英国諜報員アシェンデン (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102130292

感想・レビュー・書評

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  • 特にモームファンというわけではないが、新訳が出たことで気になって手に取った。

    タイトルのとおり、「アシェンデン」のコードネームを持つ諜報員がミッションを行う上で遭遇するあれこれ。モームは実際に英国情報部に在籍した時の経験をもとに作成したといわれ、標的に目の前で死なれる、などのエピソードは本当のことだという。それにしても、そんなことまでネタに使っていいのか?MI6は刺客を放ってこないのか?と思わないではないけれど、それは時代のなせるゆるさということでいいのだろう。おそらく、現代の諜報員のみなさまは「墓場まで持っていけ」的な契約を結ばされているだろうから、暴露本的な体裁にならない限り、もうこういう素材は出てこないだろうな、と思う。

    諜報活動は意外と淡々としたものだが、それにまつわる人物の描写などは巧みで、1話1幕のドラマ仕立てできちんと作られていると思う。ヨーロッパ中部の貴族社会、労働者、貴族階級の過ちなど、WW1あたりの英国が好きな人のハートもわしづかみ。個人的には、ミス・キングのくだりは好きだ。謎はなく、単なる郷愁のエピソードだとは思うけど。

    ジェームズ・ボンド的なスーパー諜報員を想像すると、かなり物足りないのかもしれないけど、現実はこんな感じだろうというリアリティと、作劇の上手さが私は非常に好き。阿刀田高さんの解説も、まさにそんな感じ。

    翻訳については、「ハイボール」と日本人に気を使っていただくこともないように思ったので、そこがちょっと気になる。あと、私の手元にあるのは初版だが、文中の仏語表記に1か所誤りがあるのに気づいてしまったので、訂正されたほうがいいんじゃないかしら。

  • 文章の上手さ(訳の上手さももちろん)が際立つ。
    スパイなのだけど、007のように派手に銃撃戦をしたりするわけではなく、上司の言う通りに地味にあちこちへ。
    けれど淡々と描かれているそこに、関係した人達の生が
    滲み出ている。
    「ジゴロとジゴレット」収録の「サナトリウム」に出ていたのがアシェンデンだったとは!
    読み返してより胸に沁みた。

  • どこをきってもモームはモーム。
    期待したほどハードボイルドでなくて、でもやっぱり安定の面白さだった。
    スパイ的な要素は、政治的事情により書けなかったこともあるのだろうが、
    それよりもモームは人間を描きたかったのかと思う。
    スパイではなくて、根っからの小説家だ。

  • モームのトリッキーな悪口がよかった

  • 面白い。読みやすく楽しく、味わい深い。名著とよんで差し支えない。

    文豪の作品と身構えてしまうが、現代エンタメとしても十分に耐えうる。その上で、この風刺、視線、そして時代。妥当な表現かは分からないが、実にお得な作品だと思う。

    さまざまな国籍、職業、身分、性別の人々が登場する。その一人一人に実に目配りが効いていて、とてもユーモラスな表現で、イメージがありありと浮かぶように描かれる。例えばこんな風に。

    「ミス・キングは小柄で老齢で、小さな骨を何本か干からびた皮に詰めたような外見で、顔には深いしわが刻まれている。汚らしい茶色の髪は明らかにかつらで、とても精巧に作られているが、ときどきずれていることがある」(p57)

    主人公の英国スパイ・アチェンデンと上司Rとの珍妙な会話も読み所の一つ。

    マカロニが好きかと尋ねられたアシェンデンは、なんやかんやと言いながら好きだという趣旨のことを話す。するとRは「それをきいてほっとした。イタリアにいってほしいんだ」(p83)

    まるで漫画「パタリロ」のような世界だ。ラストシーンは実にシュール!!

  • サマセット・モーム「英国諜報員アシェンデン」再読。スパイといえばやはりイギリス。モーム自身、作家を隠れ蓑に諜報員として各国を渡り歩いていた時期があり、その頃の経過を基にして書かれている。連作短編の形となっており、一つ一つがかなり短い作品もあるが、不思議と心に残る。人物の緻密な描写と、ウィットに富んだ会話の力だろう。「若い頃、女は腰を抱け、瓶は首をつかめと教えられたものです」「いいことを教えてもらった。だが、わたしは今まで通り、瓶は腰をつかんで、女には十分な距離を置くことにするよ」

  • いかにも英国風。連作短編集の趣

    前書きにある、若い盲目の兵士の痛みを償う「ひとつだけあるはず」の方法とはなんなのだろうか?

  • 主人公アシェンデンの冷静さがツボだった。
    何事からも、一歩身を引いて俯瞰してみてるところがイイ!
    思えば私の感じるモームらしさって、ここだったような。

  • 面白かった。
    モームが描く人物は、どの人も魅力的だと思う。ちょっと頼りなくていけてない人でさえ、いい所あるんじゃないのかなぁ、なんて思ってしまう。
    会ってみたいなぁー。
    戦争中の話しなので、背景を知って読んだ方が面白いのだろうけど、知らなくても全然楽しめる。
    彼の人物観察眼は、素晴らしい。

  • 面白かった。アクションはないが、むしろスパイ業の本質は人間観察と状況判断なのだろうと思う。作家さんが皆怪しく思えちゃう。娯楽ものとしても楽しめるが、当時の世界で自分が生き残れるだろうかとふと考えてしまった。

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