逃げてゆく愛 (新潮文庫)

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制作 : Bernhard Schlink  松永 美穂 
  • 新潮社 (2007年1月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102007129

逃げてゆく愛 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 印象的だったのは、「もう一人の男」「少女とトカゲ」「割礼」。

    「もう一人の男」は、妻の死後に浮気相手を見つけてしまった夫が、その浮気相手の男に会いに行く話。浮気相手はとんだ嘘つきでみずぼらしい男だったが、最後にはその男の言うことの中に真実を感じられる。個人的に好きだったのは、男が亀好きだったこと。
    「(前略)亀はお好きですか?」
    「今まで一度も・・・」
    「亀と関わったことはないんですか?家で亀を飼っている人でさえ、亀のことがわかっていないんですよ。そして、亀のことがわかってなければ、どうやって亀を愛せるでしょう?おいでください!」

    「少女とトカゲ」は、一番文学的に素敵だと思った作品。小さいころから父の部屋に置かれていた小さな一枚の絵が、家庭の不和と重なり、やがて主人公が青年になって再び絵とともに暮らすようになっても、心を乱し続ける。青年はその絵の真相をつきとめるため、あれこれ探しているうちにシュールレアリスム画家のルネ・ダールマンが描いた「トカゲと少女」によく似ていることがわかった。その後しばらく生活していたが、ある時ついにその絵を燃やしてしまう。彼が燃やした「少女とトカゲ」の絵の向こうに出てきたのは、紛れもなくかつて調べた「トカゲと少女」で、やがて一緒に灰になる、という話。

    「割礼」は、アメリカに住むユダヤ人の女性とドイツ人の男性との恋愛。宗教や歴史の違いを乗り越えようと話し合いをしたり、いさかいが起こったり、お互いの存在に安心したりしながら、最後は一緒にいられなくなって彼が立ち去ってしまうという話。
    民族が個人の単位になっても、被害者と加害者の関係がぬぐえない、教育と文化の背景は交われないのだろうか。

    シュリンクの作品は『朗読者』に続いて2作目だったが、今回も一つ一つの話がドイツの近現代を色濃く投影していて、深い教養や戦争の罪、民族性や父子の関係がやはり私を魅了した。
    日本人という民族は、ドイツな感じがやっぱりとても好きなのかも。

  • 男女の愛の物語もある。
    家族ぐるみの友情の物語も。
    でも、やっぱり戦後のドイツの抱える傷跡が、その痛みが、どうしても強く前に出てくる。

    特に「割礼」
    ひとりの人間としてであって恋に落ちた二人が、互いの家族と会い、故郷を訪れ、社会的な付き合いを深めるとともに生まれる、互いのバックボーンへの不信感。
    ドイツ人がユダヤ人にしたことは許されることではないが、それは、今僕が責められなければならないことなのだろうか。
    彼女の悪気のない一言が、彼を息苦しくさせていく。
    彼女を失わないために彼がした決断と、その結末に唖然。

    亡くなった妻の、自分が知らない一面を探る「もう一人の男」
    自分勝手で、3人の女性の間でうまいことやっていると思っていた男が、すべてを捨てようとした時に忽然と浮かび上がる女のサイドの物語が怖ろしい「甘豌豆」
    確かに二人の間の愛情が消えたことを知りながら生活を続け、再び愛が生まれることがあるのだろうか。やり直すとしたら、どこからなのだろう。「ガソリンスタンドの女」

    ひとつの人生を、違う角度から見た時の落差が冷徹で、いいわけが許されない。

    愛情の、愛が無くなったらそこで関係が終わってしまうのが欧米の夫婦観だとしたら、愛が無くなっても情で繋がることができてしまうのが日本人なのかと思ったり。
    そう思っているのが私の方だけだとしたら、結構困ったことになるなと思ったり。

