善悪の彼岸 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102035047

感想・レビュー・書評

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  • 2012年版。
    まるで唄うような文に潜む毒。ニーチェにとって考えるということは、こういう実践だったのだと思う。だが、この魅力が、ニーチェ語録なるものを生み出し、彼の与える毒を考えずに無条件にありがたがるという害悪を作り出してしまっている。
    考えるということは、決して抽象的で非現実的なものではない。考えるという自体が実践なのである。彼にとって、本能と理性という分断はない。あるのは、力への意思というものだ。そうせずにはいられない服従と同時に、誰にも泥まない、孤高の理性。それこそが、唯一の彼にとっての真実なのである。
    どこかにイデアと呼ばれるものがあるのではなく、この自分こそが、真実なのだ。彼がプラトンを毛嫌いするのは、彼が、イデアと呼ばれるものをことばにしてしまったからである。
    彼は、決してそれまでの哲学やなにやらをぶち壊そうとしてはない。彼の述べていること以上に当たり前のことはない。だが、彼のことばは、他の哲学者にはない響きがある。哲学とは、何か目先の興味を満たしたり、人受けしたりするようなものでは決してない。当たり前が当たり前であることに驚いてしまう、それを知ることによって、世界が、生きることが、変わってしまうことを伝えたいのだ。この流れるような歌こそ、彼が生きて伝える精神である。これこそが、彼の仮面である。その驚きを伝えるためにはどうしても、うそを言わねばならない。そのうそを真に受けて、高貴な孤高を取り違えて超人思想なるものに正当性を与えた彼には、大きな罪があると言える。仕方のないことではあるが。
    おそらく、発狂したというけれど、考えるということ書くという行為に賭けて、彼ほど冷めていたものはいないような気がする。鳴りやまぬツァラトゥストラの声に圧し潰されながらも、それがツァラトゥストラゆえに、自ら歌うよりほかないという苦しみを自らに課して、彼は書くことをやめなかった。それこそ、道徳なのである。どこかから与えられるものでは決してない。それは、従わざるを得ない、信じずにはいられない強い力で、自らに沸き起こってくるものなのである。その強い呼び声に従う時、ひとは善悪の彼岸へと至るのである。
    彼は自らの意志を信じ、善悪の彼岸に飛び込んだまま戻ることはなかった。だが、彼はそんな場所などどこにもないということに気づいていたのだろうか。善悪の彼岸が、力への意志が生まれ、そして還るのもまた、この自分自身であるということを彼は信じきれなかったのか。彼には、ツァラトゥストラの声を抱きしめることができなかったのか。
    巻末に、訳者による節ごとのまとめなるものが記されているが、これはニーチェ入門などには決してならない。難解にしてしまているのは、偏にに自分のせいだ。真にわからないということは、ことばにならないはずである。安易に二元論的だとか構成主義的だとかそんなのでまとめてしまっては、彼のことばはいつまでたっても決してわかることなどないだろう。

  • 「ツァラトゥストラはかく語りき」は読み、二冊目として読んだ本。
    「ツァラトゥストラ〜」はそれほど良い本と思えなかった。お話としては面白いが、内容としてはあまりピンと来なかった。例えば「神は死んだ」と書いてあるが、現代人からしたら、神が死んでいるのは当たり前であって、それほど新規性があるようには思えなかった。

    もちろん自分の感覚が間違っているのだろうと思って、読んだのがこの「善悪の彼岸」

    しかし、余計わからず。全体としては同時代のヨーロッパ人を非難しているようだが、自分はヨーロッパ人ではないので、今ひとつ言っている意味がわからなかった。
    さらに、訳が古めかしくて読みづらかったことが、なおさら理解を妨げたと思う。

    レビューというのは難しく、それぞれの立場で評価をつけるしかなく、つまり私であれば現代の学のない純日本人という立場であるので、この本は星二つとなってしまう。評価なしにすることも考えたが、別に私の評価など誰も気にしないだろうから、素直に書くことにする。

