孤独な散歩者の夢想 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102007013

作品紹介・あらすじ

十八世紀以降の文学と哲学はルソーの影響を無視しては考えられない。しかし彼の晩年はまったく孤独であった。人生の長い路のはずれに来て、この孤独な散歩者は立ちどまる。彼はうしろを振返り、また目前にせまる暗闇のほうに眼をやる。そして左右にひらけている美しい夕暮れの景色に眺めいる。-自由な想念の世界で、自らの生涯を省みながら、断片的につづった十の哲学的な夢想。

感想・レビュー・書評

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  •  現代においても、ルソーのようにひどい嫌がらせを受けて表舞台から消えた有名人は数多くいるが、こういった有名人がどういったことを考えているのかということを想像しながら読んでみた。有名無名に限らず現代社会においては人を奈落の底に転落させる罠が数多く仕掛けられているわけだが、こういった罠にかかっても、孤独な時間を手に入れて社会から距離を置くことが重要であることをルソーは自らの体験を通して学んだのであろう。
    フランスの豊かな自然が生き生きと描かれているのも高評価につながった要因である。
     私はルソーという名前を知っているだけでこの人の思想はほとんど分からないのだが、これだけ読んでみればルソーの人となりが分かるし、それだけで十分だと思った。

  • 度重なる迫害の影響で神経衰弱の晩年のルソーが、自己を見つめることに究極の喜びを見出し、思うままに書き綴ったメモ書き集。サン・ピエール島で独り植物採集する喜びを綴った「第五の散歩」は、フランス語で最も美しい文章とされているらしい。
    「社会契約論」や「人間不平等起源論」を読んでからもう1度読みたい。

  • ルソーの晩婚の精神面に関わる小説と言える。
    感性的な表現が多く、一度の通読では咀嚼できない部分の方が多かったかに思える。

    再三にわたってルソーが主張していることは、幸せは自己の内面からしか引き起こされないということである。これは、もっぱらなことと思えるが、単純に個人が感じてることを他人が感ずることができないということではない。ルソーはこれを、幸せの人ではなく満足した人と表現している。

    ルソーは自己で自己のプリンシプルを作り、それを守ることを前提においている。そうして、他人や外界のものによって影響を受けることがなくなった、自己によってこそ真の幸せをえることができるのだと。

    これは、7つの習慣の第一法則にかなりつながっている。あの本が、今までの本から幸せの法則を見出した本であるのであれば、それは当然のことだろうが。

    しかし、ここに商業誌、ビジネス本として売られている7つの習慣とルソーの思想とは明確に区別しなければいけないと強く感じる。

    それが、一体何なのか未だ表現する言葉をもたない。

  • 外側にあるものは問題とせず、平穏な幸福は自分の中にこそあるとして始める「孤独な夢想録」。その語り口は「高校生の頃のおれ」そのものだし、言ってる事自体は「晩年のルソー」すぎるし、アプローチ法は哲学的。安易な言い方だとドストエフスキーとかが好きな厨二病気質には刺さる。個人的には「第四の散歩」が好き。ただ訳が堅い。読みづらい。

  • 翻って考えてみるに、酷く心を乱していながらも、当時そして現代にも通底するような、一種の真理に近いものを看破し得るのは、正に彼の著述の才能と、物事を掘り下げて深く考える能力の残滓が、錯乱状態にあっても確かに残っていたからであり、その一貫性に驚嘆した。所々真実かどうか疑わしい記述、どうも妄想ではないかと思われるような部分があるのは確かだが、精神に異常を来たし、老いたとしても、ここまで重厚なものを書ける人は稀有だと思う。

  • 哲学

  • 『告白』とはだいぶ感じが違う?

  • あと2年経ったら、読み返そう。
    会社も中退して、孤独を楽しみながら。

  • 社会契約論で有名なルソーのエッセイ。エッセイというか思いの向くままに書き連ねたもの。それがエッセイか。当時のヨーロッパの状況が垣間見られて面白いが、ちょっと難解な部分もある。こういう本は読みなれるのが必要か。

  •  ルソーの先見性は計り知れない。
     彼の自我や自意識への拘り及び探求が、その後の学問や近代文学に与えた影響の甚大さをみても、それは証明される。彼も、当時の人間には理解されないところの所謂、天才の一人に数えられている。特に、精神分析の発達こそがルソーの捻くれた性格や相反する感情の衝突などの現象を解明させる契機となった。文学では、かの有名なトルストイなどはルソーの影響を直接に受けているらしい。
     幸福とは、本人の中に眠っているもので、外部にそれを求めようとしても無駄に終わると、彼は語っている。彼は、作家として若い時期に華々しく文壇にデビューしたが、自分の子供を全て孤児院に入れてしまったり、激しい思想の著作が一部の人間の反感を買ったりして、フランス社会から追放処分を受けてしまう。作品「エミール」は教育論として優れた著作だが、孤児院に子供を預けて親としての義務を放棄する行為との矛盾を指摘され、作品も吐き捨てられた。
     ルソーの性格は、とにかく過敏で神経質だったらしい。今でいう統合失調症のようなものだと謂われている。人間関係では常に対立を繰り返し、友人との絶交が相次いだ。そして、孤独な後半生を送らざるを得ないところまで悪化していった。穏やかで善良な資質も十分に持っていたが、不器用で疑い深い性向の為に、周囲にそれを理解される事はなかった。彼の文章は激しい口調で、己の精神を分析して掘り下げていく。その毒々しい執念の強さが却って思わぬ反感を買う原因でもあった。
     晩年、フランスへの入国が許されるが、一切の著述活動をしない事を条件にとられた。無理解だった当時のフランス社会にとっては、ルソーは危険人物だったのだ。天才は、しばしば同時代の人間からの無理解に苦しめられる。社会にまだ受け皿が整っていない事によって、天才は公から放擲される。哲学や文学などで自意識が大きな主題にクローズアップされるより一歩先に、ルソーは必死になってこの自我の問題に取り組んだ。ルソーの文学は現代にも大きな影響を及ぼしている。
     しかし、日本でルソーは余り読まれていないようだ。本作の訳者はそれが残念だ、と嘆いておられる。学問の研究テーマとしても孤独な現代人の心の渇きを埋める読書の対象としても、ルソーの文学は非常に魅力的だ。本作は、晩年の最後に書かれた遺書のような一品。ルソー本来の人間性が、瑞々しい文章の間から滲み出ている。一度、読まれる事をお勧めする。

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