  • 歴史、民族、社会的閉塞感といった、スケールの大きな背景の下支えを感じる7篇です。

    丹念に男の内面が綴られた一人ひとりの物語でありながら、ふたつの社会や文化を相照らしていると思えば、ドイツの社会の戸惑いの一面を浮き彫りにしています。

    妻の死後、遺品の中から出てきた手紙から、もう一人の男性の存在を知り、彼の足跡と今を追う初老の男性。

    落ちぶれていく父が唯一残した財産らしき、少女とトカゲを描いた一枚の絵に魅入られる青年。

    彼女の一族と会って迷いが首をもたげてきたアメリカでユダヤ人女性を愛するドイツ人青年。

    男の主人公の内面の迷い、思い込み、決断への移ろいが、
    ひと言でくくれない、短編とは思えない精緻なタッチで描かれています。

    個人、家族、民族が背負う歴史や文化といった普遍的な大きな流れと、あまりにも個人的でひとつひとつが特別な思いが、異なる旋律が絡み合う対位法で作られた曲のように、
    ひとつの物語を織りなしています。

  • 短編集。「朗読者」以来、私にとっては二冊目のシュリンク。

    海外の文学を読む時に残念に思うのは、文化土壌や歴史背景を著者と共有できないことだ。特に、過去の歴史が現在に生きる人々の感情にも強く尾を引いているような作品の場合、私は著者の書いた文字以上には理解していないように思う。
    シュリンクの作品は、読みながら主人公が「ドイツ人」であるということを強く意識させられるものが多い。以前読んだ「朗読者」は勿論のこと、この短編集に収められている「トカゲと少女」「割礼」「脱線」もそうだ。多分、これらの作品は、ドイツ人ではない私と、ドイツの人々とではそもそも感じるものが全く違うのだと思う。
    ただそれでも、彼の作品全体に漂う、何ともいえないもの悲しい雰囲気にとても惹かれる。非常に理性的で感情を露わにしていない落ちついた筆致なのに、だからこそ言いようのない切なさを感じるというか。

    しかし今回、気に入ったのは上記作品ではなく、「もう一人の男」「甘豌豆」。
    「甘豌豆」は最後思わず笑ってしまった。男性の目から見たらまた違う感想かもしれないな。

  • 前作の「朗読者」がとてもよかったので手に取った本なのですが、
    登場人物の考え方や行動にいまいち理解が及ばず、
    ぐるぐる考えながら読んでたら読了するのに
    3ヶ月ぐらいかかっちゃった・・・。

    短編集でそれぞれはとてもいい作品だと思うのですが、
    代表作っていうのは特にない感じ。
    ドイツ人とユダヤ人との関係など微妙なところが、
    日本人には理解しにくいのか、私の読解力が足りんのか・・・。

    年齢関係なくまぁ言えば孤独な男性について書かれているのですが、
    テーマそのものに興味薄かった事もあり私的にはいまいち。

  • 朗読者(愛を読むひと)でおなじみ、ベルンハルト・シュリンクの短編集。

    この一冊でも、ナチス時代のドイツが根本にあり、登場人物を翻弄する。
    アラウンド20か中年男性が主人公の話がほとんど。
    男はズルいし、女は知的だが男について行くのが必死な印象。
    ただ、議論は必ず行う。
    それで行く道が別れるのは仕方がないこと。

    ・もう一人の男
    死んだ妻の手紙を整理していたら、親密そうな男からのものがたくさん出てきた。
    男とコンタクトを取るために、妻を語って返信する話。
    何かの形で復讐を企むも、途中であることに気付き、反対に自身が打ちのめされる。

    ・脱線
    活動家の夫婦と知り合った男。
    はじめは協力しあう関係だったが、徐々に関係が変化して行く。
    仲間間の空気は、生き物なんだと感じさせる。

    ・甘豌豆
    タイトルの例えがよく分からないが、
    とにかく活動的な男性が結婚しつつ、側室がいて、さらに恋人がいるという3マタ関係を器用に軽業師のように渡って行く。
    最後はイヤになって自ら逃走するも、運命からは逃げられないという話。
    世にも奇妙な物語でやれば面白そう。


