戦争と平和(四) (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784102060162

感想・レビュー・書評

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  • 最終巻第四巻は戦争の記述が多い。
    後半1/4は物語を終結させトルストイが論じる戦争、歴史、民俗、人間と神のあり方などで締められる。

    ※以下登場人物の生死などネタバレしておりますのでご了承ください。※


     【ベズウーホフ伯爵家】
     ❖ピエール(ピョートル・キリーロヴィチ・ベズウーホフ伯爵):
     三巻ラストでモスクワでの破壊工作とナポレオン暗殺計画を疑われてフランス軍捕虜に。
    過酷な捕虜生活。他の捕囚者との交流と身近な死。
    捕虜体験はピエールをどう変えたのか。

    解放されたピエールは、アンドレイ公爵の妹マリヤと、ナターシャ・ロストワと再会する。

    改めてナターシャへの愛の喜びに浸るピエール。

    そして新たな生活へ。

     ❖エレン
     三巻で「ここまでやればむしろ天晴れ」な不道徳行為を示したので、このあとどうなるのかかえって楽しみだったんだが、あっさりと…。
    私も児童文学で読んだり映画で観たりはしているから彼女がどうなるかは知っていたけれど、こんなにあっけなかったっけ。

    【ボルコンスキィ公爵家】
     ❖アンドレイ・ニコラーエヴィチ・ボルコンスキィ公爵:
     三巻で瀕死の重傷を負ったアンドレイは、妹マリヤとかつての婚約者ナターシャの看病の下にあった。
    アンドレイはまだ生きていたが、世界はアンドレイがすでに死んだかのように進む。そしてアンドレイ本人も自分自身をすでに死んだもの認識している。

    そして訪れるその時。

    ピエールとアンドレイはトルストイの分身らしい。
    アンドレイに対しては、冷たさを示す一方、純粋な愛や瀕死の床で辿りついた境地、神や自分が関わった人への感謝、しかしそれでも消えないすべてに対しての冷淡さ…の描写が実に美しい。

    全くの余談ですが、「こち亀」の中川はアンドレイ公爵がお気に入りらしい(笑)

     ❖マリヤ・ニコラーエヴナ・ボルコンスカヤ:
    父の死後、公爵家として片付ける問題をこなしていくマリヤ。
    今までは横暴な父、神経質な兄、兄の子の養育、そして自身が不美人のため、内面も環境も控えめな女でいたマリヤだが、案外女主としての才覚を持っている様子。
    モスクワからフランス軍は撤退したが、ロシア人たちによる混乱と略奪が起きていたが、公爵家の財産と屋敷は多少の破壊は受けたがそれなりの財産は残っていた。

    破産したニコライと再会、結婚。
    それまで周りに振り回され一歩引いていた彼女だけど安定した家庭で自分の存在を築いているようで安心した。

     ❖ニコーレンカ(ニコライ・アンドレーヴィチ・ボルコンスキイ…のはず)
     アンドレイ公爵と、亡き妻リーザの遺児。将来のボルコンスキイ公爵ですね。
    養育権者のマリヤ結婚後はニコライと彼らの子供たちと同居。
    父親似た性質と外見に、記憶にない父がピエールやナターシャ、マリヤとの交流を夢想する。
    ピエールの事は尊敬し、ニコライに対しては敬愛するが軽蔑も交る。
    ニコライもこの義理の甥は苦手としている。
    世代が変わってもアンドレイタイプとニコライタイプは相性が合わないのね。(^。^;)

    「戦争と平和」の登場人物たちの最終場面は、ニコーレンカの「亡き父がぼくを誇りに思うようになろう」という決意で終わる。あとはトルストイの論文。

     【ロストフ伯爵家】
     ❖ニコライ・イリーイチ・ロストフ伯爵:
     最初はフランス兵により、撤退後はロシア人により蹂躙されたモスクワで、ロストフ伯爵家は破産する。
    ボルコンスキイ公爵令嬢マリヤと結婚したニコライは、領土を見直し家を建て直す。

    本人は軍人になりたがっていたけれど、着実な田舎領主で良き家庭人でいることがニコライの本分か。
    ちょいと甘いお坊ちゃん的な本質は抜けないが、妻マリヤが良い風に補ってくれていて、ニコライもそれに応えようとしている。
    マリヤは地味だけど「一緒にいるといい人になりたいと思わせる女性」なんだろうね。

