白い牙 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102111017

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  • 犬が4分の1混じった狼犬「白い牙」。最初は自然の中に暮らしていたが、やがて橇犬に、そして闘犬にさせられてしまう。その苦難がなんとも激烈で息苦しくなってくる。「野生の呼び声」がやはり橇犬からやがて大自然へと回帰していくのとは対照的だ、解放感と収束感ともとれる。

    同じカナダ北部を舞台にしながら、ちょっとした運命の岐路で大きく違ってくる人生(犬生!) 犬ではあるが犬それ自体を見る時は擬人化してみて、がんばれ、と応援している。ただやっぱり、人間は「神」、犬は命令する者が必要、といった記述からは、やっぱり我々は人間であって、いくら犬が主人公であれ、人間を通した犬人生しか描けないよなあ、という気がした。犬から見た橇引人や金鉱掘り人や、酒場に集うよたものたち、先住民たち、といった人間描写が鋭い。

    また犬橇の犬の引き方が扇形と直線型があり、扇形の先頭犬は後の犬から追われるという立場、直線型の先頭犬は後の犬をコントロールする役目があり主導犬。「白い牙」はとちらも経験するのだが、この違いがおもしろかった。「荒野の呼び声」では直線型しか出てこない。先頭の先導犬になることが、犬集団のリーダーになることで犬のプライドをここで描いていた。

    この「白い牙」も「荒野の呼び声」と同時期に読んだ気がしていたのだが、まったく内容は覚えていなかった。「白い牙」の方が人間社会への皮肉を感じた。「荒野の呼び声」は大自然へ帰る、と言う解放感の気持ちよさが勝っている。


    1906年発表
    1958.11.10発行 1982.9.20第31刷 図書館

  • 小学生で読んだ本。最後の方で内容を思い出した。犬との混血のオオカミの一生。生まれて以来の厳しい環境とオオカミの本能がキャラクターを築いていった。一部の人より厚い義。飼い主に左右される運命。人に関わる動物の悲哀。2020.9.6

  • (01)
    野生と人間との間にはいつも葛藤があって,それがこじれたり決裂したりすれば,殺し合いにもなる.人間が狼を見続けてきたように,狼もまた人間を見続けてきた.人が狼に畏敬の念を抱く可能性があるとすれば,狼もまた,人を神のように感じとる可能性も同時にありうる.
    しかし,本書は人間が書いたものであって,狼や犬が書いたものではない.よって,狼の眼を通して,異種の人間と神と同族の狼や犬を見て,その体験を綴った小説といえる.そこに描かれているのは,狼でありつつ,狼的な人間や,人間のうちにある野生であり,神は,人間でありつつ,人間のうちにある神とその世界(*02)でもある.
    白い牙,ことホワイト・ファングには野生が宿っているが,遠い犬の性質を通して,既に理性の芽生えがあり,その理性がいかに人間の手によって育成され,神に近づきうるかを,その半生と出生譚を通じて体現している.
    暴力もあり,恐怖もある.心の寛さがあり,魂の飢えもある.狼は言葉をもたないが,持たないがゆえの豊潤で野生的な感覚と応対がある.
    人間の魂が入ったような白い牙には,狼がのりうつったかのような著者の入魂を読み取ることができる.

    (02)
    狼はひたすらに純粋でもある.そのため,人間社会が奇妙に,さもしく,汚れた精神に彩られていることの対比が美しい.冒頭のヘンリの物語が,ぎりぎりの人間を,つまりは動物になり,肉になりつつある純粋な人間を現し,エピローグともいえる終盤の章では,それでも人間社会の希望を描こうとしている.