    ほか多数。
    もっと自分も遊んでおけばいいのかと錯覚する一冊でしたw

  • 「朗読者」の作者の短編集。あれは映画も良かったなあ~
    浮気しながら追い詰められる男の話が、滑稽なのに最後は女たちの強さにうなった。この人の書く女性は強い。
    現代のドイツ小説だなあ…。

  • ナチの記憶と向き合ってきた、あるいは向き合わざるを得ないドイツ人の痛み。切なさも。。。珠玉の短編集。

  • 「朗読者」の印象が良かったので、購入。

    村上春樹あたりが訳すアメリカ文学を彷彿とさせる短編。
    薄ら寒い感じがするくらいのささやかな幸せを掴もうとする主人公達は、やるせないが、嫌いではない感じ(何

  • ベルンハルト・シュリンクの逃げてゆく愛を読みました。ドイツの作家シュリンクの短編集でした。この人の朗読者は結構面白く読んだので、この本も読んでみました。ドイツに住んでいる人たちが主人公の、愛の始まりと終わりがテーマの短編集でした。私がよく読んでいる日本人の作家の人物の描写方法とは違う物語手法なので、物語に感情移入しにくいと感じました。また、ドイツ人とユダヤ人のかかわり、西ドイツ人と東ドイツ人のかかわりというような、日本人からみるとよくわからないテーマも絡んでいます。感想としては、何が言いたいのかよくわからない短編集でした。

  • 映画に向いた話が多い印象がした。

    「割礼」の「ぼく」が良かった。オラーニエンブルクに行っても今ひとつピンとこないし、バッハのミサ曲は歌詞に意味を見出せないが音楽には感動するし、一応キリスト教徒だけど彼女のためなら一応ユダヤ教に改宗する。「本場」にいる現代ヨーロッパ(ドイツ)人の本音を聞いた感じで、あんまり我々と変わらないのではないかと思ったりした。

  • 面白い話とそうでない話の差が激しい。「割礼」は面白かった。「あなたのなかのナチが〜」というセリフ、「自己検閲」のエピソードは印象的。2011.3.19

  • もちろん朗読者が一番だが、短編も良い。「少女とトカゲ」など、深い印象を心に残す作品ばかりだった。シュリンクの作品をこれから先もずっと読みたいと思った。

  • 「朗読者」ほど切迫感はないが、日常の中にある何か不穏な感情に向き合うことができる小品たち。

  •  「朗読者」のB・シュリンクの短編集。
     *もう一人の男
     *脱線
     *少女とトカゲ
     *甘豌豆(あまえんどう)
     *割礼
     *息子
     *ガソリンスタンドの女

     妻の死後、妻宛に男から手紙が届く「もう一人の男」など、ここにあるのは喪失の物語りだ。人は、生きている間に何かを得ると同時に、失ってもいく。失っていくのも、突然ではなく、砂時計の砂が零れ落ちるように、知らない間に少しずつ失っているのだ。
     シュリンクの小説の通奏低音のあるのは、そういった喪失だ。
     男女の話を描いているようだが、実際には主人公一人の物語りになる。そこに他者はいない。他者は、自分を映す鏡のように存在している。
     そしてやってくる喪失。
     喪失とは、目の前にある他者をいう鏡を失うことなのだろうか。
     
     「もう一人の男」と「ガソリンスタンドの女」がいい。
     人は失ったあと、空白になにを見出すのだろうか。空白は、闇なのだろうか。それとも…。
     シュリンクは、それを問いかけてくる。

  • 感動した覚えがあるけれど、書き留めないうちに忘れてしまった。再読予定

  • 海外文学は敬遠していたけど学校の課題がきっかけで読んでみたらよかった。ドイツの歴史が物語りに深みを与えている。

  • 満ちている。孤独。薄ら寒い幸せ。

  • レポートのための……ではないけれど、ま、いっか。

    すべての作品がそれぞれ余韻と深い読後感を残す、秀逸の短編集。
    シュリンクの鋭い洞察力と社会への問題意識、見識の深さが存分に発揮されていると思う。
    『朗読者』の筆者とも、東西ドイツの問題を描く作家とも違った側面からみた、彼の力が感じられます。