     ❖ナターシャ・ロストワ(ナターリア・イリイニーシナ・ロストワ公爵令嬢):
     マリヤとともにアンドレイ公爵を看取る。
    アンドレイは自分自身を完全に死者として扱っている。そんな人間と共にいるのはどんな心情か。

    再会したピエールと愛し合い彼の妻となり新たな人生へ進む。

    さて。ナターシャは全編を通じて何度かの変化を遂げる。
    天真爛漫で恋に恋する少女、今を楽しみ明るい輝きを信じた娘時代、愚かな行為に走る思春期、それを乗り越えアンドレイに対しての真摯な看護、そしてピエールとの結婚後は強くて家庭がすべての多産の牝。
    しかしナターシャが本当に欲しかったのは夫と家庭で、完全な家庭人になりたがっていたことを母(ロストワ伯爵夫人)は見抜いていた。
    夫にも家庭を優先してもらう代わりに夫のすべてを理解しようとする。貴族夫婦の理想なのだろう。

    …しかし本編通して溌剌とした魅力が強調されていたナターシャが「太って付き合いが悪くて家庭にしか興味を持たない平凡なおばちゃん」になる姿は、
    今日でもヨーロッパの若くて美しい娘さんがある年になったらど~~んと太ったおばちゃんになる姿に妙な納得を覚えたのであった…f(^^;)

     ❖ペーチャ(ピョートル・イリーイチ・ロストフ)
     ニコライとナターシャの弟。ピエールを尊敬している。
    まだ少年と言っていい歳だが戦場を望み作戦に同行させてもらう。

    しかし弾丸が彼の頭を貫く。

     ❖ソーニャ:
     ニコライの事実上の婚約者だったが保護者も持参金もナシで誰にも歓迎されず。
    ニコライだけをずっと愛していたが、ある心情に辿りつき自らにニコライに別れを告げる。
    ここぞとばかりにその別れに乗っかるニコライ。「ソーニャに対して責任は感じてたよ?でも彼女から別れようって言われたんだよ?マリヤの事はお金じゃなくて心の美しさに惹かれたんだよ?金じゃないったら金じゃないよ?」って現代だったら「大丈夫かこの男」なんだが…(ー。ー)
    (ニコライの名誉のために、結婚後は良い一家の主、領主となったと書いておこう。マリヤの内助の功が大きいと思うけどね)

    しかもその後、保護者も資産もないソーニャはニコライとマリヤが結婚した後も扶養家族として同居。こりゃたまらんな(ー。ー)
    今日でも「女性の権利向上~」とか言われるが、
    昔は本当に後ろ盾や資産の無い女のなんと寄る辺ない事。そもそも女に個人資産なんてないんだもんね…。

     ❖クトゥーゾフ:
     ロシア軍総司令官。
    戦争判断は、ロシアのアレクサンドル皇帝からも不満を持たれていたが、
    トルストイは強く評価している様子。



    最後にちょいと気になったことが。
    巻末解説で、トルストイはもともと30年の収容生活からモスクワに戻った老夫婦を書こうと思ったが、
    そのために彼らの過去から始めることになり、どんどん時代が遡って行って…ということが書かれていた。
    この夫婦とはピエールとナターシャ。
    年代を考えると、「戦争と平和」が終わった5年後くらいにこの夫婦は30年間収容される未来が待っているのか??
    なんとなくピエールはその性格もあって逆境にあっても落ちぶれすぎないような妙な安心感があったのだが、この後大丈夫なんだろうか。
    二人の未来に安寧あれ。

  • 幸福な読書だったなぁ、と思う。

    3巻から作者トルストイの「語り」が多くなり、うーん?と思う部分もしばしばあり、もっと正直に言えば辟易する部分もなきにしもあらずだった。しかし、それでも、私はもうこの物語を読み終えてしまった。

