戦争と平和 (3) (新潮文庫)

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著者 : トルストイ
制作 : 工藤 精一郎 
  • 新潮社 (2005年12月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (738ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102060155

戦争と平和 (3) (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • トルストイによる戦争論から始まる第三巻。
    三巻は戦争とそれに伴う政治思考が多いです。

     【ベズウーホフ伯爵家】
     ❖ピエール・キリーロヴィチ・ベズウーホフ伯爵(本名はピョートル):
     二巻でアンドレイ公爵を裏切ったナターシャの献身的な友として支える。ナターシャが生きられたのはピエールの存在が大きいだろう。
    ピエールはナターシャへの愛を自覚するが、そのためにロストフ公爵家からは距離を置くことにする。

    その頃ナポレオン軍の攻撃は激しさを増す。ピエールも戦場を見る。
    ついにモスクワ市民はモスクワを放棄して地方へ散らばる。
    そんななかピエールはある決意を持ち、自分の家から出てモスクワ市に潜伏する…。
     
    ❖エレン公爵夫人:
     二巻まではまあ普通のふしだらな上流夫人だったんだが、三巻では「むしろここまで行くとご立派(^。^;)」と言うくらいの不道徳っぷりを示してきた。
    ピエールという夫がいるにも係らず、どこぞの王子とロシア高官にプロポーズさせ、離婚を禁じているカトリックにおいて自分が完全に正しい離婚と再婚をするにはどうするか、を画策したのだ。
    道徳的にも宗教的にも恥じるべき行為をエレン本人はまっすぐな信念として自分が正しいと振る舞い、そのため社交界や宗教界まで彼女の味方に。
    カトリック法王に真のカトリック教会への入会を許されるが、寄付金目当てと見抜いたエレンからは軽くあしらわれる。
    道徳的には相当愚かな人間のはずなんだが、自分の損得を見極め自分を有利にさせる手腕は天性のものか。(~_~;)

    さて、キリスト教の教派はよく分からないので、エレンの扱いがどのくらい名誉で特殊で腐敗なのか?
    正教会の一つであるロシア正教会に属しているエレンの事をローマ・カトリックの法皇が認めますよ、ただしお金いっぱい寄付してくれればね、ということか?法皇(教皇)を抱かない政教派が法皇に認められるのは名誉なんだろうか、よく分からん。
     
    【ボルコンスキィ公爵家】
     ❖アンドレイ・ニコラーエヴィチ・ボルコンスキィ公爵:
     名誉を傷つけたアナトーリ公爵を追うためと、社交界から離れるために再度軍隊へ入る。アナトーリへの決闘の理由、自分の名誉、ナターシャへの思い、いちいち理屈が先に来るところがアンドレイの面倒くさいところ。
    軍隊生活では一般兵士や農民たちからは「おれたちの大将」と慕われるが、貴族たちにはとことんイヤな態度で接する。
    政治も軍事も農地改革もセンスはあると思うんだが、出世昇格とは真逆の理由で軍隊入りしたため、それらの機会を永久に失う。

    激しさを増す戦闘でついに大怪我を負う。
    怪我の痛みの中、アンドレイ公爵の心は深く内面を見つめ、神の愛を悟る。

    そして瀕死の床でのナターシャとの再会…

    三巻は戦闘や錯綜描写が非常に多いのだが、
    そんななかでのアンドレイの漂う意識と彼の行き着いた想い、激しく愛し憎んだナターシャとの再会場面の美しさと言ったらない。

      ❖マリヤ・ニコラーエヴナ・ボルコンスカヤ:
     父のニコライ・アンドレーエヴィチ・ボルコンスキイ老公爵の死を看取る。
    死を迎える父の寝室で、父が死んだら自由になるのか?などと考えが浮かんでは懺悔する。

