知と愛 (新潮文庫)

  • 新潮社
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感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (495ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102001103

感想・レビュー・書評

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  • 原題は『ナルチスとゴルトムント』。知と精神の世界に生きる師ナルチストと、愛と芸術の世界に生きるゴルトムントを描く。ゴルトムントは修道院に入って神に帰依するはずだったが、ナルチスの影響により、愛や芸術の世界に目覚め放浪の旅に出る。清く正しい世界を目指した者が愛欲に溺れ廃退していく姿に、正直戸惑いはあった。しかし、自らの意のままに強欲に生きる姿に不思議と羨望も感じる。人生とはなんなのか、人間の本来あるべき姿とはなんなのか、そのようなことをゴルトムントの姿に重ねながらじっくり味わえた作品である。

  • 知に生きる者と愛に生きる者の、愛寄りの友情物語。その線に注目して読めればよかったのだが、なぜゴルトムントがあれほど女たちに受け入れられるのか?? なぜほんの数年サボったりサボらなかったりしながら修行しただけで職人認定される技能を身に着けられるのか?? と頭の中が疑問符でいっぱいになってしまって、どっぷりはまって読むところまでいかなかった。ヘッセって真善美には真剣だけど、生活には興味なかったのかもしれない。

    たとえばゴルトムントは木彫りの親方のことを批判的に見ていたけれど、わたしはむしろ親方の葛藤のほうに興味があった。生活をやっていくのは大変だから。

  • 自分にとってはこの本を読まずに死んでいたら後悔するような本.ホントは★★★★★★つけたい.ヘルマン・ヘッセは大好きでずいぶん読んだが,自分の中ではこれがベストの著作だと思う(シッダールタも良かったが)

  •  精神を求め知に奉仕する神学者のナルチスと愛欲を求め美に奉仕する芸術家のゴルトムントの友情の物語。そうは言っても、ナルチスは元々始めからほとんど完成されており、ナルチスがゴルトムントの気質を見抜き芸術家としての道を示した後は、ゴルトムントが思いのままに放蕩し芸術とは何たるかを理解し芸術家に至る成長の物語がメインとなる。
     ナルチスとゴルトムントの会話がお互いに下地となる思想と感情に根差したものになっており、それぞれの微妙に噛み合ってなさなどが表現されていて、議論のシーンは読んでいて楽しかった。また、心情描写がとても素晴らしく、ゴルトムントが自分の気質に気付くシーンやリディアとの交友のシーンなど、読んでいるこっちがいじらしくなるような気持ちになった。特にリディアとの仲を深めていって、少しずつ態度が変わっていく描写はこの物語で一番好きなところだった。後、最後にナルチスにとってのゴルトムントに対する思いが述べられたところも好きだった。
     ただ、ゴルトムントは魔性だったので、リディアやレベッカといった一部の人を除いてだが恋愛無双していて共感がしにくかったり、年を取って古典の良さが分かるようになるといった芸術家としての成長はあるものの、ペストによる人々の変化の恐怖を味わった後でさえ自分の愛欲を求める態度のせいで捕まっても多少の反省もなく生き汚さを発揮していたりと人間的ないわゆる成熟さみたいなものを獲得することがなく、今の価値観とは違うところを感じた。それが真の芸術家というものなのかもしれないが。加えて、訳された時代のせいなのか、それとも元々の文章がそうなっているのかもしれないが、会話文にぎこちなさを感じ、特にゴルトムントが口説く会話に対し薄ら寒さを覚えてしまったのは残念だった。

  • 「知」をもって「愛」を知るナルチス
    「愛」をもって「知」を知るゴルトムント

    読み終わって見ると素敵な言葉すぎる、、

    慣れない文体に最初は読むのに苦労しましたが、自分なりに解釈し楽しく読めました。
    こんな真逆の2人が語り合い、理解し合う姿に何度も心打たれました

    「道の上の1匹の小さな虫が、図書室全体のすべての本よりはるかに多くを語り含んでいる」と言うゴルトムントに対し、
    「存在するものを愛し、可能なものではなく、現実のものを愛する。自然にさからってだけ生きることができる」と言うナルチス

    一見、型に収まった生活をするナルチスより、自由で愛欲のままに生きているゴルトムントの方が幸せなのでは無いかと感じるけど
    結局どっちがいいかなんてわからない、、
    少なくともこの2人の関係はお互いの人生にとって、強い刺激を与えたんだろうなと思う。