    『戦争と平和』というタイトルの通り、トルストイが描きたかったのは、おそらく「人間の意思」だったのではないかと思う(個人としても、「われわれ」としても)。しかし、この最終巻である4巻を読んで特に感じたのは、トルストイは人間の「仕組み」や「歴史」を描くよりも断然、人間の「魂」を、感情と性格を描く方がまばゆいばかりの光を放つということだ。
    彼の人間を描く筆、それもたくさんの、実にさまざまな人間を描き分け、しかもその一人一人を生き生きと立ち上げ思考し活動する筆は、本当に圧巻というほかない。

    そして「人間の魂」という点でもう一つ思ったのは、トルストイにとって結婚とは、そして家庭の幸福とは、相当に大きなテーマだったのだな、ということだ。
    アンナ・カレーニナの有名な冒頭(「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」 望月哲男・訳)からして、彼がいかにこの問題にずっと取り組み続け、また生涯においてこれに悩み続けたかがうかがわれる。

    彼はその晩年、妻との不和に苦しみ、そして家出をする。そして、世界的に名を知られる文豪であり、「あと100年生きてください」と言われるような作家であったにも関わらず、家出の末に寒村の小駅で死去する。

    これは馬鹿げたことだけれど、もし、私がトルストイと友人だったとしたら、私は彼に、あなたは素晴らしい、あなたは素晴らしいものを書く、けれど、あなたは考えすぎだ、と言うかもしれない。
    本当に馬鹿げた、滑稽な話だけれど。……

    • debuipipiさん
      抽斗さん

      読破おめでとうございます!
      抽斗さん

      読破おめでとうございます!
      2014/01/22
    • 抽斗さん
      >debuipipiさん
      読破をお祝い(?)されるなんて、この長編ならではですね。なんだか妙に嬉しいです。ありがとうございますm(_)m
      >debuipipiさん
      読破をお祝い(?)されるなんて、この長編ならではですね。なんだか妙に嬉しいです。ありがとうございますm(_)m
      2014/01/23
  • 「戦争と平和」を読み終え、なぜこれだけの字数をトルストイは必要としたのか分かるような気がした。歴史を作るのは人であり、人の暮らし、会話や感情の表出こそ重要だと。他の歴史小説を読んでいても、多くの場合、書かれている人物の心の内、心の襞に入って語られることは少ない。ボロジノの会戦やモスクワ炎上を主にナポレオンのロシア遠征が詳細に語られる中で、パラレルに進捗する五つのロシア貴族の浮沈は迫力満点であったし、その人物の動きと物語の展開は秀逸であった。ピエールとナターシャ、ニコライとマリアに収斂する愛の物語の起結に深い感動を覚えた。

  • トルストイがにゅ~っと顔を出す。

  • 第4巻の本編は約630p。それでも前の3巻より100p少ない、と自分を励ます。それでもさすがに読み疲れしてくる。気力を振り絞って読み進めた。

     ボロジノで重い戦傷を負ったアンドレイは、ナターシャと姉マリヤに看取られる。一方、仏軍の捕虜となったピエール。モスクワ郊外の処刑場に連行され、他のロシア人らが銃殺されるのを目の当たりにし自分も死を覚悟する。が難を逃れる。その後、厳冬のなか、敗走する仏軍に引き連れられてゆく。これらの過酷な体験、そして、捕虜の一人カラターエフとの出会いがピエールの内面、人生観を変えてゆく。プラトン・カラターエフは、農夫出身の素朴な男だが、言わば“無思想の哲人”。ピエールは彼の飾らない言動に深い感銘を受ける。
     
     この仏軍の厳冬下の敗走は、極めて悲惨なものだったらしく、60万とも言われるフランス軍はほぼ壊滅してしまったという。だが、トルストイの描写は少々淡白であった。その悲惨な様相をもっとこってり味わいたかったので少し残念。また、聞き慣れない地名が多いため、地理的なイメージを抱きにくい。スモ-レンスク街道、カルーガ街道、タルチーノ陣地での戦闘、モスクワからニーメン河への撤退…。等と、多くの地名、地域が記述される。また、それを前提にロシア軍の「側面行軍」の状況が説明される。googleマップを参照しつつ読み進めたがそれでも、土地の位置関係はほとんどよくわからず。どのように行軍しての側面移動だったのか、図が浮かばかなった。
     フランス軍は、モスクワで約5週間を過ごし。10月初旬に西へ撤退開始。その後、一時60万に及んだ大軍は、敗走のなかでまるで融解するようにほぼ壊滅してしまったという。いったいなぜ?という疑問は読後の今もまだ残る。その歴史的なディテールは興味深い。他の歴史関連書で探ってみたい。

