人間の土地 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102122020

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んだ「夜間飛行」に感銘をうけたため、こちらも読むしかない!ということで…

    まだインフラが整っていない時代、夜間の郵便飛行業が命がけだったころ、職業飛行家として生きた15年間の豊富な体験の思い出を8編にした「星の王子さま」のサン=テグジュペリのエッセイである
    飛行家としての命がけの劇的な体験や、勇敢で誇り高い僚友たちのこと、そして自然とは、人間とは…
    きわめて詩的で哲学観(感)満載の書である

    通勤電車で読める本ではなかった…
    ふ…深い!ある意味哲学書である
    言葉を何度も噛みしめながら脳と心を働かせないとなかなか創造と理解が進まない
    結局連続して2回読んでみた(まだ完全には理解できていないが…)

    ちなみに「夜間飛行」もこちらも表紙の絵は宮崎駿氏である
    宮崎氏は20歳の頃、サン=テグジュペリや同時代の飛行士達に憧れを持ち、60歳頃にしても、一番影響された…と言う
    改めて「紅の豚」「風立ちぬ」を観てみたい
    違った目線で何か気づくことが出てくる気がする

    早速だが冒頭がいきなりこれだ↓
    〜ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える
    理由は、大地が人間に対抗するがためだ〜
    タイトルとこの文章だけで、何分も思考をめぐらせてしまう…
    サンテックスの頭の中はどうなっていたのだろうと毎度感心してしまう
    何かに達観しているような仙人さを感じる

    【彼らの功績と偉大さのわかる一部を3編に渡り紹介】

    ■メルモス編
    サハラ砂漠を乗り越える橋をかけた実績のある僚友メルモス
    今度は南米の空路調査
    与えられた飛行機は上昇限度5200メートル
    しかしアンデス山中の高峰は7000メートルに達する
    砂漠を克服したら、山に挑むのだ
    「ためしに」…である
    そういう職業である
    さらには空港に照明設備がない中、夜間着陸し、夜間航空を開発
    そして次は海洋
    このおかげで郵便物のスピードが飛躍的にアップ
    〜このようにメルモスは、砂漠を、山岳を、夜間を、海洋を開発した
    彼は一度ならず砂の中、山の中、夜の中、海の中に落ちこんだ しかも彼が帰ってくるのは、いつも決まってふたたび出発するがためだった〜

    ■ギヨメ編
    冬のアンデス山脈横断の途中(そう先ほどの7000メートルの高峰の山岳地帯である)
    7日間の行方不明
    機体の下に潜り込んで、暴風と雪から身を守るため、郵便物で身を囲み48時間待ってみた
    暴風がおさまり、彼は歩き出した
    5日間
    ピッケルもザイルも食糧ももたず…である
    ~ぼくは断言する、ぼくがしたことはどんな動物でもなしえなかったはずだ~
    サンテックはこれをもっとも高貴なギヨメの言葉とし、この極限下で生還することについて、下記のように述べる
    ~自分に対する責任、郵便物に対する、待っている僚友たち、家族………
    生きているあいだに新たに建設されつつあるものに対して責任があった
    さらには彼の職務の範囲内で、彼は多少とも人類の運命に責任があった……中略……
    人間であることは自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ
    人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じることだ~

    ■サンテックス編
    砂漠の真ん中での不時着
    ~ぼくはすでにもう、この明らかな事実を知っていた、耐えがたいものなんか一つもありはしないと
    死を前の煩悶は感じないらしい ただ忍びがたい何ものかがあるのだ~
    水分がなくなった
    布切で機翼を拭いた夜露と塗料と油の混ざった液体を飲む
    拳銃があることを確認する(だが、「それがどうした」と思う)
    この極限状態の中何時間も歩き続ける
    疲労、妄想…とうとう幻覚が見え出す
    ここでは19時間、人は水なしで生きられる(生きられない)
    ~助からぬものと信じていた 絶望のどん底に達したと信じていた
    ところが、一度あきらめてしまうと、ぼくは平和を知った
    危急存亡の時機に人は己の真の姿を見いだし、また自分自身の友になるものらしい
    何ともしれないある本質的な欲求を満たしてくれるあの充実感には、何ものもまざりえまい
    首まで砂に埋もれ、じわじわと、渇きに喉を締めつけられながら、あの星の外套の下で、あんなに心が暖かかった時のことをどうして忘れられよう…~

    究極の精神と究極の魂の神々しさを感じる
    (自分が苦しみと絶望の極限状態でこのように達観できるだろうか…)
    そしてどんな場合でさえも、美しい詩となり表現される

    他にも
    砂漠についてや、あるおとぎ話のような家と娘たちの出会い、様々なモール人、モール人の奴隷解放…
    他では聞いたことのない出会いや出来事が興味深い
    サンテックスの筆にかかるとまるでSFのようだ

