- Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101490045
感想・レビュー・書評
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マーチンは、ぷっと膨れ顔になって口を尖らせた。「マーチンがいってるんじゃないよ。生田弥生が言ってるんだから。今ちゃんと私、義信のこと好きだったんだって言っておかないと、いけないと思ったから。後悔しないように。忘れないで私のこと」
2011/04/25-05/20(中断) 08/21(再開)-09/06詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
<批評あるいは連鎖する経験>
映画の余韻、正確に言えば、柴咲コウの歌う主題歌のサビのフレーズを耳に残したまま、池袋のイルムスへ行った。トリュフォーの評伝や、映画批評をあさったりして、結局、この文庫本も買った。原作と映画の関係が気になったからだ。
原作と映画の関係にはいくつかのパターンがある。原作が名作、古典の類でそのアイデンティティと輪郭がはっきりしている場合は、どことなく映画脚本はその抑圧から自由になれない。オリジナルな物語の映像的解釈のような形になっていく。世の文芸大作の類である。その一方で原作の響きを利用しながらも、微妙にその求心力から逃れようとしつつ逃れようとせずという風情の映画がある。それが見事な作劇術のもとで結実したのが、澤井信一郎(荒井晴彦脚本)の「Wの悲劇」(1984)だ。
夏樹静子の推理小説「Wの悲劇」を演じる劇団の中で、戯曲を模倣するようなドラマが繰り広げられる。身代わり犯罪が主題の劇中劇と、それを演じる役者たちが宿命的にその物語を反復する中での葛藤。
薬師丸ひろ子は、舞台に立つことを夢見る新人女優である。しかし今回のWの悲劇のヒロイン役は、ライバルで華やかな高木美保が得ることになる。どことなく、冴えない運命。そんな彼女を支えるのは、世良正則だ。
この劇団の主演女優である三田佳子がスキャンダルに巻き込まれる。彼女のスポンサーだった愛人の政治家が、彼女と宿泊していたホテルで急死したのだ。その身代わりを三田は薬師丸に頼む。報酬は、ヒロイン役。この取引で女優の栄光を勝ち取る薬師丸。夢に近づいた彼女は、世良を捨てる。しかし栄光の絶頂で、絶望した高木のナイフが・・・。引き起こされた新たなスキャンダルが、真実を明らかにしてしまう。
「黄泉がえり」という小説は、映画的想像力を刺激する。ただ、その物語を映像的に忠実に再現したいという欲望ではない。
旅を続ける宇宙知性体が、地球に訪れるところから物語ははじまる。その後、熊本のある地域に、不思議な現象が多発する。亡くなった人が、その当時の姿で、残された人のもとに戻りはじめたのだ。黄泉がえりという異常現象の中で、さまざまに影響を受ける人々の生活が克明に描かれていく。小説は、個別の出会いと別れの物語が積み木細工になっている。塩田明彦の映画は、梶尾真治の映画的構造に触発されながらも、その構造をそのままなぞらない。小説の中の宇宙知性の個性や情感は後景に退き、厚生科学省の役人と幼なじみとの恋愛という映画オリジナルのフィクションによって、個別の物語を、草薙の想いを上位において階層化し、愛情を強調することで組み換えている。それは、映画会社が想定する観客層、草薙剛、竹内結子、田中邦衛という外部要件を前提に、塩田明彦が解いて見せた商業映画という方程式の解のあり方なのだろう。しかし当然この解は一意的ではない。この小説の構造上、物語の組み換えによって、一定の範囲内で多様な解が引き出せるのだ。特に、小説の中では、中核となっているカリスマシンガーの蘇りとファンの想いもまた、塩田の解を引き出すために、前提として180度転倒され、大幅に省略された。塩田明彦の解に満足しない自分にそれでも残るこの満足感は何か。
Wの悲劇のラストシーンは、一から出直しになった薬師丸の泣き笑いのストップモーションにユーミン作曲の名曲「ウーマン」が流れる。柴咲コウ版の「黄泉がえり」を待望する、ぼくは、コンサート舞台で歌声が光の粒子に変わっていく映像的奇跡を夢見ていた。物語が連鎖し、反響し、拡散していく、その運動性の快感とでもいえばいいのだろうか。 -
映画化されたけど、小説の方がずっといいと思います。なぜ黄泉がえりが起こったのかがわかりやすいし。映画が面白かった人は、こちらも読んでみては。
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SF。映画だと恋愛ものだった
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父子、兄弟、昔すれ違った男と女
今出あった男と女
様々な黄泉がえりと周りの人のドラマが
交差したり、縒りあわさったり
特に児島縁と雅継、鮒塚シメと重宝、相楽玲子と周平
それぞれの夫婦愛が、異なる最良の結果をもたらすのが
「泣けるリアルホラー、否ファンタジー」
もう一度会いたいと強く願う人があの日の姿で戻ってきたら・・・
まぁ腰抜かすだろうけど、
私としては子供のころに亡くなった叔母に会いたい。
しかし、もう叔母の歳を越えてしまったし
その人ともう一度お別れをしなければならない
となったら、それはそれで残酷だ。耐えられるだろうか。 -
なかなかよくできたSF。
この人の短編は好きだから楽しみに読んだけれど、期待以上におもしろかった。メインになるアイデアは短編にしてもいいものなのだと思うけど、人間模様を折り込むことで上手に膨らましている感じがする。こういうマルチ主人公は焦点がぼけがちだけど、それもあまり気にならなかった。
もう少し人間心理に深みが欲しいような気持ちは少ししたけれど。
2006/1/7 -
思っていたよりSFでした。
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面白くて一気に読めた。相楽周平だけがなぜ消えなかったのか気になる。
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解説には「泣けるリアルホラー」と書いてあったけど、ファンタジーって感じだな。
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熊本で局地的に死者が蘇る現象が多発。
死んだ当時の姿そのままだが、どこか微妙に違和感が…。
喜びつつも戸惑う周囲と混乱する行政。やがて聞こえる
終幕へのカウントダウン。
黄泉がえった死者たちに、安息の地はあるのか?
もし、亡くなって二度と会えないと思っていた
大切な人にまた出会えたら…あなたは驚き恐怖するのか
それとも泣いて喜ぶのか…そんな奇跡が舞い降りる。
大切な人を失った後、残された人たちはそれぞれの
人生を歩んでいた。
死んだ後もその人の背中を追い続けるもの。
新しい人生をスタートしていたもの。
映画化されたのでそちらが有名だが、映画を観た人も
そうでない人も原作を読んでもらいたい。
死んだものが帰ってきた時の、まわりの反応や
学校や役所などの対応も面白いが
主人公と呼べる人は、一人ではなく。
それぞれの人生をとても丁寧に描いている。
SFという枠にとらわれない、感動があります。