町でいちばんの美女 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102129111

感想・レビュー・書評

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  • オブラートに包まず、その時々の感情を素のまま出しまくった自伝的短編集…と言ってしまってはつまらない。セックスと酒と暴力にまみれた自伝的短編集、と表現した方がこの本はふさわしい。でも、読後に吐き気をもよおすかと言うと、決してそんなことはない。
    その理由は二つ。ひとつは、収められた30の短編がそれぞれ違う顔を見せていること。私小説だったり、文学的だったり、ファンタジーだったり、30編の持つ顔がそれぞれ違っている。だから、吐き気もなく、飽きることもなく、最後まで読み通すことに苦味は感じない。
    もうひとつは、そこはかとない悲しみがこの短編集を貫いていること。それも、心の奥底に黒く重く沈んだように、簡単には取り出すことができない悲しみ。これを感じてしまったら、多少のセックスや酒や暴力も大目に見てやろうか、と言う気にもなる(と言ったら、少し言い過ぎか)。
    そして、本書で忘れてならないのは「訳するにあたって二、三のこと」と題した秀逸な訳者あとがき。本書では、この訳者あとがきを読んでから本編に入るのが正解。

  • 狂った世界に降り立つ狂気の狂い咲き。

  • ブクログを始めた頃から読みたかったブコウスキー。紆余曲折あり他の本を読みつつ、10年かかってようやく読んだ。想像以上に面白くて、最高だった!ゲラゲラ笑いながら読み、そしてしんみりした。

    今回ようやく手を出したきっかけは、火野正平。『こころ旅』で中高年のアイドルになった正平さん、私も好きになったのはこの番組を観てから。初めて正平さんを知ったのは、たぶん小さい頃に観てた『長七郎江戸日記』。あれで野川由美子さんや高品格さんも知った。長七郎は、当時の小学生はけっこう観てたんですよ。
    70年代の『新必殺仕置人』『必殺商売人』を観てから、火野正平という人は実はめちゃくちゃ凄い俳優なんじゃないか?と思うようになった。

    『こころ旅』のスペシャルかなにかで、正平さんが座右の銘にしてる好きな作家の言葉と仰ってたのが、「考えるな、反応しろ」。調べるとブコウスキーだった。
    すべてがつながった気がした。
    正平さんの、あのボヘミア〜ンな雰囲気。必殺シリーズや『芋たこなんきん』で見せる、ほとんど演技をしておらず、ずっと同じという自然体の演技。


    このままでは火野正平のレビューになってしまうので、ブコウスキーの話に戻しましょう。

    元々は『勃起、射精、露出、日常の狂気にまつわるもろもろの物語』というタイトルの短編集を分冊したのが『町でいちばんの美女』と『ありきたりの狂気の物語』。今回読んだ『町でいちばんの美女』は約500ページ、短編30本を収録。それぞれ長くても20ページほどであっという間に読み終えるので、短編集は読みやすくて良い。

    読んだ感触は「アメリカのホラ文化」「落語」「セックスありで下品な星新一」という感じ。説明するのに万能な星新一。ほかに、リチャードマシスンやフェリーニの『アントニオ博士の誘惑』、ペドロアルモドバルの映画っぽいなと思った。

    映画でも小説でも、セックスをちゃんと描くのはとても重要だと思う。もちろん描く必要がなければ描かなくても良いが、セックス自体が人間の重要な要素なので、よりリアルになる。
    以前も書いたがSwitchインタビューでムツゴロウさんが五十嵐大介に対して「セックスを描いてないでしょう?」と指摘していたのが忘れられない。ムツゴロウさんは東大理学部卒でめちゃくちゃ頭が良い。

    下品と書いたが、品性と知性は比例も反比例もしない。相関関係はない。よって、品性はないが、知性は大いにある。それがブコウスキーだと思う。

    星新一的なSF・不条理・風刺作品もあれば、爽やかな話もある。競馬に勝った時の話だが。しかし基本的には社会から外れたオッサンの話。競馬場で負けてゴロゴロしている人たち。とにかくやることがなくずっと酒を飲んだり。本当にエグい話は1本だけ。
    メモ的に、『レイモン・ヴァスケス殺し』という話は、実際に起きたハリウッドスターのラモンノヴァロ殺害事件をモデルに書かれている。

    ミソジニーと言われることもあるブコウスキーだが、それは違うと思う。今からはだいぶ昔の60年代に書かれており、ブコウスキーはブコウスキー目線で「女を愛していると同時に、愛していない」と思う。そうでなければ晩年にリンダさんと結婚しない。この短編集には太った女性と一時的に同居してセックスする話もある。セックス至上主義!ブコウスキーは正直だ。

    原書で読んでないのでわからないが、ブコウスキーもヘミングウェイと同じく、革新的な文体だったのではないだろうか?と、訳者の青野聰さんの解説を読んで思った。パルプ雑誌、アングラ新聞……くだけたアメリカの口語。この本のブコウスキーの文章から知性を感じるのは、青野訳によるところも大きいのかも。1994年3月、この日本語版の刊行と同時期に、ブコウスキーは亡くなった。

