夜の樹 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102095058

作品紹介・あらすじ

ニューヨークのマンションで、ありふれた毎日を送る未亡人は、静かに雪の降りしきる夜、と名乗る美しい少女と出会った…。ふとしたことから全てを失ってゆく都市生活者の孤独を捉えた「ミリアム」。旅行中に奇妙な夫婦と知り合った女子大生の不安を描く「夜の樹」。夢と現実のあわいに漂いながら、心の核を鮮かに抉り出す、お洒落で哀しいショート・ストーリー9編。

感想・レビュー・書評

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  • これは春頃に読んだよしもとばななさんの「アムリタ」に出てくる小説で(と言っても会話にちらっと出てくるだけなんだけど)そのときに気になって購入したまま積ん読になっていたのだけど、冬の夜に読むのがとてもよく似合うような小説群だったので、結果的に今になって正解。
    短編集なのだけど、カポーティといえば「ティファニーで朝食を」しかわからないという拙い知識のなかで読んで、内容の暗さにけっこうびっくりした。
    でもずっしり重いわけでもなく、読後はさらっと流せるような、不思議な読後感。
    カポーティの短編って、“シュールレアリスムの言語化”みたいな感じで言われてるらしく、それを知ったらものすごく納得。
    私はよく奇妙な夢を見たときに「ダリの絵みたいな夢」と表現するんだけど、それに近い読後感だと思う。
    ストーリーがはっきりある短編もあるけれど、奇妙な夢に包まれてるみたいな短編もいくつかあった。
    不思議な世界に浸りたい人にはおすすめです。

  •  トルーマン・カポーティ著。孤独な都会の未亡人の元に現れる少女「ミリアム」、汽車で同席になった怪しげな男女に迫られる「夜の樹」、見た夢を男に売ることになる「夢を売る女」、都会からホテルへと流れ着き精神が閉じ籠っていく「最後の扉を閉めて」、首のない鷹の絵から湧き出す幻想と狂気「無頭の鷹」、町に来た変わった少女が轢かれて死ぬまで「誕生日の子どもたち」、無謀な賭け事に挑む少年「銀の壜」、二人のおばさんに追い詰められ立て籠る「ぼくにだって言いぶんがある」、感謝祭の客として家に来たいじめっ子の起こす事件「感謝祭のお客」の9篇の短編が収録。
     とにかくまず文章が綺麗だ。特に色や光やガラスの描写では、右に出る者がいないほどの鋭い感性を発揮している。それはともすれば不必要にきらびやかという印象を与えるが、そこに孤独感・空虚感がまぶされると嫌みが消えてちょうどいい塩梅になる。ここまでは9篇全てに当てはまるだろう。
     更にそこに主要なキャラクターとして「子供」が追加されるとより美しい文章を純粋に受け止めることができるようになる。それは第一に子供の純粋さ(感受性の高さ・精神の脆さ)にカポーティのキラキラした感性が合致していること、第二にカポーティの作品に頻繁に現れる奔放な少女のわざとらしい言動が子供においてのみリアリティーを帯びてくるからだろう(だから私には「ティファニーで朝食を」のホリーが安っぽく映ってしまうのだ)。そういう意味で「誕生日の子どもたち」と「感謝祭のお客」が最も素晴らしいと感じる。
     ただ、それらとは別に「無頭の鷹」は文句なしに好きだ。終盤、部屋で蝶が舞うシーンの幻想性は尋常ではなく、「遠い声遠い部屋」を彷彿とさせる。そしてラストの暗喩的な雨の描写が強いインパクトを残す。

  • 天才、カポーティの短編9編。
    表題作「夜の樹」、「ミリアム」「無頭の鷹」のような、得も言われぬ恐怖、日常の延長線上にある狂気、心の闇を描いて我々をぞっとさせる作品が半分。
    そして「銀の壜」「感謝祭のお客」のような、誰にでもある少年の心の機微、少年の目から見た世界を秀逸に記述する作品が半分。
    そしてなんと形容していいかわからない、純真無垢かつ残酷な名作「誕生日の子
    どもたち」。

    特に恐怖をあおる作品については、読み始めたら読み終わるまでやめられない違和感のようなものがずっとついてまわる。この語り口は本当に見事だと思う。
    解説もそうだし、世界にあまたある評論で述べられているような暗喩だったりメタファーだったりは一読では理解できない(少なくとも私は)
    それが理解できなくても、一つの物語としてきちんと成り立っており、それぞれきちんと味わうことができた。
    私はカポーティの文章がとても心地よくて好きだ。

  • 短編集。初っ端からオー・ヘンリー賞受賞作である「ミリアム」の世界観にどっぷりはまるはまる。一人静かに暮らしている妙齢の女性が出会った自分と同じ名前の美しい少女。果たして彼女は何者なのか?「誕生日の子供たち」も捨てがたい。古き良きアメリカの田舎町にやってきた風変わりな少女。知らず知らずのうちに彼女に影響されて行く住民たち。ラストが秀逸。

  • 若年期に書いた「ここから世界が始まる」から、少し年齢を重ねた20代前半くらいの作品集「夜の樹」
    「世界が始まる」はトルーマンのセンスと才気の源泉に感心するって感じだったけど、「夜の樹」は高級な才能を一流の技術者が加工して、文芸っていう商品棚の最高層に置いた一品って感じがする。小説本体の商品原価的値段はあるけど、作品自体に値段的概念をつけるとしたら超高級な作品読んでる気分になった。