  • 善悪の彼岸
    (和書)2009年02月03日 16:54
    1954 新潮社 ニーチェ, 竹山 道雄


    ニーチェの本は何冊か読んだけど、意外と読み易いと感じています。食わず嫌いなところもあったのかも知れません。他の本もどんどん読んでいきたい。

    この本にはたくさんの貴重な言葉がありますがその一つを引用してレビューを終わりたいと思います。

    ●二八五
    『最大の事件と最大の思想は-しかして最大の思想は最大の事件である-理解されるのがもっとも晩い。時を同じゅうする世代は、かくのごとき事件を体験しない。かれらはただそのかたわらに生きて過ぎゆくにすぎない。ここに星の世界に似たことが起こる。もっとも遠い星の光は人間に達することがもっとも晩い。それが達する前には、人は彼方に星があることを否定する。「この精神が理解されるには幾世紀を要するか?」-これも一つの尺度である。人はこれをもって必要な階位と待遇を定める。精神のためにも、星のためにも。』

  • 哲学

  • 文章は詩的で理論展開も読みやすく、他のニーチェに比べると読みやすさは群を抜いているかも。男の文法の中から抜け出られないのが哀れでもある。

  • 箴言と協奏曲のみ、読了。/ただ一人への愛は一種の野蛮である。何となれば、それは他のすべての者の犠牲において行われるゆえに。神への愛もまたしかり(67)/高い感覚の、強さにはあらずして、むしろその持続が、高い人間をつくる。(95)/怪物とたたかう者は、みずからも怪物とならぬようにこころせよ。なんじが久しく深淵を見入るとき、深淵もまたなんじを見入るのである。(112)/愛よりなされたことは、つねに善悪の彼岸に起る。(153)/結局のところ、人間はおのれの欲望を愛して、欲望されたものを愛しているのではない。(175)/何が「誠実」であるかについては、おそらくいまだ何人も十分に誠実ではなかった。(177)

  • 部屋の本棚整頓してたら色々面白く。

    「愛によりなされたことは、つねに善悪の彼岸に起る。」(153)
    「悲劇に対する感覚は、肉感に比例する」(155)
    「人は自分の認識を他人に伝えると、はやその認識を前ほどには愛しなくなる」(160)

  • (1968.09.11読了)( 1966.12.16購入)
    内容紹介
    「哲学者の偏見について」「自由なる精神」「宗教的なるもの」「箴言と間奏曲」「道徳の博物学」「われら学者たち」「われらの美徳」「民族と祖国」「高貴とは何ぞ?」および詩1編――以上によって著者は既成の道徳観念と19世紀後半のヨーロッパの精神状況を批判する。「世界は不条理であり、生命は自立した倫理を持つべきだ」と述べ“未来の哲学のための序曲"を奏でた晩年の代表的著作。

  • 善悪の彼岸=愛によりなされたこと
    ・生きるとは、自然とは別のように存在したいという意欲。・生きることは、評価し選択し、不正であり、限定されてあり、関心を持とうと欲すること。・物理学はただ世界の分析であり整理であり、世界の説明ではない。・自然法則は解釈である。・深い精神を持つ人の周りには仮面がある。・多数と一致したいというのは悪趣味。・自分が愛されていることを知りながら自分からは愛さないものはその魂の沈殿物を示してしまう。・勝手気ままと自然な状態は違う。自然な状態にこそ微妙に法則に従う。・ある学問の歴史を研究したものは、発展のなかに普遍的なものを見る。・われわれは体験の大部分を仮作する。・子供を生んでひとつの所有品を生んだと感じない親は一人もいない。・自分の観念と価値評価に服従せしむる権利が、おのれにあるかを疑う父親はいない。・時代の趣味が人を意志薄弱にする。・世界は不条理であり、生命は自立した倫理を持つべき。・真の文化の特徴は様式的統一性。

  • 様々な物事に触れておく前に、ニーチェの卓越した物事に対する考えておこうと読んでみました。
    さすがにムズカシイ。受験から離れて語句が抜けていたが、なんとか引き出しから人物名や語句を戻して読んでいた。
    それでも一度だけで理解するのは難しかった。

    また、いずれは読み直したい。そのときは別の訳者の本を読み、こちらのレビューも書きなおしたい。

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著者プロフィール

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche)
1844年10月15日 - 1900年8月25日
ドイツの哲学者、古典文献学者。近代がはらむ問題を一新に受け止め、古代以来の哲学との対決に挑み、実存主義の先駆者、生の哲学の哲学者として知られる。その思想は20世紀に続く様々な思想に衝撃と影響を与えた。
代表作に『悲劇の誕生』『道徳の系譜』『ツァラトゥストラはこう言った』『善悪の彼岸』など。

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