    その後戦火に巻き込まれそうになったところをニコライ・ロストフ伯爵に助けられ、互いに好意を持つ。

    えーっとこのときマリヤは27,8歳か?公爵令嬢にしては縁談がまとまらなかったですね。

    【ロストフ伯爵家】
     ❖ニコライ・イリーイチ・ロストフ伯爵:
     進軍途中で、マリヤ・ボルコンスカヤ公爵令嬢を助ける。

     この「二人が出会った」という事実は社交界を駈け廻り、「さっさと婚しちゃえ!」な雰囲気に。
    自分には婚約者同然のソーニャがいるんだよなあ…とちょっと思いつつ、経営破綻している我が家を考えるとボルコンスキイ公爵家と縁を結ぶのは魅力的だとも考えてみたり。

    さて、アンドレイ・ボルコンスキイ公爵と、ナターシャ・ロストワ伯爵令嬢との婚約は両方の家から歓迎されていなかった。
    しかし同じ家同士の縁組でも、ニコライ・ロストフ伯爵と、マリア・ボルコンスカヤ公爵令嬢なら歓迎、というのは、持参金の問題なのか??

     ❖ナターシャ・ロストワ(ナターリア・イリイニーシナ・ロストワ公爵令嬢):
     二巻ラストは狂乱のナターシャだが、弟のペーチャと、ピエールの存在が助けとなり徐々に明るさを取り戻す。

    以前よりも神に祈る。クリスチャンにおける謝罪と言うのは、相手に謝るのではなく神に許しを請うのですね。「神よ、アンドレイ公爵への裏切りをお許しください。そしてアンドレイ公爵とアナトーリ伯爵の心に安らぎが訪れますように」人間が自ら相手に侘びて安らぎをもたらせるのではなく、それができるのは神、というキリスト教の考え方です。

    さて、ナターシャは三巻終盤で、瀕死のアンドレイ公爵の前に現れ、その足元で手を取り許しを請う。

     ❖ペーチャ(ピョートル・イリーイチ・ロストフ)
     ナターシャの弟。ナターシャの生きる希望となっていた。
    同じ名前のピエール(ピョートル同士)に憧れ軍隊に入ることを望む。
     
     ❖ソーニャ:
     ニコライの事実上の婚約者だが、破産寸前のロストフ伯爵家ではその結婚は歓迎されていない。
     
     【クラーギン公爵家】
     ❖アナトーリ・ワシリーエフ・クラーギン公爵:
     アンドレイ公爵から逃げていたが、思わぬ場所で思わぬ姿で彼らは再開する。これぞ神のおぼしめしか。
     
     【他の人たち】
     ❖クトゥーゾフ:
     ロシア軍総司令官。
    歴史家の評価は分かれているらしいが、トルストイはかなり評価している様子。
    遠征先で作戦本部とした農家で、小さな娘さんから見たクトゥーゾフの姿が面白かった。軍人同士で「モスクワ放棄か?」を論じてる時に娘さんは「おじいちゃん(クトゥーゾフのこと)がんばれ」と思ってしまう。一見好々爺の面もあるのだろう。

     ❖ラストプチン伯爵
     モスクワ総督。民衆を支配していると思い込んでいる施政者。
    モスクワ放棄直前にナポレオン賛美者を勇壮な見せ場を作るための生贄として処刑する。

  • 何不自由無く遊んで暮らす大富豪の青年がいて。優しく純粋な大富豪は、パーティ三昧な無為の中で人生に悩んでいます。

    大富豪の心の友、大親友の青年は、親の代からの誇り高き軍人、高潔で有能な高級士官。ナポレオンと祖国との戦争に巻き込まれながら、天真爛漫な美少女と運命の恋に落ち、婚約。

    美少女の兄も軍人。士官。
    悩み無く軍隊勤務を楽しみながらも、実家が経済的に没落していく気苦労。家の経済の為には、愛し合う貧しい幼馴染との結婚が許されない。

    天真爛漫な美少女は、不良の嘘と誘惑によろめいてしまい、婚約は破棄される。騙された愚かさに気づいた美少女は、絶望して自殺を図る。そんな彼女を慰めた大富豪の青年。親友の元婚約者の美少女と、運命の恋に落ちてしまった自分に、気づいた…。

