- Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102040010
感想・レビュー・書評
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戒律の厳しい清教徒の町ボストンの牢獄前広場で、赤子を抱いた一人の女性がさらし台に立たされた。彼女の胸には一生外してはならない、“姦淫”を象徴する緋色の「A」の刺繍が施されていた。相手の男の名を詰問されるも、へスターは頑なにその名を明かそうとはしない。
冒頭からその罪を詰問されるへスター。羞恥と孤独に耐えながらも、自身の信念に従って相手の名を伏せ赤子を抱く決死の姿勢はまさに母の強さであり神々しさすらあります。
ストーリー自体はシンプルですが、多くを説明しない代わりに、各々の心理描写が丁寧に描かれています。贖罪を背負いつつ我が子に愛を注ぐことを選んだへスターを中心に、苦悩や復讐など、様々な感情が入り混じり読み応えがあります。
物語の背景には十七世紀頃の宗教観が大きく影響していることから、歴史を知ればより深い読み方ができる作品かと思いました。
『ガウンの胸には上等の赤い布に、金糸で手のこんだ刺繍と風変りな飾りをまわりにつけ、(中略)とても芸術的にできており、又豊かな目のさめるように華麗な幻想にあふれていたので…』(p15)
『その文字は人々の想像の中で新しい数々の恐怖の形をとり、その緋の色は地獄の底の炎からとったように思えた。』(p33)
緋文字の「A」は作中で様々な表情を見せ、読後もしばらく脳裏から離れません。
悲劇ではあるけれど、明るい光が差し込んでいるようなラストに救われました。 -
罪を背負い、その贖いの刻印として縫い付けられた胸元の緋文字。「神をも畏れぬ罪人の証」を持つ女性は、けれどどこまでも清貧に毅然と生き、「罪の我が子」を愛し育む。そんな彼女の人生は辛苦に満ちながらも、常に頭上に光が射しており、天からの祝福を受けているようでもある。その反対に、緋文字を付けずに済んだ者にどこまでもつきまとう闇。罪とは何か。贖罪とは何か。人の心と決して切り離せず、簡単には答えの出ないその問い。時代、風土によっても変化するその答えを、読み手は登場人物を通して探し続ける事になるのだろう。
罪悪に焦点を絞りレビューを書いたが、本作の放つメッセージはひとつに留まらない。読み手が今、何に重きを置いているか?それによっても受け取るものは変わるだろう。300頁足らずの作品であるにも関わらず、大変重厚な物語だった。 -
10数年前に購入してずっと読めてなかったが、今なら読める気がしてついに読了した。構成もストーリーもシンプルで、扱っているテーマは現代からすると大したことないけど、当時の時代ではかなり衝撃的な作品になっていたことは想像出来る。テーマだけでいうと、罪と罰を連想出来る所は個人的にあった。
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米文学史でかなり印象の強かった、ナサニエル・ホーソーンの作品。
どういう文脈で書かれたものか、記憶が曖昧なので追記します。
実は、難しくて、というか苦しくて、3ヶ月くらい読み進められなかった作品。
へスターに感情移入してしまったから、辛くて辛くて仕方なかった。
チリングワースとディムズデイルの共同生活あたりから事の筋が見え始め、そこからは一息で読みました。
といっても、一筋縄では終わらせてくれない、実に難しい、かなしい、しかし教えの多い作品だったように思います。
ネットで解釈を漁ることはあまり好きではないので、あとがきを読んで解釈をまとめた段階です。
緋文字が終始曖昧に、かつ象徴的に書かれている点は神の投影が少なからずなされているからかと思いました。
しっかり感想書けるように、考えて読みます。でも意識せずとも考えさせられる、読み継がれる作品だと思います。ホーソーンさんありがとうございました。 -
(1969.11.01読了)(1969.06.01購入)
内容紹介
胸に緋文字の烙印をつけ私生児を抱いた女の毅然とした姿――十七世紀のボストンの町に、信仰と個人の自由を追究した心理小説の名作。 -
ずっと積んでました…読めてよかった。
森っていうのがやっぱ特別な場所として描かれるのだなー、と。色んな意味合いを持たせやすいのでしょうね。
へスターのひたむきさ。ハーディの『テス』に似ている?? -
昔、高校の世界史の試験に出たなぁ・・・
作成者の先生も女子高生とつきあって、その子となんとか結婚したが、異動させられたみたいな話もあったし、個人的な思い入れがあって出したんだろうなと・・・今読んで思う。高校生は表向きにバッシングされるが、自分は聖職者(教師ね)の仮面に隠れてぬくぬくと、みたいな。。。
作品はややアナクロな印象だが、現代的な部分もあるのと、印象表現・暗示がうまいので好評価。
たとえば、シェイクスピア悲劇は、みんな死んですべてにけりだが、もう少し時代が進んで、チェーホフなんかは逃げずに生きながらえることこ悲劇となる。
本作品でも、牧師は自分の公的義務を果たし、内心の呵責に耐えかねて告白して死ぬわけだが、それはギリシャ以来の古きよき悲劇。でも、本当はへスターのように、弱く脆く悲しい人間が暗い必然を背負って生きていくことこそが悲劇なんだと思う。換言するに、審判をさっさと受けることよりも、背景の影よりなお暗い「緋文字」=地獄の炎に地上で焼かれることこそ本当の審判だ。
印象表現は略すが、あえてホーソーンを引用すれば「火の光や日光や画面の明暗の再現を鏡の奥に見ていて不思議な数々を夢見、これに真実味を与えることのできない者はロマンスを書く資格はない」 -
前期レポートの課題図書。
「人間性の問題を象徴的に浮かび上がらせた心理小説」なるものだそうで。
最初は取っ付き辛そうだったのですが、これが中々面白い。
ヘスター・プリン(恐らくは未亡人)は父なし子のパールを産んだカドで公衆の面前で晒し者になる。更には 緋色のA(Adultery:不倫の頭文字)の文字を一生衣服に付けるように言いわたされる。
彼女の不倫相手とはアーサー・ディムズデール。清廉潔白な牧師であり、皆から愛されている存在。
へスターと以前暮していたロジャー・チリングワース老医は、パールの父親を探し出し破滅させようと目論む。
この4人を中心とし、物語は織られてゆく。
誰がこの物語の主人公なのかは恐らく人によって違うであろう。
へスター・プリンの生き様。
アーサー・ディムズデールの魂の救いの模索。
ロジャー・チリングワースの沈みゆく狂気。
それともパールの生い立ちについてか。
こちらの本は文字と文字の対応関係が美しい。
表現の一つ一つが絶妙に絡み合っている。
読んでいる途中で、思わず唸ってしまうほど。
アメリカ文学の最高傑作と呼ばれるだけのことは、ある。
「暗い色の紋字に、赤い文字A」