戦争と平和(三) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (738ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102060155

感想・レビュー・書評

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  • 3巻は今までとは違い随所にトルストイの肉声をハッキリ感じる場面が多い
    物語を登場人物たちに任せておけず、どうにも我慢できず本人が思わず登場しちゃったの⁉︎…という感じから始まり、もう我慢できない!とばかり彼の強い思いがあふれ出る
    ナポレオンの登場回数もかなり増え、いよいよ大詰めの「ボロジノの戦い」が始まる
    非常にリアルな戦場描写と百姓から商人から貴族から兵士から官僚からあらゆる立場の人たちが描かれており、彼らの心情の変化などが読み手を巻き込んでいく


    ■ヘズーホフ家
    大資産家メガネ太っちょのピエールの家

    私生活では相変わらずの放蕩男ピエール
    妻のエレンのイカれぶりもエスカレート(同時に2人の男と結婚したがり、ちっとも悪びれずどちらを選んだらいいか真剣に考えている)
    そんな精神状態のピエールだが、戦争未経験の彼が戦場に行き、すべてを見たいと切望する
    緊迫した戦場に現れる場違いなピエール
    彼はここで何を見て、何を感じるのか…
    ある決意をし、変装したピエール
    彼の決意とは…
    なんとナポレオン暗殺!?
    相変わらず思い詰めるとブッ飛んでしまうピエール
    そんな中、フランスに侵入されあちこちに火の手が上がるモスクワ
    火事から子供を救い出し今までの枷になっていた何かが吹っ切れる
    …とここまではいいのだが、フランス兵の強奪にカッとなり暴力沙汰となり独房へ入る羽目に
    相変わらず気持ちはすぐ揺れるし、何かしたいという思いばかりが先行し、正しい行動に結びつかない
    そして追い詰めると何をしてかすかわからないピエールなのだが、純真なところがやはり憎めない男だ
    こちらも彼にすっかり慣れてきたので飛んでもない行動をしても愛おしく見ていられるように(笑)
    ピエールはドストエフスキーに出てきそうな悲劇と喜劇が紙一重のキャラクターかも…



    ■ロストフ家
    ニコライ、ナターシャ兄弟のいる破産寸前の貴族の家

    ニコライ 
    戦争体験談は往々にして過大表現されることを学び、さらには戦争に対する恐怖心が薄らいだ
    が、これは経験と時間によってしか得られないことも知る(このように着々と成長しているニコライ)

    病に臥したナターシャ
    もちろんアンドレイへの裏切りと別れによる精神的なもの
    そんなナターシャの傷心にそっとよりそうピエール
    ピエールの純真さがナターシャを慰める
    ピエールとナターシャの距離がグッと縮まるのだが、ピエールは一応妻帯者だからか距離を縮めまいと踏ん張る

    モスクワが危険になってきたためロストフ家もようやく退去準備
    荷物をまとめているさなか、負傷者の士官たちに部屋を提供する一家
    実はここにアンドレイが担ぎ込まれる


    ■ボルコンスキー家
    頑固老父とエリート男子アンドレイ、Mっけたっぷりマリヤちゃんのいる家

    ボルコンスキーの老父に死が迫る
    マリヤは父を看病しながらも自分の自由を夢見る心を抑えられず苦しむ
    虐待まがい(いや、虐待そのものだな)の歪んだ愛情、言葉の暴力が止められない老父
    しかしその陰の愛情を理解しているマリヤは老父に自ら縛られる人生を選んだ
    そんな老父の最期はマリヤにやさしい愛情を見せるのだ!
    (ここの親子は本当に現代では問題となるような(ある意味DVの夫とその妻のような)関係であるが、不思議と読者にも嫌悪感なく二人の愛情が伝わる 最後はなんだかしみじみ…)
    とうとう老父が亡くなるのだが、ある出来事でマリヤがピンチに
    そんな時マリヤは兄や父や家の名誉を守るため、勇気を振り絞ってある行動を起こす
    (やっぱりカッコいいなぁマリヤ いざとなると凄いのよ!このお嬢は)
    そしてこのピンチを助けたのがなんとあのニコライ
    マリヤはニコライのことを「美しい高潔な魂の持ち主である」といい、
    ニコライはマリヤのことを「表情が柔和で気品がみなぎっている」という
    まさかのこの組み合わせ!
    ソーニャはどうなっちゃうのよ(ソーニャも良い子なのよ!)
    家柄とお金の面ではニコライママは大喜びしそうだけど、そんな部分もチラっと頭を横切るニコライ…
    複雑