    そして全てを飲み込むように、戦争が足音を立てて近づいていました。

    #

    怒涛の大河ロマン、第三巻。

    ここからちょこっとだけ、「歴史小説」の色合いも増してきます。
    書き手のトルストイさんの顔がチラチラ見えて、フィクションの人物たちの運命を一旦棚に上げて、歴史としてのナポレオンとロシアの死闘を俯瞰的に眺め、分析したり考察したりする章が時折現れます。

    そのあたりは、地理的な固有名詞とか、若干わかりにくいですが、詳細すぎる政治軍事評論ではなくて、「戦争」をヒーローの物語として捉えることを頑なに拒否して、即物的な集団の運動だったり、混乱の中の偶然だったりという、極めて冷徹な細部の積み重ねとして受け入れることを熱弁します。

    それは、時代を超えて、国を超えて、たしかに説得力があります。

    (このあたり、「坂の上の雲」をはじめ、司馬遼太郎さんに影響を与えているのではないでしょうか)

    #

    では小説として面白くなくなったのかと言うと、全くそんなことはなく。ちゃんとダレてきた頃には、俯瞰の目線から主人公達の姿へと、物語は急降下していきます。

    優しい大富豪ピエールは、ナターシャへの愛に気づく。
    そして、既婚者のピエールは、その気持ちの危険に気づいて、自分から離れていく。

    ナポレオン軍がモスクワに迫る。
    モスクワの手前、ボロジノでの大会戦。

    義勇軍の士官となって(でも実際上はただの見物人として)戦場におりたった大富豪ピエール。
    激戦の前日、戦地での親友アンドレイとの再会。
    美少女ナターシャとの婚約が破れたアンドレイ。その冷たい気持ちになすすべのないピエール。

    大会戦。
    トルストイは混乱のリアリズムの戦場に、ピエールとアンドレイとともに読者をものすごい力で引きずり込む。文庫本のページから硝煙と血しぶきが吹き上がるような筆力。圧巻。

    そしてモスクワでは。
    落ち込み、立ち上がれない美少女ナターシャ。ピエールの支えで、ようやく微かな笑顔を取り戻しつつあった。
    一方で、そのナターシャが裏切ってしまったアンドレイの妹マリアは。長年自分を虐げてきた父が、痴呆になった末に亡くなるのを看取る。

    そのモスクワに、とうとうナポレオン軍がなだれ込む。
    避難。混乱。暴徒。狂気。無政府状態。
    逃げ遅れたアンドレイの妹マリアは、農奴たちに背かれ危機一髪のところを、青年士官に救われる。それは、ナターシャの兄、ニコライだった。
    劇的な出会い。二人の間に芽生える、恋愛感情。
    だが、ニコライには、幼馴染の許嫁である、ソーニャがいる。どうするどうなる。

    ナポレオン軍の砲弾が、アンドレイの体をえぐる。瀕死の重傷。

    ロシア軍は、大いに傷ついてモスクワを放棄する。
    ナポレオン軍も、大いに傷ついて、飢えた狼のようになってモスクワを略奪する。

    貴族であるナターシャの一族は、荷馬車の列を組んでモスクワから逃走。葛藤の末に、前線からの負傷兵たちを載せるために家財を投げ打って。
    その、負傷兵の中に、重傷に喘ぐかつての婚約者・アンドレイがいることを知らずに…。

