フィツジェラルド短編集 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102063026

感想・レビュー・書評

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  • 《「きみたち南部の人というのは、家柄とかそういったものをとても重視するだろ——いや、それがいけないというのじゃ決してないよ。ただこっちじゃ少しばかり事情が違うんだ。要するにだね、サリー・キャロル、最初は、きみの目から見れば、ことさらに見せびらかしてるみたいで趣味が悪いと思われるものがいっぱいあると思うんだよ。でもね、この町は建設されてから三代しかたってないことを忘れないでほしいんだ。誰でも父親は持ってるよ。自分のじいさんのことだって、町の人間の半分ぐらいまでは知ってるはずだ。でも、そこから先へ遡ることはできないんだよ」》(p.32)

    《「いやいや、北方人種こそが悲劇的な人種です——彼らは涙のうちに快い快楽にひたるということを知らない」》(p.42)

    《「ここの女の人たちはもしも美人でなかったら」彼女は考えた。「何もないに等しいわね。見つめていると、影が薄くなって消えて無くなってしまうみたい。要するにていのよい女中なんだ。男と女とが入りまじった会合でも、いつだって男が中心なんだから」》(p.45)

    《彼らがどういうタイプの男であるか、彼には分っていた——彼が大学に入りたての頃に目にしたような面々、夏の陽にまっ黒に焼いた健康な身体に品のよい服をまとい、私立の名門新学校を出てやってきた、あのたぐいの連中である。彼には、そうした連中よりも自分の方が、ある意味では上だということが分っていた。自分の方が人間として新しいし、強くもある。それでいながら彼は、自分の子供は彼らのようになってほしいと思っていることをひそかに認めぬわけにはゆかず、その点、自分はあくまでも、彼らを生み出すべき逞しい荒削りな素材にとどまるものと見なしていた。》(p.90)

    《彼は彼女を愛していた。おそらく彼が年老いて、愛するの愛されるのということが意味を持たないようになる日まで、彼女を愛し続けることであろう——しかし彼女を自分のものにすることはできなかった。つまり彼は、強者のみが知る深い痛苦を味わったのである。それはかつて、束の間ながら、あの深い幸福を味わったのとよく似ていた。》(p.115)

    《金というのは一種の鰭ではないか。英国では、資産が強い定着意識を産んだが、根が浅くて動いてやまないアメリカ人には鰭や翼が入用であった。歴史や過去を教える必要はない、教育はいわば空間を飛翔するための装備のようなものであるべきで、遺産とか伝統とかという積荷を積んで動きをにぶらせるには及ばないという考え方さえも、アメリカでは繰り返されるところではないか。》(p.282)

    《フランスとはつまるところあの国土であり、イギリスとはすなわちあの国民である。しかし、アメリカは——アメリカというのはまだあの観念の領域にとどまっているものがまといついていて、これを言葉に表現することははるかにむずかしい——それはシャイロの墓地であり、アメリカが生んだ偉人たちの、疲れ切って憂いに沈みながらもなお気力を失わぬ顔であり、彼らの肉体が朽ち果てぬうちに早くも空疎なものとなった一片の美辞のために、アルゴンヌの森で死んで行った田舎の青年たちである。積極的に前進してやまぬ逞しい心情、それがアメリカであった。》(p.283)

  • よき

  • 「金持ちの御曹司」と「バビロン再訪」が特に面白かった。

  • フィッツジェラルド作品は『グレート・ギャツビー』しか読んだことがなかったのですが、なんとなく、'20年代の狂騒の時代を刹那的に過ごしていたイメージがありました。
    ですがこの短編集におさめられている作品、特に『泳ぐ人たち』と『バビロン再訪』では、アメリカの伝統的なものや、多くの素朴な人びとにとって普遍的に意味をもつようなものに価値を見出している感じがして、フィッツジェラルドのイメージが少し変わりました。

    『泳ぐ人たち』は、話の筋が少しあざとい感じもするものの、家庭や仕事で日々我慢している主人公が、考えることを脇において泳ぐことで解放されるという、そのシンプルなさまが、読んでいて心にストンと落ちてきました。肉体の持つ美しさや力を素直に賞賛するような雰囲気が、アメリカ文学らしいなと思いました。

  •  社会的な成功と幸福は必ずしも一致しないということを、しみじみと感じた。
     異国情緒漂っているのは感じたが、心情をイメージできないところがあった。文化の違いだろうか。

  • フィッツジェラルドもあまり読んだことがなかったのですが、ふと。いずれもほろ苦いけれども、最後のバビロン再訪が気に入りました。

  • 映画『華麗なるギャツビー』を見る前に、と思って買ったけど、なんか読んだことあるな・・・。

    他の短編集と重複して収録されているのがあったのかもね。

  • 華麗なるより、こちらが作者の本命な気がする。
    野崎氏の訳も華麗なるより言い回しが心理的に深い。

    まぁフィッツジェラルドが知られたのは春樹氏のおかげ。
    それだけは言い切れる。
    春樹氏万歳かアメ文学好きじゃないと乗り切れない所がある。

  • FBノートにあとで。

  • 初フィツジェラルド。
    冬の夢と金持ちの御曹司が特によかった。
    なんだかクールな男前が多いけど、嫌味じゃない。ヒロイン役も惹きつけられる人物ばっかり。
    重たくない倦怠感と情熱と放蕩と。
    文字にするとなんだか不思議な感じだけど、かっこいいって言われてる意味はわかった気がする。

    好きな作家さんがまた1人増えました。
    読んで良かったー!

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