    いよいよ戦闘が激しさを増し、明日死ぬかも…覚悟を決めた長男アンドレイ
    極限の精神状態の中、突如気づくのだ
    崇高に思われた名誉、社会の福祉、清らかな恋愛、祖国…これらが色褪せた粗雑なものに過ぎないことに
    そして彼の予想通り負傷をおい、重症に瀕す
    前線の包帯所に運びこまれるものの、そこで片脚を切断され弱り果てた哀れなアンドレイの天敵アナトーリ(妻帯者の身分でナターシャと駆け落ち未遂をやらかした成金クラーギン家の息子)に会う
    さらに瀕死の状態のアンドレイはナターシャとの愛とやさしい思いやりがめざめる
    そして妹マリヤに教えられた家族だけではなく、敵味方も関係なく「あらゆるものを愛すること」に気づく
    「インテリ・エリート」アンドレイにようやく血が通った!
    冷静沈着に物事を対応するアンドレイ
    心より頭が先に動いてしまうアンドレイ
    器用なんだか不器用なんだか…
    ナターシャに裏切られたときもナターシャに対する愛情には蓋をしアナトーリに対する憎しみだけは持ち続けた
    そうすることで心の平穏を保とうとしたのだろうが、やはりハートが足りない男だった
    でもここにきてようやく…アンドレイが涙する!
    瀕死のアンドレイは運命的にモスクワのロストフ家へ避難することに
    「おれの前には人間から奪うことができぬ新しい幸福が開かれたのだ」
    意識を何度も失いながらも夢うつつの中、憎む相手を愛せたよろこびがよみがえる
    そして誰よりも愛し憎んだナターシャの苦しみをようやく理解し、自分の拒絶の残酷さに気づく
    そしてドラマティックなナターシャとの再会
    ナターシャは許しを請うが、アンドレイは愛を語る
    (キャー感動的!)


    ■「ボロジノの戦い」とナポレオン、そしてトルストイの考えについて

    「ボロジノの戦い」
    両軍合わせて、約8万人の死者、負傷者、行方不明者を出したものの、決定的な勝利は得られず、ロシア軍の戦略的撤退によって戦いは終息
    ボロジノの会戦は、第一次世界大戦までの歴史の中で、最も凄惨なものと言われている
    後年ナポレオンが「かつて自分の経験したもっとも激しい戦い」と語った
    トルストイはフランス軍敗因の原因について、
    フランス軍が冬の行軍の準備なく冬のロシア奥深く侵入したこと、ロシアの諸都市を焼き払いロシアの民衆の胸に憎悪を植え付けたことだと冷静に分析する(だが当時は誰も予見出来なかった)
    この戦いの実情についてトルストイの目線から多く語られる

    そんな中トルストイの主張は実際の現実とはこうだ!と語る

    ・皇帝のために!と立ち上がった人たちはみな、意志を奪われた歴史の道具に過ぎなかった
    ・戦闘の最中にすべての必要な命令がナポレオンから出され、その通りに実行されたわけではない
     なぜならナポレオンは始終戦場からあまりにも遠くに位置していたため戦闘の経過を知り得なかったし、戦闘のあいだ彼の命令は実行される状態になかった
    ・ナポレオンは誰にも発砲しなかったし、だれも殺さなかった
    実行したのは行軍に飢え、服は破れ、疲れ果てた兵士たち全軍
    が、前方に街を塞いでいるロシア軍をみて「ワインの栓は抜かれた、飲まねばならぬ」と感じたに過ぎない
    ・食事も休息もとらずへとへとに疲れ切り傷ついた兵士たち
    彼らは「まだ殺しあわなければならないのだろうか なんのため、だれのために?」
    自分のしたことに戦慄し、すべてを投げうって逃げ出したらどんなにほっとするだろうと感じつつも、
    それでもなおある不可解な不可思議な力が彼らを動かしつづけていた
    もはや人々の意思ではなく、人々と世界を動かすものの意思によっておこなわれる恐ろしい事態に
    ・歴史の法則の研究のためには、われわれは完全に観察の対象を変え、皇帝や大臣や将軍たちはそっとしておいて、
    群衆を動かしている同種の無限小の諸要素を研究しなければならない