    海外文学は読むのが初めてだったので、理解するのが難しかったです。

    現代風に悪く読むのであれば、キリスト教神学を学ぶけど、女の子と遊ぶ楽しさを知って学校を出て放浪し、たくさんの女の子を見て愛を知り、彫刻を学び年月を経て学校に戻ってくる。
    最初はこんな解釈をしてしまって、、
    何回も読み直してもっと素敵な読み物にしたいです。

  • 神に奉仕する学者ナルチスと、美に奉仕する芸術家ゴルトムント。
    そんな二人の友情の物語で″知と愛″という邦題は見事。
    対照的な生涯を送った二人が、最後に芸術を通して互いを認め、精神世界と思想を語る姿に感動しました。
    清廉と官能が織り成す精神性の美しさに心が洗われるようで。
    哲学的な作品でまだ理解しきれてない部分もあるので、大人になったらまた読み返したい。

  • レビューというのは自分から距離が離れていればこそ、気軽にホイホイ書けたのだ。ヘッセのレビューを書こうとすると、思い知らされる。

    苦しみを宿命づけられた生のなかで、人がその生と死を渡り仰せるだけの光ー平穏ー意味など、何かしらの確かさを見いだそうとする不断の努力。ヘッセという人の根底のテーマは一貫している。そして、そのような凄惨さの中に、美しく優しく人や世界が描かれる点も変わらない。

    「シッダールタ」や「荒野のおおかみ」の変奏として「知と愛」を捉えることが適切かは分からない。けれど「シッダールタ」では主人公シッダールタが1人でくぐり抜けた聖者の修行と俗人の生活という2つのアプローチを、ここではナルチスとゴルトムントという2人の主人公に分けている。そのことで得た成果は大きい。キャラクターはより一般的、具体的になって、2人が同時に生き、対話することが可能になった。追求の形はいわゆる宗教的な「求道」一つではないこと、異なる手段を選んだ他者から受けとるものがあること、そしてそこにこそ「愛」があること。。求道と恋愛のストーリーに垣根はなくなり、より複雑で生き生きした普遍性が生まれた。

    この「知」と「愛」の対話の構図は、多くの人にとって覚えのあるものなのではないかと思う。相手次第で時に自分はナルチスであり、またある時はゴルトムントであるような。

  • かなり好き。

    原題は、ナルチスとゴルドムント。

    ふたりの対比が美しく、知性だけだど人生の主役にはなれないかもなぁと感じた。

  • ヘッセの作品の中ではかなりボリュームのある長編なので、それまでの作品の主要なテーマが散りばめられている印象です。

    ナルチスと一緒にいる時のゴルトムントは好きだけど、中盤のゴルトムントはひたすら快楽の世界に生きてて甘すぎる生活に反感を持ってしまった。彼自身を完成させるピースであったとはいえ、ひたすら自分の美しさを武器にして女狂いの道を走り続けるのって・・・。それが彼の持って生まれた天分ということなんだろうけど。

    とりあえず、終盤にかけて良かった。序盤と終盤が好き。というかナルチスとの対話が好き。いや、ナルチスが素敵すぎる。知性を選んだ人の生き方に個人的には憧れました。

    「自分自身になれ。自分を実現せよ。」というヘッセお馴染みの思想が、この作品では一番色濃く表れているように感じた。

  • 高校生活が始まってから70冊めに読んだ、個人的には記念すべき、思い入れのある本です。2年に1回ほど読み返しますが、毎回「前に読んだときの自分は、全然理解できていなかったな」と思うのです。きっと2年後も読みます。
    たくさんの経験が豊かな創造性につながること(音楽家である自分には身につまされるものがあります)、それがどんな運命であろうと自分の使命に従う決意の実行の辛さと幸せ、官能と苦悩の不思議な紙一重…こんなに充実(この言葉を使うのには少々の違和感がありますが)したひとつの人生を覗き見るのは、もはやただの「読書」ではなく「経験」です。私はキリスト教には詳しくありませんが、宗教画のテーマの一つ「放蕩息子の帰還」はこういう意味か、と思ったりもします。彫刻をやってみたくもなります(笑)
    高橋健治氏の訳は賛否両論あるようですが、私はヘッセの文章の美しさや誠実な言葉づかいを最も忠実に再現しているように思えて好きです。
    ヘッセの長編なら、本書が一番のおすすめです。

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