八月の光 (新潮文庫)

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制作 : 加島 祥造 
  • 新潮社 (1967年9月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (664ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102102015

八月の光 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 「人ってずいぶん遠くまで来られるものなのね」
    臨月の娘リーナ・グローブは、子供の父親がいるというジェファソンの町に降り立つ。未婚で身籠り去った男を追って一人で故郷から遠く歩いてきた。真面目で静かで穏やかで頑固。人がするべきことは神様が正しく判断してきっと叶えると信じている。その頑固なまっすぐさに行きかう人たちはついついお節介を焼いてしまう。

    リーナがジェファソンに到着した日、黒人の血を引くと噂されるジョー・クリスマスが内縁関係にあるハイミスの女性バーデンの喉をかき切り逃亡していた。

    施設で育ち自分を否定して自分の根源を探して彷徨うジョーと、自分の足取りをしっかり刻むリーナの話が語られていくが、二人の運命が交わることはない。

    二人の間で語られるのは、リーナに一目惚れした中年男、妻の不貞によるスキャンダルの後も町に残り続ける元牧師のハイタワー、家族を人種偏見闘争で殺されたのち黒人教育の後ろ盾をしている女性バーデン、ジョーの祖父母の物語。 彼らの抱える差別と失意と放浪が濃厚に書かれている。

    人種偏見と心の拠り所を探す人たちの心身の放浪の物語は、ラストのリーナの力強い歩みで締めくくられる。
    登場人物たちの心の中を漂うような読了感を味わえる作品でした。

    さて、日本人の私には一見白人だが「祖父母が黒人の血を引いているという噂」というだけで「クロ」と差別される、というのがピンと来なかったけれど、
    「1/16でも黒人の血が入っていれば黒人扱い」という州法もあったということなので、
    「噂」だけでも十分差別対象なのですね。

  • フォークナーの最高傑作のひとつと評価されている。個人的には「アブサロム、アブサロム!」よりこちらのほうが好きだ。小説の手法としては、アブサロムのほうが高度で面白いと感じたが、本作には、人間に対する「救い」のようなものが描かれているように感じられ、心に響いた。

  • 畏まったレビュー等まるで意味がないほど独創的。主要な筋①ニーナがジェファソンに来たこと、そして来た理由②ニーナとバイロンの出合い③ブラウンとクリスマスは何者か④ミス・バーデンの死の模様などが第三者の独白や意識の流れによって明らかになるが、それは最初の4章であらかた登場する。あと500頁でその主筋が変奏曲となって表れる。主題はサンクチュアリと共通する。南部で犯罪が起こると全て黒人の仕業とみなされる社会。南北戦争から60年経って人種差別は深化した。サンクチュアリから八月の光へ、ポパイからクリスマスへ。

  • なんだか感覚が違い過ぎてよくわからないところがたくさんあった。
    クリスマスはいったいどう生きたかったの?どういう風に生きたいか、自分でもよくわかっていなかったの?
    リーナはなんでそんなにたくましいの?バイロンはどうしてそんなにもリーナに魅かれたの?ハイタワーはなぜ最後クリスマスをかばおうとしたの?
    南北戦争の事もよく知らないから、北部や南部の土地柄というのもうすらぼんやりとしかわからず…。そもそもキリスト教を信じている人たちがなぜ人種差別をするのかもよくわからないし。神の前ではみな平等なんじゃないんかい。
    アメリカって矛盾だらけのめちゃくちゃな国だと以前から思っていたけど、今回の大統領選といいこの小説といい、その印象は変わらず。
    中でもリーナが一番何考えてるのかわからん。この人、これからも無意識に周囲の人の同情や助けをうまく利用して生きて行くんだろうなぁ。強かだなぁ。
    それに比べると、クリスマスは不器用だったなぁ。彼にとって、「こんな風になりたい」と思えるような、目標にできるような人に出会えていたら、何か違ったのかな。理想って押し付けられると反発したくなるから、出来れば自分で見つけたい。でもその「理想」を、彼は思い描くことができなかったんだと思う。そういう社会って罪深いよな…。生まれによって可能性の芽を摘んでしまうのだから。