     ドーロホフとデニ-ソフら士官は、パルチザン小部隊を率いて森の中を進み、敗走する仏軍を追尾。仏軍へのゲリラ襲撃を行う場面がある。敵軍の規模人数を探るため、ドーロホフはペーチャ(ロストフ家、ナターシャの弟)を伴い、仏軍の軍服で変装して敵の野営地に潜入。敵兵と同じ焚き火を囲みながら、仏語で話して敵情を聞き出すのだが、ドキドキものである。当時のロシア貴族のフランス語能力がかなりのレベルだったことが伺える。
    だが、その翌朝のパルチザン攻撃でペーチャは戦死。まだ少年のようだったペーチャの死は、哀れであった。
     そして、エピローグの章へ。よぅやく到達。1812年から7年を経ている。ピエールとナターシャは結婚。ニコライと公爵令嬢マリヤも結婚。それぞれ家庭を築き、幸せに暮らしている様子が描かれる。ここに至り、ピエールは穏やかな人柄の好人物になっている。常に他者を愛すゆえに、逆に周囲から必ず好感を抱かれる愛すべき人物へと、成長しているのだった。
     ちなみに、ピエールは、新たな政治活動を始めたことが触れられる。ペテルブルグへ長期出張して政治結社発足を画策した様子。ロシアの次の時代への胎動、激動の予感を伺わせた。
     二つのカップルの結婚。その前に別の章で、ピエールの妻エレンの突然の病死がさらりと伝えられていて、アレ?と戸惑った記憶がある。終盤での大団円を描くための、力ずくのストーリーテリング?という感も。

     さて、エピローグの章にはさらに第2部が続く。これは言わば“トルストイの歴史学講義”で、生硬で退屈な内容である。しかも70頁以上の分量。全4巻の大分量を読み進めて、へとへとになっている読者には、一種ダメ押しの嫌がらせのように、読む気力を阻喪させる。
    割り切り出来るヒトは、このエピローグ章の2部は飛ばして読了しても構わないと思う。

  • もしも、自分が出版社の編集者で、レフ・トルストイさんが、「戦争と平和」を持ち込んできたら。

    読んだ上できっと、ひとつだけダメだしをすると思うんです。

    「大変面白いんですが、全体に時折、あなたの歴史観、歴史考察の部分がありますね。特に、第四巻に多いです。この部分は、思い切って全部カットしましょう。それでも全く物語としての面白さは損なわれません」

    で、もし抵抗されたら。

    「では、少なくとも、第四巻のラスト、物語が終わってから文庫版で80ページもある論文みたいな部分だけでも、全カットしましょう」

    と強く訴えると思います。

    「どうしてもこだわるのなら、それは別の本として出しませんか?あるいは、小説としては含まず、巻末に、あとがきとして入れましょう」

    #

    読み終えての第一印象は、ほんと、ラストの論文部分が蛇足でした...(笑)。
    それに尽きます。

    第1巻から、時折、そういうトルストイさんの地の文というか、論考めいた部分はあったんです。
    ただ、そんなに長くなかったし、はじめはその主張に「へえ~」という発見もあったから、許せました。

    しかし、第4巻に入ると、それが徐々に長く苦しくなってくる。
    それに、内容的には、同じようなことがループします。

    「歴史学者の考えるような、理路整然とした物語は実際の歴史ではない」
    「一人の権力者の意思が末端まで支配した、とデジタルに考えるのは安易だ」
    「歴史というのはもっと無数の人の細かい意志や偶然が左右している」

    みたいなことが延々と語られるのです。

    正直に言って「またか」とも思ってきてしまうし、歴史の要因という考え方については、確かに一理あるし、小説家的な感性だなあ、と思います。
    けれど、どこかもやっとした、スッキリしない、批判に終始する気持ち悪さがありますし、マルクス学のような歴史の見方とか、経済や産業と言った、ある種の必然の要因はスッパリ触れられていないのも、なんだか消化不良...。