    「ミリアム」と「夜の樹」と「夢を売る女」は共通して冷たい怖さがあって、その怖さの正体は実は主人公の孤独なんじゃないかなって思わせる作品
    「銀の壜」が収録作品の中では一番好きで、アップルシードくんの健気さを神様が愛してくれてる感じが超綺麗だった。手にしたお金でやりたかったことがもうやさしすぎて読んでて心浄化される。
    「ぼくにだって言い分がある」はとにかく理不尽なんだけど笑える系。最後の締めくくり方はかなりヤケクソ感あって笑えた。

    トルーマン作品読み始めて4冊目。
    幼少期過ごしたアラバマの田舎時代の記憶と、その後の都会での洗練されてるけど派手な記憶の両方がトルーマンの頭の中に別フォルダで保存されてて、器用に作品ごとに雰囲気を分けてるのがすごいな思う。同じ人が書いたと思えない作品が並ぶ二重人格系短編集。翻訳した川本三郎さんって方めちゃくちゃトルーマン作品と相性がいいと思う。ティファニーの村上春樹訳より、おしゃれすぎないというかトルーマンが書きたかったことの純度に近い気がした。
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    #トルーマンカポーティ
    #夜の樹
    #読書記録

  • 心地よい文章。
    気怠い日曜日の昼下がり、ソファに寄りかかり、目を閉じ、そして見る、夢と現のあわいのような...妄想。閉ざされた部屋、そして孤独。孤独な者同士の心が、音を立てて触れ合う。
    「無頭の鷹」と「銀の壜」は『カポーティ短編集』で読んだばかりなのに、もう一度読んでしまうくらい良かった。
    「夢を売る女」「誕生日の子どもたち」「感謝祭のお客」も好き。
    カポーティには中毒性がある。読んでも読んでも次を読みたくなる。ずっと浸っていたくなる、心地よい文章。

    #ミリアム
    #夜の樹
    #夢を売る女
    #最後の扉を閉めて
    #無頭の鷹
    #誕生日の子どもたち
    #銀の壜
    #ぼくにだって言いぶんがある
    #感謝祭のお客

  • 狂気・悪意・混乱・弱さ・悲しさ。
    作品の奥で、そういったものがうねり、表面に顔を出そうとしているのを感じる。
    現実と非現実が錯綜していたり。
    「ミリアム」のミリアムも、「最後の扉を閉めて」の電話も、自分の中に潜んでいる物への恐怖を感じる。
    「無頭の鷹」はホラーに近い、いろんな形の「怖さ」が潜んだ作品だと思った。
    「誕生日の子供たち」「銀の壜」が好き。



    1999.11.7
    すごく両極端だ。ものすごく寒々しい作品と、ものすごくあたたかい作品との2つに、すぱっと分かれる。私としては後者群が好きであるが、前者を書くカポーティにも興味がある。カポーティ自身のことも、とても知りたい。「夜の樹」は「遠い声遠い部屋」より、うんと読み易かった。中でも特に印象深かったのは、「誕生日の子どもたち」だ。どうして題名としてこれを選んだのか。あのタイミングで死んだのは、すごく印象に残った。20代でこれほどのものを書くとは、すごいな。


  • カポーティの初期短篇9作。
    文体が綺麗なのは言わずもがな。
    「向こう側にいるもう一人の自分」を垣間見てしまう孤独で風変わりな人々。
    
    ・夢売る女 Master Misery
    ・無頭の鷹 The Headless Hawk
    個人的には特にこの2作がお気に入り。
    
    無頭の鷹に出てくる女の子、個人的にアレックス三部作時代のジュリエット・ビノシュを勝手に彷彿
    この短篇、冬に読むのがおススメ

  • ティファニーで朝食を、という映画も見たことがないんだけど、その雰囲気から作者は流行の前線部隊できらびやかな小説を書くタイプだと思っていたら全然違った。
    1番最初の「ミリアム」読んだ時は衝撃だった。
    外よりも内面を深く掘り下げた物語が多くて、全編通して無垢さが起こす奇跡とか、人の気持ちの儚さや危うさをこんな風に切り取れる、切り取って形にできる力量がすごい。

  • カポーティはいわば、アバラマとニューヨークというふたつの世界に引き裂かれている。
    ー 訳者解説にある通り、カポーティの二面性がひどく浮き彫りになった短編集。
    新潮文庫的にひとつ前の草の竪琴なんかはこのふたつもうまく混ざっていた気がするけれど、、、

    私はアバラマ時代のカポーティが好きだ。
    なので「誕生日のこどもたち」「感謝祭のお客」はドツボ。
    感謝祭にいたっては電車で読んで思わず泣きそうになってしまった。
    でもそれらはニューヨークで培われたような異端であり絶対の孤独であったりするうちなる闇を内包してこそ、楽しく悲しく響いてくるあたたかさだ。
    この二面性こそがカポーティの魅力なのだろうなと思う。
    まっすぐにズレた人間を描かせたらこの人に並ぶ人はなかなかいない。
    この魅力に取り付かれたら、この作家の作品が少ないことが悲しい。
    そして、本書に顕著だったが、翻訳に恵まれていない気がするのだ。。。
    草の竪琴は読み易かった。これは翻訳が良かったのだろうと思う。
    好みの問題もおおいにあるのだろうけど。
    確認すると新潮文庫で読めるカポーティ作品はすべて訳者が違う。ほほ〜

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