    ニコライも、自分の部隊とともにモスクワから撤退。アンドレイの妹マリアを守りながら…。

    そして、悩める優しき大富豪ピエールは、全てを投げ打って失踪。
    混乱の廃墟となったモスクワ市内に姿をくらませてしまった。
    彼を突き動かすのは。

    「僕は、ナポレオンを暗殺する」。

    だが、火災で地獄と化した街で、見知らぬ少女を助けてしまったことから、フランス軍に逮捕されてしまう…。

    #

    ひとりの英雄もいない。

    誰もが勇敢であり、卑怯でもあり。

    戦場は歴史家が英雄の功績とするような分かりやすいゲームではなく。混乱と狂気の中で砲弾に突然肉弾を抉られる。自分が放つ砲弾も、敵陣で同じことをする。

    貴族も、平民も、農奴も、自分たちの生活の、日常の全てを一方的に破壊される。

    どうして戦争が起こるのか。

    戦争は無くならないかもしれない。
    戦争を絶対悪として棚にあげることも、リアリズムではない。

    でも、これを読んで戦争を美化できるヒトがいるんだろうか。
    誰かが理不尽に殺されて、誰かを理不尽に殺すことを、誰が望むんだろうか。

    …そんなレクイエムの一方で、大映ドラマもハーレクインロマンも泣いて吹っ飛ぶ疾風怒濤の恋愛物語、冒険のジェットコースター。

    #

    戦場の男たち、銃後の女たち。
    硝煙を知らぬペテルブルクの貴族たち。もはや痛烈な喜劇である政治と支配者のエゴと錯誤。
    ままならぬ混乱の波に翻弄される、ナポレオン、皇帝たち。
    極大から極小へ。ロマンスから生死へ。
    魅力的な脇役たち。一場面だけの人物たちもキラキラとギトギトと、人間臭さを放つ。

    #

    章が終わるたびに、巻が変わるたびに痛感するのは。

    ひっぱりが上手い。
    極上のエンターテイメント。

    重傷のアンドレイは、生き残れるのか?
    裏切られた美少女ナターシャと、再会するのか。許せるのか。

    アンドレイの妹アンナと、ニコライの運命の出会いはどうなる?
    ニコライは、幼馴染のソーニャを捨てるのか?捨てられるのか?

    ナターシャへの愛を秘めて、銃を懐にして無法都市モスクワに残ったピエールの運命は?フランス軍に逮捕?どうなるの?

    避難民の狂奔の流れの中で、モスクワに残るピエールの姿を、馬車の中からナターシャが見つける。一瞬の交錯。別れ。震えるほどの名場面。

    いよいよ、完結編の第4巻へ。

  • 3巻はそのほとんどを戦争シーンが占めており、登場人物がそれぞれに生き生きと動き詩的な美しさを感じる2巻に比べると、やや退屈に感じてしまった(それでもすごいんだけど!)。

    トルストイは「戦争」の中で何度も何度も、「歴史とは一人の人物や一つの原因が作るのではない」と強調する。これがあったからこうなった、ということはなく、それは後世がその結果からただ線を引き繋げて言っているに過ぎないのだと。その場の全て、どれとも誰とも言えない、あえて言うならば「その時」こそが歴史であり、「その場」こそが民衆なのだと。
    そして、それらが積み重なり、その時その時が終わって振り返ってようやく、我々はそれを「歴史」として「事実」として認識するのだと。

    こう言うとまるで、個人の力は時の流れにゆらゆらと漂う頼りない木の葉に過ぎないような書かれ方をしているかのようだ。
    けれど、これほどダイナミックに、これほど感情豊かに「戦争」を描く本はないのではないか、と私は思う。
    次巻はいよいよ最終巻。この壮大にして繊細な物語が、どういう終わりを迎えるのかわかると思うと、嬉しくもあり、けれど読み終わるのが怖いような気もする。

  • 「コンプレックスの裏側にあるロシアの愛国心」

     戦争の火蓋がふたたびきられ、ボロジノの会戦後、ナポレオンはいよいよモスクワに侵攻する。モスクワをあとにする人々の運命もかわってゆき…

    ボルコンスキイ老公爵の死後、寄る辺なき身となった公爵令嬢マリヤの苦境をたまたま救うことになるニコライ。前線で戦火をあびながらも、どこか危機感に乏しくマイペースでひょうひょうとしたピエール。そしてこのたびも負傷して生死の境をさまようアンドレイ。皇帝ナポレオンとロシアの運命を託されたクトゥーゾフ将軍との勝負を軸に、再び前線へかりだされた男たちが本編の中心となる。

