逃げてゆく愛 (新潮文庫 シ 33-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102007129

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  • 印象的だったのは、「もう一人の男」「少女とトカゲ」「割礼」。

    「もう一人の男」は、妻の死後に浮気相手を見つけてしまった夫が、その浮気相手の男に会いに行く話。浮気相手はとんだ嘘つきでみずぼらしい男だったが、最後にはその男の言うことの中に真実を感じられる。個人的に好きだったのは、男が亀好きだったこと。
    「(前略)亀はお好きですか?」
    「今まで一度も・・・」
    「亀と関わったことはないんですか?家で亀を飼っている人でさえ、亀のことがわかっていないんですよ。そして、亀のことがわかってなければ、どうやって亀を愛せるでしょう?おいでください!」

    「少女とトカゲ」は、一番文学的に素敵だと思った作品。小さいころから父の部屋に置かれていた小さな一枚の絵が、家庭の不和と重なり、やがて主人公が青年になって再び絵とともに暮らすようになっても、心を乱し続ける。青年はその絵の真相をつきとめるため、あれこれ探しているうちにシュールレアリスム画家のルネ・ダールマンが描いた「トカゲと少女」によく似ていることがわかった。その後しばらく生活していたが、ある時ついにその絵を燃やしてしまう。彼が燃やした「少女とトカゲ」の絵の向こうに出てきたのは、紛れもなくかつて調べた「トカゲと少女」で、やがて一緒に灰になる、という話。

    「割礼」は、アメリカに住むユダヤ人の女性とドイツ人の男性との恋愛。宗教や歴史の違いを乗り越えようと話し合いをしたり、いさかいが起こったり、お互いの存在に安心したりしながら、最後は一緒にいられなくなって彼が立ち去ってしまうという話。
    民族が個人の単位になっても、被害者と加害者の関係がぬぐえない、教育と文化の背景は交われないのだろうか。

    シュリンクの作品は『朗読者』に続いて2作目だったが、今回も一つ一つの話がドイツの近現代を色濃く投影していて、深い教養や戦争の罪、民族性や父子の関係がやはり私を魅了した。
    日本人という民族は、ドイツな感じがやっぱりとても好きなのかも。

  • 男女の愛の物語もある。
    家族ぐるみの友情の物語も。
    でも、やっぱり戦後のドイツの抱える傷跡が、その痛みが、どうしても強く前に出てくる。

    特に「割礼」
    ひとりの人間としてであって恋に落ちた二人が、互いの家族と会い、故郷を訪れ、社会的な付き合いを深めるとともに生まれる、互いのバックボーンへの不信感。
    ドイツ人がユダヤ人にしたことは許されることではないが、それは、今僕が責められなければならないことなのだろうか。
    彼女の悪気のない一言が、彼を息苦しくさせていく。
    彼女を失わないために彼がした決断と、その結末に唖然。

    亡くなった妻の、自分が知らない一面を探る「もう一人の男」
    自分勝手で、3人の女性の間でうまいことやっていると思っていた男が、すべてを捨てようとした時に忽然と浮かび上がる女のサイドの物語が怖ろしい「甘豌豆」
    確かに二人の間の愛情が消えたことを知りながら生活を続け、再び愛が生まれることがあるのだろうか。やり直すとしたら、どこからなのだろう。「ガソリンスタンドの女」

    ひとつの人生を、違う角度から見た時の落差が冷徹で、いいわけが許されない。

    愛情の、愛が無くなったらそこで関係が終わってしまうのが欧米の夫婦観だとしたら、愛が無くなっても情で繋がることができてしまうのが日本人なのかと思ったり。
    そう思っているのが私の方だけだとしたら、結構困ったことになるなと思ったり。

  • 「朗読者」の作者の短編集。あれは映画も良かったなあ~
    浮気しながら追い詰められる男の話が、滑稽なのに最後は女たちの強さにうなった。この人の書く女性は強い。
    現代のドイツ小説だなあ…。

  • ナチの記憶と向き合ってきた、あるいは向き合わざるを得ないドイツ人の痛み。切なさも。。。珠玉の短編集。

  • 海外文学は敬遠していたけど学校の課題がきっかけで読んでみたらよかった。ドイツの歴史が物語りに深みを与えている。

著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク(ドイツ:ベルリン・フンボルト大学教授)

「2019年 『現代ドイツ基本権〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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