転落・追放と王国 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102114100

作品紹介・あらすじ

パリでの弁護士生活を捨て、暗い運河の町・アムステルダムに堕ちてきた男、クラマンス。彼の告白を通して、現代における「裁き」の是非を問う、『異邦人』『ペスト』に続くカミュ第三の小説『転落』。不条理な現実、孤独と連帯といったテーマを扱った六篇の物語からなる、最初で最後の短篇集『追放と王国』。なおも鋭利な現代性を孕む、カミュ晩年の二作を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は『異邦人』『ペスト』に続く第三の小説と聞いて、手に取った。

    実際に読んでみると、すごく読みにくいと感じた。『ペスト』並に読みにくい印象。

    訳が悪いというよりは、カミュの表現が難しいのかも知れない。

    (解説は秀逸なものであった。)

    『転落』は「裁き手にして改悛者」と称するパリ出身の元弁護士が(読者の私たちに語りかけている様に)一人称で語られている。

    “転落”する前の彼(クレマンス)は正義感に溢れた人望のある弁護士であった。

    その弁護士が長い自己探求の後に、人間の奥底に潜む二重性を明らかにした。

    そこから彼は、こうあるべき自分に耐えきれなくなり、社会的に“転落”していく。

    享楽と転落の生活とともに、「神と罪の関係」「無私の境地」「人の二重性」「放蕩と拷問」「所有とは殺人であるという自論」など、彼の思いを告白していく。

    中でも“人間の犯す殺人には幾つもの理由がある。反対に人間が生きているのを正当化するなんてことは出来っこない”P.122

    という言葉にはぞっとした。自分が生きていることを正当化することが出来ないことがどれだけ恐ろしいことか。

    以上の数多くの告白は著者のカミュの思い(思想)でもあると思う。

    『追放と王国』は不条理な現実、孤独と連帯といったテーマを扱った六篇『不貞』『背教者』『唖者』『客』『ヨナ』『生い出ずる石』の物語からなる短編集。カミュの最初で最後の短篇集だそうだ。

    『不貞』は初めに「フランシーヌに」と書かれてあるので妻へ捧げる短編だったのであろう。本短編は情景描写が恐ろしいほど素晴らしい。砂嵐が吹き荒れるアラビア人のオアシスに、商売のために訪れた夫と気が進まぬまま一緒についてきた妻の話だ。現地の人々の様子、ホテルの上から眺める景色の表現は実に素晴らしいものであった。この景色は妻にある感情を強く与えることになる。その後の妻の行動からも目が離せなかった。

    『背教者』は宗教の色が強い作品であった。内容は未開の地へ布教に赴いた若い僧の話である。その土地で捕らえられた時の出来事や心境の変化を、鮮やかな情景描写とともに書かれている。特に太陽の描写が絶対の権力と結びつけて語られている点は、「さすがカミュ」と心の中で呟いてしまった。

    『唖者』は小さな工場に働く労働者の話である。労働者と使用者の関係性、そして人間の不幸に対する憐れみの心には心が惹かれた。

    『客』は本短編集の中で1番読みやすい印象。雪に閉ざされた高原の学校に住む教師の元へ、ある“客”がやってくる。それは老憲兵と縄で縛られたアラビア人だ。老憲兵は村の役場へ捕虜を連れていけと命令するが教師は断る。老憲兵は捕虜を学校へ置いていき、立ち去る。教師と捕虜の交流、そして教師の取った行動とは。最後に黒板に残された文字の書き手は明かされていないが、おそらく教師が自分で書いたものであると私は思う。(P.259,4行目に書かれていることが裏付け?) カミュの真意は明かされぬままになっている。

    『ヨナ』は腕のいい画家である。家族や友人にも恵まれている。仕事も成功し、たくさんの人に囲まれた生活に満足していたが、いつの間にか、仕事はだんだん減っていった。その中で「ヨナ」は何を感じ、なぜ倒れたのか。白いキャンバスに残された細く小さな文字は“孤独”と読むのか“連帯”と読むのか。もはやどちらとも取れるような内容であった。

