不尽であるからこそ、そこに様々なドラマが見える

    ・厄介なあきらめは、自分が傷つきたくないためにあえて欲望を押し殺すものである。それは自己欺瞞であるため、醜さをともなう。この人たちは周囲にもあきらめることを勧める。

    ・どんな生き方でもいい。ただ、何かしたいことを自分の内に確認し、それが本物であれば、しかもそれを続けられる場があれば、その人は幸せだという事だ。

    ・彼が自らの人生を振り返って、なんの満足も覚えず、よってなんの執着も覚えないと心底確信して死ぬとしたら、それは救いである。

    ・彼が世間的に何の価値ある仕事を成し遂げられなかったからこそ、そしてそれを痛いほど知っているからこそ、その人がただ生きてきた事が光を放ってくる。

    ・仕事で何もしなかった人は、なにも縋りつく物がない。だから、はるかに死の不条理を実感することができる。それは痛みに代わって真実が与えられるという事ではないか?

    ・具体的に何かをすることではなく、生きることを常に優先に置くこと。

    ・よく生きるとは「どうせ死んでしまう」ことの意味をといつつ生きることさ。その虚しさや理不尽さから目を逸らさず、「それは何か」を問い続ける事だ。

    ・表面的に健康な世間において、問うてはならないとされている問いを押さえ続ける事はその人を病気にし、逆にそれをとことん言語化することはその人を健康にする。

  • この本にはタイトルから期待するような仕事に対する答えが書かれているわけではないです。

    世の中はひたすら不条理で、夢を持ってもほとんどの人は叶わず、偽の成功に縋り付いて生きていく。

    何より、人はある日突然死んでしまう。それが最大の不条理だ。
    死という不条理から目を逸らさずに常に心に置き、そのうえでより良く生きるために、生にすがるために行う仕事が自分にとって何か考えるべきだ。

    成功や金のためでなく、いつか死ぬ不条理な世界でそれでも生きていくために必要な行為が自分にとって何か。

    著者は哲学を勧める。真理とは存在とは無とは何かというような一段上のことを考え続け目的に向かい、道半ばで死んでしまうような生き方を。

    人が何故働かなくてはならないのか、その答えが書いてあるわけではないが、働くことが嫌な人は、何故働きたくないのか、原因は何なのか、そういったことを知ることが出来る本ではないでしょうか。

  • 働くことの悩みは本質的であり、それは哲学の道に通じている。働く意義に悩む人に哲学者からの真摯で厳しいアドバイス。
    哲学問答のようなところがあり、働くことに悩みのない人には刺さらないかもしれない。

著者プロフィール

1946年生まれ. 東京大学法学部卒. 同大学院人文科学研究科修士課程修了. ウィーン大学基礎総合学部修了(哲学博士). 電気通信大学教授を経て, 現在は哲学塾主宰. 著書に, 『時間を哲学する──過去はどこへ行ったのか』(講談社現代新書),『哲学の教科書』(講談社学術文庫), 『時間論』(ちくま学芸文庫), 『死を哲学する』(岩波書店), 『過酷なるニーチェ』(河出文庫), 『生き生きした過去──大森荘蔵の時間論, その批判的解説』(河出書房新社), 『不在の哲学』(ちくま学芸文庫)『時間と死──不在と無のあいだで』(ぷねうま舎), 『明るく死ぬための哲学』(文藝春秋), 『晩年のカント』(講談社), 『てってい的にキルケゴール その一 絶望ってなんだ』, 『てってい的にキルケゴール その二 私が私であることの深淵に絶望』(ぷねうま舎)など.

「2023年 『その3 本気で、つまずくということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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