  • 『朗読者』(http://www.shinchosha.co.jp/book/200711/)のときほど、ドイツが抱える歴史の負債に対する現代のドイツが直面する苦悩は、この短編集では強く出てきません。『朗読者』の時は、母親に近い年齢の女性と恋におちた少年が、その女性のかかえる過去の罪と向き合うことになるこの国の歴史、それが一人一人にどのような形で影を落とすのかが重たく苦しかった印象が残っています。

    それに比べれば、『逃げてゆく愛』の各作品の重みは軽度のものです。7つの短編がおさめられているこの本では、訳者である松永さんが後書きで書いているように、全体として一個人が抱え、感じうる孤独がテーマとして共通しています。孤独っていう感情が、人ならば誰しも感じることですからどの作品も生々しいのです。数十年のときを経ても、過去のできごとと今の自分との関係性を考えて、他者からの決め付けや視線に苦悩するドイツ人の姿が描かれているのが、シュリンク作品を読む醍醐味でもあると思います。

    その過去の負債を登場人物がどのように対面し対話していくのかを、読み進めていき、それを通じて読者サイドが深く考えさせられ、学ぶことができるからかもしれません。彼の作品を読みことで、自分が考えていること、考えさせられていること、逃げられるもの、逃げられないもの、を自分に反投射させて自己意識の理解に結びつけることもできるかもしれない。自分の意思・行動ではどうにもできない、目に見えない周囲の力が自分の人生に影を落としたり、順調に回っていたものを急に狂わされることの非情さみたいなのも描かれています。

    作品中には、さまざまな人々は自分達の祖先から受け継いできた歴史への反応がさまざまな形で記されています。旧東ドイツにいた人々は、統一ドイツ下での生活から感じる孤独と疎外感を感じています。ユダヤ人の恋人から「ドイツ人の中にあるナチ」と言われ自分の意思や行動ではどうにもできない過去との付き合い方から時間からの孤立を避けようとする青年男性が苦悩します。自分が良かれと思っていた結婚生活とは別のところで亡き妻が見せていた顔との違いから身勝手に自分を孤独だと決め付けます。過去から脈々と継がれてきてるものが、私達の誰しもにあるということを、こうした登場人物と「周辺」「時間」「環境」との関係性から知ることができると思うのです。

    ちょっと長めで、政治色のある文章ですが、印象的だったのでご紹介しておきます。「東西関係の物語はすべて、それぞれの期待や失望に彩られた恋愛の物語だったのだ。相手のどこが自分たちと違っているのか、相手はなにを持っていて自分たちは何が欠けているのか、自分たちにあって彼にないものはなにか、これ以上投資をしなくても興味をそそってくれるようなものはあるのか、そんな好奇心を抱いて彼らは生きていた。興味をそそるものはたくさんあったことだろう!それは、ベルリンの壁が開いたときの冬の状態から、東西ドイツの人々が互いに愛に満ちた好奇心を抱く春のような状態を迎えるのに十分なはずだった。しかし、壁が開いてみると、それまでは未知で異質で遠かったものが、突然で身近でありふれてうっとうしいものに変わってしまった。」

    帯の裏には「男たちは常に孤独で、満たされない思いを抱えている」という訳者があとがきで書いている文章が載っています。この言葉を読んでから孤独感という視点から作品を読んでしまっていたのですが、自ら孤独になりたいと思う男も、否応なく孤独や疎外を強いられる男もこの短編集には登場してきます。孤独という言葉一つにさまざまな意味が含まれているところに、この短編集を読む面白みがあると思います。

  • 第二次世界大戦、ユダヤとドイツ、東ドイツと西ドイツ。『甘豌豆』はルネ・クレマン監督作品『しのび逢い』の雰囲気がある。

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