ブラームスはお好き (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102118047

感想・レビュー・書評

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  • 39歳になったポールはかつて優しく金持ちの夫を捨て、ひとりの女性として自立していく道を選んだ。
    いまの恋人は歳上で、ちょっとがさつでよく浮気もするロジェだ。
    ポールはそんなロジェに諦めもしながら離れられないでいた。
    そんなとき、デザイナーの仕事先で15歳若いシモンと出会う。
    シモンのポールに対する熱烈な求愛が始まった。
    果たしてポールの選択とは…。
    ちなみに本書の題は、シモンがポールに初めてデートに誘った言葉です。

    サガンです。
    かつて新潮文庫ではたくさん彼女の著作が出版されていたと思いますが、いまとなっては『悲しみよ こんにちは』と本書の2冊だけのようですね…。
    時代にそぐわなくなったんですかね。?
    本書はサガンの4番目の著作とのことでしたが、残っている理由が気になりますね。(笑)
    個人的に言えば本書のような女性の心の移り変わりには付いていけませんでした…。
    やはりパリの時代の風潮なのかなあ。
    表紙はサガンの本とよくコラボ?されていたベルナール・ビュッフェの絵です。
    サガンとともにベルナール・ビュッフェの表紙絵も消えていく…。

    ところで本書の展開はサガンの願望ではないでしょうか。(笑)
    女一人で自立して、夫を捨て、いままた15歳若い美貌の青年に見初められる。そしてあっちの方も…。
    まさに1960年代満開ですね!
    1960年代のフランスの雰囲気が堪能できる作品です。

  •  美貌で金もある夫との生活を捨て、自らの幸せのために仕事を持ち独立もした39歳の主人公ポールが、ロジェという自分より少し年上の浮気性な恋人と仕事先で出会った若く美しい自分に献身的に尽くしてくれるシモンとの恋愛の中で揺れる物語。
     心情描写が非常に細かくリアルに感じられ、主人公が最後にする一見すると理解が難しいような選択でもすんなりと気持ちに寄り添えたことに驚いた。恋愛を幸せなものだけとして描いておらず、その時の状況やその日の感情によっても微妙に変わるところが表現されていたり、会えていない時に会いたいと思い続けていてもいざ実際に会うときに想像よりも普通な相手に気持ちが少し冷静になってしまったり、自分たちの間では何の問題もない事柄でも周囲の陰口一つで気にかかるようになるとなるところなど自分のことと照らし合わせて非常に親近感が湧いた。全体として、人の孤独や気持ちの身勝手さを描いていて途中で文体が少し変わるところもそういうことを意味しているのかなと思った。
     個人的には、シモンがポールに振り回された時にシモンは少し冷めれしまうがポールは振り回した結果に満足していたという状況からの一連の車の中での描写、お互いにお互いのことを理解する描写とポールの仕事帰りに迎えに来たシモンの会えない時の虚無感や会った瞬間の戸惑いや抱き合った時の解放感を表現した描写がとても好きだった。
     時々ではあるが、冗談や話の受け答えに違和感があるところがあり、フランス語の知識がないことが残念だった。またシモンとロジェが会ってから一気に話が面白くなり、仕方ない部分もあるがそれまでは冗長な印象を受けた。
     作中で「ブラームスはお好き?」という問い掛けが二回それぞれシモンとロジェから行われる。シモンは一途にデートの誘い文句として言い、ロジェはからかうような調子で言った。これは最初から最後まで変わらない二人の性格をよく表していると思う。作中、ポールは自分は幸せになるためにこれまで様々な選択をしてきた、と語るシーンがある。結果だけを見ればポールの状況は物語の最初と最後で変わらないままであった。幸せとは何かと考えさせられた。4.5。

  • コンサートホールの喫煙所で、葉月は蛹を見つけた。まだ待ち合わせの時刻まで少しある。時間を潰しているのだろう。
    彼は、明るいブラウンのスーツを着て、ちゃんとネクタイまで締めていた。煙草はいつもの細いメンソールではなく、フィリップモリスだった。
    余所行き、の、格好だ。
    外見などほとんど気にせずに生きている蛹にこういうことを教えたのは、蛹や葉月よりもいくらか年上の、共通の知り合いの男性で、今夜のコンサートのチケットを譲ってくれたのもその人だった。

    「すごいね、そのドレス」
    蛹は葉月の姿を見つけるなり、真っ正直に感想を述べた。
    「結婚式でもなければ着ませんけどね。箪笥のコヤシですよ。コヤシ」
    ダークレッドのワンピースだ。アクセサリーは雑貨屋で千円そこそこで買ったものだけれど、蛹にはそんなことはたぶんどうでもいいだろう。
    「ブラームス、好きなの?」
    聞かれて、葉月は少し首を傾げた。
    「好き嫌い以前に、ぶっちゃけよく知りません」
    それはいい、と蛹は笑った。

