サンクチュアリ (新潮文庫)

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制作 : 加島 祥造 
  • 新潮社 (1955年6月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102102022

サンクチュアリ (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • <一人の女子大生が迷い込んだ廃屋での事件。無実の罪で酒を密売していた男が逮捕される・・・>

    著:ウィリアム・フォークナー

    何か力強いものを読みたくなって頭の中に浮かんできた作家がフォークナーとスタインベック。
    以前、「八月の光」を読んでパワーを感じたので今度はこちらを手にとって見ました。

    ストーリーの主軸は女子大生テンプルとヤクザ者ポパイのパート、
    そして弁護士のホレス・ベンボウと無実の罪を着せられた男の妻ルービーのパートの二つ。

    前者のパートでは「玉蜀黍の穂軸」などの陰惨な場面が次々と描かれていく。
    それが様々な比喩を用いて表現され、アメリカ南部の影を強烈なまでにアピールしている。
    その醜悪さは「八月の光」よりさらに顕著。

    そしてそれは人間そのものの闇の部分。

    しかしフォークナーはノーベル賞の授賞式で「私は人間の終焉を信じない」と演説した人。
    一方で人間というものの正しさを信じていると思う。
    そしてその思いが後者のパートにこめられています。
    正しき人であるホレス、赤子を守りながら夫リーの無罪を信じる妻ルービーのやり取り。
    私達に人間の本当の力強さ、信念というものを教えてくれます。

    最後にあとがきに触れられていた題名の意味、「サンクチュアリ」とは何をさすのか。
    辞書を引くと「聖域」「逃げ込み場所」の意味があるとのこと。

    テンプルが迷い込んだ廃屋、酒の密造をしていた隠れ家のこと?
    それともミス・リーバの売春宿?
    ホレスが直していた昔の家?

    私はホレス、リー、ルービー、そして赤ちゃんがともにすごした監獄の一夜に「サンクチュアリ」を思いました。

  • 光と暗闇に違いがなくて、その中で人の体臭と花の香りが漂っているような物語。
    光が闇の部分なのかな。
    前に読んだ『アブサロム、アブサロム!』では
    本の中で砂の動きが見えてしまうような不思議な感覚が
    読んでいる間ずっとあったけど
    (1ページ目から埃の描写があったりするからだろうか)。

    あれ? と違和感を覚えるような、場面のズレみたいのがあったり
    (アントニオーニの『欲望』のカメラの動きで感じたのと似た違和感)
    表現を楽しむことのできる小説だけど
    解説を読むと、訳した人のフォークナー観に偏りがありすぎて・・・・・・不安をおぼえる。

    少しカポーティーを思い出した。
    変な名前の登場人物が多いのは、同じでした。
    ていうかまぁ、親戚だ。

  • まずは玉蜀黍の穂軸で強姦、という煽情的な場面を幾度も聞かされていたために、文中に玉蜀黍の穂のこすれる音が登場するたびにヒヤッとした。
    ただしその場面そのものは巧みに隠蔽されて、のちに聞かされる、噂、裁判で提出された黒い玉蜀黍の穂軸、などで言及される。
    それによりますます陰惨度を増している。
    時系列は巧みに行きつ戻りつするので、まるでよくできた映画のようでもある。

    テーマとしては訳者解説にあるように、ポパイーテンプルの陰惨な線だけでなく、(家族に膿み酒に溺れているが清廉な弁護士)ホレス・ベンボウー(嫌疑者リー・グッドウィンの内縁の妻で赤ん坊を守る)ルービーの線がある。
    後者は駄目になりつつある現状を、仕事に向かうことを通じて支えていこうという必死の姿勢には、人間への肯定の視線がある。
    が、それは挫折。つい最近まで密造酒を都合してもらっていたくせに、賤業と見做してリンチする町の人々には、いつでも起こりうる恐怖を感じる。
    また、野卑だが酒を飲めず勃起もできないポパイ、終盤にひ弱だった子供時代が言及されるが、決して描かれなかった彼の内面を想像すると、また別の小説が立ち上がってくる。
    重層的で重みがあって、美味しい、小説。読後疲れたけど。

  • ミシシッピ州の田舎町ジェファスン。その町はずれで、女子大生テンプルが、野卑な密造酒造りの男達の巣窟に軟禁され、ひどいめに遭う。

    ちなみに、解説では、テンプルは、ポパイという男に凌辱されたことになっている。だが、直接的表現でないため、よくわからなかった。

    この女子大生凌辱事件では、ポパイの仲間である別の男が容疑者とされ裁判が進む。そして、この容疑者は、夜、町の男達によって留置場から引きずり出されて、私刑で惨殺される。ガソリン缶を背負わされて火を付けられ、猛火に包まれながら走る。生きたまま焼き殺されるのだ。

