- Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101800028
感想・レビュー・書評
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電撃文庫で『とらドラ!』など人気作をものしていた同著者の新潮文庫デビュー。軽快ながら時として胸倉を捕まれるような文章は変わらず。
裏表紙あらすじには圧倒的恋愛小説、とあった。恋愛小説であることも違いないと思うが、自分としては死と再生の青春小説でもあると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
終わるから始まるし、別れがあるから出逢いがあるのに、一つの現象に固執してしまった主人公の心の再生を綴ったスタンド・バイ・ミー的なストーリー。
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重たいテーマの割にテンポよく読める
軽快な会話劇は流石だなと思う -
『回転せよ、と誰かが言った。
万物は巡り巡るものだもの。回転するのが自然なの。回りもせずに存在するとか、実はこの世にはありえないし。』
『ぐるぐる、ぐるぐる…扇風機。洗濯機。フラフープ。フリスビー。ていうか地球。ていうか銀河。そもそも原子。全部。すべて。みんな。自分も。』
『音を立てないようにそろそろ動くその姿は「太極拳の女使い手」か、もしくは「女空き巣」か、もしくは「太極拳の使い手で空き巣の女」みたいだが、そのどれも正解ではない。ここが自宅なのだ。』
「本当は、…肋骨的ななにか? が? 折れているにも似た? 状況? という…ほのかな?予感が、する…? かもしれない? のです」
「まさか枇杷ちゃん、そのパンとビールがお昼ごはんなの!?」
「え。だめだった?」
「病気のゴリラじゃないんだからー! せめてパンはトーストするとかぁ! あーもうビールの残りはやめとこうよ、人としてー!」
「…病気のゴリラの何をあなたは知っているの?」
『説得されて枇杷は泣いた。すべてがあの瞬間にダメになったのだと悟った。音を立てて断裂したのは靭帯だけじゃない。あれは夢そのものが断たれた音だった。』
『実はつい先日、シンクに落として割ってしまったのだが、心の中の松岡修造が「割れたからって諦めるのか!? アロンアルファで貼ってみろよ! ダメダメダメダメダメ、諦めるな!」と熱く騒いでいたので、破片を集めて接着してみた。』
『血も法も倫理も、今の自分を縛りはしない。どんなことでも今ならできる。』
『セーラー服女装の変態ルックで、昴はぐいっと親指を立て、枇杷に向けて堂々と微笑んでみせた。
「俺はここにいるよ、錦戸さん。だから、大丈夫でしょう!」』
『(あれは性癖というより運命なんです。ただの女装ではなくて、二代目清瀬朝野なんです。世界には朝野が必要だから、こいつがその跡を継いだんです。そしてより一体性を高めるためにコスプレをしているんです。それに今夜は、)
ー それに、今夜は。
(私が、朝野を探している…から)
だから、着替えてくれたんです。「ここにいるよ」と「大丈夫でしょう」、私にそれを言うために。
多分ですけど。』
「がんばれ! ファイトだ錦戸さん! 君ならできる! 絶対いける! ヒュー!」
「しっ! うるさい! 気が散る!」
「……」
「黙るな! 気まずい! 適宜声出せ!」
「…がんばれー」
「鉄股かあ…それなら俺のことは、独身男、なんて思わなければいいよ」
「じゃあなんだと思えばいいの」
「こういう形をした、生肉でできた置物だと思ってみたらどうだろう」
「…うーん…それはそれで気持ち悪い…」
『(ていうか、変えるためにいくんだ、私は。変えたいんだ、なにかを。もしかしたら、なにもかもを)』
『私はこうして、おまえのためにこの世界を回すから。
だから、やっぱり、元気になれ。どうか元気になってよ、森田昴。死にたいなんて、そんなことはもう二度と思わないでよ。』 -
分からない。
「映画」は朝野であり、
「サントラ」は枇杷の朝野から受け取る心象であり、
「聞く」ことは知ることであり理解することであり、
「知らない」とは不可知だと諦めることであるとともに敢えて知ることから避けることでもある……ように思う。
一見幼い言動が目立つ枇杷は、年齢の割に妙に達観しているようなところがあって、世の中「知らない」ままでいいと思うことがたくさんあるようだ。枇杷の視点から物語を追っていっても、結局朝野の真意はぼやけたままだし、昴のセーラー服徘徊襲撃強奪マッサージ現象の深い意味は分からない(物語の最後に、自死願望から来る何らかの行動だということはわかったが、読者の理解を超えていることに違いなかろう……)。
知ることよりも自分と世界を回り続けて、回し続けることに重きを置く。
読み方によっては、枇杷は最後まで朝野を受け止めていないようにも読めるし、枇杷と朝野は深いところでつながっているようにも読める。
だから分からない。
「知らない」でいいのであれば私は枇杷と同じなのだろうか。
それから、ほかの方々が言うようにこれは「圧倒的」恋愛小説ではない。表紙裏が嘘ついてはいけません。 -
ヒロインは、23歳無職。
裏表紙のあらすじには「圧倒的恋愛小説」と書かれていますが、恋愛小説というより、喪失と折り合いをつける物語でした。
テンポ良く遊びのある会話でどんどん読ませてくれますが、根っこにあるのは重たいテーマ。
ハイテンションでぐいぐい引っ張りながら重い話を読ませてしまうのは、さすが竹宮ゆゆこ。
親友・朝野の存在感が圧倒的でした。 -
とにかく新潮文庫NEXのなかから何か読みたくて購入。
文章のスピード感と会話の掛け合いが大好き。読み上げるようにして読みたい。実際に声に出してはないけど。
朝野は、キーとなる人物なのに、最後まで実体が掴めない人だったなあ。
しかし、枇杷の家族は悪い人ではないけど、あれはやや荒療治過ぎないか…。あれで発奮しろという方が厳しい。
あと、裏表紙に書いてある粗筋はちょっと違う気がする。恋愛小説じゃあないよなあ。
ともあれ、新潮文庫NEXはもう何作か読んでみたくなった。 -
読み始めると止まらなくなりますよ、これ。
枇杷の勢いに乗ってどんどん読み進めて行けば ぶっ と吹き出すやりとりがあったり しかして切ない、胸の奥がきゅんとなったり、
とにかくがーっと一気に読み終えれば、元気になってしまうもので小説ってすごいなと
こんなに一気に読んだのは久しぶりのことで
心の栄養だな と 確信したのでした -
地がしっかりしているだけに、コスプレに至った境地とのギャップがヤバい。でも冷静に読み返すと、貴重品も持たせずに追い出す家族が1番ヤバい。特徴的な比喩がとても著者らしくて良かったけど、もうちょっとキャラはぶっ飛んでいるのを期待してたかも。キャラもストーリーもどこかで見たような気がしてしまったし。主人公が大人だと、著者らしさを出すのが難しかったのかな。