    あらゆる場面にサンテックの哲学が散りばめられている
    自然の脅威と美しさ
    人間の本質、生物の誕生と死
    宇宙
    飛行機の光と影
    職務
    友情
    そして情景描写の詩的な美しさを常に感じる

    一読、二読ではもったいない
    究極に精神に届く書である

    (稚拙な言葉しか出ないのだが…本当にすごい人物である)

  • 「人生を狂わす名著50」で紹介されていたので、読んでみた。サン・テグジュペリと言えば、言わずとしれた「星の王子さま」の作者。彼が書く他の本も、ぜひ読んでみたかった。

    本書は、飛行機乗りであった筆者の自伝のようなお話。さらに自身の体験を元にした、エッセイ的な内容を含む。

    翻訳は悪くない。とても自然な日本語で、読みにくいところはあまりなかった。むしろ、各所に散りばめられた、それこそ星の瞬きのような至言は、日本語としても美しかった。

    内容はと言えば、正直に言うと前半は退屈な部分もあった。よく言えば、静かで味わい深い語り口、とも言えるかもしれない。単純に、自分の好みと合わなかったのかもしれない。

    しかし、後半。筆者が砂漠で遭難するパートはのめり込むものがあった。遭難し、生死の境をさまよった筆者。彼が最後にどうなるのか、その部分の描写はとても引き込まれた。

    本書が教えてくれるのは、まず自然について。都市に住んでいると忘れてしまうけれど、自然は本来人間に優しくない。というより、人間の都合の良いように、その姿を変えてはくれない。しかし、有史以来の不断の努力によって、僕らは水・天候・食物と向き合ってきた。そんな当たり前の事実を思い出させてくれる。

    また、過酷な自然と向き合う中で、筆者は人間の、そして生きるということの真実を見つける。

    死を肯定的に捉えるのは、自分も同意する部分がある。本書の終盤で語られる内容は、とても面白かった。サン・テグジュペリの至言が詰まった一冊。

    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E9%81%8E%E9%85%B7%E3%81%AA%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%A7%E3%80%81%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%E7%9C%9F%E5%AE%9F%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%86_

  • “紅の豚“に出てくるような飛行機の時代、フランスから南米までの郵便機での飛行。吹き曝しの操縦席で、何時間も羅針盤と自分の感覚を頼りに操縦する。その職人技に驚かされた。1939年にこれだけ素晴らしい本が発行されても、どこかで戦争が行われている…。

  • 凄かった。サン=テグジュペリの表現力にただただ感銘を受けました。彼のこの感性を培ったのもまた、大地だったのでしょう。
    人間らしい生き方の一つの正解を教えてくれた一冊でした。数年後に再読したいと思います。

  • 「夜間飛行」の世界観が好きで手に取ったのですが、
    これが実話というなら、なんと生きていたことの奇跡か。

    1〜7章までのエピソードが締めくくられる8章は、
    印象的な言葉の数々。

    ・どうやら、あのような危急存亡の時期に、人は己れの
    真の姿を見いだし、また自分自身の共になるものらしい
    ・麦を見分ける術を知っているのは、土地なのだ
    ・愛とはお互い見つめ合うことではなく、共に同じ方向を
    見つめること
    ・精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる

    comfortable zoneにいる限り、
    人は自分の本然を土の中に埋まらせたまま、
    力を持て余したままだ、というメッセージ。

    力を解放するには、新しいチャンス、適材適所、危機的に追い詰められた状況という条件が必要。

    人生を、同じ方向をみて、同じように力を出し合って走る
    仲間が出来れば、それ程幸せなことなんてない。
    現代でも通じる、人間の話ですね。
    自分の職業、職場環境について考えている時分、
    余計に刺さりました。

    また読み直したい。

  • 読むのに時間がかかった。よく噛み砕けなかった部分も多々ある。それでも読んでよかった、また読んで理解を深めたいと思う内容だった。

    この中に出てくるエピソードは、この時代にしか見聞きできないであろう体験と、人間そのものの意味という普遍的な疑問みたいなものの2種類が織り交ぜてある。
    6章「砂漠で」の中の奴隷のおじいさんの話、最後の8章「人間」の中でフランスを追われたポーランド人たちの話は特に感動した。光文社古典新訳文庫のものも読んでみたい。

  • 新潮版「人間の土地」はもちろん名著と言われる言葉の厚みだけれども、文末の解説の宮崎駿の文章が素晴らしい。風立ちぬで語った戦闘機への偏愛と徹底した反戦の姿勢の矛盾について、この時点ですでにしっかりと答えを書いている。これを読むだけでも価値があると思う。