    トルストイが正しい歴史を語ろうと躍起になる気持ちが伝わる
    確かに人は歴史というものを薄っぺらい紙に要領よくまとめたがる
    でもそうじゃないのだ!と強く訴えてくる
    それがこの書「戦争と平和」なのだ
    と素晴らしい!
    が、「坂の上の雲」を読んだ時感じたのと同じ感覚に陥る
    読みだせば夢中で読めるのだが、他の書籍に何となく手が伸びてしまい、ちょっと離れたくなったりと時間がかかった
    内容がぎっしり詰め込まれ過ぎていて消化不良を起こす
    ずっしりタルトよりふわふわシフォンケーキが好きな身としてはなかなかしんどい
    が、逆にそれだけこの出来事によりロシアで何が起こったのかを残したいというトルストイの熱い熱い思いが特にこの3巻からは
    ビシビシ肌にまで伝わってくる
    その圧がたぶん受け止めきれないからなのか?

    さて次回はいよいよ最終巻へ

    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになる...
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになるとトルストイの論考がだいぶ多くて嘆息しますが、物語はクライマックスになってきますよね。

      それにしてもハイジさんの登場人物評がおもしろすぎて、くすくす笑いながら拝見しています。この物語はトルストイの分身やアバターだらけで、熱血で純粋で朴訥としたピエールと、洗練された貴族然とした孤高のアンドレイは作家の大事な分身でしょうし、しとやかで知的で敬虔なマリアと明朗快活で情熱的なナターシャは、きっとトルストイの憧れの女性像なのかもしれません。

      ボロジノの戦いは、これでもか! と書かれていて圧倒されます。フランス軍敗因の原因について、ハイジさんが引用されているトルストイの分析=「フランス軍が冬の行軍の準備なく冬のロシア奥深く侵入したこと、ロシアの諸都市を焼き払いロシアの民衆の胸に憎悪を植え付けたことだと冷静に分析する」などを見ても、つくづく現状ロシアのウクライナ侵攻のようでびっくりします。

      >内容がぎっしり詰め込まれ過ぎていて消化不良を起こす
      ずっしりタルトよりふわふわシフォンケーキが好きな身としてはなかなかしんどい。

      きゃはは、わたしもまったく同じ意見です。でもお菓子は別で、タルトもシフォンケーキも大好きで~す。これにルピシアの茶があれば最高です。
      引き続きハイジさんのレビューを楽しみにしています(^^♪
      2022/11/24
    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになる...
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになるとトルストイの論考がだいぶ多くて嘆息しますが、物語はクライマックスになってきますよね。

      それにしてもハイジさんの登場人物評がおもしろすぎて、くすくす笑いながら拝見しています。この物語はトルストイの分身やアバターだらけで、熱血で純粋で朴訥としたピエールと、洗練された貴族然とした孤高のアンドレイは作家の大事な分身でしょうし、しとやかで知的で敬虔なマリアと明朗快活で情熱的なナターシャは、きっとトルストイの憧れの女性像なのかもしれません。

      ボロジノの戦いは、これでもか! と書かれていて圧倒されます。フランス軍敗因の原因について、ハイジさんが引用されているトルストイの分析=「フランス軍が冬の行軍の準備なく冬のロシア奥深く侵入したこと、ロシアの諸都市を焼き払いロシアの民衆の胸に憎悪を植え付けたことだと冷静に分析する」などを見ても、つくづく現状ロシアのウクライナ侵攻のようでびっくりします。

      >内容がぎっしり詰め込まれ過ぎていて消化不良を起こす
      ずっしりタルトよりふわふわシフォンケーキが好きな身としてはなかなかしんどい。

      きゃはは、わたしもまったく同じ意見です。でもお菓子は別で、タルトもシフォンケーキも大好きで~す。これにルピシアの茶があれば最高です。
      引き続きハイジさんのレビューを楽しみにしています(^^♪
      2022/11/24
    • ハイジさん
      アテナイエさん コメントありがとうございます!

