永遠の夫 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102010075

感想・レビュー・書評

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  • 『永遠の夫』という題名は「理想の夫」の意味ではない。妻が愛人に走ってもその妻から離れられないダメ夫のこと。

     妻がつぎからつぎへ浮気しても、気弱でうじうじしているという夫が、寝取男に復讐するのやらそうでないのやら、笑えてしまう行動に走るミステリーもどきのドストエフスキー『永遠の夫』を読了。

     おもしろかった、100年以上前の小説とは思えない臨場感。もちろん革命前のロシア、乗り物は馬車という時代。会話体で終始しているためか背景は関係ない。

     人間の深層心理に食い込む描写が憎い。語り手がその浮気相手、乗っ取り男、間男。しかしダメ亭主でもやるときはやるもんだ!気弱亭主にねちねちと夫に復讐されていく様子は痛快、愉快。

     えーっ、ドストエフスキーって、こんなにおもしろかったの!?

     重厚で饒舌、複雑怪奇の『カラマーゾフの兄弟』や深刻な『罪と罰』。作者の才能はどこまで広がるのだろうか?認識新たになった。

     訳(千種堅)もよかった、わかりやすかった。

     *****

     わたしはこの歳になっても相変わらずフィクションが好き。こういうおもしろいのを読むとますます生きていることが嬉しくなる。

     「ダメ亭主」のダメさ加減がおかしいのではなく、そこへ持ってくる話の運び、間の取りかた。つまり構成の巧みさの天才的なひらめきを味わうと妙に嬉しくなってしまうのだ。

     世に文学、小説は数々あれどもわたしに当たるのは少ない。少ないからこそ探し求めてしまう。

     願わくばわたしが当たりと思った作品が、1000年後も名作であればいいなーと思うのはおごりであろうかの~。

  • 直訳すると万年亭主という意味らしい不思議なタイトルの作品。解説によると非常に困窮したなかで執筆(恐らく普通の人ならパニックになるか直ちに生活保護申請を出しに行く)されたようだが内容に乱れがないように思われるのが文豪の所以か。
    妻を寝取られたトルソーツキーと寝取ったヴェリチャーニノフ。その妻が死んだことで再び始まる愛憎入り混じった交流。娘が出てきた辺りでありがちな話と予測すると裏切られる。ネタバレのため詳細は記さないが凡百なメロドラマとは全く異なる予測外の展開に驚いた。
    殺意というものについても考えさせられた。

  • 控えめに言って、超面白い
    タイトルの『永遠の夫』の意味とは
    作品の中の表現を用いれば「ただただ夫であることに終始し、それ以上の何ものでもなく・・(中略)・・自分の細君のお供えもの」であり、「太陽が輝かずにはいられないように、妻に不貞をされずにはすまない。それでいて当人はこのことをまったく知らない」
    性に奔放な妻から良いように尻に敷かれている哀れで脳内お花畑な夫のことである。
    決して、理想的な夫というわけではない。
    あらすじはウィキペディアに書いてある通りなので端折るけど、
    主人公ヴェリチャーニノフ(寝取り情夫)と、ネトラレ夫トルソーツキーの、奇妙な愛憎関係がめちゃくちゃ面白かった。
    作中(私的に)最も興奮したのは、
    酒びたりで頭おかしくなってるトルソーツキーが、
    「私にキスしてください、ヴェリチャーニノフさん!」とか言って 無理矢理キスさせてたところw
    中年男性が密室で2人して何やってんのwwとつっこみたくなってしまった。これは、あれなの?BLなの???おもしろすぎだろ。

    極めつけは、物語終盤で、
    トルソーツキーから、カミソリで切り付けられた(殺人未遂?)ヴェリチャーニノフが、
    殺されそうになったくせにトルソーツキー(加害者)が首つり自殺するんじゃないかと心配して、会いに行こうとしたとき、
    「まさか、まさか、“抱き合って、涙を流すために”俺は会いに行くのではないだろうな」とか恥ずかしそうに言ってたところ
    結局きみら、憎さ半分で愛し合ってるのかよ?