    「そういえば、そんなお話ありましたね」
    「『ブラームスはお好き?』」
    そうそれ、と葉月は頷く。
    「なんか、煮えきらないラブストーリーっていうか、煮えきって焦げ付いちゃったラブストーリーっていうか」
    「まあ、お互いを見ていない感はあるね」
    「愛してるとか愛されてるとか、うっわーなこと言い合ってるわりに、人間としての中身は全然見てないし、あげくに世間体とか気にするし」
    蛹は、笑った。
    「でも俺はね、他人事だから言うけれど、とても素敵なことだと思うよ」
    煙草を灰皿で揉み消し、手に付いた灰を軽く払う。
    「どの辺がですか?」
    「うんと年上の女性に激しく恋をして、そうして、それがああいう結末になるということがね」
    「あー……」
    ちょうどそのときに、開演まで間もないことを告げる放送が入って、二人は連れ立って客席に向かった。

  • サガンが好きなのは出てくる女性が恋愛にのめりこもうとしないから。恋にのめり込みそうな自分を恥ずかしいと思う奥ゆかしさがあるから。
    そういうのをちゃんと学んでようやく、夢見る女性は長く安定した付き合いができるんだと思うな。

  • サガンの四番目の長編。ブックオフで¥105だった。
    主な登場人物はたった三人なのに、これほどの作品にできるサガンの心理描写はすばらしい。それほどにひとが誰かに恋をし、誰かを愛することは複雑でたくさんのドラマが含まれている。そのくせきっかけはとても単純で、はまってしまえばあっという間に堕ちてゆく。
    過ぎ去った美しい時が今を生きるひとに揺さぶりをかけるつらさ、大切な何かを失う悲しさ、冷たい夜の孤独から来る寂しさ。サガンの手によって純化されたそれらは、苦しいことなのにどうしてか美しい。
    幸福も悲しみも、ずっとそこにあり続けるのではなく、いつかどこかへいってしまう去りゆくもの。だけど、心はそれらをいつまでも消せない。だからこそ、ひとはもう一度立ち上がり、歩き続けようとする。

  • 最後の展開が意外でした。あのままシモンと結ばれると思っていたんですが。


    年の差を気にする云々よりも相手が自分の一部かどうか、という点が最後の分かれ目だったと感じました。「かれら」「私たち」にシモンが入っていない…。全てがそこに集約しているようです。

  • 読んでる間中、すごい、と思っていた。
    なにかとてつもないことはまったく起きないけれど、男女の感情がこんなに揺れ動いている様がずっとずっと味わえるのは本当にすごい。
    だれも死なないのに、心が引き裂かれそうに悲しくなったり、寂しくなったり諦めたり、依存したり、そんな心模様が心理描写だけでなくて行動やちょっとした眼差しにもありありと描かれている。
    男と女の身勝手さや感覚の違いがこんなにもわかりやすく確実に描かれてることって他にあるんだろうか。しかもまったく嫌味たらしくなくてありのままの姿が見えてくる気がするのがすごい。
    とにかくすごいものを読んだ気持ちでいっぱい。

  • シモンかわいそうと思いつつ、完全にポールを咎めることもしきれない私はシモンと同じ今年25歳

  • いつか読むだろうと買っておいた本。何の期待もせずに手にとると、数ページ読みすすめただけで一気に世界に引き込まれる。サガンやおそるべし。男女の恋愛の心理描写が的確で、胸を打たれる。もっと読んでみたいサガン。

  • サガンは2作目。悲しみよ~は少女の小説だったけど、こちらは変わって30代後半の女性の話。
    これは確か紀伊国屋書店の年齢別オススメ本フェアで見つけたのだよな。本店の二つの階段に、1歳から80歳までへのオススメの本が示してあると言う。こういう手の込んだフェアは好きよ。
    んで、この本はたしか25歳にオススメされていて。あぁ、読まねば!と思って 買ったのだ。25歳というのは主人公が一度目の結婚の幸福を「皮肉に感じた」ことのある年で(おそらくその後離婚と自立を決意する)、また39才の主人公を熱烈に愛するシモンという美青年の年齢でもある。
    僕は25を過ぎてちったぁ分別もつくようになってきたなぁ!なんて思っていたけど、「これから先も悩み苦しむことは死ぬほどあるんだろうなぁ」なんて考えてみればあったりまえなことを思ってしまって。僕の目の前に立ちはだかる人生というやつが改めて疎ましくそして楽しみになるようなお話でした。

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著者プロフィール

1935‐2004。フランス、カジャルク生れ。19歳の夏、デビュー小説『悲しみよこんにちは』が批評家賞を受け、一躍時代の寵児となる。『ブラームスはお好き』『夏に抱かれて』等、話題作を次々に発表した。

「2021年 『打ちのめされた心は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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