湖畔のアトリエ (新潮文庫 赤 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102001097

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  • 残念なことに、なかなか手に入らなくなっているこの小説。幸運にも近くの図書館の全集に入っていて読むことができました。

    画家のフェラグート。二人の息子がいるが、妻と上の息子との仲はうまく行っておらず、常に孤独がつきまとう。生きがいは下の子ピエールと親友ブルクハントと絵を描くこと。

    家族との生活がフェラグートに落とす影は大きい。精神的にも追い詰められて、画家の性格を蝕んでいった。

    〔なんと彼は自分を騙そうとしていることだろう!なんと計画や仕事について語ることだろう!彼がまだ喜びを感じているかもしれないものを、自分をまだ人生と和解させているものを、彼はのこらず丹念に数えあげようとするかのように見えた。友人は彼を知っていたので、彼に迎合しなかった。〕

     そんな中。唯一の拠り所、息子のピエールにも不幸が襲いかかる。まるで、両親を戒めるように…。ここにきてやっと、フェラグートは本物の、愛するということを体験する。

    〔渇えるような強い愛情で、死んでゆく愛らしさを、もう一度、もう一度と心に刻みつけるように、見つめた。すると、愛とは何であるかを、一生を通じ、ついぞ知ったことがない、気を配って注視するこの時まで、ついぞ知ったことがないように思われた。〕

    〔あの時、死んでいく少年の寝床で、あまりにも手遅れながら、唯一の本当の愛を体験したのだった。あの時、はじめて自分自身を忘れ、自分自身に打ち勝ったのだった。それは彼の体験として、悲しいささやかな宝として永久に残るだろう。〕

     フェラグートは今の気詰まりな生活に終止符を打ち、新しい芸術人としての生活を決心する。それは、現実の生活という直世界からの卒業。

    〔生活そのものを強引に引き寄せて飲み干すことを許されない局外者の慰めが彼には残っていた。〕

     一人間としての幸せや苦悩を退けて、芸術人としてのみ高らかに生きることを決心したフェラグート。直前の、息子が死んで初めて経験した愛により、そこにまだ熱があることも手伝っているのかもしれないが、その強さは、私の中には全くなく、想像するだけでも畏敬の念を抱く。日常に、生活に、家族に悩まされ、没頭できなかった芸術。しかし、その芸術は、最愛の息子ピエールが求めていた、父親との蜜な時間を奪っていったのも事実。この状況で、芸術に前向きに躍進する道を改めて選ぶ人の精神的強靭さ、どこまでも芸術家であろうとするひたむきさと傲慢さを私は正直よく理解できない。それは一部の真の芸術家には理解されるものなんだろうか?それとも自分が弱いだけなのだろうか。

     夫であり親であっても強い個がここにはあり、誰も入ってこられない鎧の内部に蔓延する孤独と芸術への探究心が、味わい深い文章で表現されており、特別な読書となった。彼が大きく人生を変えることになった土地、ロスハルデを想像してみる。

  • 絶版になってしまった、ヘッセの「湖畔のアトリエ(ロスハルデ)」を運良く古本屋で入手しました。(^^)
    ヘッセの自伝的な要素も入りつつ、あくまでも芸術家として生きようとするフェラグートの姿が印象的な作品でした。

  • 今年で一番良かったかも。

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