    #

    と、まずはチョット貶めてしまいましたが。

    全四巻通して、もう、素晴らしい面白い小説でした。

    ムツカシイ主題やテーマや歴史とは何かみたいなことは、実はどうでも良いんです(笑)。
    それは、小説として面白かった上に、トッピングみたいなものですから。
    (そういうムツカシイ思考が、小説としての面白さを支えている、とも言えるのですが、それは結果論。だって、何が支えていようと、面白くなかったらそれまでですからね。読む側としては)

    つまりは、1805年に恐らく15歳~25歳くらいだった男女数人の、およそ20年に渡る物語。

    恋愛があって(なんだかんだ言っても、恋愛、という要素が無かったら、この小説は骨抜きになります)。
    両想い、片思い、横恋慕、すれ違い、心変わり、一目ぼれ、強烈な出会い、裏切り、後悔、結婚、不信、エトセトラエトセトラ...
    これだけでも、およそ現今のあらゆる恋愛物語を数百倍上回る、えげつなさと格調を見せつけます。

    そこに、親子の葛藤、兄弟の確執、金の執着、出世の欲望、世間体のこだわり。
    さらに、ナポレオンやアレクサンドル1世という人物を配した英雄歴史小説の醍醐味があり。
    その上で、戦争、戦場のリアルな混乱や恐怖、躁状態の生々しい小説体験。

    そして、恐ろしい数の脇役たちが皆、ぎらぎらと人間臭い...。

    #

    第四巻を読み終えて。
    主要登場人物が、ピエール、アンドレイ、ニコライ(以上男性)、ナターシャ、マリア(以上女性)。
    まあ、だいたい5人います。
    なんだかんだ、最終的にはその5人に感情移入して読ませるんです。

    そして、5人とも、あわや死ぬのではないか。死ななくても、みじめな不幸のどん底に落ちるのではないか。と、いう危機をいっぱい迎えます。

    なんだけど、最終的にトルストイさんは、1人だけ戦争で死んでしまうのですが、残りの4人には、なんとかハッピーエンドを準備してくれていました。

    (死んでしまう1人も、なんていうか、精神的に最悪の状態は避けての死、になります)

    (まあ、ハッピーエンドといっても、フィクションとは言え彼ら彼女らの人生は終わっていないし、ロシアの歴史と同じようにまだまだ色んな幸福と不幸があざなえる縄のようにこれからも続くだろう、というレベルではありますが)

    そこンところ、凄く読み手としてはほっとしました。あーよかったって(笑)。

    やっぱり、長々と人物に感情移入して読んできて、いくら歴史というもの、戦争というものが残酷で無情だったとしても、

    「それはそれとして、頼むからこの人たちを不幸にしないでえええ」

    惚れ込みながら読んできたわけですからねえ。

    そこらへん、トルストイ、分かっているなあ(笑)

    あるいは、当時の編集者が、

    「この論文部分、どうしても残したいの?...アンドレイも殺したいの?...ぢゃ、アンドレイ以外は、一応ハッピーエンドにしましょうよ」

    と、ダメだししたのかも知れませんが...。

    ######

    以下、個人的な備忘メモ。ネタばれ、あらすじ。

    ######

    ●アンドレイは、ナポレオン軍との戦闘で重傷。虫の息だけど、富豪の荷馬車に拾われて逃げていく。

    ●その富豪は、偶然ながら、ナターシャの一家だった。ナターシャというのは、かつてのアンドレイの許嫁。いろいろあって婚約解消していた。

    ●アンドレイとナターシャは再会。死を意識して心境が変わっていたアンドレイは、素直に彼女を許します。彼女も謝ります。ふたりは再び、愛し合う感じになります。だけど、アンドレイは、幼い一人息子を残して死んでしまいます。
    (この息子は前妻との子。前妻はお産で死んでしまっています)

    ●ナポレオン軍が占拠したモスクワ。ピエールは、ナポレオンを暗殺しようとモスクワに残ります。でも、火事場から人助けをしたことから、フランス軍に逮捕されます。

    ●捕虜として、つらい日々を送るピエール。

    ●やがて、ナポレオン軍は寒い冬の中、総崩れ、フランスに向けて無秩序に撤退します。襲いかかるロシア軍。何万人と死んでいきます。雪の中の死の行軍。ピエールも死にかけますが、たまたまロシア軍に助けられます。助けたロシアの武官は、第2巻あたりでピエールと因縁があったドーロホフ。