     他にも、わけのわからない展開が多く、戸惑うままに読了した。
     「八月の光」にも狂気が満ちていたが、それでも主人公クリスマスの内面が丹念に積み重ねられ、描かれていたので、作品世界にある軸を感じながら読み進むことが出来た。
     しかし、この「サンクチュアリ」は、物語が進んでも、収束してゆくものを感じられず、なにか散らかった感じを抱きつつ、読了した。
     読後、最も強く印象に刻まれて残ったのは、町で行われた私刑の、凄惨な光景。後味が悪い読後感となった。

     訳者は、加島祥造氏。 冥福を祈る。

  • 物語の運びとは直接関係のなさそうな細部に恐ろしさを感じたりした。正義感溢れる弁護士の継娘に対する態度とかね。

  • フォークナーの誕生日に。

    酒を密造販売するグッドウィンとアル中で由緒ある出自のスティブンス,内縁の妻で彼の子供を生んだルービーと判事を父に持ち淫乱に落ちたテンプル。法や罪に問われる土俵が同じでも行く末は全然違う。実際に殺人を犯したポパイは原罪ではないことで死刑になり,正義の人ベンボウは孤軍奮闘した果てに敗残者になる。禁酒法時代の米国南部の町で法とか宗教とか恣意的に設定された基準を更に恣意的に運用して人間の運命が決まる。戦争をラブストーリーの舞台に変えるヘミングウェイのおかげで米文学を誤解していた。同時代にフォークナーがいたんだ。

    性的不能者ポパイがテンプルに何をしたのか。連れ去られたテンプルをベンボウがようやく見つけて,グッドウィンがトミー殺しの真犯人でないと証言して彼を死刑にしないで欲しい,そう懇願するが叶なわず独白する。「古来変わらぬ悲劇の世の中から腫瘍を除去し焼却するといい。安穏に寝ている自分,悪や不正や涙から逃れた自分には憤怒も絶望も薄れて虚ろな眼球が残るだけ。」合法的社会で無秩序に生き延びる人と非合法社会で秩序だって生きる人の衝突によって後者のみが誅滅される。今まで避けてきた米文学を掘っていてドデカイ鉱脈を見つけた。

  • 含みをもたせる表現によって読者の想像力を掻き立てるので、よりいっそう主人公ポパイの残虐性とこころの空虚さが感じられた。現代社会の犯罪を先取りしているような筋立てであった。性犯罪の多くは、加害者になんらかの精神の異常が認められるのではないのか。そしてそれを未然に防止することが難しいだけに、不安と恐怖がまとわりつくのではないのか。

  • アメリカ文学特有のこの文章が頭の中で上滑りしていく感覚はなんだろうか・・・。
    翻訳に拠るところが大きいんだろうけど、これは大抵の本読みが悩まされる瞬間な気がする。
    やっぱり翻訳本は「原著に近づくためのせめてもの手がかり」って考えて読むのが適切かね。

  • フォークナーというと難解なイメージがありますが、この作品はわりと読みやすい方だと思います。
    ストーリーはかなり過激。ならず者ポパイが女子大生を陵辱し、売春宿に売り飛ばすという事件だけでもすごいですが、その事件の詳細もおぞましいし、さらにこの事件を知った街の人間たちの仕打ちもすごいです。
    アメリカの南部がどんなところか知りませんが、陰惨なストーリーが描かれる場合も多い場所です。
    フォークナー自身が「売れるために書いた」と言ってたらしく、通俗的というか出歯亀的な心理をつく内容ですが、最近の小説と違って暴力を回りくどくチラリズムで書いているので、そこが逆に怖いもの見たさな気分を高め、先が気になって読んでしまいます。
    登場人物のほとんどは人生に失敗しているので、読後感はどんより重いです。

  • 本を持った男と銃を持った男の出会い。

    世間知らずな若者が足を踏み入れたことにより、突如、崩壊する聖域。

    このうえなく厄介な事件に立ち向かうことになったホレス弁護士。

    真犯人を自らの口から告げることのできない不憫なグッドウィン夫妻。

    ひょんなことから運命の歯車が狂ってしまったテンプル嬢。

    そして、可哀相なやくざものポパイ。

    主軸となる人物の誰もが救われないが、

    圧倒的な描写で暴力的なストーリーを紡ぎだした見事な作品。

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