    このたびナポレオンはかなりの強気でモスクワ入りしてくるわけだか、面白いのはナポレオンがロシアをアジアだと認識していることだ。極東の島国からみれば、当時のロシアの貴族社会がフランスのそれとどれほどの違いがあるかなどさっぱりわからん。だが、この小説を読んでいると、ロシア貴族の間では敵国語でありながら、しばしばフランス語が用いられていたり、建物や装束などもヨーロッパの宮廷を意識していたらしいことが確かに見て取れる。

    明治日本の欧米コンプレックスほどではないにしても、もしかしてロシアにはロシアなりのヨーロッパに対するコンプレックスがあり、あるいはその裏返しとしての愛国心がこの大部の作品の底流にあるのではーなんて言うのは勘繰りすぎですかね、トルストイ先生。

  • この三巻が、ハイライトになるかと思います。好きな場面はいくらでもあります。戦時の臨場感が伝わってきます。ただ、トルストイの歴史講義がはじまるのもこのあたりからで、アンチクライマックスへの予感がつきまとうのもこの巻からです。

    人々の恣意の総和が歴史をつくる。これがトルストイの歴史観です。数学を勉強しすぎたせいもあって、いっていることは噴飯ものです。フランス革命もナポレオンの登場も、人々の恣意の総和の賜物、というわけです。

    伝記を読むだけでは歴史にならない、ともいいます。それはそうかもしれませんが、伝記を読まなければ歴史にすらなりません。ナポレオンの伝記を読まずして、トルストイの描く「戦争と平和」など理解できるわけもなく…。

    『戦争と平和』は小説として傑作なのであって、戦争をあつかったからでも歴史を語ったからでもありません。双璧をなす『アンナ・カレーニナ』が好まれるのも、トルストイの筆によるからこそ、というべきです。

  • ナポレオン率いるフランス軍は、ついに越境してロシアへと侵攻。ロシア西部スモ―レンスクの町は、砲撃を受けて戦火に包まれる。民家が炎に包まれる様を奇妙な空気で見守る市民達の姿の描写など興味深い。これほどにリアルな情景を、想像だけで描けるものだろうか、と感嘆。
     そして、全4巻中のクライマックスと言われるボロジノ会戦へ。1812年8月、10万のロシア軍と12万のフランス軍が激突した戦いである。朝霧のたなびく丘陵地帯に、やがて小銃や砲撃の硝煙が立ち昇り始める風景描写が美しい。1巻で描かれたアウステルリッツの戦いは、ロストフ(ニコライ)らの騎兵突撃が印象に残ったが、ボロジノの戦いは砲撃戦の描写が印象に残る。フランス軍とロシア軍は終日砲撃の応酬を続け、兵士らの頭上に砲弾が降り注ぐ。本作の執筆にあたり、トルストイは恐らくボロジノ戦跡を現地取材したに違いない。そう思わせる程に、地理や風景の描写、さらに戦闘場面のエピソードが実に詳細で具体的だ。
     そして、ピエールはなぜかこのボロジノの戦場へやってくる。戦争なるものを見学したい、という動機なのであった。だが、ロシア貴族のピエールは恐らく軍服を着ているわけもなく平服での参上。行く先々で貴族士官から「どうしてこんなところへ?」と驚かれ、邪魔者扱いされたりもする。そんなピエールの場違いなこと甚だしい感じが滑稽で苦笑させられる。そして、この戦場でピエールは親友アンドレイと再会するのだが、アンドレイの態度はよそよそしく、ほろ苦い別れとなる。これが二人の最期のひとときとなるのを知りながら読んだだけに、哀しいものがあった。
     この戦場で、アンドレイは、間近に着弾した榴弾の直撃を受け重症を負う。着弾した砲弾が、コマのように地面で回転する様を茫然と見つめるアンドレイ。死の瞬間を描いた、心理描写として強い印象を残す。
     この作品は、ロシア軍が如何にしてフランス軍と戦い、如何にしてこれを斥けたかを詳らかにすることが主要な主題のひとつであるらしく、戦術、戦況の推移が詳しく描かれる。また「勝敗の帰趨の分からぬ戦闘で、最後の勝者となるのは、がんばりぬいたほうです」という士官の言葉がある。トルストイは、ボロジノの戦いを上の観点で評価しているようだ。
    19世紀初頭当時の用兵、戦術を興味深く読むことが出来る。参謀本部で作戦会議が行われ、作戦命令書が書かれるなど、近代的なことを行っている。一方で、将軍や士官、連隊長は公爵伯爵らの貴族が任用されていて、部隊や連隊の用兵運用も、そのまま貴族単位でなされている様子があり、そのへんは、前近代な感じがある。
    そして、部隊間の通信手段は、騎兵による直接の伝令しかない。そのため、戦術面で、進軍到着が遅れたり、間違った地区に迷い込んだまま、作戦開始時間を迎えるなど、常に混乱が発生していた状況がよくわかる。さらには、将軍や参謀らが多数居り「船頭多くして船進まず」だったようだ。総司令官クトゥーゾフを陥れようとする権謀術数渦巻く様が詳しく描かれて生々しい。ところで、大部隊は行く先々で農家や屋敷を士官の宿舎や司令部として接収している。どうやら軍馬の餌なども強引に確保していたようだ。それら農民市民らの迷惑や被害も相当なものだったと思われる。