  • ジャック・ロンドン(白石佑光訳)『白い牙』新潮社、1958年(原著1906年)
     とても面白い動物小説である。著者のジャック・ロンドン(1876-1916)はサンフランシスコで生まれ、私生児として母にそだてられた。父親である占星術師には生涯認知されなかったそうである。母のフローラは再婚するが、地味な暮らしを嫌い、家運が傾き、あちこちと転居することになる。ジャックは新聞売り、缶詰工場などで働き、カキの密猟者、密猟者の取締り役人などをやり、アザラシ捕りの船に乗り込み、日本へきている。その後、工場労働者、石炭運びなどを転々とし、1894年、アメリカ・カナダの放浪の旅にでた。子どもの頃から読書に異常な情熱があったらしく、1895年、放浪からもどると、ハイスクールに通い、カリフォルニア大学に入ったが、学資がつづかず、中退する。学生時代はマルクスをよみ労働運動をやり、演説もしている。後年、マルクスをはなれ、スペンサーやニーチェに傾倒した。1897年にはアラスカのクロンダイクでゴールド・ラッシュが起こると、ジャックも北国へ冒険に旅立つ。一年後、無一文のまま、病気になって戻る。1899年から作品を書き始め、1903年、出世作『野生の呼び声』で一躍流行作家になった。1904年には通信員として日露戦争に従軍するため、来日したが、従軍を許されず、日本人への激しい憎悪を抱いて帰国する。1900年ごろ結婚し、離婚、そして再婚し、1907年から土地を買い落ちつく。妻や仲間と自分の船で南大西洋諸島をおとずれている。若いころからアル中であったが、放蕩と多作による過労、青年時代の貧困などがたたって、1916年、40歳で死去、モルヒネ自殺であったそうである。人気作家としての自己イメージに違和感があったといわれる。200編以上の短編を書き、売れっ子作家であったが、使うほうも豪快だったらしく、財産はのこらなかった。まあ、アメリカの「無頼派作家」である。
     「白い牙」はイヌとオオカミの間にうまれた「ホワイト・ファング」が主人公である。第一章は母イヌがオオカミたちと犬ぞりを襲う話である。一匹また一匹と頼りになるイヌがいなくなり、人間の仲間もくわれ、最後に残った男が自分の身体の精妙なつくりを惜しむシーンなどは、死と隣りあわせになった人間しか書けないような切迫感がある。第二章は、ホワイト・ファングが生まれ、荒野で他の動物と戦いながら、成長していく話である。第三章はネイティブ・アメリカンの「グレー・ビーヴァー」一家との共生を描く。第四章では、市場でグレー・ビーヴァーがアル中にさせられ、ビューティー・スミスにホワイト・ファングが売られる。ビューティーはホワイト・ファングを虐待し、闘犬として戦わせる。第五章は瀕死の状態だったホワイト・ファングがスコットに引き取られ、「愛」を覚え、カリフォルニアの屋敷で社会生活を覚える話である。
     この小説では、よくあるドラマやマンガのように、イヌがしゃべったりしない。しかし、イヌの視点から描かれていて、「掟」とか「愛」とかがイヌの視点から解釈される。文体も虚飾を廃して、ドライで簡潔、しかし、気高いのである。構成もイヌが学んだことから新しい環境に適応しており、無理なところがない。これは映像にしても面白くないだろう。「ホワイト・ファング」は、オオカミとしての気高さもあるが、とにかくガムシャラに生存にしがみつく、作中ほとんどが闘争であるが、ホワイト・ファングは、ただ「力」のみにたよるのでなく、すべての力、体力と知力、狡猾さもフル活用するのである。何より、どんなに環境が変わっても、生存のために適応していく姿には感動を覚える。

  • 冒頭から、アラスカの雪の平原でハラペコ狼にとりかこまれ、一匹一匹食べられていくソリ犬・・・ついには人間も・・・な展開でつかみからがっつり。狼好きのバイブル。「野生の呼び声」が飼い犬が狼化して自然に還る話ならこっちは逆で、狼がよい主人に出会い、な話だった。なでるぞ!なでられる!の攻防は食うか食われるか!並みにハラハラである。

  • 長年の積読だったが旅行を機に一気に読了。狼じゃないのによくここまで狼視点で書けるものだと感心しました。ジャックロンドン結構好きかもしれない

  • この一冊を読み終わる頃にはあなたも狼に!という謎のキャッチコピーをつけたくなるくらい、とにかく狼目線で語られる物語。翻訳作品なので、スッと入ってくるかというとそうではないのだが、こういう硬派な作品の場合はむしろそれが良いかもしれない。

  • ゴールドラッシュ時代の3/4オオカミのホワイト・ファング(白い牙)の生涯のお話です。

    弱肉強食の自然界の厳しさはともかく、当時の犬の扱い方や闘犬の描写など耐え難いものもありますが、生まれたての犬がどうやっていろいろなことを理解していく過程は非常に興味深いものでした。