  • 人間の持つ過去とは彼の現在のなかにあって「現在」の彼を動かすものである、すなわち、過去は彼の中に生きる現在の一部なのだ―――、
    フォークナー自身のこの考えに忠実に、人物の過去を饒舌なまでに語ろうとするこの小説は、立ち昇る亡霊のような過去に縛られ、その呪いによって未来を奪われようとしている現代を生きる私たちに対して、ひとかたならぬ共感と衝撃とを与えずにおかないだろう。
    そして、クリスマスの物語。縦横無尽に駆け巡る想像力や記憶とは裏腹に、人間は帰属を強要され、誰でもないというアイデンティティを禁じられ、語られるべき過去を持たない存在として生きることを許されない。その結果として、愛する女性と自らの生を滅ぼしてしまう彼の悲劇に、私は、国境に翻弄され、漂流を続ける自らのあり方に重ねて読まずにはいられなかった。

  • 少し難しいですが、圧倒的です。
    人間と社会との関わりを、人間に根源的に根ざすものを掘り返して描く(この描き方が凄まじい)一方で、生命の本質的な強さとともにあって揺らがない女性が持つ、別の種類の真実も描いています。
    この作品は、あらかじめ少しだけアメリカの田舎のイメージを持っておくと、読むときに世界がぐっと広がるのではと思います。アメリカのロードムービーの真っ直ぐな道路や、『風と共に去りぬ』のイメージや、ビリー・ホリデイのジャズの背景など、現代日本とは大きくかけ離れた世界が織りなす空気感がけっこう重要と思います。

  • アメリカのノーベル賞作家ウィリアム・フォークナーの代表作。なんとか8月中に読み切れてよかった。この本自体は2年くらい前の冬に買って8月に読もうと思いつつ2度の8月を超え、三度目の正直で読了。禁酒法時代のアメリカ南部の架空都市ジェファソンを舞台に人種差別問題が描かれる。一言で言うと圧巻。分量が多いのに文章は平易で、でも重くて、心に刺さる部分があって。いいものを読んだなという感じ。3つの筋が複雑に絡まり合っているのでいつか腰を据えて再読したい。2012/541

  • 3度目のトライで読み終える。「意識の流れ」ってどんなものかと思っていたが、独特なリズム感があって面白い。何より本書は構成が巧みかつ描写が徹底しているので、大きな力で吸い込まれるように作品世界に没頭できる。

  • 自分の血の響きを白人にも黒人にも見出だせなかったクリスマス。彼の一生は悲劇だった。彼を囲む人々は妄執に取り憑かれ宗教の欺瞞が生んだ深い鴻溝は彼を呑み込み黒い潮を流し込んだ。人々の抱えるグロテスクな心理を白日に曝すフォークナーの筆致の鋭さ。対照的に描かれる、拘りのない穏やかな信頼を抱くリーナ。彼女の透明な眼には濁りも隠されず映し出されるが、光を内包する故に人にも共鳴する光の断片を見出だしたのだろう。リーナの旅する姿が光に霞んでいく。南部の人々と時の流れの壮大なうねりに圧倒された。

  •  本をよく読まない人にも読む人にも、その人の人生を左右するような巨大な影響を与える一冊が存在する。自分にとって、『八月の光』はまさにそのような本だ。

     本書の主題は、「ひとはアイデンティティなしで生きられるか?」を南部の因習(人種差別、閉鎖的なコミュニティ)と絡めながら描くこと。

    (1)
    ジョー・クリスマスは、自分が黒人か白人かわからない悲劇的状況にある。白人にしか見えないが、黒人の血が入っているのかもしれない…。南部において、これはアイデンティティを持たないことと同義だ。喪失には失われる前の記憶がある。しかし、彼は最初から「持たない」。そしてこの先も持つことはできない。このような人物が破滅的な最後を遂げるのは、避けられない運命である。

    (2)

     問う者は常に敗者で、勝つのは常に、疑問を持たずに受け入れる者だ。だからリーナ・グローブが自分を妊娠させた男を捜して結婚するために故郷(といえるほどのものでもない)を喪失したとき、彼女は母というアイデンティティを自然に受け入れ、その母性と素朴な愛らしさによって彼女の周りの全てを人生や環境と「和解」させる。

     ふたりは決して出会うことはない。運面は一瞬交差するのみで、二つの筋が別々に語られていく。その見事さ。

    (3)

     フォークナーは、若いころ詩人を志した。実際には一冊の詩集を出しただけで彼の詩人としてのキャリアは終わったのだが、詩的描写のすばらしさは随所に活かされている。
    「彼らはこの淀んだ僧院めいた薄暗さの中へ、いま彼らが彼にしたばかりの残酷な夏の光に似た何かを持ち込んだのであった。その光の残影は、彼らのまわりに漂っていた。それは光の持つ恥知らぬ残忍酷薄な明るさともいえた。その中にある彼らの顔はいずれも光輪から浮かび出たかのように胴体から離れて浮動しつつ輝いて…」

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