     そしてナポレオンのフランス軍は、モスクワに入城。仏兵やロシア市民は、貴族屋敷や商店を略奪。モスクワ市外の各所から火の手があがり、炎と黒煙が街を覆う。かようなスペクタクル、修羅場が次々と描かれる。小説前半部の社交界を舞台にした平板な日常から超越した異常な状況、風景が展開してゆく。
     その渦中、ロストフ家一行は家財道具を馬車に積み込み、郊外へ避難する。その道すがら、ナターシャと公爵令嬢マリヤは、重症の負傷兵として後送されていたアンドレイと偶然の再会。しかしナターシャらの看病も空しく、アンドレイの意識は次第に遠のいてゆく。
     一方、ピエールは、相変わらず迷走を続けて、何をしたいのかわからない。ナポレオン暗殺を期して懐中にピストルをしのばせ、モスクワ市街を彷徨。だが、根が善人なピエール。火事場で逃げ送れた子供を救出していて、放火の破壊活動の嫌疑で仏軍に拘束され、捕虜となってしまうのだ。第三巻にして尚、ピエールの迷走は未だ終わらないのであった。

  • 少しトルストイの説教臭さが出てきた巻。

  • 2010.1.10 読了

  • 第2巻から打って変わって戦争とモスクワ侵攻。
    主人公ピエールもナターシャも出てくるけれど
    個人的にこの巻はナポレオンがメイン。

    モスクワの火災はロシア軍の組織的な放火だったとされているが、
    トルストイは『当然燃えなければならないような、
    そうした条件の中に放置されたために、モスクワは
    燃えたのである。』と、無秩序な都市で火災が起こらない
    わけがないとしている。真実はどちらでしょうか。。

    第4巻、主人公ピエールの活躍に期待。

  • 2巻の平和部分から物語はまた戦争へと移っていく。
    戦争を目の前にして人々がとる行動の中で、一番理解しがたかったのがピエールの行動。
    戦争の真っただ中に飛び込んでみたと思えば、ナポレオンの暗殺を試みたり、果ては捕虜になって極限の窮乏を体験したり。
    この人には一定の信念というものがなく、つねに迷い、道を模索する。
    その姿がとても人間らしいと思った。
    この巻で印象に残ったのは、ニコライと公爵令嬢マリヤとの出会い。
    ニコライにはソーニャという約束の相手がいるけれど、何かと報われない境遇のマリヤにも幸せになってもらいたい。
    またアンドレイ公爵とナターシャの再会もドラマチックだ。
    正直2巻あたりのナターシャはただの小娘という感じであまり好きではなかったのだけど、駆け落ち失敗やモスクワ脱出などいろいろなことを経験して彼女もだいぶ成長したなと感じた。
    アンドレイ公爵の容体が気になるところで最終巻に続く。

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