    「自己放棄と服従と絶対の信頼の表現は、主人のため」という犬の主人愛は今と変わりませんが、人間の方は犬を力で支配するのが当然というのが根底にあるようです。

    それはともかくも、ラストはハッピーエンドでよかった。

  • 地球に生命が誕生して何億年もずっと食う食われるの弱肉強食が自然の摂理だった。
    人間が動物たちを飼い慣らすことに成功し、我々はピラミッドの頂点に君臨する神となった。
    思うままに動物や植物、自然を支配し、人間だけの都合で一体どれぐらいの尊い生命を振り回してきたんだろうか。
    野生の中で生きていく選択を取り上げられた動物たち。それは我々人間が人間の都合で行ってきたこと。恐怖での支配ではなく、愛情での信頼関係を築くことは最低限の義務。

  • 『白い牙』のあらすじ………

    1.1890年代、6頭曳きの犬橇でカナダ北西部を移動する二人組の男たち。飢えた狼の一群がそれを嗅ぎつけ、徐々に距離をつめながら犬橇に追いつく。狼のリーダーである牝狼は狡知に長け、夜間、犬を一匹ずつおびき出しては餌食にしていく。なすすべなく犬たちが消えていくことに業を煮やした男は、残る弾丸3発だけを込めた銃を頼りに無謀にも狼たちに立ち向かう。が、あっさりと返り討ちにあい八つ裂きにされて死ぬ。最後に残ったもうひとりの男はついに狼たちに取り囲まれ死を覚悟するも、すんでのところで駆けつけた人間たちに救われる。しかしそのときにはもう狼たちの影も形も消えてなくなっていた。

    2.狼たちの群れでは常々、副リーダーの実力者、片目の老伏兵、そして若い狼、この三匹のあいだで、リーダーの牝狼をめぐって恋の鞘当てが演じられてきた。しかしそんな小競り合いが激しさの度合いを増す中、ちょっとしたきっかけが原因で若い狼が残り二匹に襲撃され殺される。その直後、今度は油断した副リーダーが老伏兵に奇襲されて殺される。結果群れは牝狼と老伏兵の二匹だけになり、牝狼は旅の途中で6匹の仔狼を産む。何度かの飢饉を経て、仔狼は牡の一匹だけが生き残る。老伏兵は狩りの途中で出くわしたオオヤマネコと戦って殺される。逆に牝狼はオオヤマネコの子供を襲って食い殺す。オオヤマネコは狼の巣穴に決死の殴り込みをかけてくるが、牝狼と仔狼のタッグ攻撃の前に敗れ、冷たい荒野にそのむくろを晒す。

    3.牝狼と仔狼が人間の群れと遭遇する。人間たちは牝狼を”キチー”と呼んで出迎える。牝狼はそもそも人間が飼っていたウルフドッグだった。キチーも人間に向かって牙をむかずその手を舐め返す。こうしてキチーと仔狼は人間の集団の中で暮らすようになる。が、キチーはすぐに人間のひとりに引き取られ、カヌーに載せられて仔狼の元を去る。仔狼は人間によって”ホワイト・ファング”と名付けられる。ホワイト・ファングは人間の持つ不思議な能力に感心し畏敬の念を抱く。また反抗のあとに待っている容赦ない懲罰から、人間には絶対に逆らってはいけないことを思い知らされる。一方人間に飼われている犬たちとは一切うち解けようとしないばかりか、隙を狙って殺戮を繰り返し、全ての犬たちから死神と恐れられる。ホワイト・ファングは人間のひとり”グレー・ビーヴァ”の元で暮らすようになり、この男から人間の群れにおける掟を学び、彼に忠誠を誓うようになる。