    これ、もうドスト氏プレゼンのBL小説ですわ

    (※完全なる独断と偏見と妄想です。)

    いやとにかく面白かったです。
    トルソーツキーのダメ男ぷりと、ヴェリチャーニノフの不倫して寝取ったくせに大いに開き直ってるイケイケ紳士ぷりの対比もよかったし、この2人の歪な友情?愛憎?描写が卓越していて素晴らしかった。
    本作は、ドストエフスキー作品の中でも著名な『白痴』と『悪霊』の間に執筆されたものとのことですが
    ドスト氏の作家生命円熟期に書かれた作品ということで、まさに筆に油が乗っているというか、読者を引きずり込んであっというまに読ませてしまう力量を感じました。とてもお薦めです。

  • (01)
    滑稽の一種であるトルソーツキイであるが,翳りや不気味な属性もあり,彼に対する興味は尽きない.中盤の幽霊という章も秀逸であるが,彼の幽霊性というのは,もうひとりの主人公のヴェリチャーニノフの罪の分身(*02)として離脱された存在でもあり,この二人の兄弟性,相似性,補完性を楽しむのが本書の読み方であると考えられる.

    (02)
    トルソーツキイの登場に関してはドッペルゲンガー的でもあるし,「忘れえぬ人」あるいはデジャヴのようでもある.ヴェリチャーニノフの内面や心理を外化したガイストともいえる.ザフレビーニン家での二人の共演の一幕もコミカルで相当に楽しむことができるが,矛盾し乖離(*03)する二つで一つの魂として読むとなお楽しめるように思う.

    (03)
    驚天動地な展開には彼の地の土俗的な劇作が影響しているのだろうか.予習なしで本書に望む読者は,予想の斜め上をいく展開に舌を巻くことだろう.キス,死,結婚,未遂など唐突であるが,それらがリアルな生をよくよく思い返したときに,わたしたちの生にも起こりえた/起こってきた唐突であることに,はっとさせられる.

  • あまり知名度がある作品ではないし、300ページ程度なので正直そんなに期待せずに読んだけど、想像以上に面白かった!

    タイトルからして、優しくて柔順な夫の話とかなのかな?と思ったら、夫のトルソーツキーはなかなかにぶっとんだ性格してるし、寝取り男のヴェリチャーニノフもモテるのか過去に女を妊娠させたまま放り出してきたりとなかなかのクズな上に精神も不安定そう。

    そして男同士の愛憎模様がすごかった。
    そんな話だと思わなかった。
    キスしたり殺そうとしたりっていう男同士の激重感情。
    友人だ愛してるといいながら憎んだり衝動的に殺そうとしたりそれを許したり…。

    とにかく可愛そうだったのが娘のリーザ。
    母が亡くなり、父からは怒鳴られたり雑な扱いをうけて、結局は他人の家で亡くなる。
    育ての父にも見捨てられ、実の父をそうと知ることもなくただ悲しみの中で亡くなったのはあまりにも不憫だった。
    この件だけでもヴェリチャーニノフはトルソーツキーのこと一生許しちゃだめだろ…とも思うけど、ヴェリチャーニノフもそこそこのクズだからなぁ…。

    最後はなるほど『永遠の夫』だなぁと思ったし、切り傷が残ってる手を出して「ぼくがこの手をさし出してるんですから。あたなただって、ちゃんと握ってくれたっていいじゃないですか」と震えてつぶやく場面もよかった。

    これは『白痴』のあとに書かれたらしいけど、『白痴』のふたりの関係性にも少し似てる気がした。
    ドストエフスキーは男同士の激重感情好きだったのかな…?

  • 妻に浮気されたトルソーツキーとその浮気相手のヴェリチャーニノフの奇妙な関係を描いた物語。トルソーツキーは浮気ひとつできず、妻にしがみついているしか能のない『永遠の夫』。彼の哀れな姿はいっそ笑いを誘う程。しかし時折見せる熱っぽい、狂的な姿にはドキリとさせられる。それほど長い作品ではないけれど、描かれる人物の熱量はさすがドストエフスキー、圧倒されました。