    ●ちなみにその戦闘で、第1巻ではまだお子ちゃまだった、ニコライの弟が、あっけなく戦死。

    ●生還したピエールは、多少たくましくなります。そして、ナターシャと再会。アンドレイのことがありつつも、「僕はあの人と結婚しなければならない」。

    ●ニコライは、モスクワ撤退の混乱の中で、危なかった令嬢を助けます。それが偶然、アンドレイの妹、マリア。ふたりは電撃的に一目ぼれ。

    ●ニコライの父が死んで、一家は貴族だったけど経済的に破産。青ざめるニコライ。

    ~~~~~そして、一気に10年以上の月日が流れ~~~~~~

    ●ピエールとナターシャは幸せに結婚。子供もいっぱい生まれて、順調。

    ●ニコライとマリアも色々あったけど結婚。子供も生まれている。そして、ニコライの家族は破産したけれど、マリアの財産をニコライが堅実に運営して大黒字。かつての自分の領地まで買い戻せるくらい。

    ●そして、アンドレイの忘れ形見の一人息子も、その四人に囲まれて、健やかに育っているよ。

    と、いう、ハッピーエンド。

    ただ、その中でも帝政末期のロシアの混沌とした諸問題があって、ひとりひとり信条は違う。
    まだまだ、いろんなことがあるんだろうな、という余韻。

    #

    いやあ、本当に面白かったなあ、という素直な後味。
    そして、10代20代に読んでも、この面白さは分からなかっただろうなあ、と思います。
    また、60代くらいに再読してみたい作品。
    その時は、岩波書店版で読んでみようかな...。

    (「アンナ・カレーニナ」よりも、面白かった...。

    あれはあれで、アンナと、もう一人の男性と、二つの世界の話が並行して語られる小説でした。

    僕の読んだ時の印象としては、

    「アンナの話だけにしておけば、大傑作だったのに」

    でした。)

  • ナポレオンのロシア遠征、モスクワの破棄、ボロジノ会戦など歴史の出来事が分かりやすく書かれてる。しかし、それよりも当時のロシアの文化、生活が興味深い。個人的に血のかよった文化、生活はあまり想像ができなかったけど(寒いからという偏見、馴染みがないというのもあるかな)、豊かで人間味あふれる登場人物からガラッと当時のロシアのイメージが変わりました

  • 「『<これは偉大である!>』と歴史家たちは言う、すると、もはや善も悪もなく、『偉大なもの』と『偉大でないもの』があるだけである。」

    ついに読み終わりました。戦争と平和。
    第四巻では、ナポレオンが敗走する様と、フランスがそれを追撃する様が描かれています。歴史を創るのは一人の英雄ではなく、大衆であるという考えが、しみじみと伝わってきました。ナポレオン、クトゥーゾフ、どちらの命令も浸透せずに、各人が各人の思うがままに行動する様子こそ、「大衆の動き」であると感じました。ピエールがとてもよいキャラです。

    最後の、トルストイによる歴史学批判、自由については難しかったです。

  • 第4編は主にトルストイの思想が吐露されている件である。歴史をつくるのはひとりの英雄ではなく、幾百万の民衆の生活に他ならないという歴史観を顕わにしてゆく。

  • ナポレオンの大軍は、ロシアの大地を潰走してゆく。全編を通してトルストイは、歴史を作るものは一人の英雄ではなく、幾百万の民衆の生活に他ならないという歴史観を明らかにしてゆく。

    今回初めて最初から最後まで通読してみて感じたのは、トルストイの作品は本当に難しいということだ。
    特に本作は登場人物も多く、それぞれの人物の相関関係を覚えるだけでも大変だったが、彼らが織りなす人間模様や、トルストイの圧倒的な構成力、文章力に舌を巻かざるを得なかった。
    紛れもなく、本作は「世界最高峰の文学」という名を冠するに等しい作品であると思う。

著者プロフィール

一八二八年生まれ。一九一〇年没。一九世紀ロシア文学を代表する作家。「戦争と平和」「アンナ=カレーニナ」等の長編小説を発表。道徳的人道主義を説き、日本文学にも武者小路実らを通して多大な影響を与える。

「2004年 『新版 人生論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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