    『生い出ずる石』は森林地帯が背景の話。実際にカミュがブラジルを訪れた際に記した『旅日記』を基に書かれたそうだ。砂漠や街の話が多かった中、本短編のみが森林地帯が背景である。フランスから派遣されたダムの建設技師(ダラスト)とブラジル人の物語。その土地に伝わる伝説(昔、漁師が川を遡って来たイエス・キリストの像を見つけ、その像を洞窟で洗ったところ、その日以降洞窟に石が生えるようになったという伝説)を聞いたダラスト。その土地で仲良くなったコック。ダラストとコックの関係性。見どころが多い。聖ジョルジュを讃える宗教の儀式の描写は圧巻であった。こちらまで失神しそうになった。

    今回、短編が多い中、それぞれの話が濃密であった。すごく考えさせられ、読むのに時間がかかった。

    また、時間をとってゆっくりとカミュの思想に触れていきたいと思った。

  • 噛み応えのある一冊。「転落」。孤独な寒々しい話だった。友だちや恋人がいればあんな風に呪いをかけ続ける人にならずにすんだのでは、と反射的に思ってしまうけれど、人間関係は作ろうとすれば作れるというものでもない。

    短編集の「追放と王国」は、どれもどこかから追い出されてしまった人の話。最も印象が強かったのは「背教者」。苛烈で幻想的で美しい。最初から最後まで純粋にむごたらしくて、結晶の美しさがあった。「ヨナ」は他者を受け入れ続けて自分を損なってしまう人の話。求められるのはたしかに幸せなことで、ときとして麻薬的でさえあるけれど。

  • 「転落」難解だけど読む価値がある。

  • 客 が一番すき。
    伝わらない善意、それがどこまで行っても善意でありそれもまた、示し合わせの上にあるということ、そして人間はどこまで行っても人間で、その暴力性や理解しがたさも、’人間'という言葉でひとくくりに、理解しえてしまうこと多義性というよりも、その環境下であらゆるかたちに変化?順応?していく生き物としてのうーん、ずる賢さ?狡猾さ?を、それと意識せず体得している それを上から眺める(便宜上この言葉で表現します)箱庭感、というのか、心情がビシビシに伝わってくる劇、お芝居、舞台をみているようだ

    涙するまで生きるも観た。アンサーと、願望がないまぜになった映画。わたしはとても好き.
    やるせなさのなかに、人生、それでも生きるという強さというか、諦めのような、それでも人を信じる、信じ合いたいという願望や願い、こうだったらよかったなぜこうならない不条理や解決不可能性が、訥々と、紡がれる カミュは良い

  • 転落とその他短編がいくつか載っているが、転落のみを読む。多分読むのは二回目。

    上流階級にいた人が、人生のむなしさを感じ、自らの意思で浮浪者のような暮らしをする。というのがそもそもの粗筋かな。

    粗筋からして低俗な感じは受けるが、結局それがカミュの魅力なのかもしれない。
    カミュの場合は、人間の暮らしに近いところを書いていて、人間とは何かとか正義とは何かとか、にはあんまり近寄らない。だからこそ、悩んでいるときや青春時代に読むと感動するのではないかと思った。

  • すごく読みづらかった。けっして面白くないとかしょぼい作品だとは感じなかったので、カミュとは相性良くないのかもしれない。読んでいるとなんだかすごく息が詰まるのです。

  • おそらく翻訳のせいではなく、カミュの文体そのもののわかりにくさではないかと想像されるが、その独特の比喩や直感的な表現も相俟って、なかなかすらすらとは読める小説群ではなかった。

  • むずい。

  • 今まで読んできたカミュ作品のなかで断トツ読みにくい。しんどい。聖書の知識がないと歯が立たない。『転落』はまだ話し言葉で書かれているのでテンポがあって読めるけど、『追放〜』は読める短編読めない短編差がありすぎた。それでも読めた短編の中では「客」「ヨナ」が好き。

    ブクログ見たらこの本2013年くらいに読み終わったことになってるんだけど全く記憶がない絶対なにかと勘違いしてる。学生時代に読んだ誰かのカミュ論で「不貞」が取り上げられてたことだけなんとなく覚えてる。私が読むカミュ論なら野崎歓先生とかそのへんの人しか思い浮かばないけど…

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