  • 『星の王子さま』で有名なサン=テグジュペリのエッセイ。飛行士としての経験と、そこから考察した人間観が語られる。

    星の王子さまを読んで、サン=テグジュペリって何て素敵な表現をする詩人なんだろうと思ったけど、これを読んで印象がガラッと変わった。行動力と精神力がとてつもなく高い冒険家で、洞察力に優れた哲学者なんだなと。

    幾つかのエピソードが描かれていて、全体として「人間として気高く生き、世界に対して責任を持つこと」の重要さが語られているのだけど、奴隷のエピソードはすごい心に残ったなぁ…どれだけ過酷な環境でも人間としての尊厳を失わず生きるという話なんだけど、『夜と霧』みたいな印象。

    あと、「愛するということは向かい合うことではなく、同じ方向を向くことだ」ってこの本の言葉だったのね。。しかも恋愛関連の名言かと思ったら全然ちゃうやんけ。「これは知っておきたい!恋愛に関する名言10」みたいなネイバーにありがちなチープなまとめ記事によく載ってたから騙されちまったぜ…

    表紙が宮崎駿ってのも良いね。あとがきも宮崎駿が書いているけど、これを読むと駿が「風立ちぬ」をどれだけ作りたかったのかがよく分かります。

    ただ、すごくすごくいい作品だというのは分かるのだけれど、如何せん文章が読みにくい…これくらい固い文体の方が格調高くて良いというのも分かるのだけれど。。。

  • 文章が難解な為何度も読み直しました。
    それでも50%も理解しきれないかったと思います。

    ラストの文章について
    "精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は作られる。"

    私は、

    "人間であるということは、生きる意味見定め、世界との繋がりを実感すること"

    と解釈しました。

    また、違う環境で読んでみたいたいなと思います。

  • (01)
    それでも地上の物語である。著者は体験を足がかりにし、体験の物語性を語り、その物語についての思索がまとめられている。飛行機乗り、操縦士である著者が、飛行中の体験を語ったのではないところに、本書の糸口がある。
    もちろん、おそらく本書の白眉となる第7章「砂漠のまん中で」の序盤では、同僚プレヴォーとの飛行と墜落が描かれる。その操縦室での経緯は、計器類や機体の状態、そして飛行機の窓越しにわずかにみえる闇の中の光明との対話や格闘の記録でもある。あるいは、第1章「定期航空」でも視界から閉ざされた空での体験が描かれ、第4章「飛行機と地球」では、唯一、美しい航空写真のような地上の風景(*02)が語られる。
    飛行機は人間を閉じ込める。操縦士には自由な空間は与えられておらず、操縦に拘束される。もちろん、束の間の地上の楽園がたまたま視界に入ることはあっても、その操縦室に人間の土地は皆無といってよいだろう。地上から見れば、自由そのもののようである飛行機とその軌跡には、地獄を逆転したような地獄が機体の中に渦巻いている。本書の逆説は、そうした非地上や非日常の体験を糸口として、地上を語ったところにある。

    (02)
    楽園を掘る勇者としての園丁が語られる。終章では、地上をゆく列車に揺さぶられる家族や人々を描き、彼女ら彼らの寝返りや浅い眠りを気遣っている。ここには近代が炙り出した無知や本然が見えている。熟睡や無知や本然のままに、土地に帰順できないものたちの姿があり、地上から切り取られ、揺さぶられる生があり、それは達観した操縦士の立場も同様である。
    砂漠(*03)にある死の予感は本然を促す。奴隷にとっての自由とそうではない操縦士らの近代的な自由が対比され、南米の家族にあった二人の少女や園丁のたたずまいや、家に綴られ続けられる系譜が人間の土地を可能にすることを告げている。

    (03)
    砂漠の鉱物的な輝きと魅力が語られる。20世紀前半の地理感に捉えられた砂漠は、ただ茫漠として何もない土地ではない。飛行機の着地を救う土地として、寒暖差があり乾燥が酷く人間を受け付けない土地として、大空に見合い、宇宙に向き合うことのできる土地として、未来的な描写がなされている。

著者プロフィール

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。1900年6月29日、フランスのリヨン生まれ。
幼少の頃より飛行士に憧れてその職につく。飛行士と兼業して、飛行士の体験をもとに『南方郵便機』、『夜間飛行』などを発表。
第二次世界大戦中、亡命先のニューヨークにて『星の王子さま』を執筆し、1943年に出版。同年軍に復帰し、翌1944年7月31日地中海コルシカ島から偵察飛行に飛び立ったまま、消息を絶つ。
その行方は永らく不明とされていたが、1998年地中海のマルセイユ沖にあるリュウ島近くの海域でサン=テグジュペリのブレスレットが発見される。飛行機の残骸も確認されて2003年に引き上げられ、サン=テグジュペリの搭乗機であると最終確認された。

サン=テグジュペリの作品

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