遠い声 遠い部屋 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102095027

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の少年ジョエルは、中性的で破天荒過ぎる少女アイダベルに淡い恋心を抱くのですが、アイダベルが非常に魅力的に描かれており、しかし物語の終盤、意外なほどあっさり退場することが不思議ですけれども、ジョエルが少年時代を経て大人になっていく時間を13歳という時間の中で描いている物語。カポーティの自伝的要素の大きな小説と言われています。ここではないどこかへ行きたい気持ちって、子供はほとんど皆、抱くときがあるのではないかと思いますけれど、そんな時期の少年少女の繊細さを、一緒に、或いは大人になってからだったら再度体験させてもらえるような小説。
    二人が家出した先で出会ったサーカスの小人の女性が、ジョエルと二人、観覧車に乗った時に、自分は20歳になっても恋人が出来なくて、母親のセッティングした見合いで老人と結婚しそうになったし、自身もそれでいいと思ったけれどもすぐに振られ、出会った少年たちもすぐに大きくなってしまうと嘆き、サーカスで世界をめぐっていて、美しい恰好をして王族に招かれてもいるんだけれどもどうしようもない孤独の中にいることを独白をしてさめざめ泣いたそのあとに、アイダベルを評して「かわいそうに、あの子も自分が人並みでないと思い込んでいるのかしら?」と悲しそうに言いながら、自分ではどうしようもないようにジョエルの股のほうへと指先を伸ばそうとする場面があって、その時にジョエルが、ありとあらゆるすべての存在を傷つけたくないと思い、できることならば、愛している、と言ってあげたかった場面に、異様な緊張感と慈しみを感じる。
    どういうものか物凄く強く、ジョエルの気持ちに同調してしまう。
    あるいは二人で街を出ようとなった時に、どこへ行くのだと聞かれたアイダベルが、「外へ行くの。外で歩きまわっているうちには、どこかいいとこが見つかるわ」と語ったその言葉こそほとんどの人たちの青春時代に張り付いたことのある言葉なのではなかろうかと、少なくとも、したいことやなんかはあっても、明確な目標など持っていなかった時には、頭の上にぐるぐるしているであろう様な言葉に、不思議と胸に悲しさを感じる。

  • カポーティは23歳にして自分の最期の姿をはっきりとみていた
    美しい少年も、桃肌で身体の弱い中年男も、突然泣きわめく女も、男の子に生まれたかった女の子も、雪のみたかった黒人も、みんなカポーティ自身だった
    何にでもなれるけれど、何ものでもない。私の想像を超える想像力で、想像の限界をもみていた

  • 読んでいて風景の描写が酷く美しくて(特に嵐のくる場面)郷愁的で、本当に温度や匂いや光やその縁を感じる文体にぐいぐい引き込まれて一気に読んでしまった。
    邸、生死がはっきりしない人々、会えない父親など、不気味でほこりっぽく、でも水の中を泳ぐような空気感に少しわくわくもする。
    時が止まったような空間で、登場する女性たちが生き生きしていて私は大好きだった。
    特に色眼鏡をかけて半ズボンのベルトループに親指を引っかける旋毛曲がりのアイダベル。

    その3以降から夢なのか幻想なのか現実なのか、詩的な印象が強くなり、今までスラスラと心に美しい(物悲しい)情景と、本当にそこに生きていたのではないかと思えるほど生々しく想像できた人物たちは霧散してしまい上手く読み込めなかった。
    私はまだ子ども時代を引きずってしまっているからか。

  • 少年が大人へと成長する過程を、アメリカ南部のヌーンシティにたたずむ怪しげな屋敷を舞台に描いた名作。
    知人にすすめられて読んでみました。実は初カポーティ。
    なんとなく海辺のカフカを読んだときのような気分でした。

    主人公のジョエルをさしおき、そのまわりの人物たちの個性がまあ強いこと。
    寝たきりの父親、不気味ないとこのランドルフ、暴走少女のアイダベル、その他にもたくさん。
    暗くて閉塞感のあるその土地とその人物像が相俟って、とことんゴシックで不思議な世界に魅了されました。
    われわれは常にたくさんのものを愛さなければならない、という一節が心に響く。