  • 割と短め、この文庫で250ページ程。
    1870年頃の作品で、解説によると、
    大作「白痴」と「悪霊」の間の期間のものらしい。

    NOTE記録
    https://note.com/nabechoo/n/nae69d242406e?magazine_key=m95e2f346041d

    不倫してた男とされてた男。
    この二人がメインの話。
    してた男、ヴェリチャーニノフ。
    されてた男、トルソーツキイ。

    なんか、いまいちだったな。
    あまりピーンとこず。
    読解力がいまいちなもんで。
    二人の感情が複雑で分かりにくい。
    トルソーツキイはヴェリチャーニノフのことを、憎みつつも尊敬してる?憧れてる?
    ヴェリチャーニノフはトルソーツキイのことを、どう思ってたかな?馬鹿にしてた?
    もう覚えてないなー。
    でもヴェリチャーニノフてなんかモテ男な感じだけど、
    結局一人だったな。体調悪そうだし。
    トルソーツキイはなんだかんだ、最後また綺麗そうな人と一緒になってたな。
    また浮気されそうだけど。
    これが、「永遠の夫」か。

  • ふだん小説をあまり読まない人には、本作を読み終えて“それで一体何が言いたかったの?”と思う向きもあろう。
    だけれど、私はこれはこれで面白い小説だったと思っている。しがない、パッとしない60男トルソーツキーの、不可解な言動、人物像が面白いのであるった。

    ****<以下少々ネタばれ含む>
    物語はヴェリチャーニノフ( 50代の独身男 )の目から語られる。深夜彼の家を訪ねて来た男、それはトルソーツキー。9年程前にヴェリチャーニノフは、トルソーツキーの夫人と不倫関係にあった。かつてヴェリチャーニノフの愛人だったそのトルソーツキー夫人が数ヶ月前に急逝したという。
    その夜からヴェリチャーニノフとトルソーツキー二人の奇妙な関係が始まる。トルソーツキーと夫人の娘リーザの登場。このコの父は実はヴェリチャーニノフらしい。そして少女リーザ突然の病死。
    夜毎飲み歩き所在不明でリーザの葬儀にも現れないトルソーツキー。そしてトルソーツキーの突然の結婚宣言(相手は14歳の少女)。一方でヴェリチャーニノフは持病が悪化、それを看病してくれるトルソーツキー。ところがトルソーツキーはヴェリチャーニノフに突然の殺意を示す(その辺はヴェリチャーニノフの憶測ではっきりしない印象)。

    ちなみにヴェリチャーニノフもトルソーツキーも、ともに資産家階級である。トルソーツキーに請われてヴェリチャーニノフが別荘地にザフレビーニン家を訪ねる章がある。大勢の娘たちがのんびりと遊んで暮らす夏の別荘地の風物がなんとも柔らかく、美しい。

    …斯様な具合でコンパクトな中編ながら予想外の展開が次々に起こり、飽きさせない。そもそも多年にわたり妻を寝取られて来た男トルソーツキーなのだが、それでもヴェリチャーニノフにつきまとう真意が謎めいていて、読まずにいられない。

    言わば、かなりダメンズ男であるトルソーツキーの生き様、悲哀を読む、というのが本作の味わい。

    ニキータ・ミハルコフ監督あたりが映画化したら面白い作品になったに違いない。

    千種堅氏の翻訳。二人の男の丁々発止のやりとりをイキの良い会話で訳出。一方で人生の悲哀や憂愁も滲ませる。巧いと思う。

  • 主人公ヴェリチャーニノフが「永遠の夫」なのかと思ったら友達のトルソーツキイが「永遠の夫」だった。これは”良い夫”ではなく”男をとっかえひっかえする妻をもつ夫”って意味だった。トルソーツキイはかわいそうなタイプだが人から好かれなくてもしょうがないような・・。対してヴェリチャーニノフは人好かれしそうなタイプ。

  • 夫トルソーツキーと妻の愛人ヴェリチャーニノフを中心に物語が展開。娘リーザの死、トルソーツキーの再婚?などとさまざまなことが起こる。
    自分には少し合わなかった。

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著者プロフィール

(Fyodor Mikhaylovich Dostoevskiy)1821年モスクワ生まれ。19世紀ロシアを代表する作家。主な長篇に『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『未成年』があり、『白痴』とともに5大小説とされる。ほかに『地下室の手記』『死の家の記録』など。

「2010年 『白痴 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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