      決して順調ではないですが、後半になり物語のクライマックスに向かうスピード感と圧の高さに後押...
      アテナイエさん コメントありがとうございます!

      決して順調ではないですが、後半になり物語のクライマックスに向かうスピード感と圧の高さに後押しに助けられて…といった感じです

      そうですね
      アンドレイとピエールの相反するキャラクターはトルストイそのものの心の葛藤なんだろうなぁと…

      マリヤとナターシャは憧れの女性像…
      なるほど
      しかし理想が高すぎますね
      彼女たちの良い処どりの女性なんて…

      ルピシアの紅茶にまで絡んでくださってありがとうございます(^ ^)

      さてさていよいよクライマックスですが、
      アテナイエさんのおっしゃるように、やっと…という気持ちと、このまま終わってほしくないような複雑な気持ちです!

      残されたページを大切に読んでいきますね♪
      2022/11/25
  • この巻は戦争の描写がやや多い。
    ついにナポレオンがモスクワを陥落させる。
    その戦闘や戦闘が引き起こす混乱の中で様々な登場人物の悲哀が描かれる。

  • 2巻の平和部分から物語はまた戦争へと移っていく。
    戦争を目の前にして人々がとる行動の中で、一番理解しがたかったのがピエールの行動。
    戦争の真っただ中に飛び込んでみたと思えば、ナポレオンの暗殺を試みたり、果ては捕虜になって極限の窮乏を体験したり。
    この人には一定の信念というものがなく、つねに迷い、道を模索する。
    その姿がとても人間らしいと思った。
    この巻で印象に残ったのは、ニコライと公爵令嬢マリヤとの出会い。
    ニコライにはソーニャという約束の相手がいるけれど、何かと報われない境遇のマリヤにも幸せになってもらいたい。
    またアンドレイ公爵とナターシャの再会もドラマチックだ。
    正直2巻あたりのナターシャはただの小娘という感じであまり好きではなかったのだけど、駆け落ち失敗やモスクワ脱出などいろいろなことを経験して彼女もだいぶ成長したなと感じた。
    アンドレイ公爵の容体が気になるところで最終巻に続く。

  • 戦争が激しさを増してきました。アンドレイ公爵とナターシャが再会できてわかり合えたことは嬉しいのですが、ピエールはどうなるのでしょうか。最終巻に突入します。

  • フランス軍によるモスクワ侵略あたりの。
    戦争は、ナポレオンのせいでもなければアレクサンドロ皇帝のせいでもない。クズートフのせいでもないし、ラストプチンの愚行のせいでも誰のせいでもない。彼らはその時代の激動の中、自分の意志と思える判断も、結局は歴史に呑まれたものだった、というトルストイの考え方が随所に強調されている。まあ頷けなくもないが、同意もしきれないところ。
    ナターシャの弟のぺーチャが軍人に憧れて入ったり、モスクワから人が消えたり、アンドレイ公爵がナターシャの下に怪我人として運ばれ出会ったり、ピエールは残って精神に目覚めてナポレオン暗殺を計画したり、収容されたり。

  • 2012.2.14

  • なんだかんだでやっぱりアンドレイが好きだなぁ。ようやく切羽詰ってきたので戦争とはいかなるものなのかを考える。タイトルは戦争と平和の対比ではなく戦争と平和の共生というか融合というか、ごちゃごちゃになったものを意味してるのでは。

著者プロフィール

一八二八年生まれ。一九一〇年没。一九世紀ロシア文学を代表する作家。「戦争と平和」「アンナ=カレーニナ」等の長編小説を発表。道徳的人道主義を説き、日本文学にも武者小路実らを通して多大な影響を与える。

「2004年 『新版 人生論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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