  •  1948年発表、トルーマン・カポーティ著。父からの手紙を頼りにアメリカ南部の町、ヌーンシティーを訪れる13歳の少年ジョエル。そこから更に馬車に揺られ到着した父の住む屋敷。そこは外界から隔絶され、過去にしばりつけられた人々が住む、幽霊屋敷のような場所だった。ジョエルはそこに住む姉妹のうち妹のアイダベルに惹かれていき、その果てに破滅的な幻想世界に囚われ、そこから脱出した時、自分が大人になったことを知る。
     非常に詩的で美しい小説だった。カポーティの作品は「ティファニーで朝食を」だけ以前読んだことがあったのだが、正直あまり面白くなかった。しかしこの小説はそれとは全く異なった雰囲気を持っている。
     まず比喩表現がすばらしい。午後の光の退廃的な雰囲気、廃墟や荒れ果てた庭の泥臭い匂い。単純に描写するだけで伝わらない抽象的な部分をうまく掬い上げている。まさに「濡れた文体」といったところだろう。しかし描写がジメジメしているわけではなく、むしろ幻想的でキラキラしている。こういったところに、少年の純粋な目で見た世界、という雰囲気がよく出ている。
     そして時折に飛び出てくる哲学的な考察が鋭い。一見気づきにくい配置のされ方をしているが、よく注視すると小説全体の暗喩になっている。こうした文章はともすると説教臭くなりがちだが、それを大人のキャラクターに語らせたり幻想性でぼやかしたりして作品の雰囲気に馴染ませている。おそらくかなり気を使って書いたのだろう。
     この小説のテーマは「少年の成長」だとよく言われるようだが、私には何だか少し違うように思える。「少年が大人になる」のと同時に結局「大人は根本的に少年性を心から切り離すことができない」と言いたいのではないだろうか。だから最後ジョエルは屋敷に戻っていくし、過去の自分という少年の幻影を振り返ることしかできない。そうしておそらく年老いた少年モドキとして生きた幽霊となる。この小説を書いた後の著者の末路を考えると、彼がそれを体現してしまったとしか私には思えないのだ。

  • 繊細。まさに。でも二回読んだけど、あんまり内容が記憶に残ってないんだよね。印象というか、後味がすごくいいんです。

  • 詩的でリズムのある描写、散りばめられた暗喩表現、個人的にはすっかり惹き込まれ、一気に読み切ってしまった。原文や村上春樹訳ももちろん読んでみたいけど、私はこちらの翻訳もかなり好きだった!

    何か不穏なものを常に秘めていた「大人」という存在が、少年の視点から捉えられ解かれていく。
    幻想に生きる大人たちの奥底にあるもの。
    それらは愛されたい不安に怯え、怒らないでと訴える少年と何が違うのか。
    子供じみた欲求や不安、無力さは大人になっても変わらない。
    「みんなそのうち、きっとよくなりますよ」
    信仰は孤独な大人たちを慰め、寄り添う。
    それらに気付く時、彼は少年だった自分をもう一度振り返る。 

    最後に好きな箇所
    「昔ながらの雑草のあいだをさっと吹き抜けてゆく秋の風が、悲惨なビロードの子どもたちと、男らしい髭を生やした彼らの父親たちのために嘆いたーー昔のことだ、と草は言った、行ってしまった、と空は言った、死んでしまった、と森は言った、だが世の移り変りを嘆く哀悼の唄は、夜鷹にまかせられた」

  • 津村の読み直し世界文学の1冊。アメリカの白人の子どもがいろいろと親せきをたらいまわしされ、田舎に引っ越してきたという想定である。そこにはアフリカ系アメリカ人のお手伝い、自分のいとこ、叔母、近所の双子の姉妹などがいる。アメリカの田舎を描いた小説である。

  • 過去最も相性の悪い作品だったかもしれぬ

  • これは何だろう。
    本当に考えて書いたのだろうか?
    逸脱し過ぎていて文脈を掴めない。
    設定が飛躍している。
    難解である以上に理解不能だった。
    解説でカポーティが薬と酒に溺れていたとあって納得した。

    ランドルフはレモンの香りがするので気に入った。
    しかし田舎の自然と少年少女がセットで描かれるのは何故だろう。

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