    ブコウスキーの顔を想像しながら読んだが、フォロワーのトムウェイツや、ギレルモデルトロ作品やジャンピエールジュネ作品常連の、ロンパールマンの顔がどうしても浮かんでしまう。

    もうひとり、ブコウスキーが脚本を書いた『バーフライ』のミッキーローク……ミッキーロークといえば『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』や猫パンチで一度キャリアが完全にダメになったが、『レスラー』で再び評価される前に、ロバートロドリゲスの映画に起用されていた。ブコウスキー像に一番近いのは、『シンシティ』の時のミッキーローク。


    自分にとっての良い読書は、「セックス、ドラッグ、ロックンロール」に匹敵する。変な意味ではない。読んだあととても充足し、幸福な気分に包まれる。

    ブコウスキーや、他の作家…例えば太宰治や三島由紀夫は、「青春時代にカブれるもの」だと言う人がいる。だが、私はそれは大きな間違いだと思う。

    わかる奴にはわかるし、わからん奴にはいつまでもわからんのだ。これはけして選民思想ではない。

  • ブコウスキーは放り投げる作家だ。

    登場人物を放り投げる。描写で放り投げる。起承転結で放り投げる。

    放り投げたあと、そのまま。その先に柔らかなクッションなど誂えたりしない。

    けれど暗澹たる気持ちにもならない。
    ブコウスキーは放り投げてはいるが、その眼差しは突き放しているわけでも無関心でもないからだ。

    人間ってそんなもの、どうしようもないから愛しいね、だからそのありのままを書く。
    私にはそんなブコウスキーの声が聞こえてくる。

    我々のほとんどは這いつくばって生を見つめている。きらびやかな生を謳歌している人なんて、一体どこにいるのだろう?ほんとうに?

    氾濫するSNSが日常の一部となり、誰もが虚構に憧れるこの時代に、生々しい生をそのまま放り投げてよこすブコウスキーの視線は暖かく、心強い。

  • 触れるには遅すぎた感覚があるし、おそらくブコウスキーの影響下にある作家をわりと読んだので既視感ならぬ既読感ありましたが、読んだというほど真剣でもなく、読んでないというほど飛ばさずに読みました。目を通したというニュアンスが近いか。感想らしい感想はないけど、表題作と卍あたりがバランス良かったです。

  • 表紙が美女じゃない。。。

  • もちろん性交がこれでもかと描かれるその筆致にもたじろぐが、同時に人間が脱糞する生き物であるということまでも思い出させてくれる(褒めてません)即物的な筆致に脱帽する。だが青野聰による、「私」という比較的透明度が高いともとれる一人称を通して読むと立ち上るのは「おれ」的なナルシシズム/自己陶酔ではなく、むしろそんなだらしなさに正直であろうと腹をくくった作家ならではの潔さではないかと思った。甘い見方だと言われればそれまでだが、この潔さこそが彼が単なる三文文士にとどまらない、今なお信頼に足るカリスマである所以だろう

  •  例えば「パンクなおじさん」とか「ダメなんだけどキュートなおじさん」とか「飲んだくれのいかした男」としてのブコウスキーに興味があって、つまりそういったキーワードから派生した興味本位だけでもってこの本を読みたいと思う人がいたら、やめたほうがいい。
     感受性の強すぎる人とか、変に生真面目な人とかは絶対に読まないほうがいい。
     そんな生半可な気持ちで読んだら傷つくんじゃないかと思う。
     玉石混淆。
    「石」の方が本数が多いかも知れないけど、「玉」の存在がすごすぎる。
    「エロいだけじゃないか」と思っていたら絶対に火傷する。
     ここには猥雑さも同性愛も幼児虐待も老ホモ虐殺も自殺も尺八もどす黒い血もバラバラになった肉片もファックも揃っている。
     読んでスカっとする話もあるし、ショート・ショート的なオチのついた話もあるし、トラウマになりそうな後味最悪の話もある。
     だから生半可な気持ちで近づかない方がいいと思う。
    「パンクなおじさん」とか「ダメなんだけどキュートなおじさん」とか「飲んだくれのいかした男」なんて表現をずっとずっと超越している。
     最後の一編まできちんと読み終わった後には、ぐったりと疲れ果てて、おもしろかったとか、ニヤリとホホを緩めたりとかは出来ないと思う。
     僕は出来なかった。

  • どうしょもないオッサン。好きだ。

  • 恐ろしくイカれていて、クレイジーで、馬鹿馬鹿しくて、最低で、可笑しくて、愛おしくて、そして最高でした。
    こんな作品は今じゃ表に出てこないんじゃないかと。

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著者プロフィール

1920-1993 ドイツ生まれ。3歳でアメリカ移住。24歳で初の小説発表、郵便局勤務の傍ら創作活動を行う。50歳から作家に専念、50作に及ぶ著作発表。『町でいちばんの美女』『詩人と女たち』等。

「2010年 『勝手に生きろ!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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