    4.ホワイト・ファングはグレー・ビーヴァに連れられてアラスカ地方へ渡る。グレー・ビーヴァに教わった掟を忠実に守るホワイト・ファングだったが、旅の途中も、アラスカへ着いてからも、視界に入ってくる犬たちだけには我慢がならずチャンスがあれば躊躇なく襲いかかり咬み殺す。容姿ばかりか心の底まで醜悪な悪党、ビューティ・スミスはそんなホワイトファングに目を付け闘犬をやらせてひと儲けしようとたくらむ。グレー・ビーヴァは橇犬としても番犬としてもホワイト・ファングを大切にしてはいたがビューティ・スミスの奸計にはまり、アルコールに身を持ち崩してホワイト・ファングを手放す。ビューティ・スミスはホワイト・ファングを執拗に虐めぬき、憎悪を煽りたてたうえで犬たちと闘わせる。勝敗の結果はいうまでもないがそれでは賭け事にならないので、ホワイト・ファングの相手は複数の犬や狼、あるいはオオヤマネコなどと次第にエスカレートしていく。ある時の対戦相手は一匹のブルドッグだったがその敵の戦法というのが、ホワイトファングの胸元に噛みついたまま一時も放そうとせず、首の頸動脈を目がけてじりじりと牙をずらしていくというもの。ホワイト・ファングは初めて経験するこの戦法になすすべがなく初めての敗北すなわち死を意識する。しかしそこへたまたま犬橇に乗って通りがかった実業家ウィードン・スコットが割って入り、野蛮な闘犬を中止させる。ビューティ・スミスは食ってかかるが逆に打ちすえられ恥をかく。ウィードン・スコットは瀕死のホワイト・ファングを引き取り、犬橇に載せて走り去る。闘犬に明け暮れていたホワイト・ファングは四六時中神経が張り詰めており、頭を不用意に触ってきたウィードン・スコットの手に反射的に咬みつく。しかしウィードン・スコットはこん棒による懲罰を加えてこず、ホワイトファングはそれに言いようのない違和感を感じる。そんなことを繰り返すうち、ホワイトファングは生まれて初めて温かい気持ちをウィードン・スコットに対して感じるようになる。ウィードン・スコットの方もホワイト・ファングの賢さ、橇犬のリーダーとしての資質、番犬としての優秀さに目を見張る。そんな中、ウィードン・スコットの屋敷に忍び込んだ不審者がホワイトファングによって撃退される。腕に受けた咬傷から血をボタボタと垂らすその男は、ホワイトファングを取り返そうと盗みに入ったビューティ・スミスで、またもや大恥をさらしてウィードン・スコットの前から退散することになる。

    5.ホワイト・ファングは暴力に支えられた掟によってではなく、心からの愛情をもって、威厳高く忠実にウィードン・スコットに仕えるようになる。屋敷のルールも理解し、スコット家の家族、使用人、家畜に対する接し方を学ぶ。屋敷の犬たちにももう不必要にこちらから手出ししたりはしない。ただし、牝犬のコリーだけは過剰にホワイト・ファングに突っかかってくるので、閉口している。ある時ウィードン・スコットが仕事で長期にわたって家を空けることになる。心の支えをうしなったホワイト・ファングは食べものも喉を通らなくなり衰弱する。が、ウィードン・スコットが久々に帰宅するやいなやホワイト・ファングは我に返り、悠揚迫らざる態度で主人を出迎える。こうしてウィードン・スコットとホワイト・ファングはお互いの心の絆を再確認しあう。ウィードン・スコットが馬で遠出したとき落馬して骨折するが、そばで仕えるホワイト・ファングがさっそく屋敷に駆けもどり家族に異変を知らせて事なきを得る。こんなことから、初めはホワイト・ファングを怖がっていたスコット家の家族たちもだんだんと信頼を寄せるようになる。ある日、矯正不可能な凶悪犯ジム・ホールが刑務所から脱獄する。ウィードン・スコットの父親スコット判事はかつて正当な裁判によりジム・ホールを有罪と判決したことがあるのだが、そもそもジム・ホールが犯した犯罪行為は部分的に警察によるでっちあげが含まれていて、ジム・ホールは逆恨みしてスコット判事への復讐に燃えていた。深夜、ホワイト・ファングは屋敷への侵入者に気付き追尾、すぐに侵入者との格闘になるが、戦いは一瞬にして終わる。大きな物音にスコット家の家族は異変を知って起きだすが、彼らが広間に見たものは喉を咬みきられ絶命したジム・ホールと、虫の息で横たわるホワイト・ファングだった。ホワイト・ファングはろっ骨が折れて肺に突き刺さっているのみならず、拳銃で3発撃ちぬかれていた。急いで連れてこられた獣医曰く、助かる見込みは万に一つもない、と。しかし、何週間も生死の間をさまよった末、ホワイト・ファングは奇跡的に生還する。スコット家は総出でホワイト・ファングを英雄として出迎え歓待する。その中にはコリーとの間にできた6匹の子犬たちも含まれていた。
    ………おしまい

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著者プロフィール

ジャック・ロンドン(Jack London):1876年、サンフランシスコ生まれ。1916年没。工場労働者、船員、ホーボーなどを経て、1903年に『野生の呼び声』で一躍人気作家に。「短篇の名手」として知られ、小説やルポルタージュなど多くの作品を残した。邦訳に『白い牙』『どん底の人びと』『マーティン・イーデン』『火を熾す』『犬物語』などがある。

「2024年 『ザ・ロード アメリカ放浪記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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